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『クリエイターのヒミツ基地』Volume35 橋本孝久(イラストレーター・アートディレクター)

細密に描いた線画とデジタルな背景のハイブリッド
ミティラー画制作のヒミツに迫る

いよいよここからは、橋本さんのミティラー画制作の作業工程をご紹介します。作品の大きさは、新聞紙大程度のものから、大きなポスターサイズのものまで多彩ですが、ベースとなる用紙には、線のにじみが少なくクリアに描けるよう、イラストボードを使用しているとのことでした。

下描き

作業工程1:下描き

ヒミツ道具のコーナーにも登場したアイデアノートのラフ画をもとに下描きを作成していきます。それぞれのモチーフの輪郭だけをシャープペンシルを使って描いていきます。

橋本:僕の作品でもっとも大切なのがこの下描きです。題材をどう配置していくのかを熟考して、作品の外枠にモチーフを並べる際は特に気を使いますね。絵をバランス良く仕上げるには、一つひとつのモチーフの大きさや間隔がとても重要になってくるので、電卓を用意して計算しながら描いていきます。丸いモチーフを並べるときは線が乱れやすいので、円定規を使うこともあります。ちなみにミティラー画を描くおばあちゃんたちは、電卓も円定規も使いません(笑)。

ペン入れ

作業工程2:ペン入れ

シャープペンシルで下描きをした線画の上を、こちらもヒミツ道具のコーナーに登場したカラーボールペンでなぞり、さらにモチーフ内部の細かい線を加えていきます。最も使用頻度が高いペンは赤と黒。自然の素材を使ったミティラー画本来のビビッドな色を再現しつつ、全体を見たときに埋もれない色ということで、オレンジ、ピンク、紫、ブルー、グリーン、イエローグリーンなどを多く使用します。ペン入れが完成すると、下描きの鉛筆線を消しゴムで消していきます。

橋本:ペン入れをするときは、イラスト中心部のモチーフから外へ向かって描いていく場合と、外側から内側に向かっていく場合があります。どちらになるかは作品次第。とにかく細かい描き込みが必要なので、一気に完成させられませんが、身体が許せば丸1日描きっぱなしということもたまには。無我の境地に入り込めますね(笑)。

スキャン&合成

作業工程3:スキャン&合成

橋本さんの作品の特徴は、線だけを手描きで描き込んだら、後はすべてデジタルで行っているところです。布や板などをスキャンした背景など、線画に写真素材を合成する仕上げ方はアートディレクターらしいセンスにあふれ、独特の世界観を紡ぎ出しています。

橋本:線画に背景を加えることで、ちょっとした意外性や雰囲気が生まれます。背景の素材は、絵の内容に合わせて毎回用意しています。板に少しムラをつけてアクリル絵具を塗ったものをスキャンしたり、布をスキャンしたり、撮影したり、背景の作り方も様々ですね。大きな作品だと、背景素材も実物大にしたいので分割してスキャンするなど……けっこう手間はかかってます(笑)。背景に古めかしさや汚れを付けたい場合も、Macでデジタル加工します。また、液晶ペンタブレットを使って線画の細かい部分を調整するなどの作業もこのときに。抜けちゃっている線がやっぱりあったりするんですよね。

着色

作業工程4:着色

背景合成の後は、Macでの着色作業に移ります。使用するソフトは「Adobe Photoshop」など。ペン入れの際、どの色を選ぶかは感覚的だという橋本さんですが、着色の際も液晶ペンタブレットを使ったデュアルモニタで、全体のバランス、線画の色合いのバランスなどを見ながら感覚的に行っているそうです。

橋本:着色で最も気をつけているのは、線の色が死なないことですね。線画そのものも非常に繊細なので、あまり濃い色やダークな色調は使えない。これも作品によってテイストが変わりますが、最近はよく線画に使う黒が映える紫系、ピンク系の色を気に入って使っています。

橋本さんの作品は、アナログの手描き線をとても大切にしながらも、デジタルのテクニックを随所に加えていくことによる素材感や手触り感も大きな魅力。作業工程を追うことで、橋本さんの創作活動で大切にしているものもよく見えてきます。伝統を現代に融合させ、絵を描くだけでなくそこから広がるクリエイティブを包括的に表現する橋本さんの世界。新しいイラストレーターの在り方が、世界で評価されているのもうなずけます。

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