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ヨコハマトリエンナーレ2011 参加作家インタビュー連載vol.2 走った軌跡をアートにする、ジュン・グエン=ハツシバの作品

ヨコハマトリエンナーレ2011 参加作家インタビュー連載vol.2 走った軌跡をアートにする、ジュン・グエン=ハツシバの作品

松浦直美
撮影:小林宏彰

父の人生が教えてくれたこと

―ジュン・グエン=ハツシバさんが、難民問題を肌で感じるようになったのには、なにかきっかけがあったのでしょうか。だれにでも、歴史や社会問題が「自分の」問題として、より現実味を帯びる瞬間があると思いますが、いかがですか。

グエン=ハツシバ:どうにかして難民の状況をわかろうと努力しています。私自身が同じような体験をしたわけではありませんから、『Breathing is Free: 12,756.3』プロジェクトを通じて身体的に体験しようと試みているのです。それゆえに、これまでの作品のように撮影する側ではなく、走る姿を撮影される側にまわっています。まったく同じではないにしても、難民の苦悩にできるだけ近い状態を作り出して、理解しようとしているのです。

―難民問題は「再出発」の象徴と言えるかもしれませんね。

ヨコハマトリエンナーレ2011 参加作家インタビュー連載vol.2

グエン=ハツシバ:「メモリアル・プロジェクト」全体が父の体験を反映してもいます。父はベトナムから日本に留学しました。日本で勉強したことをベトナムに持ち帰って何らか貢献するのが彼の夢でした。しかし、国に帰る時期が悪かった。ベトナム戦争の終盤近くに帰国したため、夢を実現できなかったのです。ともあれ、父は留学中には、日本社会になじむために多くのことを学ばねばならず、米国に渡ると、すべてを最初からやり直すことになった。やがて長い年月を経てベトナムに帰ると、自分が生を受けた国であるにもかかわらず、またしても一大変化が待っていたのです。父の人生は私に教えてくれました。人は人生のさまざまな段階で再出発することができるのだと。

―お父様については2010年のミヅマアートギャラリーでの個展でも語っていましたね。ジュン・グエン=ハツシバさんは、ベトナム人の父と日本人の母のもとに東京で生まれ、米国で育ち、いまはベトナムに住んでいる。3つの国にどんな思いがありますか。

グエン=ハツシバ:個展では、旗に関する作品を何点か出しました。その頃、家庭菜園で野菜を育てるのに凝っていたので、植物の成育に関する作品構想が自然と浮かび、また父の一周忌も近かったため、父の人生に関連付けたいと思いました。それが父の人生と、父が過ごした3つの国――私が過ごした国でもあるのですが――について考えるきっかけとなりました。そして、人のアイデンティティの構成要素ともいえる「国旗(旗竿を含む)」を育てるという構想が生まれました。

旗竿は植物のように成長するもので、そこに開花するのが旗であると仮定しましょう。植物が生育過程によって形も大きさも異なるのと同様に、旗(旗竿)にも個性があってしかり。旗竿は個人の象徴でもありました。特定の国旗を掲げる竿(人)もあるでしょう。しかし、その成長過程において、さまざまな国や文化が融合し、さまざまな要素を持ち合わせた独自の(国)旗を開花させる竿があってもいい。日本、米国、ベトナム。3つの国は父と私の歴史でしかありません。

米や墨を使った学生時代の作品から、作品テーマはつながっている

―それでは最後に、学生時代の米や炭を使った作品について教えてください。現在の制作とはどのようなつながりがありますか。

グエン=ハツシバ:当時の作品も難民に関するものでした。もち米を炊いて、成形して乾かし、小さな彫刻を作りました。炊いた米を廃墟に持っていって、捨てられている車の車体などを米で覆った作品もあります。私にとっては、米粒は個人の象徴でした。米は車体に貼り付いていよう、米同士でくっついていようとしますが、乾燥するにつれてひび割れて、部分的に塊となって剥がれ落ちます。それを見て、大きな船に乗って母国を後にする人々のようだと思いました。必死でロープにつかまっていても力尽きて海に落ちてしまう人もいます。離れまいとしても、こぼれ落ちてしまう者がいる。米を使った作品の背景にはそのような考えがあります。

墨を使ったインスタレーションも作りました。バーベキュー用の練炭を迷路のように並べたのです。スタートとゴールのある迷路ではなく、自由に広がっていく迷路です。人がいかに自分の進む方向を決め、人生を切り開いていくかがテーマです。それもまた、恐らくは難民にとって――もっと言えば万人にとって――大きな問題でしょう。学生時代の作品は、私が考え続けている問題を取り上げており、現在やっていることと深く関わっています。いまは、同じ問題について別の方法で追求しようとしているわけです。今後は、特定の国からの難民だけでなく、難民一般、ひいては人類全体へとテーマの幅も広がっていくのかもしれません。

information

『ヨコハマトリエンナーレ2011 OUR MAGIC HOUR―世界はどこまで知ることができるか?―』

2011年8月6日(土)〜11月6日(日)
会場:神奈川県 横浜美術館、日本郵船海岸通倉庫(BankART Studio NYK)、その他周辺地域
時間:11:00〜18:00(最終入場は17:30まで)
休場日:8月、9月は毎週木曜日、10月13日(木)、10月27日(木)

ヨコハマトリエンナーレ2011 OUR MAGIC HOUR−世界はどこまで知ることができるか?−

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