コラム

CINRA MAIL MAGAZINE連載コラム『全裸』2009年3月配信分(vol.216~220)

CINRA MAIL MAGAZINE連載コラム『全裸』2009年3月配信分(vol.216~220)

武田砂鉄
2009/05/13

vol.219 繊細なアタシ(2009/03/23)

全裸

おまえにこの気持ちがわかるか! みたいな時には、もうそもそも分かりようがない構造になっていることが多い。構造が下支えしている時の気持ちなんて最も共感しにくい或いは共感しちゃいけないんであって、そこら辺を誤変換して「繊細」みたいな流行りだよな昨今、それはあんまり宜しくありません、ってことらしい。「気持ちって、『気持ち』みたいに一言で表せないから気持ちなんじゃないかな みつを」と、勝手に捏造してみて改めて納得。良いこと言うなあ、みつを。

どっかのタレントだったか、お父さんになって欲しくない仕事として、サンドイッチマン(自らが柱になってパチンコ屋やテレクラの広告を挟み街中に突っ立てる仕事)だけは止めて欲しいと言っていたのを思い出した。正直だ。ヤバい仕事とか仕事が無いって状態には、とりあえずドラマがある。だけども、サンドイッチマンにはドラマが無い。クラスの人気者とアイドルがヘンゼルとグレーテルを演じている時、僕は「木」の役で後ろからその二人を見守っていたんだったか。木の幹の上部を切り抜いて顔を出していた。その表情はどうだったのだろう。今になって精査したい。物語が転換するごとに、その表情を変えられていただろうか。まさか顔から表情を消して単にのっぺりと過ごしていたのではあるまいな。ドラマは待つのではなく、自分から動かなきゃ生じない。そういう確信めいたことを言うのは、木ではなくヘンゼルとグレーテルだ。木はどうすりゃいい、頷くことも出来ないじゃないか。木として、サンドイッチマンとして、そもそも動けるか、その選択肢からくださいよってやつだ。

恵比寿のオシャレなお店街にいた。行き交う人がみんなオシャレだ。知ったかぶりで言うと、着られるのではなく着こなしている。お店の前で何やら配っている。ハーブティー専門店が新しいハーブティーを仕入れたようだ。仕入れるのか開発するのか知らんが。紙コップにハーブティーを注いで配っている。ツカツカ歩いていたOLがそちらへ歩み寄りハーブティーを片手に店員とニンマリ話している。そのテイストとか、風味みたいな話か。テイストと風味って一緒か。ならば僕も貰おう。かつて「木」役で腕を鳴らしたはずの演技力でビーナチュラルに歩み寄る。さっと手を出す、さっと手を引かれる。いやいやいやいや、さっと手を出す、おお、もう別の人に渡しとる。後ろから来たaiko風の美容室アシスタント風の民族衣装風に。風味良し。この、後は紙コップをはめるだけになってる丸形のお手てをどうしてくれよう。バッティングセンターにでも行くか。

確かにハーブティーを飲む顔じゃない。だけどハーブティー屋に向かって勇気を出して言うよ。ハーブティーを飲みそうな顔だけにハーブティーを配っていたってハーブティーのシェアは広がらない。しかも新製品だろう、そのハーブティーを飲ませてくれさえすれば、僕はハーブティーに目覚めたかもしれない。この一件でハーブティー全体に対して機嫌を損ねた。青汁とハーブティーしかない国へ行っても、おいらは青汁だけを飲むね。ただし、ハーブティーだけしなかったら、その時はもう一度相談させてくれないか。とぼとぼ歩く僕の横をaiko風が通り過ぎて行った。おまえにこの繊細な気持ちがわかるか!

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