CINRA MAIL MAGAZINE連載コラム『全裸』

CINRA MAIL MAGAZINE連載コラム『全裸』2009年4月配信分(vol.221〜224)

vol.221 定食屋での順番をめぐって(2009/04/06)

全裸

週刊誌をつまんで、それ相応のおっさんのコラム何ぞを読んでいると、おっさんは馴染みの定食屋を持っていて、のれんをくぐって、おお来たんかい、とカウンターの奥の席に座らされ、今日はね、アジのフライだけどいい? と聞くそばからアジに衣つけてたりして、おやっさんねぇ、こんな揚げ物ばっか食べてるとポックリ逝っちゃうよと、揚げながらはにかんでくる。ベッタベタのソース容器から特濃ソースを振り絞ってフライに充満させて、少し柔らかく炊きすぎた感の否めないねっちょりライスを頬張る。だめだよなあ民主党も、結局主導権は握れねえんだよ小沢にはと大雑把な政治トークで場を濁す。

定食屋への馴染み方というのは、女子がカフェに溶け込めるかというのと遠くない感覚であろうか。ラーメン屋とは少々違うのだ。開拓したラーメン屋に入ることは容易い。こちらを干渉しないからである。お客さん初めてだね、とは言われない。むしろ私語を慎むべきとの空気が通底していて、出されたラーメンと向き合うことが求められる(しかし、ラーメンと向き合う、というのは良い言葉だ。ここまで「向き合う」食べ物が他にあろうか)。カフェだとどうか。マスターだの店員だのが話しかけてくる場合もあるらしいじゃないか。しかし、こちらの話具合を察知して距離をとることも忘れない。要するに心地良い環境を作るセンスに長けているのだ。定食屋は違う。こちらの都合は考えない。アジのフライだけどいい? と聞いたのは、日替わりメニューのそれが意外と余っちゃってるからというお店側の論理に違いないのだ。しかし、それを呑む。海老フライが食べたくても今日はアジフライなのだ。エスプレッソを頼んだのに今日はアメリカンだからと出されたコーヒーを、だよねと頷いて飲めるかどうかなのだ。

高校時代、弱小バレー部にいた。どれくらい弱小だったかと言えば、女子バレー部と練習試合をして、かなりの好ゲームを演じ、僅差で勝利し、やっぱり女子バレー部は弱いなと男子部室で囁いていたほどの弱さである。その弱さを部活外でも引きずりながら、部の面々と学校近くの中華料理屋でその日の定食を頼む。あとからアメフト部が入ってくる。店のおばちゃんと談笑している。その日の定食を頼んでいる。その日の定食が出来上がったようだ。おばちゃんはその定食を、アメフト部の面々に配膳した。僕らはまだ来ない。アメフト部が食べ終わりそうな頃に、僕らの定食がやってきた。

最寄り駅の近くに、「馴染めそうな」定食屋を見つけたので、まずはこちらから勝手に馴染んで通っていた。このカウンターを数十年守ってきたんだろうなと思わせるマスターと奥さんとベタついたメニュー。ひっくり返すとパリパリ音のするメニューからスタミナ定食を頼む。後から「ういーっす」とマスターに声をかけるおっさんが入ってくる。「今日はそうだな、スタミナ定食もらおうか」。緊張が走る。あの時の、弱小だった僕らの、順番すら守ってもらえなかった頃の、自転車での帰路それなりに落ち込んだあの日の、意図的順番間違いの悲劇よもう一度か。はい、スタミナ定食っ。どちらだ。顔を上げる。目の前にはスタミナ定食。おっさんはヤングジャンプのグラビアに見入っている。嬉しさのあまり、皿まで舐める勢いで完食する。茶碗とみそ汁とおかずのプレートを重ねてカウンター台の戻すと、大っきなフライパンに視線を合わせたままのマスターが「いつもありがとうな。えっと、780円。」と呟く。これで馴染めたと自分を甘やかしてはいけない。意外と冷え込んだ春の夜風に晒され、緩んだ顔を引き締めた。

vol.222 二股できない男だから俺は(2009/04/13)

全裸

公共料金の話だけれども、「日本公共料金徴収機構」みたいな組織を作って一括にしてくれないだろうか。引越しして2ヶ月経つが、東京ガスか東京電力のどちらかの支払いが未だうまいこといってない。携帯に見知らぬ番号からかかってくる。仕事中にヒソヒソと出る。甲高い声で東京何ちゃらですがそちらさまの登録がどうのと言っておる。えっとああ確か書類が家に届いてたと思いますんで返送しておきます。帰宅。電力とガスの両方から振込先の登録用紙めいたものが届いている。しかし、そのどちらかを登録した覚えがある。ガスか電力か。封書を開いてよく読めば、お客様が申込まれたタイミングとこちらが発送したタイミングが行き違いになってしまった可能性もありますと早速謝っている。謝られてそれなりに居丈高になった自分は、だろうね、そうだろうね、行き違いだろうねと片方を思いっきり糾弾し、もう一方の用紙にいそいそと書き込んで投函。これにて万事順調徴収よと安堵しているそばから、ところでガスだったっけ電力だったっけ電話があったのは、と心は揺らぐ。

携帯がまた鳴る。「お客様からいただきました登録用紙なのですが、数日前にもいただいているようです。確認しました所、特に変更点はないようなのですが……」。ですが何だ。ですがどうした。そちらはガスですか電力ですか。ガスです。ガスを二回送ったんですね僕は。すみませんでしたと陳謝。ということは、電力がまだなわけだよな。出さなくては。その前にトイレ。

トイレから戻ってきたら、どうしてか失念。更新もしないmixiをかたかたやってみる。友達の結婚式に行ってきたらすっごくキレイでああ結婚っていいかもしれないと初めて思った話をどうしてここまで新鮮味無く書ききれるのだろうかと感心しておりますと、ピンポン。NHKの集金に来ましたと。はてな。例えば僕は今これを、コカコーラゼロを飲みながら書いているけども、なぜならばスーパーオオゼキで100円だったから、それを見て納得して買ったのであります。確かにCCレモンとも迷ったさ。要するに、告知が先にあって後に承認したんであります。ところが早速の集金とはどうなんでしょうか。商売というのは競争だ。例えばスーパーオオゼキで「NHK 3000円」と書いて売れるか売れないか、それが商売なのだ。ドミノピザLサイズと戦って勝つか負けるかなのだよ、NHK。払う払わないの前にどこかで勝ち負けを体験してからいらっしゃい。分かりましたよ払えばいいんでしょ、ではでは門前払い、ということで。おっとこれまた一本とっちゃったかな座布団ちょうだい山田くんは4チャンネル。

ガスと電気、どっちだ。その選択を思い出した時にはもう回答が抜け出ている。ガスがまだだったような気もするし、ガスから電話が来て二重ですよと言われた気もする。どちらかに迷惑がかかるから早いとこ手続きしないとなぁよりも、どちらかに三重で連絡しちゃうのは悪いよなぁが先立ってしまう。仏の顔も三度までとは言うけどもしかしたら二度までかもしれないからさ。ゆえに手を打たず。東京まで一緒で、ガスと電力。さくらガスとりんご電力とかにならねえかなと真面目に思う。じゃなきゃ日本公共料金徴収機構の設立だ。天下りを特別に認めよう。いやしかし二択の記憶力が極めて緩くなってきている。どうやら月末に台湾に行くらしいのだが、本屋でずっと香港の雑誌特集を読みふけっていた。電気はつく、火もつく、支障がないからいいかとコーラを飲みながら、これからNHK スペシャルを観る。

vol.223 満員電車で山之内さん達が(2009/04/20)

全裸

ある程度の満員電車に乗らなければならない。仕方が無い。でもそれなりに快適な環境を目指していく。少しは空いているかもしれない前方か後方かを探す。しかし、どこもたいして変わりはない。そんな時、何となく女性が多い車両を探す、割と懸命に。だってそっちのほうがいいじゃんか。これに対する反論がありましたら下さいな。無いのです、女性が多いほうがいいのです。

前方から2両目を覗くと、どうやら女性率高し。いざ入店とばかりに乗車、しかし、踏み入れて発見、奥地に戯れるオジサマ達の御姿よ。店先にかわいいオネーちゃんを出しといて、お店の奥から強面のオッサン登場で数万円のポッキーを食わされるアレのごとし。満員電車に乗ると、本を読めるわけでもなくイヤフォンの音量を上げられるわけでもないものだから、ひとまず自分の目の前にいる誰それの今日の心境を勝手に作り上げていく。

この4月に課長代理に昇格した山之内さんの予定。今日は金曜日なので、10時から管理職会議がある。代理とはいえ管理職の仲間入りを果たした山之内さんはこの会議に出るのが楽しみである。いや、正確に言うと、「あ、これから、管理職会議だから」とフロアに言い残すのが楽しみなのだ。背中に注がれるあの視線の気持ち良さが分かるようになってから、なんだか空気が美味しい。

季節を先取りしすぎた感のあるノースリーブの幸恵は、昨日の受注ミスを引きずっている。6000個で良かったのだが、7000個の発注。数が多い分には構わなかったのだが、数が多くなることによって納期が遅れてしまうのだ。朝一に電話して納期の件をうまくおさめられなければ、この案件自体が流れてしまう可能性もある。それだけは何とか避けておきたい。

9時45分に代々木のドトールで里崎さんと打ち合わせをする予定になっている弓長卓雄は、書類をまだ読み切れていないために焦っている。先方に納得してもらうプレゼンテーションができそうにもない。書類を前にしているものの、どうにも頭を通り過ぎていく。まず別の話題で盛り上げて取り込んでおく必要がある。娘の入学式があったんだっけか。それだ。

ちっとも面白くない。でも、ちょっと面白い予定を抱えている人なんてそんなにいないんであって、ちっとも×ちっとも×ちっとも×ちょっと×ちっとも位が普通の満員電車なのだ。終点につき、改札へ向かう所で、なんとなく山之内と幸恵と弓長がタテに並んだ。その後ろに付いていく。乗り換え専用改札を通り過ぎると、山之内は直進し、幸恵はすぐそこのホームへ登っていき、弓長は接続列車の時間を計っている。僕はウォークマンの電池が危なさそうなので、音量を小さくしてごまかしてみた。何てことない日常を書く小説やマンガ達よ、いやはや本当に日常は何てことないんですから、そんなに日常を小出しにしないでくれ彩らないでくれ、そもそも日常は小説にもマンガにもならんのですよ。そして、その「ならなさ」が大事だと思っておるのですよ。

vol.224 要確認「草なぎが悪いのだ」(2009/04/27)

全裸

したり顔で、マリファナはオランダでは合法なんだよ、と話を持ち出して、日本は厳しすぎるんだよねやれやれ、と戯言を漏らす連中を未だに見かける。全く、やれやれである。どうしてあちらでは合法なのにこちらでは違法なんだよ、強いお酒とかタバコの方がよっぽど体に害があるんじゃんか、と続いていく。ため息を少々。次元が底打ちされたそんな話に付き合っている時間を、残念ながら持ち得ない。ダメだからダメなのだ。時間があるなら、オランダに行って、日本では違法なんだよと、言ってきてくれないか。

草なぎメンバーをやたらと擁護する流れが心地悪い。「かわいそう」から始まって「逆に親しみが涌いた」と、肯定的に膨らんでいく総論にうなだれる(とあるアンケートでは90%が草なぎに同情すると出ていた)。情報統制に長けた事務所である、事後反応の出し方も心得ている。ご存知この事務所は芸能界において強大な権限を持っている。朝のニュースでこの一報が舞い込んだ時、詳しい情報が分からないからなんとも……と、口うるさい司会陣が一斉に口ごもった。アナウンサーは猿のように、現状を繰り返した。SMAPがもたらす利益を、この事後対応で失ってはならないという緊張状態にあった。コメンテーターから緩いコメントを出させて、局の方針としては既知事実を伝えるのみに専念する。意見のバリエーションが欲しければ街へ出て、「そんなことする人には見えなかった」を最大限の批判レベルとし、あとは「やりすぎでは」「彼にも悩みがあったのでしょう」と同情・共感ラインを垂れ流す。不況にあえぐテレビ局は、ジャニーズに逆らえる状態にはない。事実、事務所は、謝罪会見の映像・画像の使用を(蜜月関係にある)地上波に限り、(どう編集されるか分からない)ウェブやCS放送での使用を禁止した。同時に、地上波放送に関しても生中継を禁止している。民放のどこかが抜け駆けして生中継すれば、金曜の夜だ、さぞかし視聴率は上がっただろう。しかし、メディアは横に並んで整列した。芸能記者は「お酒に酔って失敗することは誰にもありますが…」と同情を促すような前置きをして設問を投げかけた。この記者には仕事が増えるかもしれない。

留置された警察署には「どうして逮捕したんだ」と非難の電話が殺到した、と報じる。しかし、殺到、という用い方はあまりにも曖昧である。この手の曖昧が掛け算のように擁護論を増幅させ、知らぬ間に自分の中で草なぎくんはかわいそう、という持論が育成されてしまう。誰に迷惑をかけたわけでもないし、と、議論は珍妙な安定感を持っていく。公園で下半身を露出した。公然わいせつ罪に「不特定多数の人が認識できる状態の場所などで、わいせつな行為をした罪」とある以上、逮捕されるのは当然である。そしてそれが大きく報道されるのも立場からして当然である。渋谷を歩けば「渋谷を歩いた!」とニュースになる存在が、下半身を出したら「下半身を出した!」と騒がれるのは当然である。それくらいで、とは言えないのだ。

当然のことしか起きていない。「ダメだからダメ」から生じた当然のことなのだ。電車の中でのAV撮影を許可しないのは、ダメだからだろう。同じだ。そんなことで逮捕されるのはかわいそう、と真剣に思ってしまえる9割の方々の神経が分からない。下請け・孫請けの制作会社は今ごろ徹夜作業で収録済みの番組を草なぎメンバー抜きの映像に再編集しているだろう。地デジのポスターの変更を余儀なくされた担当者は、後任探しと再貼付のスケジュール確保に追われているだろう。その人達は、ようやくとれそうだった長期連休が危うくなっているかもしれない。僕は幸いにして「当然の思考回路を持っている」から、こういう事に考えが及ぶのである。単純な事しか起きていない。逮捕されるべき事をしたから逮捕されて、それによって多々が被害を被った。だから、彼は悪いのである。以上でございます、で終われないのは、異常でございます。



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