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boid 樋口泰人 × 冨永昌敬監督 対談

boid 樋口泰人 × 冨永昌敬監督 対談

インタビュー・テキスト
早川すみれ

冒涜かもって思うくらい、物語が違って見える。

―「爆音上映」は、通常の映画館の音の大きさの何倍の音量なんですか?

樋口:測ったことがないから正確には分からないんだけど、スピーカーの数から単純に考えると4倍かな。ただ、小さいスピーカーで音を大きくした時と、容量の大きいスピーカーででかい音を流した時って感じ方が違う。バウスの爆音上映の音響システムはライヴ用で容量が大きいから音の余裕があって、案外気持ちよく聴けるんです。音がガンガン大きくてうるさいって感じにはならないと思う。

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冨永:そうすると僕なんかは、あらかじめ「爆音的」な映画を作りたいと考えるようになるんですよ。というか、樋口さんがいる限り音に手を抜けない(笑)。こんど撮る映画はオールアフレコでやろうと思ってるんですけど、それはどんな小さな音でも聴く人がいると思うと、隅々まで責任をとりたくなるからです。同録のマイクはロケセット内での台詞を録るために用意するものですけど、とはいえセットの外の、われわれに無関係な生活の音も拾ってるわけです。それが爆音上映で剥かれてしまうならば、そんな偶発的な音すらコントロールしたくなるんです。

たとえば樋口さんが指摘した『GERRY(02/米)』の砂漠を歩く足音と歩幅がズレてるって話ですが、あのズレによって本当にその人物が存在していたのかわからないとか、もしかするともう一人あそこにいたのかもしれないとか、そういう見方が生まれた。あの音のズレに何人の人が気づいたのかわからないけど、少なくとも僕は映画作りに関して考えることが増えました。樋口さんが「爆音で観ると音像が変わる。音楽が語っている世界が変わる」って言ってたけど、それどころか物語まで変わって見える。

樋口:実際に、爆音上映を観て驚いて帰る人は、「今まで何度もこの映画を観たけど、全く違うものに観えた」と言ってくれるんだよね。

―観たことある映画なのに、爆音上映だと全く違うように観れるのは面白いですね。もしも、観たことのない映画を爆音上映で初めて観たとしたら?

樋口:こないだ『ゾンビ(77/米)』を爆音でやったんですが、フィルムが古いからどうしてもフィルムの切れたり傷ついたりした音が入り込んだんです。爆音で観るとそういうわずかな音さえ大きく聞こえるんです。それが不思議と映画の中につけられた音のように聞こえてきて、物語に馴染んで面白かった。初めて見る映画でも、音が物語を増幅させる面白さとか感じられると思います。だからと言って初めて見る映画でも、案外適正音量として普通に観れるんじゃないかな。基本的に映画をガタガタに壊すわけではなくて一番気持ちよく映画が観れる音のバランスに調整するから、最初は音が大きいとは思うだろうけど、観てるうちに普通になると思います。

―そういったフィルムの音だとか、通常の劇場上映では予想できない環境で自分の映画が上映されるとしたら、作り手としてはどうですか。

冨永:さっきと逆のこと言いますけど、爆音で音を剥かれるのは作り手にとって快感でもあると思います。だいたいどんな劇場でも音量やバランスは予想してばらつきが出ないように音を作るんですが、仮にいくら作り手が音を作り込んだとしても、結局DVDで観られてしまう。あるいは携帯で観られてしまう。予想できる環境で観られるのと、樋口さんがバウスシアターで調整して上映するのとは全く違うでしょうね。

樋口:映画の音をいじるって、嫌がる人もいると思うんです。ヨーロッパだったら映画に対する冒涜だって言われるかもしれない。

冨永:そういえば一昨年、ジャズのイベントでDJをやってくれと頼まれたんです。でもジャズのレコードをかけるだけじゃ面白くないだろうと思って、映画のDVDやVHSをいくつか持って行きまして、それにまったく別の映画のサントラを重ねるということをやってみたんですが、それが意外に面白かったんです。音楽ひとつで全然違う映画に思えるんですよ。これだって映画に対する冒涜なのかもしれないけども、聴こえ方が変わって物語が変わったと感じられたのは事実です。

―お二人のお話を聞いていると、爆音上映というのはすごくいい音の環境で映画が観られるし、作り手の意志も含めて映画に対する今までと違う見方ができる面白さがある。単純に考えると、他の映画館もその環境になればいい気がするんですが。

樋口:そうなんだけど、音響システムの機材って金額がすごく高い。バウスの場合はもともとライヴをやってた場所だからライヴ用音響システムが整っているんです。あの環境を作るには、映画館を建てる時や改築時に「音を売りにする映画館にしよう」と思って整える人がいればいいんだけど、そこまで音響だけにお金をかける人ってのはいないでしょ。だから結局決まったセット、いまのシネコンがベースになる。スピーカーを一つ増やすだけでも音の余裕ができるから、うるさいと感じる音のレベルが違ってくるし、やらないよりはやった方が絶対いいとは思いますよ。爆音上映は、いい音の環境で映画を観れるんですよ。

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―いま、爆音上映の客層としてはどういった方が多いですか。

樋口:映画好きの若い世代の人です。どうして今回映画祭までしようとしたかというと、爆音上映まで観に来る映画好きの人の広がりがまだ足りない気がするんですよ。最初に話したように、「爆音」という言葉のイメージで単にうるさいって思ってる人もいるだろうし、ただでさえ映画館は音が大きいのにそれ以上だと嫌だと思う人もいるかもしれない。そういう人たちに一度観てもらいたいんです。そんな狙いもあって、今回CINRAも含めてSTUDIO VOICEやCDジャーナルやタワーレコードとか、いろんな人に上映する映画を選んでもらいました。僕は、単純にでかい音にしてるんじゃなくて、映画の可能性を広げるような音の作り込みのようなことをしてるつもりなんです。僕が音を上げて調節する基準って、音の中に体が埋まって筋肉が緩んで思わずにやけたりとか、音で体が反応することなんですね。

―なるほど。最初に「爆音」という言葉をなるべく使わないで話して欲しいとお願いしたのは、どうしても「爆音」という言葉のイメージが、客層の広がりを押さえる垣根になっている気がしたんです。でも、爆音上映は単にうるさいものではなくて、その面白さがわかりました。ありがとうございます。それでは最後にお聞きします。樋口さんは、なぜ映画を「爆音」で上映するんでしょうか。

樋口:別に僕はライヴを観たいわけではないんです。単に普通の映画の中に潜んでいる音を聴きたい。自分でやってるのに、こんなこと言うのも変だけど、爆音上映は何度も観るものではないのかもしれないな(笑)。時々確認のために観るのが一番いいのかも・・・。普段、普通の劇場で映画を観て、じゃあ爆音だとどうなんだって想像してみたりしてね。

つまり、なんで爆音上映をやっているかって、さっき冨永が映画DJで言ってたみたいに、爆音だと映画が全然違う風に見えるってことなんですよ。僕は映画って、映画を観ている人と映った画像、映画を作った人がいるとして、その中間くらいにあるものなんじゃないか、と思うんです。映画とはインタラクティブなものなんじゃないかな、って。爆音の中で映画を観るという別の見方で映画を観ることで、映画自体がスクリーンから解放されて、観ている人とある種インタラクティブな関係をつくれるんですよ。つまり受け手とされる人たちも、映画をつくる要因になっているのではということなんです。爆音上映は、観る側も映画を作っているんだということを強調したい。

―対談が終わった後も、音と映画の話をしながら新宿駅近くの喫茶店を後にしたお二人。あんなに楽しそうな背中を見せられてしまった私は、予想以上に『爆音映画祭08』が待ち遠しくなっている。CINRAが選んだウォン・カー・ワイの『花様年華』も楽しみ。いよいよ始まる爆音漬けの一週間をお見逃しなく!

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イベント情報

『爆音映画祭 2008』

2008年5月17日(土)~5月23日(金)
会場:吉祥寺バウスシアター

プロフィール

樋口泰人

映画評論家、音楽ロック評論家。主催する「boid」の多岐にわたる活動は、映画や音楽のジャンルに留まらず幅広いファンと注目を集めている。また、04年より東京・吉祥寺バウスシアターにおいて、ライブ用音響システムを使って映画を上映する「爆音上映」イベントを開催。その独自の音使いは、観る側はもちろん多くの監督からも絶大な支持と信頼を得ている。

冨永昌敬

映画監督。細部にわたる映像と音の巧妙なバランスや、笑いも含むポップな作品に熱烈なファンも多い。代表作は『ビクーニャ』『亀虫』など。06年に待望の長編作品『パビリオン山椒魚』、07年には最新作『コンナオトナノオンナノコ』が劇場公開された。現在は3本目の長編作品を準備しながら、連作シリーズ『シャーリー・テンプル・ジャポン』の続編(今秋公開予定)を制作中。

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