特集 PR

佐々木敦×限界小説研究会トークショー

佐々木敦×限界小説研究会トークショー

テキスト・撮影
小林宏彰

批評って、作家や作品に対する「片思い」なんです(渡邉)

山田:佐々木さんは、『ニッポンの思想』のあとがきで、『未知との遭遇』というタイトルの新刊を出すと予告されていますね。それはどういった本なんですか?

佐々木:『ニッポンの思想』は、意図的にニュートラルな書き方をしました。あれは一種のテスターのような働きをする本だと思います。つまり、それぞれの読者がこの本を読んで抱く反応によって、その人が持つ「思想」に対するバイアスが明らかになるようになっている。

次の本では『ニッポンの思想』で述べたような状況の中で、自分がどう考えてきて、どう振舞うべきだと思っているか、ということについて語ろうと思っています。僕の本のことは別にしても、ゼロ年代はもう終わりで、さすがに「次」をどうにかしなきゃいけない。ゼロ年代の批評は、この作品について論じると、論じてる私の立ち位置はどうなるのか、という先読みばかりしているように見える。それはもう終わりにして欲しいんです。反動的な言い方と受け取られるかもしれないけど、これからは、ある作品とか批評対象について、それについて思考せざるを得ない何らかの強い必然性があって、それに突き動かされているような批評が読みたいんです。

山田:なるほど、「個々の作品」に向かい合う批評を書くと。でも例えばその対極には東浩紀さんみたいな、新しい「理論」を作り、実践することで批評のフレームワークを刷新することに命をかけてきた批評家もいますよね。東さんはここ数年、パフォーマンスの面ばかりが取りざたされるようになっていますけど、本質的にはあのパフォーマンスだって批評の形式をアップデートするという一貫した意図に基づいてやっていると思う。限界小説研究会は……どっちかと言えばどっちのタイプなんでしょうか? 蔓葉さん、いかがですか。

蔓葉:東さんは、何かを読んで、その向こうにある構造が見えてしまう人だと思うんですよね。僕自身、そういう読み方に憧れているところもあるし、憧れ云々を抜きにして、どうしても構造が見えてしまう作品もある。その構造を他人に強要する権利はないと思っていますが、それをしていかなければならない局面も出てくるかもしれない。この複雑な思いを交通整理した結実が、この本かもしれないですね。

佐々木:僕は、理論というのは、個々の作品分析に使えるものをその時々に使えばいいという立場です。構造なんて見出そうと思えば幾らでも見出せるし、それを補完してくれる理論は必ずどこかにある。それはもうフォーマット化されていて、ゼロ年代の批評はその内側での優劣を競っているように思えてしまう。でもそれ以前に問題なのは批評に向かうインセンティヴです。

去年のことですが、早稲田文学で10時間シンポジウムが開かれたとき、パネルディスカッションで僕は、批評という営みが、自己実現と成功願望のツールになりうることを東浩紀が証明したと評したんです。でも僕は、それもいいんだけど、それだけじゃないと思うわけです。つまり、何かに遭遇してしまったから、出会ってしまったから、なにかしらの言葉を紡がざるを得なくなって、そこから批評が生まれてくるのだということです。

東くんは、佐々木さんはそういうけど、成功願望を抜きにして、人はなにかをしますか、と答えましたが、彼の考えも、今では大きく変わってきているんじゃないでしょうか。だって、そもそも批評なんかやっても成功願望が満たされるわけはないし(笑)、それ以外の方法でも、どうすれば自己実現できるのかなんてわからないわけじゃないですか。だから僕は、そういう動機付けとは違うところから発された批評を提示していきたいんです。

渡邉:佐々木さんの新刊が楽しみですね。これは今の佐々木さんの話とも通じる気がするんですが、僕が批評に感じる倫理性というのは、すごい単純なことなんだけど、批評ってようは「片思い」なんですよ。こっちは一生懸命「この作品はすごい!」と書いても、別に作家に頼まれたわけではないし、それを彼らが受け入れるとも限らない。つまり、何が言いたいかというと、批評とは「セカイ系」なんだ!…という熱いフレーズで終わりたいのですが(笑)。

佐々木:僕の場合、何かに遭遇した後、「僕」はこう思う、っていうところはなるべく前面に出さないで、個人的な意見をカッコに閉じる。その上で、この作品は何をしようとしているのか、できるだけリテラルに抽出する。ただ、それでも僕が読んだ、というこの「僕」は絶対に取れない。

『ニッポンの思想』は、テクストから純粋に読み取り得るものとは、かなり違う方向に日本の「思想」が流れていってしまった歴史を書いた本です。その結果、今の思想の状況を招いているわけですが、遡行的に見れば、それも一種の必然であったと考えられる。でも、それももう終わりだと思います。「批評」とか「思想」はもともと「セカイ系」的なものです。その意味で「セカイ系批判」も「セカイ系」です。だからこそ「セカイ系」性の不可避をちゃんと認めた上で、これまでとは違ったやり方で、そこから抜け出る方法を探さなくちゃならない。

山田:それではここで、質疑応答に移りたいと思います。

質問者:大変貴重なお話をありがとうございました。興味深かったのは、自意識や「内面」の問題を、「社会構造」に置き換えて考えるという試みが本書に込められているということでした。

ゼロ年代の問題点として挙げられるのは、批評のもつメタな言語性っていうのが、ネタ、あるいはベタと区別がつかなくなって、機能してこなくなったことだと思うんですよね。メタな言語を担保する基盤は、これからどうにかして作っていかなければならないと思うんです。渡邉さんの論文では、アダルトビデオや『電波少年』といった題材を取り上げながら、「擬似ドキュメンタリー」という問題について論じられていますね。そこにある「擬似性」っていうのは、メタ的な立場に立っているからこそ出るものだと思うんですよ。お聞きしたいのは、その「擬似性」はどのようにして担保されているのか、ということなんです。

渡邉:ご質問ありがとうございます。もともと「擬似ドキュメンタリー問題」というのは、『ブレアウィッチ・プロジェクト』のように、ドキュメンタリーのような現実感を擬似的に仮構したフィクション映画に、ハリウッドのモダンな映画技法からの変容の兆候がある、と問題提起するものです。

そこで、いまのご質問を窺うと、この言葉のうち、「擬似性」という部分に注目をされ、それをある種の「メタ的な視点の確保」だと解釈されたように思います。しかし、僕自身は、むしろあらゆる映像が「擬似的」なものとなった映像世界について問う問題だと理解しているんです。

つまり、それは言ってみれば、映像の「擬似性」を担保する何らかの物質性というか、固有性が絶えず疑われてしまうリアリティが常態化しているということです。これを映画の「例外状態化」だと言ってもいい(笑)。僕の理解では、この本で扱った題材は、そうした現代の傾向を如実に反映しているコンテンツなのです。したがって、ご質問に戻ると、僕個人としては、映画に限らず、もはやメタな批評性とベタなリアリティを区別することはますます困難になっていくような気がします。とはいえ、そうした世界と「批評的」に向き合う意志は今後も捨てるべきではないでしょうね。

山田:残念ながら、このへんで時間が来てしまいました。本日は長時間にわたりご静聴くださいまして、ありがとうございました!

(会場から大きな拍手)

Page 5
前へ

書籍情報

『社会は存在しない』
『社会は存在しない』

2009年7月6日発売
著者:限界小説研究会 編
価格:2,650円(税込)
刊行:南雲堂

リリース情報

『ニッポンの思想』
『ニッポンの思想』

2009年7月17日(金)
著者:佐々木敦
価格:840円(税込)
発行:講談社

プロフィール

佐々木敦

1964年生まれ。批評家。HEADZ主宰。雑誌エクス・ポ/ヒアホン編集発行人。BRAINZ塾長。早稲田大学および武蔵野美術大学非常勤講師。『ニッポンの思想』『批評とは何か?』『絶対安全文芸批評』『テクノイズ・マテリアリズム』など著書多数。

蔓葉信博

1975年生まれ。ミステリ評論家。『ジャーロ』『メフィスト』『ユリイカ』などに寄稿。「ケイオス・メルヘン――古野まほろ論」(『メフィスト』09年VOL.1)、「菅野よう子と広告音楽」(『ユリイカ』09年8月号)など。

渡邉大輔

1982年生まれ。文芸批評家。『群像』『ユリイカ』『メフィスト』などに寄稿。論文に「<セカイ>認識の方法へ」(『波状言論』22号)、「ポスト・ハリウッドは規約で遊ぶ。」(『ユリイカ』08年7月号)、「現代ミステリは「希望」を語る」(『メフィスト』09年VOL.2)など。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

岩井勇気(ハライチ)『ひねくれとか言われても俺はただ自分が進みたい道を選んでるだけ』

ドリームマッチでの『醤油の魔人 塩の魔人』、ラジオで突如披露した推しキャラケロッピをテーマにしたEDM調楽曲『ダメダメケロッピ』など、音楽的な才能に注目が集まる岩井勇気。今回はミツカン「こなべっち」とタッグを組み、自らがマイクを取ってラップに挑戦。しかもこの動画、岩井がこれまでラジオや書籍の中で言及してきた、珪藻土のバスマットや、海苔、メゾネットタイプの部屋、クラウス・ノミなどのネタが詰まっていて、まさか岩井さんの自宅なのでは……? と隅々まで見てしまう。つぎはぜひ、自作のトラックとリリックによる曲が披露されることを待っています。(川浦)

  1. 映画『82年生まれ、キム・ジヨン』が突きつける、社会に深く根づく性差別 1

    映画『82年生まれ、キム・ジヨン』が突きつける、社会に深く根づく性差別

  2. 横浜流星が「つらいかぜ」を打ち砕く プレコールの新CM「闘い続ける」篇 2

    横浜流星が「つらいかぜ」を打ち砕く プレコールの新CM「闘い続ける」篇

  3. ジョン・レノンが時代に残す闘いの爪痕、ヨーコがもたらしたもの 3

    ジョン・レノンが時代に残す闘いの爪痕、ヨーコがもたらしたもの

  4. 木村拓哉を操上和美が撮影『SWITCH』原宿特集に小泉今日子、池田エライザら 4

    木村拓哉を操上和美が撮影『SWITCH』原宿特集に小泉今日子、池田エライザら

  5. King Gnu井口理が獣医師役 野村不動産「プラウド」ブランドムービーが公開 5

    King Gnu井口理が獣医師役 野村不動産「プラウド」ブランドムービーが公開

  6. 高橋一生主演×荒木飛呂彦原作ドラマ『岸辺露伴は動かない』12月NHKで放送 6

    高橋一生主演×荒木飛呂彦原作ドラマ『岸辺露伴は動かない』12月NHKで放送

  7. カルティエの新作キャンペーンに常田大希、池田エライザ、野田洋次郎ら起用 7

    カルティエの新作キャンペーンに常田大希、池田エライザ、野田洋次郎ら起用

  8. 大滝詠一『A LONG VACATION』40周年記念盤が全音楽記録媒体でリリース 8

    大滝詠一『A LONG VACATION』40周年記念盤が全音楽記録媒体でリリース

  9. YOASOBIがGoogle PixelのCMソングを担当 新曲“アンコール”を起用 9

    YOASOBIがGoogle PixelのCMソングを担当 新曲“アンコール”を起用

  10. スピッツ、全着席のコンサートを11月に東京ガーデンシアターで開催 10

    スピッツ、全着席のコンサートを11月に東京ガーデンシアターで開催