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佐々木敦×限界小説研究会トークショー

佐々木敦×限界小説研究会トークショー

テキスト・撮影
小林宏彰

日常が戦争になってしまった世界、それが「例外社会」なんです(渡邉)

佐々木:それは、『エヴァ破』には「社会が存在している」ってことになるんですよね?

佐々木敦×限界小説研究会『社会は存在しない ――セカイ系文化論』刊行記念トークショー

渡邉:いや、「内面」を否定して彼らが外部とのコミュニケーションや闘争に出ていくと言っても、だから社会が存在しているんだという話ではありません。むしろここでのアスカとシンジの関係性っていうのは、公共性や社会性が消滅した後の、もっと私的であるほかない関係性なんです。宇野さんのよく使った言葉で言えば、「中間共同体」や「小さな成熟」を作る関係性だと言ってもいい。

また、マリのガンガン敵をやっつけようぜ!というような、いわゆる「決断主義」的なスタンスも、同じようにこれまでの社会の安定性が失われたからこそ出てくるものだと思います。そこらへんが今回の評論集の問題意識とも通じる、非常に「ゼロ年代的」な要素かなと…ちょっとわかりにくいでしょうかね。

山田:何をもって「社会が存在している」と呼べるかは、「社会」をどう定義づけるかによると思います。『エヴァ破』の世界って、本書や『例外社会』で笠井潔さんが言っている「例外社会」的だということなんじゃないですか?

渡邉:そうですね。「例外社会」という言葉は、ドイツの公法学者のカール・シュミットが、社会的な公共性や、憲法秩序(制度)というものが失効してしまった世界を「例外状態」と呼んだところから来ているんです。現代の例外社会というのは、いわばそうした例外状態の「常態化」、安定的な日常世界の中に、その外にあるはずの無秩序な「戦争」状態が入り込んできてしまう状況のことを言っています。例えば、加藤智大容疑者が、秋葉原の交差点に突っ込んで多数の死傷者を出したアキハバラ事件のようなものが、日常的に起こってしまうような社会を指しているんです。

山田:『社会は存在しない』で言う「社会」とは、おおむね市野川容孝さんが『社会』という本で言っている「社会」、つまり社会保障制度や人びとが互いに支え合うという価値観としての「福祉社会」のことですよね。現代はそれが消失した、殺伐とした状態だと。そこで「社会」を築こうと思っても、つまり綾波が「ぽかぽかしたい」とか言っても(笑)いきなり使徒が来て街(日常)をぶっ壊してしまう、みんなでご飯を食べる可能性すらいつ奪われるのかもわからないのが「例外社会」だと。

蔓葉:「例外社会」といわれてもピンとこない人もいらっしゃるかと思いますが、実はリオタールという哲学者が、1960年代に当時の主に人文学の場面における混乱状態をふまえ、「大きな物語の失墜」がはじまっているといいました。簡単に言えば、人々が信じられる共通の価値観がなくなってしまった社会の状態を表した言葉なんです。文化が発達するにつれ、社会への信頼が失われていく。その意味では、われわれが日頃感じている社会への不信感は、どこかで鋭敏に「例外社会」的なものを感じているからこそ生じているといえます。

渡邉:そして、笠井さんは本書収録の論文で、そうした「例外社会」こそを、「セカイ系」の第二ステージと捉えるべきだと書いています。それで言うと、今回の『エヴァ破』というのは、――『エヴァ』は「セカイ系」の起源だとよく言われますが――いわば、90年代の「実存的セカイ系」から、2010年代の「例外社会的セカイ系」へのシフトを描いた作品だと理解することができそうです。

また、その話と繋げると、佐々木さんは新刊の『ニッポンの思想』で、いまの批評というものが、思想の実質的な中身を問うより、どんどん「プレイヤー化」、「パフォーマンス化」していると指摘されていましたね。それってつまり、「批評的なもの」の外部がなくなり「何でもアリ」になっている点で、「批評の例外状態」と呼んでもいいかと思うんです(笑)。そう考えると、本書と『ニッポンの思想』は、考え方が通底しているのかな、と思いますが。

佐々木:せっかくだから内輪話をしますと、『ニッポンの思想』は、当初の企画ではまさに「セカイ系」的なアイデアをもとに書こうとしていたんですよ。

山田蔓葉渡邉:おおーっ。

佐々木:日本のマンガ家を2人、小説家を2人、劇作家を2人、みたいに90年代の後半から出てきた表現者たちをピックアップして、彼らがおおむね「セカイ系」的な世界観をもっており、それは何故なのかっていうことを、具体的な作品を取り上げながら考えてみたいと思っていたんです。しかし、折しも出版された宇野さんの『ゼロ年代の想像力』が、まさに「セカイ系」を葬送してしまったので、その時点でそうした本を出しても大波に巻き込まれるだけだと思って断念したんです。

細田守作品の変化、『時をかける少女』から『サマーウォーズ』へ

山田:『エヴァ』の話にちょっと戻ると、TV版は後半、登場人物たちの「内面」の問題ばかり扱っていました。「心の持ちようを変えれば世界は変わる」みたいなセリフすらある。さっき佐々木さんは、エヴァは昔と変わってないとおっしゃってましたが、ぼくはそう思わなかった。『エヴァ破』には、気の持ちようひとつで「僕はここにいてもいいんだ!」なんてことにはならないからです。むしろキャラクターたちが気持ちを前向きにもち、行動しはじめていたところに使徒が襲来して破算する。マテリアルな領域で事件が起こって自意識を浸食するわけだから、TV版の最終話とは真逆なんです。

そういう観点から『社会は存在しない』を見ると、まさに「内面」や自意識の問題として「セカイ系」を捉えるのではなくて、むしろ自意識の前提となる「社会構造」の問題として捉えようとしていると言えると思います。「社会構造」の変化を考えずに自意識の問題としてだけ処理しても不十分、というか。

渡邉:僕も山田さんの話にまったく賛成で、やっぱりこれまでの90年代に照準を合わせた「セカイ系」の言説にしても、「キミとボク」のような自意識の問題を重視していたわけです。僕自身もそうでした。しかし、今回の本では、みんな驚くほど「自意識」の話なんてしていない(笑)。

ものすごく乱暴にまとめると、この本の主張のキモは、いまや「セカイ系」の争点というのは、「自意識」や「主体」ではなく、社会や文化の「構造」の問題になっているんだということです。そうすると例えば、宇野さんの『ゼロ想』の議論では、ヘタレな「セカイ系」的自意識では格差社会で戦えないから外に出ろ、というふうになっていた。でもそれは、ロジックが転倒していた。というより、いまだに「セカイ系」を90年代的な実存的回復の枠組み(「引きこもり/心理主義」)で議論を組み立てている点で、実は保守的なロジックを温存しているのではないか、と感じてしまうんですね。

映画監督の細田守さんの作品についても、そうした観点から見れます。前作の『時をかける少女』は、ヒロインがタイムリープというタイムスリップのような能力を手に入れることで、好きな男の子との出会いの一回性の意味を問う、というような作品でした。いわばあれはヒロインの「実存」の問題を扱う作品だったわけです。でも最新作の『サマーウォーズ』では、もっと大きな、「社会構造」というか、佐々木さんが『ニッポンの思想』で使っていた言葉でいえば「ゲームボード」の上で生きる私たちがどのように行動していくべきかといったテーマが込められているんですよ。

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書籍情報

『社会は存在しない』
『社会は存在しない』

2009年7月6日発売
著者:限界小説研究会 編
価格:2,650円(税込)
刊行:南雲堂

リリース情報

『ニッポンの思想』
『ニッポンの思想』

2009年7月17日(金)
著者:佐々木敦
価格:840円(税込)
発行:講談社

プロフィール

佐々木敦

1964年生まれ。批評家。HEADZ主宰。雑誌エクス・ポ/ヒアホン編集発行人。BRAINZ塾長。早稲田大学および武蔵野美術大学非常勤講師。『ニッポンの思想』『批評とは何か?』『絶対安全文芸批評』『テクノイズ・マテリアリズム』など著書多数。

蔓葉信博

1975年生まれ。ミステリ評論家。『ジャーロ』『メフィスト』『ユリイカ』などに寄稿。「ケイオス・メルヘン――古野まほろ論」(『メフィスト』09年VOL.1)、「菅野よう子と広告音楽」(『ユリイカ』09年8月号)など。

渡邉大輔

1982年生まれ。文芸批評家。『群像』『ユリイカ』『メフィスト』などに寄稿。論文に「<セカイ>認識の方法へ」(『波状言論』22号)、「ポスト・ハリウッドは規約で遊ぶ。」(『ユリイカ』08年7月号)、「現代ミステリは「希望」を語る」(『メフィスト』09年VOL.2)など。

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