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佐々木敦×限界小説研究会トークショー

佐々木敦×限界小説研究会トークショー

テキスト・撮影
小林宏彰

『ゼロ年代の想像力』にアンチを突き付けた本だなと(佐々木)

渡邉:では、いよいよ『社会は存在しない』についての話に入りたいと思いますが、本書は、いわゆるゼロ年代におけるサブカルチャーの中で、大きな注目を集めた「セカイ系」という概念について、さまざまな分野をテーマにして書かれた本です。

山田:その前段階として補足しておくと、宇野常寛さんの『ゼロ年代の想像力』では、「セカイ系」と呼ばれる物語の形式は、TV版『新世紀エヴァンゲリオン』以降、ゼロ年代の前半までは流行ったけれども本質的には90年代的なもの、もはや時代遅れのものとして扱われています。

宇野さんの整理によると、90年代に世の中の価値観が劇的に変化し、結果「何が正しいのかわからないから何も選ばない」というかたちで「キミとボク」のセカイにひきこもるようなタイプの作品が流行した。次いで、何が正しいかが客観的に決まらないなら自分の価値を信じてサバイバルに勝ち抜くことを選ぶ「決断主義」が現れる。『バトル・ロワイヤル』や『DEATHNOTE』ですね。そしてさらにそのあと、殺伐としたゲームから降りてコミュニティやコミュニケーションを重視する作品が浮上している。…ということでしたが、『社会は存在しない』は、「セカイ系」は時代遅れではない、どころか帯の文面を借りれば「いま、新たな『セカイ系の時代』が始まる」(笑)という主張をしている本ですね。

渡邉:山田さんの整理を僕なりに補足すると、この本は、単純に「セカイ系」は時代遅れではないと主張しているというよりも、そうした「時代遅れ」で「貧しい」想像力だとして簡単に片づけようとする宇野さんのような態度自体を、より深部から捉え直してみる試みとしてまず重要ではないかと思っています。おそらく読者の方々の中にも、本のタイトルから、なんで今更「セカイ系?」と思った方も多いのではないでしょうか。とはいえ、そうした点にこそ、「セカイ系」の扱いにくさ、語りにくさは表れている。そうしたリアリティそのものをここでもう一度問い直すことに、このKYな(笑)本の一つの意義があると思います。

佐々木敦×限界小説研究会『社会は存在しない ――セカイ系文化論』刊行記念トークショー
佐々木敦

佐々木:僕はトークショーの依頼ってほとんど断らないんですが、今回も引き受けた時点では『社会は存在しない』っていうタイトル以外なにも知らなくて。読んでみたら、はっきり「反セカイ系」に対するアンチの立場を打ち出していることがわかって驚いた。なので今日、こうして参加させていただいていますが、僕は限界小説研究会とは基本的に無関係な人間であり、僕がこの場に居ることと、僕自身が個々の論に対してどう思ってるのかっていうことは別であるということを、まずはっきりさせておきたいと思います。

山田:ではまず、佐々木さんに本の感想をお伺いしたいのですが…。

佐々木:こんなに宇野さん批判の本だとは思っていなかったので、びっくりしました。とはいえ、面白かったです。これから「セカイ系」に関心を持たれる方は、宇野さんの『ゼロ年代の想像力』と併せて、本書を読むべきなんじゃないかと思いますね。

『社会は存在しない』というタイトルは、イギリスの政治家マーガレット・サッチャーの言葉から取られています。要するに、現代の世の中には「社会領域」というものがなくて、自分の身の回りの「私的領域=小さなセカイ」と、途方もない遠くまで広がっている「無限遠点=大きなセカイ」しかないという意味だと思いますが、本書の内容を象徴している言葉ですよね。

若手批評家のアンソロジーとして、批評対象の選び方も含めて面白いと思うし、通奏低音としての「セカイ系」批判への批判という筋が通っているのもいい。ゼロ年代もあと半年っていう時期に出たことにも、何か意味ありげだな、と考えることも可能かな(笑)と思いますね。

『エヴァ破』とか『1Q84』っていう「セカイ系」的な作品が、2009年にドーンと出てきたのも意味ありげですよね(山田)

佐々木敦×限界小説研究会『社会は存在しない ――セカイ系文化論』刊行記念トークショー

山田:ありがとうございます。たまたまここ最近『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』(以下、『エヴァ破』と表記)とか、村上春樹の『1Q84』とか、「セカイ系」のルーツと言える人たち――たとえば『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』は『AIR』のシナリオライター麻枝准に大きな影響を与えた作品ですけど――の新作がまたドーンと出てきたのが2009年だったというのも、意味ありげですよね。あれ、「セカイ系」2周目入った? みたいな(笑)。

佐々木:『エヴァ破』について言えば、どうして人々はこんなに盛り上がってるんだろう?とまず思うんです。僕は、TV版のエヴァと本作では、そんなに変わってないんじゃないかな、と思っているんですよね。つまり、TV版のときに言い損ねたこと、もしくはうまく伝えきれなかったことを、15年経って庵野秀明も大人になり、過不足なくうまいこと言えたんだな、という印象がある。

蔓葉:おそらく、多くの人は佐々木さんのような理解なのではないか、と思います。その理解でいうなら、僕は『エヴァ破』に関しては否定的です。作品の表現としては、過剰さと表現不足なところが混濁した、旧劇場版のほうが圧倒的に好きですから。

かつてのエヴァは、そこに溢れているディスコミュニケーションの感触が衝撃的でしたが、いまでは作者の庵野さんを含めて制作者も観客も大人になり、普通に楽しめるエンタメになっている。それでも、次回作ではなにかとんでもないことをしてくれるんじゃないかっていう期待もあるから、いまどきの作品との比較では、擁護していきたいです。というのも、『エヴァ破』から個を超えた人と人とのつながりが大切だというように理解する人に対して、われわれは本書で「そう簡単に「セカイ系」の外には出れないよ」、と主張しているんです。

渡邉:エヴァに関していうと、TV版と今回の劇場版(『エヴァ破』)の変化は、90年代からゼロ年代における文化のパラダイムシフトをクリアに象徴していると感じたんです。つまり、まず90年代って、引きこもりなんかに象徴されるように、個人の「実存」とか「内面」とか「自意識」っていうものがとてもフィーチャーされていた時代ですよね。僕らなんかも、「キレる17歳」なんて言われた世代ですけど、言うまでもなく90年代のTV版はそういう雰囲気を象徴する作品だった。

しかし今回の映画では、「実存」や「内面」の問題は後景に退いていて、もっとフラットな世界が描かれている。ほとんど自分の「内面」へのオブセッシブな衝迫がなく、登場人物たちが親密でゆるやかなコミュニケーションのネットワークを形作っている風景が、なんだか意外に感じました。シンジやアスカ、レイなんかは、TV版では個々に自分の殻に閉じこもっていたキャラだったのが、『エヴァ破』ではアスカが料理なんて作っちゃってるし、新キャラのマリも「ガンガンいくぜ!」みたいな「肉食女子」的キャラクターです。こういった新作の要素は、宇野さん的にいえば「バトルロワイヤル」とか「決断主義」を表現しているということになるんでしょうけども。

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書籍情報

『社会は存在しない』
『社会は存在しない』

2009年7月6日発売
著者:限界小説研究会 編
価格:2,650円(税込)
刊行:南雲堂

リリース情報

『ニッポンの思想』
『ニッポンの思想』

2009年7月17日(金)
著者:佐々木敦
価格:840円(税込)
発行:講談社

プロフィール

佐々木敦

1964年生まれ。批評家。HEADZ主宰。雑誌エクス・ポ/ヒアホン編集発行人。BRAINZ塾長。早稲田大学および武蔵野美術大学非常勤講師。『ニッポンの思想』『批評とは何か?』『絶対安全文芸批評』『テクノイズ・マテリアリズム』など著書多数。

蔓葉信博

1975年生まれ。ミステリ評論家。『ジャーロ』『メフィスト』『ユリイカ』などに寄稿。「ケイオス・メルヘン――古野まほろ論」(『メフィスト』09年VOL.1)、「菅野よう子と広告音楽」(『ユリイカ』09年8月号)など。

渡邉大輔

1982年生まれ。文芸批評家。『群像』『ユリイカ』『メフィスト』などに寄稿。論文に「<セカイ>認識の方法へ」(『波状言論』22号)、「ポスト・ハリウッドは規約で遊ぶ。」(『ユリイカ』08年7月号)、「現代ミステリは「希望」を語る」(『メフィスト』09年VOL.2)など。

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