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佐々木敦×限界小説研究会トークショー

佐々木敦×限界小説研究会トークショー

テキスト・撮影
小林宏彰

昔からあった「セカイ系」的感性が、なぜ今ここまで注目されるの か。僕の関心はむしろそこにある(佐々木)

佐々木:ところで「実存」と、「構造」とか「社会」っていうものは、そもそも二項対立で捉えられるものなのかな?

渡邉:ご指摘はもっともで、例えば、個人的にもそれは、この本の中で密かに示されている「セカイ系」に対する二つの立場の違いに表れていると思っています。というのは、まず冒頭にある笠井潔さんの「セカイ系と例外状態」という論文。ここでは、繰り返すように、いまの「セカイ系」は一種の例外状態という、外部がなくなり、のっぺりした「一元的」な世界と類比的に捉えられるべきだとされている。

しかし一方で、小森健太朗さんの「モナドロギーからみた舞城王太郎」では、「セカイ系」とはひとびとのオタク的な閉じた世界が、「多元的」にいくつもいくつも存在している世界のことだと主張されている。これは、セカイ系を構造や社会から見た捉え方と、「実存」から見た捉え方の違いと言えるでしょう。これは一見すると対照的な「セカイ系」のイメージですが、しかし個々の「実存」の住む世界が多元的になったからこそ、すべてが一つのフィールドに乗せられるようになったとも言えるわけで、両者を簡単に区別することはできない。

蔓葉:渡邉さんの理解を踏まえれば、そうしたさまざまな「セカイ系」についてのイメージを整理するためにこの本を書いた、ということになりますね。

佐々木敦×限界小説研究会『社会は存在しない ――セカイ系文化論』刊行記念トークショー

佐々木:「セカイ系」っていう言葉で表される作品のポイントは、要するにボクの中にセカイがあるのか、セカイの中にボクがあるのか、そのどちらかに極端に振り切ってしまっている、ということだと思うんです。ただ、そうした作品は、ここ10年くらいに出てきたものではなくて、本書でも論じられているように、中井英夫とかシリコンバレー精神とか、歴史を遡ったり、日本の外部にも見つけることができる。

つまり「セカイ系」という問題自体は「ゼロ年代ニッポン」に固有のものではなく、垂直にも水平にもひろがっている。にもかかわらず「セカイ系」を論じることに何の意味があるかというと、それは、そういう昔ながらの問題に「セカイ系」という言葉をマーキングしたからです。なぜ今、あえて「セカイ系」なのか?、僕の関心はむしろそこにある。こんなに「セカイ系」っていう言葉が連呼されるイベントってあんまりないと思うけど(笑)。

山田:もう二度とないと思いますよ(笑)。一応クギを刺しておけば「そんなの昔からあったよ」というのはいわゆる遠近法的倒錯で、順序が逆転している。佐々木さんが言う通り、名づけられ、枠組みが整理された“からこそ”現在から遡って過去のものも発見できたわけで、「前からあった」とか言えるのは、この本がまさにそういうパースペクティブを示したからです。

また、過去の「セカイ系」的なものと現在のそれとの「差異」と「変遷」に注目したのが本書のポイントなので、「みんななんで語りたがるんだろうね」問題にまとめてしまうと、その「違い」の部分が無視されてしまう気がする。なにより、これまで批判か揶揄の対象でしかなかった「セカイ系」を再定式化し、きちんと捉え返したところが本書の最大の特徴でしょう。

佐々木さんはさっき『エヴァ破』についても「なぜ人びとが話したがるのか」と言っていたし、限界小説研究会は作品とその背景の「社会構造」に関心がある、佐々木さんは語りたがる人たちに興味がある、ということでしょうか。

佐々木:宇野さんは「セカイ系」的な想像力に対して「決断主義」という方向性を打ち出した。本書では「そうじゃない」と言うのであれば、ではどうすればいいのかということを聞きたい。「セカイ系」が表象している問題とはどんなものであり、そしてそれに対してどう振る舞うべきなのかという、この二点をはっきり述べることが、「セカイ系」批判に対するアンサーなんじゃないでしょうか。「ポスト・セカイ系」をどう打ち出していくのかっていうことが重要で、この本の続編が「セカイ系文化論2」であってはいけない。

批評家としてのスタンスについて

渡邉:なるほど。とはいえ、佐々木さんと僕らの「セカイ系」に対する捉え方には少なからず隔たりがあるような気がしますし、そもそも今回の本は共著という形なので、ポスト「セカイ系」に対する一つのクリアなパースペクティブをここで語るのは難しい気がします。そこで、問いをずらすようで恐縮なんですが、それはこれからの批評はどうやって書いていくのか?という問題にも繋がりますよね。

佐々木:そう思いますね。

渡邉:例えば、佐々木さんはインタビューで、東さんを筆頭とするゼロ年代の批評っていうのは、あるひとつのテクストと、同時代が抱えている文化的な構造を対応させてみせるというスタイルが一般的だと言ってらっしゃいます。僕もまさにそうした批評を書いてきましたが…。

蔓葉:ただ、そうした批評のスタイル以前に、批評の必要性を感じていないひとたちはある程度いると思うのです。作品は作品で楽しんで読めばいいのではないか、それをいちいち社会的な構造と結びつけるのは、評論家の職業的な勇み足なんじゃないのか、と思ってらっしゃる方も多いと思うんですよ。それはそれで正しいこともあると思うんですが、作品に触れ、何かヤバいことが起きていると「ビビッ!」と来たとき、何かを語りたい気持ちになる体験ってありますよね。評論家は、一人でもそういう体験をした人がいると想定して、その人が感じたことの補足というか手助けをするために、専門的な知識を駆使して文章を書くことが本分なんじゃないかと思うんです。

渡邉:佐々木さんの批評家としてのスタンスは、そうした作品と社会を照らし合わせるのではなく、「自分の面白いと思ったものを伝えたい」ということですよね。

佐々木:一言でいうなら「ここになんかあるよ」ということを伝える作業ですね。基本的にそれしかやってきていないし、それでいいと思っています。みんながそうあるべきだとは思ってないですが。そうした行為は、批評とは呼ばないのかもしれないけど、僕は批評だと思ってるんです。

逆に僕は、ある作品でも作家でも、何らかの時代的な背景と繋げて読んでいくことって、いくらでもできちゃうと思うんです。そういうことをどれだけ主張しても、すべては結局、他者によって相対化される自分の主観の問題になっちゃうんじゃないか。さらに言えば、引きこもりのように脳内世界に住むことと、今述べたように、自分の脳内を社会とつなげて主張してみることって、ほとんど同じことだと思うんですよ。今はことさら「社会」や「公共性」という問題系を立てることが流行っていますが、そこでいう「社会」も実は「セカイ」と同じようなものです。だから、どうしてもそうなってしまう、という現象を今後どうするべきか、という問題はあると思います。

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書籍情報

『社会は存在しない』
『社会は存在しない』

2009年7月6日発売
著者:限界小説研究会 編
価格:2,650円(税込)
刊行:南雲堂

リリース情報

『ニッポンの思想』
『ニッポンの思想』

2009年7月17日(金)
著者:佐々木敦
価格:840円(税込)
発行:講談社

プロフィール

佐々木敦

1964年生まれ。批評家。HEADZ主宰。雑誌エクス・ポ/ヒアホン編集発行人。BRAINZ塾長。早稲田大学および武蔵野美術大学非常勤講師。『ニッポンの思想』『批評とは何か?』『絶対安全文芸批評』『テクノイズ・マテリアリズム』など著書多数。

蔓葉信博

1975年生まれ。ミステリ評論家。『ジャーロ』『メフィスト』『ユリイカ』などに寄稿。「ケイオス・メルヘン――古野まほろ論」(『メフィスト』09年VOL.1)、「菅野よう子と広告音楽」(『ユリイカ』09年8月号)など。

渡邉大輔

1982年生まれ。文芸批評家。『群像』『ユリイカ』『メフィスト』などに寄稿。論文に「<セカイ>認識の方法へ」(『波状言論』22号)、「ポスト・ハリウッドは規約で遊ぶ。」(『ユリイカ』08年7月号)、「現代ミステリは「希望」を語る」(『メフィスト』09年VOL.2)など。

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