脱パブリック・イメージ 日暮愛葉インタビュー

「LOVES.」としてのバンド活動、シャカゾンビのツッチーとのユニット「RAVOLTA」の10年ぶりの復活と、精力的な活動を続ける日暮愛葉から、4年半ぶりとなる「日暮愛葉」名義のソロ作『perfect days』が届いた。これがSEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HER〜LOVES.と続く、これまでのパブリック・イメージを良い意味で裏切る、恋愛をモチーフにした穏やかなフォーク〜カントリー集で、彼女の魅力をより立体的に浮かび上がらせる好盤に仕上がっている。決してパーフェクトじゃない日々を、泣き笑いしながら過ごすために。アーティストとして、女性として、母親として、ますます魅力的な、日暮愛葉の音と言葉に耳を傾けてみよう。

(インタビュー・テキスト:金子厚武 写真:柏井万作)

彼と出会ったことで、客観的に自分の恋愛を見れたんですよ。

―LOVES.での活動やRAVOLTAの復活といったトピックもある中で、今回のようなアコースティックなソロ作が出てきてびっくりしました。

日暮:どうもシーガル時代から積み重なったパブリック・イメージがあって、「おりゃあ!」みたいな、「FXXX」ワード言って何ぼみたいに未だに思われてるんですけど、普段から激しい音楽聴くかって言ったらあんまり聴かないですし、普通にポップス、カントリー、アシッド・フォークとかの方がレイドバックして聴けて、自分を潤してくれるんですよね。

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―そういう潤してくれる音楽を、ソロ作品として作ろうと。

日暮:そうなんだけど、なかなか自分の思ってる、作りこまなくてもいい、ありのままで背伸びをしてない曲ができなくて。それが、新しく始まった恋愛をきっかけに思っていたような曲ができ始めたんです。彼と出会ったことで、客観的に自分の恋愛を見れたんですよ。客観的でいられない恋愛をしてる自分を、客観的に見てる(笑)、それがすごく面白くて。

―それってすごく難しそうですね(笑)。具体的にはどんな面白さを発見したんでしょうか?

日暮:恋をし始める焦燥感とか、電話がかかってこなくて不安だったりとか、でも会ったらその不安が嘘みたいに消えたりとか、突然また一人で考え込むと狂おしくなったり、でも次の日になると「今日はなんて完璧なんだろう」って思ったり。その心境の変化の早さ、恋のスピードの速さみたいなものを、一枚のアルバムにしたらすごく面白いんじゃないかって。実験するわけじゃないけど、ちゃんと残しておきたかったんです、自分のパーツとして。

―じゃあ今回の作品は、その恋愛をきっかけにして、一気に書いた感じなんですね?

日暮:そうですね。“the sun and moon”って曲は、少し前からアイデアはあったんですけど、自分で弾けるストロークじゃなかったから、LOVES.のギターの岩谷くんに弾いてもらったんですけど、それ以外の曲は全部恋愛と共に進行された…というか、したのかな。

―自分の内面や恋愛感情を作品としてさらけ出すことに対する不安や照れはありませんでしたか?

日暮:照れは全くないですね。シーガルのときもずっと言い続けてたんですけど、自分の気持ちをバンドで歌っても面白くないんですよ。バンドでは、演じているというか、Showだと思ってるんです、特にLOVES.は。シーガルのときはもっと若さとかパンチを大切にしてて、よくわからない勢いがあったんですけど(笑)。今作はもっと冷静で、どこかしら客観的な自分がいたからこそできたアルバムですね。

2/3ページ:完璧な恋愛なんてないんですよ、完璧な人がいないのと一緒で。

完璧な恋愛なんてないんですよ、完璧な人がいないのと一緒で。

―今作のようなストレートなラヴ・ソングって、これまであまり書いてないですよね?

日暮:ほとんど書いてないですね。

―それが自然と出てくるぐらい、今の恋愛がすごく大切なものだっていうことなんでしょうね。

日暮:そうですね。たぶん、よく私のことを知ってる人から見たら、すごく私らしいと思ってもらえると思うんです。でもファンの方とか、シーガルやLOVES.しか知らない人にとっては、「うそー!」みたいな感じだと思うんですよね(笑)。「自分の気持ちとか投影しない方がクールじゃん」って思う人がいたら、そういう人にぜひ聴いてもらいたい。

―ラヴ・ソングってこの世の中に無数にあると思うんですけど、愛葉さんにとっての理想のラヴ・ソング像というと?

日暮:恋という病気みたいなものに翻弄されて創作したものって、人それぞれ視点が違うから難しいですね…。「これぞラヴ・ソング!」を5枚挙げろって言われたら挙げられるとは思うんですけど(笑)。

―人それぞれ恋愛の形があるように、ラヴ・ソングにもそれぞれ形があって、それを定義付けるのはなかなか難しいですよね。

日暮:アルバム名に『perfect days』と付けておいてなんなんですけど、完璧な恋愛なんてないんですよ、完璧な人がいないのと一緒で。だけど「うわ、今って完璧」と思ってしまう瞬間がある。誰かを愛する、守りたい、守られたい、好きになりたい・好きになってほしい、好きだ、嫌われたくない、とか何でもいいけど、そういう様々な形があるからこそ、みんな色んな恋愛するんでしょうね。

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―ではサウンドの面ついても聞かせてください。今回は初めからシンプルに仕上げようという意図があったのですか?

日暮:そうですね。とりあえず私が眠らせていたTACOMAのアコースティック・ギターをリペアして、弾いて弾いて弾いて、ギターが楽しくなって、どんどん曲ができて、ホント早かったですね。流れとかもあんまり考えなかったし。

―こんなにたくさんアコギを弾いたこともこれまではなかったんじゃないですか?

日暮:人生で初めてですね。もともと私、アコギが苦手で恐怖だったんです。だからソロのライブでも岩谷君にアコギを弾いてもらってたのに、今作は“the sun and moon”以外全部弾いてて、自分でもびっくり。

―シンプルはシンプルなんだけど、その中に音に対するこだわりも感じられる作品ですよね。楽器の鳴りもそうだし、音響的な部分も所々で細かいアレンジがされてるし。

日暮:ありがとうございます。よくぞ気づいていただけて(笑)。フリーキーにしようとか、アーティスティックにしようとかあんまり考えてないんですけど、歌詞との連動で、例えば「I was struggling with my life」のとこにトライアングルを絶対に入れたいとか、そういうひらめきに忠実に作りました。“sorry I am crazy”とかは、「とにかく心臓の鼓動がBPM250ぐらいで鳴っちゃってるぐらいの勢いでパーカッション叩いて!」って言って。それを左右に2本違うのを入れて、聴いてる人が嫌になるぐらいにしてくれって。

脱パブリック・イメージ 日暮愛葉インタビュー

―嫌にはならなかったですけどね(笑)。でも確かに聴いてて、歌詞の内容や言葉のリズムに周りの音やアレンジが上手く寄り添っていました。

日暮:ああ、嬉しいですね。“some sunny day”はベースとピアノで作ったんですけど、シンセベースを入れたら、ピアノを重ねたくなって。ホントは全面にピアノが入ってたんですけど、ミックスのときに、たまたま一音だけピアノの音が鳴っちゃって、「あ、これでいい」と思って、ピアノの音を減らしたらすごくよくなって。

―僕はラスト3曲の流れがすごく好きで、“some sunny day”の静謐な感じもすごく印象的だし、あと“I know”で終わるのがすごく好きで。最後に「I know」ってフレーズのリフレインになるじゃないですか? あれが「私はわかってる」ってすごく自信があるようにも聴こえるし、逆に自信がないから「私はわかってる、私はわかってる」って言い聞かせてるようにも聴こえる。そうやって解釈の余地を残すことで、すごくいい余韻で終われるんですよね。

日暮:ああ、それそのまま記事にしてください(笑)。私からは何も言うことはないです。“I know”は私もすごく好きな曲で、歌というより、語りとかポエティックな感じですよね。そういうのが詩的に成り過ぎず、ちゃんと曲になったのが“I know”かなって。 恋愛ってほとんどの人が経験するじゃないですか? その中で同じ気持ちになる曲が、アルバムの中に1曲ぐらいあるんじゃないかと思っていて。さっきおっしゃられたみたいに、色んな解釈で聴いてくださったのはすごく嬉しい。たくさんの聴き方があっていいと思うんです。

3/3ページ:「バンドとオレとどっちとる?」って言われたら、絶対バンド取ります。

「バンドとオレとどっちとる?」って言われたら、絶対バンド取ります。

―あと今回歌詞が全編英語ですよね? 日本語が一切出てこないのって意外と最近なかったかなって。ご自身の内面を描いた今回の作品が、全編英語であるっていうのには、何か意味があるのかな?って思ったんですけど。

日暮:日本語の詞は正直苦手です。母国語じゃないからだと思うんですけど、英語で友達と会話をしてるときの自分って、裏がないんですよね。逆に日本語だと何かを隠したり、含んだりできちゃうけど、それを歌詞にするところまで私は長けてないんです。でも英語においては、なんでかわかんないけどスルスル出てくるんですね。母国語じゃないけど、自分の気持ちに近い言語だってことはいつも感じるんです。

脱パブリック・イメージ 日暮愛葉インタビュー

―日本語って「はい」と「いいえ」の中間にある曖昧な表現が得意じゃないですか? 英語が得意じゃない僕らからすると英語は「YES」と「NO」がはっきりしてるイメージがあるのですが?

日暮:うーん、でもイギリス英語とかってふんだんに形容詞や副詞を使ってて、同じ英語でも全然違うんです。アメリカ英語でも言い回しによって含んだ表現ももちろんできるし、何かを隠すことも、ベラベラ話すこともできる。そういう意味ではそんなに違いないと思うんですけどね。

―では改めて、今回の作品は愛葉さんのキャリアにおいて、どんな位置づけの作品になったと思いますか?

日暮:極めて純粋な意味で、私のソロのファーストアルバムです。やっとやりたかったシンプルな曲たちが輝くときが来たかなって。10年ぐらいかかってますけど(笑)。

―じゃあ少し話を広げて、ここ最近はLOVES.、RAVOLTA、そしてソロと幅の広い活動をされてますよね。それって一つのアウトプットだけでは満足できない、強い表現欲求があるということなんでしょうか?

日暮:どうなんでしょうね。欲求が自分の背中を押してくれるわけだから、欲がないとは言わないけど、色んなものを全部やりたいっていうgreedy(貪欲)な感じではなくて。余裕があるんだと思うんですね、自分の着地してるところとしてLOVES.があるので。それがなかったら大変なことですよ(笑)。かといってLOVES.がハードで、RAVOLTAがファンキーだから、ソロでアコギを弾いてみたっていうアプローチでは絶対にないんです。ソロのライブで私がアコギを弾かないのも、そういうアプローチだと思ってほしくないからなんです。

―では、お子さんの存在が表現活動に与える影響はいかがですか?

日暮:今小4なんですけど、あんまり神聖なものではなくて、なんか面白いんですよね、生き物として。すごい面白い生き物と共存させてもらってる感じで、ウチの娘がいるとそこだけ電気がついてるみたい。

―明るくなる?

日暮:明るいって言うか、あったかいような。生身の人間のエネルギーを何の気なしに発揮するんですよ。大人って構えたりするじゃないですか? それがないので、いきなりすごいこと、人の人生を左右するようなことを言ったりするんで「ええ!?」みたいな。毎日が驚愕の日々ですよ。彼女の一言一言、行動の面白さで日常が救われるし、クリエイティヴィティにもなんらかの影響はあると思います。具体的にどうって言われるとわからないんですけど、唯一守らなきゃいけないものなんだって事はいつも認識してますね。親になってしまうと、私の人生よりも、彼女の人生の方が大きいのかも。ただ、私はアーティストであり、クリエイターだから、そのスイッチングが難しいですね。

―そこは地続きではない?

日暮:切り替えないと、やりたくないですね。今回のアルバムの曲でも、“some sunny day”とか「怖い」って言いますからね。でも自分の不安定さが出てる曲とか、ダークな曲も書きたいので、そういう意味では娘を育てる親としての私と、アーティストである私は分けたいんですよね。

―では愛葉さんの現在の表現に対するモチベーションはどこから生まれているのでしょうか?

日暮:なんなのか分からないけど、天職だとは思ってます。一瞬やめたくなった時期もあったけど、でも他にやりたいこともないし。自分がステージに上がれなかったり、音源を録音できないってことには耐えられないですね。例えば私が結婚するとして、親戚と会って、式場を押さえたとしても、「バンドとオレとどっちとる?」って言われたら、絶対バンド取りますからね。でもまあ、そんな風に言うやつと付き合わないけど(笑)。

リリース情報
日暮愛葉
『perfect days』

2009年11月18日発売予定
価格:2,500円(税込)
felicity PCD-18601

1. what to say
2. take me home
3. sorry I am crazy
4. out of my bed
5. the sun and moon
6. becoz of U
7. if we belong
8. baby baby baby
9. perfect days (I'm crazy for U)
10. some sunny day
11. I know

プロフィール
日暮愛葉

2002年、SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HER活動休止後、ソロ活動スタート。 執筆、楽曲提供、プロデュースを手がけながら、2005年より自身のバンド「LOVES.」、そして10年振りに活動を再開した「RAVOLTA」[愛葉×TSUTCHIE(シャカゾンビ)]と、それぞれ異なる音楽性を提示しつつ、精力的に音楽活動を続けている。11月18日にソロとしては約4年半振りとなるアルバム「perfect days」をfelicityよりリリース。



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