ウミネコサウンズ インタビュー

米国アカデミー賞公認アジア最大級の国際短編映画祭『SHORT SHORTS FILM FESTIVAL & ASIA』(以下、SSFF & ASIA)で、今年6月に開催予定の「ミュージックShortクリエイティブ部門」(応募締切は1月30日必着)。2009年9月から続けて来た本特集も、いよいよ今回で最終回。最新作“宇宙旅行”のPVも話題沸騰中、CINRAではお馴染みウミネコサウンズの古里おさむ氏が登場です。『グーニーズ』や『ゴーストバスターズ』に始まり、『バグダッド・カフェ』や『タクシー・ドライバー』など、音楽が印象的な映画に影響を受けてきた古里氏が語る映像と音楽。はじめの一歩を踏み出すこと、純粋に楽しむこと、そして奇跡を信じること。素晴らしい作品を生み出すには、こうした姿勢を持つことが大切だと感じさせられた。

(インタビュー・テキスト:タナカヒロシ 写真:柏井万作 衣装協力:ZOFF

音楽から生まれる 新感覚ショートフィルムを募集中!

PVを見て、何度も心が動かされてるわけですからね。

─SSFF & ASIAのことは知っていました?

古里:名前は知ってたんですよね。アキ・カウリスマキっていうフィンランドの映画監督が好きなんですけど、2008年のSSFFにカウリスマキの作品が出てたんです。結局その作品はタイミングが合わなくて見れなかったんですけど、紹介されてる記事はチェックしてて。

─ショートフィルムって聞くと、どんなものを思い浮かべますか?

古里:映像じゃないけど、星新一のショートショート(※短編小説よりもさらに短い小説)かな。短くても長くても、人の心を豊かにすることができるという意味では、映像も小説も一緒だと思うんですけどね。

─身近なところでは、音楽のPVもショートフィルムの一種ですよね。

古里:あー、そうですね。

─印象に残っているPVってありますか?

ウミネコサウンズ インタビュー

古里:小学校のときに見た『グーニーズ』は衝撃でしたね。当時は特に意識してなかったけど、よく考えたらあれってPVみたいなもんですよね。シンディ・ローパーが役者みたいになって、ストーリーがあって、グーニーズのテーマ(“グーニーズはグッドイナフ”)を歌ってて。あと、当時お正月映画で観に行った『ゴーストバスターズ2』。あの有名なテーマのほうじゃなくて、ボビー・ブラウンが歌っていた“オン・アワ・オウン”なんですけど。それは生まれて初めて買った洋楽なんです。

─それはいつ頃の話?

古里:小学校5年とか。

─早いですね〜。

古里:青森の八戸で田舎だし、やることがなかったから(笑)。お小遣いもらったら、とりあえず映画館に行ってたんですよ。それが音楽に触れるいい機会になってたんでしょうね。映像と音楽がリンクして、それに感動して。映画のサントラを買うことも多かったし。『バグダッド・カフェ』の“コーリング・ユー”とか、『タクシー・ドライバー』の“タクシー・ドライバーのテーマ”とか、強烈に記憶に残ってますね。あの映画といえばあの曲みたいな。すごい密着してる感じがするんです。

─映像がなかったら、こんなに音楽に興味を持たなかったかもしれない。

古里:絶対にそうだと思う。あと、俺の場合は八戸で育ったから、ライブを見る機会がなかったんです。それで小っちゃいときにスペースシャワーTVが映るようになって、PVに触れる機会が多くなって。だから、PVはライブと同じくらいの表現方法でもあるんじゃないかって。実際に当時PVを見て、何度も心が動かされてるわけですからね。ヨ・ラ・テンゴの「シュガーキューブ」とか、マッシヴ・アタックの「プロテクション」とかは映画っぽいし。ミシェル・ゴンドリーのPVは特に好きですね。

映像を作る人たちがなによりも楽しんでやれたら、その「楽しんでる」っていうのが伝わるんじゃないかなって。

─古里さんのなかで、いい映像の定義とは?

古里:見てて楽しいものは好きですけど、そこまで考えて見ないですからね。考えて見ても楽しくないし。『グーニーズ』や『ゴーストバスターズ』は、子どもが見て意味がわからなくても楽しいじゃないですか。大人になってもそういうのが好きで。

ウミネコサウンズ インタビュー

─ウミネコサウンズのPVを作るときは、どんな感じで制作されているんですか?

古里:一番新しい“宇宙旅行”のPVは、アダチくんっていうプロデューサーにお任せしたんです。彼は世界を旅してて、ブログには世界中の人の顔が載ってたりして、そういうのを見てたら曲の内容ともリンクするなと。何も言わずとも、わかってくれるんじゃないかなって思ったから、アダチくんにお願いしようと。

─あのメガネが旅をしていくシーンとか、すごく素敵ですよね。

古里:ありがとうございます。今回すごくわかったのが、俺がどうこう言ってできるものじゃなくて、映像を作る人たちがなによりも楽しんでやれたら、その「楽しんでる」っていうのが伝わるんじゃないかなって。できあがった映像を見て思いましたね。

どうなるのかわかんないっていうワクワク感を残してないから生きなかったんですよね。

─今回は“鳥のうた”と“春がくるまで”がエントリー曲になっています。なぜこの2曲を?

古里:どっちも映画っぽいイメージがあると思って。映画の最初のシーンみたいな出だしがあって、ストーリーが展開して、最後にメッセージがひとつだけある。自分が好きな映画を思い返すと、最終的に何を伝えたかったかっていうのは、やっぱりひとつなんですよね。ウミネコサウンズにもいろんな曲がありますけど、伝えたいことは極力ひとつにしていて。それを伝えるために、ストーリーを作っていくというか。

─“鳥のうた”は八戸でウミネコの大群を見たことがきっかけになってできた曲、“春がくるまで”は晩秋の公園で葉が落ちた木を見たことがきっかけになってできた曲。ウミネコサウンズの曲って、ロマンチックな体験を基に曲が生まれることが多いのかなと思うんですよね。

古里:日常に色をつけてる感じですかね。それが音楽のすごいところだなと思うし。わりと繊細に見られがちなんですけど、実はけっこう鈍感なんですよ。鈍感だから刻み込もうとしてるというか。

─それは意外ですね。

古里:日頃から歌詞のメモをしていて、例えば「夕陽がきれいでこう見えた」とか、そのときは思ったことをただ書いているんです。それを家に帰って読んだりすると想像が膨らんで、すごい体験をしたんだなとか、どんどん美化していくというか。実際に体験してるときは、感動はしてるんだろうけど、それに自分の意識が追いついてないんです。だから、「これは忘れちゃいけないな」とか思ったりしたことを、さっき言ったひとつのテーマとして、ストーリーを作っていくことが多いですね。

ウミネコサウンズ インタビュー

─最初に伝えたいものがあって、それに対して後からストーリーをつけていく。

古里:その伝えたいものを探すのが大変で。きっと映画もそうなんじゃないかな。

─古里さんが曲を作るときは、まず最初に「曲を作ろう」っていうのが頭にあるんですか? それとも、ちょっと臭い表現ですけど「この感動を伝えたい」から曲を作るんですか?

古里:そんなに深く考えているわけではなくて。いろいろ聴いてきた音楽っていうのが好きで、心を動かされるわけですよ。それで自分もやりたくなる。ほんと小学生みたいな気分で、単純に作りたいなって。人の心を動かせたらいいなとはなんとなく思いますけど、作ってるときはそんなこと考えないですから。

─確かに。そういう理由はたいてい後づけだし。

古里:みんな結果論ですよ。曲だって、いろんな偶然が重なり合って、奇跡みたいにできてるわけだし。最初からそれが見えてて作る人って、世界中に何人いるのかなと思うんですよね。俺も昔はそうじゃなきゃいけないと思って、全部一回自分で作って、メンバーに細かく指示して制作してたけど、CDになって聴いたときに、音が生きてなかったんです。なんでだろうと思って、いろいろ考えた結果、きっと楽しんでないからだったんだなって。そこでやりとりがなくて、どうなるのかわかんないっていうワクワク感を残してないから生きなかったんですよね。

計算してやってたら、生きててつまんないですよ。

─それは映像にも当てはまりそうですね。

古里:そうだと思います。PVを作ってる人たちを見ても、ある程度はこうしたいっていうのはあるけど、いろんな人の意見があれば、仕上がりは絶対に変わっていくじゃないですか。その変わっていく過程を楽しみながらできたら、見る人にも楽しさが伝わるのかなって。

─最初から決めごとのように作ってしまうのは楽しくない。

古里:絶対にそう。そういえば小学生くらいまではよく絵を描いてたんですけど、すごいへたくそだったんですよ。よくわかんないけど、これでいいやって感じで描いてて。でも、その中にセメント工場を描いた絵があって、それが世界児童画コンクールで入選したんです。

─えーっ!

古里:何も考えてないんですよ。ただおもしろいなと思って描いてただけで。最終的にこうなっちゃいましたみたいな。そのときに俺、空の色を塗りつぶすんじゃなくて、一本一本違う色で何本も線を描いて空にしてたんですよ。それが「この子の感性はすごい!」みたいに評価されて。でも、実際は絵の具が足りなくなって、仕方なく線にしただけだったんですよね(笑)。

─それが入選してしまった(笑)。

古里:だから、そういうことだと思うんです。それを計算してやってたら、生きててつまんないですよ。

─それは難しいところですよね。プロはそこを計算しなきゃいけない気もするし。

古里:そういう人もたくさんいて、実際にお話しすることも多々ありましたけど、俺はある程度考えない部分を残したい。谷川俊太郎さんのインタビューを読んで、すごく共感したことがあって。最初は言いたいことは何もないらしいんです。まず机に向かうと、とにかく書くぞと。言いまわしは違いますけど例えば「好き」って書いたら、そこから何かが広がって、パズルのように組み合わさって、ひとつのものができあがる。その奇跡みたいな。それって、自分が小っちゃい頃に絵を描いてたのと同じだし、いま作っている音楽も同じだと思ったんですよね。

ウミネコサウンズ インタビュー

─最初にギターをジャラ〜ンって鳴らした音からどんどん広がっていくみたいな。映像だったら1枚の写真から映画ができるみたいな。

古里:そう。最初にギターを鳴らさない限り、それは絶対にできない。そういう奇跡がないとつまんないですしね。それを楽しんでいきたいし、自分が楽しまないと、人にもその楽しさが伝わらない。

結局すべての表現って、人に力を与えるものだと思うんです。音楽にしても、映画にしても。その根本は考えてできるものじゃない。

─曲作りでアイディアが出て来ないときは、どうやって乗り越えるんですか?

古里:部屋に山積みになったどうしようもない紙があって、使えない言葉ばっかりがたくさんあるんですけど、それがたまにくっついたりして。あとはいっぱいギターを弾いたり、鼻歌を歌ったりっていうのをレコーダーで録っておいて、たまに「これいいんじゃないか」みたいなのが出てくるというか。それをやらない限り何も生まれない。

─素材を貯めておく?

古里:そうですね。外に行って言葉のスケッチをすることもあります。自分がどういうところで感動したのかをメモして、家に帰って「あ、これ感動したな」って。そしたらいろいろ奇跡的につながって、偶然が重なって曲ができたりするんです。

─その山積みになっている紙は、すぐに見れるようにしてあるんですか?

古里:いや、見れないです(笑)。

─壁にたくさん貼っておいたら、アイディアもつながりやすそうですよね。映像だったら、壁に写真をいっぱい貼り付けておくとか。

古里:あー、それはいいかも。あと俺の場合、トイレと風呂にいるときが、一番「あ、つながった!」とかなるんですよね。あれはなぜなんですかね。なんも考えてないからかな。

─リラックスできる場所だからなんですかね。でも、トイレに行って思いついても、出てきたときに忘れてそう。

古里:だから忘れないように、レコーダーを持って入ることもあります(笑)。

─クリエイティブなものを発想するときのエネルギー源は何ですか?

古里:映画を見たり、音楽を聴いたりですね。刺激を受けて。いいなぁと思って。最近だと、DVDで見た『ミルク』っていう映画に刺激を受けました。ハーヴェイ・ミルクっていう70年代にサンフランシスコでゲイの権利活動をした人の映画で、もともと向こうではゲイって神に背く行為だ、みたいな感じで差別されてて。最後にすごく印象的な言葉を言うんですけど、その言葉のために映画が全部流れていってて。感動しましたね。

─感動すると音楽を作りたくなる?

古里:そう。何か作りたい、何かしたい、みたいな。

─「負けたくない」みたいな気持ちとは違うんですかね。

古里:違いますね。僕の場合はリスペクトから生まれてくるものなので、負けたくないとは思わないですね。音楽は勝ち負けじゃないと思うし。

─最後に、これから映像を作る人たちにメッセージを。

古里:楽しんで作ってもらえたら最高ですよね。結局すべての表現って、人に力を与えるものだと思うんです。音楽にしても、映画にしても。その根本は考えてできるものじゃない。赤ちゃんが生まれたときのギャッていうような感じというか。それがみんな根本にあって、その根本を変に考えたら伝わらなくなっちゃう気がするんですよね。後付けでいろいろ考える必要はあるけど、動き出す根本では余計なことを考えないほうがいいんじゃないかと思います。

リリース情報
ウミネコサウンズ
『宇宙旅行』

2010年1月20日発売
価格:1,500円(税込)
CINRA RECORDS DQC-407

1. 宇宙旅行
2. 顔
3. 傘をさして
4. ゆっくりと
5. 手紙

リリース情報
ウミネコサウンズ
『夕焼け』

2009年5月13日発売
価格:1,500円(税込)
CINRA RECORDS DQC-238

1. 夕焼け
2. あたらしい時間
3. 鳥のうた
4. 春がくるまで
5. 海岸線グルーヴィー

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プロフィール
ウミネコサウンズ

くるりが主催するNOISE McCARTNEY RECORDSより04年3月にソロアルバムをリリースしている古里おさむが新たに始動したソロ・ユニット。06〜08年はウミネコサンライズ名義で活動を行い、公式リリース前にも関わらずロックフェス『ロックの学園』に出演(校長に忌野清志郎、共演に斉藤和義など)。心ゆさぶるメロディーと歌声、サイケやUSインディーを通過したロックサウンドは高く評価されている。09年5月13日に、CINRA RECORDSよりデビューミニアルバム『夕焼け』をリリース。10年1月20日には2ndミニアルバム『宇宙旅行』をリリースする。



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