篠田千明(快快)× 喪服ちゃん(モエ・ジャパン社長)対談

快快の最新作『SHIBAHAMA』は、『芝浜』という古典落語を我流に解釈し、狂騒のアミューズメント・パークを芸術劇場に出現させている。その演出を手掛けた篠田千明が今回、対談相手に指名したのは、飲食店とライヴハウスが一体となったアキバの萌えビル、ディアステージを運営する女社長、喪服ちゃん。
元々は東京芸大で音楽を学び、現代美術のギャラリーで働いていたという喪服ちゃんは、日本オリジナルの音楽を追い求めるうちに秋葉原の電波ソングと出会い、秋葉原に通うようになる。現在は株式会社モエ・ジャパン代表取締役社長として、数々の地下アイドルやヒットCDを世に送り出すほか、秋葉原のディアステージに加え、DJバー・MOGRAの経営にも乗り出している。学園祭のような祝祭が夜毎繰り広げられるディアステージやMOGRAも、飲めや騒げやのどんちゃん騒ぎを作品に昇華させた『SHIBAHAMA』も、観客を巻き込んでライヴ感溢れる現場を作り出している、という意味で目指すところは似ているはず。

(インタビュー・テキスト:土佐有明 撮影:小林宏彰)

『芝浜』の世界観を知るために、まず「3日間寝ない」ことにチャレンジした役者がいて(篠田)

─まずは篠田さんのほうから、『SHIBAHAMA』がどんな公演なのか喪服ちゃんに説明してもらいましょうか。最初に創作上のヒントになったのは、大友良英さんの『without records』っていう、ポータブル・レコード・プレイヤーを使ったインスタレーションだったそうですが。

篠田千明(快快)× 喪服ちゃん(モエ・ジャパン社長)対談
篠田千明

篠田:そうなんですよ……、って、実は見てないんですけど(笑)。まあ、見てないんだけど、話を聞いてインスパイアされまして。要するに、舞台上で人が何かを演じるだけじゃなくて、ただ物を動かすとか操作しているところを見せられないかなと思ったんですね。

ただ、それだとお話として理解しにくいから、少しは物語があったほうがいいかなって。しかも、自分たちで書いた新しい話より、古典がいいかもしれないと思って、落語を素材にしようと。けど、今回つくづく実感したんですけど、落語を毎日聞いてると、人間、もんのすごいダメになりますねー。

─なんだそりゃ?(笑)

篠田:いやいや、マジで。

喪服:それが落語に触れてみての結論ですか(笑)。

─確かに落語って、今回の原典になっている『芝浜』に限らず、ダメで間抜けな人がよく出てくるから、それに引きずられるっていうのはありそうだけど……。

篠田:うん。だから、『SHIBAHAMA』を作るにあたって、当時の江戸と今の東京がダブってる部分を知りたくて、街に出てフィールドワークを1週間やったんですよ。いろいろ考えてもしょうがないし、「とりあえずネタ拾ってこい!」みたいな感じで。でもね、その時の快快のメンバーのダメっぷりっといったら、まー、ひどいもんですよ。まず、役者の(山崎)皓司君が、3日間寝ないっていうのにチャレンジして。

喪服:なにソレ? まったく意味、分からないんですけど(笑)。

篠田:いや、『芝浜』には夢の話が出てくるから、ナチュラルにトリップしようっていうことだったと思うんですけど、でも、2日目で寝ちゃったらしくて(笑)。

喪服:ダメじゃん。できてないじゃん(笑)。

日替わりでゲストの人が毎回劇中に入って来たりするんです(篠田)

篠田:私は競馬に行ってみたんですよ。それこそ『芝浜』の話みたいに大金がいきなり儲かったことってないから、馬券が当たった人の反応を見てみたいと思って。でも、せっかくなんで自分も賭けようと思って、『芝浜』にかけて4-8に賭けたら、当たっちゃって!! それで、ちょうど同じ日に、美術の(佐々木)文美ちゃんもフィールドワークでパチンコに行ってたんだけど、彼女も勝っちゃったの。合流して、儲かった金でずーっと爆笑しながら飲んでたんですよ。

喪服:競馬にパチンコって、みんな考えることが一緒じゃないですか(笑)。一獲千金ばっかり狙って。底辺フィールドワーク(笑)。

篠田:底辺劇団ですから(笑)。でも、その体験も今回、劇中にお話として入ってくるんですよ。

─『芝浜』って主人公が偶然拾ったお金で酒飲んでどんちゃん騒ぎするわけですけど、その導入として実体験を織り込んでいる?

篠田:そうそう。今回、最後は一応ちゃんと演劇するんですけど、それ以外は大体そんな感じで、日替わりでゲストの人が毎回劇中に入って来たりするんです。「core of bells」っていうバンドが楽器を一切もたずに参加したりとか、「ウインドアンドウインドウズ」っていうラジオの収録をその場でやったり。借り物競争もあるし、百人斬りのパフォーマンスもあるし、板前さん呼んで実際に魚さばいてもらったりもするし。あと、フルーツ☆パンチっていう芸大生の……。

喪服:ああ、アイドル集団! 知ってますよ。メンバーの渡辺真子ちゃんと、昨日会ったばかり(笑)。かわいいですよね、AKB48の曲で踊ったりして。(喪服ちゃんが経営するDJバーの)MOGRAでもライヴをやってくれてるんですよ。フルーツ☆パンチ出るんだったら、その日に行きたいな。

演劇って正直にいうと苦手っていうか、怖いんですよ(喪服ちゃん)

篠田千明(快快)× 喪服ちゃん(モエ・ジャパン社長)対談
喪服ちゃん

喪服:私ね、演劇って正直にいうと苦手っていうか、怖いんですよ。目の前の人間が、いきなり大きな声でしゃべり出したり、違う人間を演じ始めるっていうのがダメなんです。あと、ステージの外からお客さんの反応がちゃんと返ってこないと不安になる。でも、今の話を聴いていたら、快快の演劇は、ライヴ感があって絶対面白いだろうって思った。

─演劇って、基本的に観る側と観られる側が断絶していて、観る側って無力だったりもしますからね。

喪服:そうそう。それが怖くなるんですよ。例えば映画だったらすぐそこに人がいるわけじゃないし、作りこまれたものだってはっきりしているからいいんだけど、演劇って目の前に人がいるわけでしょう? でも、客席から舞台上の人と目が合っても、見なかったことにされちゃう。え、それってなに? どういうこと? って思っちゃうんですよ。

─そういう意味で、快快って舞台と客席との敷居は高くないんですよ。もちろん、以前から作品の前後にイベントとしてパーティーをやってはいたけれど、今回は作品の中に、パフォーマンスとしてパーティーが繰り込まれている。だから、『芝浜』の構造がそうであるように、日常と非日常、現実と虚構の境界が曖昧になると思うんですよ。で、それは喪服ちゃんの経営するディアステージも同じですよね。ステージで歌っている地下アイドルよりも、オタ芸を打っているオタクたちのほうがむしろ主役だったりするじゃないですか?

喪服:そう、ほんとにそうなんですよ。ディアステってお客さんが盛り上がると思いっきり歌い出しますからね。いちばん前でずーっと熱唱してる人とかいるし、マイク渡すと当たり前のように歌いだしたりする。そういうお客さんと女の子の掛け合いを観るのがすごく面白くて、こじつけると、『SHIBAHAMA』にも何か近いものを感じる。

快快は、観る人を飽きさせない工夫がすごいですよね。エンターテイナーだな〜と思う(喪服ちゃん)

─快快としては今回、どんな風にお客さんを巻き込もうと?

篠田:まず、ジャンケン大会をします! で、勝ったら100円もらえるの。100円っていっても、100人お客さんが来たとして、最後まで勝ち残ったら1万円もらえますからね。

喪服:それはいい。めちゃめちゃ盛り上がると思うし、がぜんやる気出てきますよ。ただのジャンケン大会だと、無理矢理やらされてる感が出ちゃうけど、1万円もらえるよって言われたら絶対やる。

やっぱり参加することに必然性があるのって重要で、「お金払う」っていう決まりがあるとシャイな人でも参加しやすいんですよ。うちも秋葉原の萌え系店舗っていう特殊な場所に慣れてない、観光客が多い日は、参加しやすいイベントをやったりしますよ。

篠田:ちょっとヒントをください! 例えばどんなことをやるの?

喪服:まったく一緒ですよ。ジャンケンとかくじ引きをやってもらう。そういう、過去に学校とかお祭りで体験しているイベントを組み込まないと、日本人ってシャイだから、遠巻きに観てるだけになっちゃう。お金を払うとか、参加している意識を持つっていうことも重要で、金額はむしろ少なくていい。私も含めて日本人って、100円払うのとか好きだから(笑)。

─ワンコイン何々みたいなの、好きですもんね(笑)。

喪服:そうそう。で、当たったら、女の子とツーショット写真を撮れるとか特典がある。普段は恥ずかしがっちゃうお客さんも、当たったからしょうがないなって積極的になれるし。

篠田:なるほどなるほど、一緒ですね。あとは、ジャンケンで最初に負けて暇そうにしてるお客さんにも、無視してないよっていう気持ちを見せるのが大事かなと思ってて。一応、裸族(らぞく)っていう企画が裏で進行してて、肌を露出したメンバーが舞台の外で歩いてるのをライヴ中継したりするつもり。あ、あと、リアルタイムで競馬もやりますよ!(注:イベント内容は日替わりのため、毎回の公演で競馬を行うわけではありません。)

喪服:競馬? やっぱり入るんだ、そのネタが。ちゃんと活かされてますね、フィールドワークの成果が(笑)。

─競馬って、実際にその場で予想して賭けるっていうこと?

篠田:そう、投げ銭制でお金を募って、私たちがネットで馬券を買う。もちろん『芝浜』だから、常に4-8に賭けるわけですよー(笑)。ただ、当たっても実際にお金を返すわけにはいかないから、DVDの引換券とか、もう一回公演に来れるチケットをあげるつもり。

喪服:いやー、ぜんっぜん想像つかないけど面白そう。だって、そんな風に観る人を飽きさせない努力をしている劇団ってあまりいないじゃないですか? 私、それが逆に不思議だったんですよ。45分あったら、どういう脚本でその45分を構成するかっていうことは皆考えてるけど、いかにお客さんを飽きさせないかにはあまり目がいかないでしょ? 快快は、そこ、すごいエンターテイナーだなと思って。特に時間についての考え方が、ディアステージとすごく近い。ディアステだったら5時間ある営業の中で3回ライヴをやるんですけど、その間にお客さんがいかに飽きないようにするかを考えて、催し物をやったり飲食を出してるんですよ。

オタクを見ていると、「何て清々しいやつらなんだろう!」って(笑)。(喪服ちゃん)

─さっきディアステージはお客さんがプロで主役っていう話が出ましたけど、ほんとあそこに通ってる人たちは自由ですよね。いい意味で、ぜんっぜん空気読まないから(笑)。

篠田千明(快快)× 喪服ちゃん(モエ・ジャパン社長)対談

喪服:秋葉原とか、オタク全域に言える話かもしれないんですけど、あまり人の目を気にしない。好きなことは好き。そういうのがいいところなんですよ。ライヴの時も、あの激しいオタ芸を、誰にどう思われるかなんて関係なしにやるし、そうすると周りも、観光客の人とかもだんだん「あいつカッコいい!」って真似し始めちゃう。他人の目を気にしないで、「○○ちゃんかわいいよー」って突進していって言えちゃうのはすごいですよ。ほんとカッコいい!

篠田:面白かったですよ、私も一度行ったけど。

喪服:私ね、昔、芸大にいた頃に一緒だったスカしたやつらに感じていたモヤモヤが、オタクに出逢うことで払拭されたんですよ。「何て清々しいやつらなんだろう!」って(笑)、もう、めちゃめちゃ気持ちよかった。空気読まないこともあるし、ムカつくことも言うこともあるんだけど(笑)、愛があるから許せるし、本気でガチンコ勝負できる。

篠田:じゃあ、この人マジ面白かった、みたいなエピソードある?

喪服:めっちゃありますよ。例えば、自分のことをヒーローだと名乗っている人なんかもいて。ヒーロー的なコスプレをしつつ、女の子たちが喋ってるところにツカツカって入ってきて、「俺、地球を守ってるんだ!」みたいな(笑)。あの、特定されすぎちゃうんでボカしてますけど、ほんとにいるんです、こういう人。

篠田:あはははははは。

喪服:「なにを守ってるんだよ」って突っ込みは敢えて誰もしない、みたいな(笑)。

篠田:ラブリーですねー。

喪服:ちょーラブリー。そういう人たちを快快の芝居に連れてきたいですよ。連れて来たらハシャいでくれると思う。ディアステのお客さんは、アキバでも最も濃い人たちが集まってますからね、絶対に面白いですよ。

カオス状態の頃のアキバが一番面白かった。いまは常にネクストを探しています(喪服ちゃん)

篠田:喪服ちゃんがディアステージやってて、「あ、これ面白いかも」って思い始めたのはいつ頃?

喪服:2006年が秋葉原的にはいちばん面白かったかな。ディアステージはオープンしたての2007年〜2008年頃、すっごいカオスで面白かった(笑)。歩行者天国で盛り上がってた人たちがどんどんお店に来てくれてたんだけど、その頃はステージがなかったから、お客さんがご飯食べてる真横で女の子が踊りまくるっていうカオス状態。開店時間も閉店時間も曖昧だったり、ライヴの時間も決まってなくて。女の子が歌いたくなったらいきなりライヴが始まるっていう、ほとんど宴会場か下町の劇場みたいな感じで。

篠田:へええ。今はもう今はある程度パッケージ化されてきた?

喪服:そう。今はひとつシステムも、文化もできあがっちゃったなって。それで新しい文化を創りたいなと思って、MOGRAを始めたっていう感じ。MOGRAはMOGRAで、若い子達が集まってきて面白い文化が生まれてる。

篠田千明(快快)× 喪服ちゃん(モエ・ジャパン社長)対談

篠田:あ、わたし今度、MOGRAに出るんですよ! DJチームで!!

喪服:あ、そうなんですか! よろしくお願いします(笑)。

篠田:ここ1年くらいで、電波ソング系のパーティやっていた人たちがMOGRAみたいな場所でちゃんと認知され始めてますよね。「2ちゃんねる出身だろ? ニコ動出身だろ?」みたいにイロモノ扱いされてきた人たちが、「面白いことやってるんだね」って認められて。

喪服:そうそう。ひとつのまとまりとして見えてきた。でも、私は常にネクストを探しているし、うまいこと言うと、今度の快快の演劇の中に何かヒントがあればいいなっていうくらい。

篠田:いやいや、もう、なんならゲストで出てほしいくらい。

喪服:あ、ほんと? やりたいやりたい。誰かうちのアイドルを出したいですよ。

篠田:おお、食いついてくれた。ぜひぜひ! っていうか今、10日夜のゲストが決まってなくて、もしかしたら身内になっちゃいそうなんですよ。歌ったり踊ったりする系だと、ウチのリーダーがキャバ嬢なんで、実際にキャバクラのシーンを作ってパラパラをやるんですけど、そこに入ってもらったら面白いかも。

喪服:いいなあ。6月10日、本当に考えていいですか?

篠田:いやいやお願いします、メールください。いや、楽しみだあ。

(その後、本当に出演が決定! 詳細は快快ウェブサイトにて)

イベント情報
快快
『SHIBAHAMA』

2010年6月3日(木)〜6月13日(日)計14公演
会場:東京芸術劇場 小ホール1
脚本:北川陽子
演出:篠田千明
出演:

天野史朗、大道寺梨乃、加藤和也、千田英史(Rotten Romance)、中林舞、野上絹代、山崎皓司、北川陽子、篠田千明、佐々木文美、藤谷香子

料金:初日割引 前売・当日2,000円(6月3日のみ)

6月4日〜6月6日 前売3,000円 当日3,300円
6月9日〜6月13日 前売3,500円 当日3,800円

プロフィール
快快

2004年結成、(2008年4月1日に小指値〈koyubichi〉から快快に改名)
メンバー10人+サポートメンバーによる東京のカンパニー。ステージ、ダンスにとどまらず、常にたのしく新しい場を発信。今の複雑さに向かいながらいつのまにか幸福感に満たされてゆく作品性は、たくましい都市と人そのもの。2009サマーツアーでは、代表作『My name is I LOVE YOU』でヨーロッパ各国を巡る。NHKとのコラボドラマから、銭湯イベント、東京/アジアでのパーティオーガナイズ、spectacle in the farmやFestival / Tokyo09秋への参加、NADiff/a/p/a/r/tでの展示、BCCKS「天然文庫の100冊」シリーズからの書籍リリースまで、活動の幅は広がりつづけている。そんなfaifaiについたあだ名は、「Trash&Freshな日本の表現者」。

喪服ちゃん

秋葉原にて萌え系ライブ&バー「ディアステージ」とアニソンDJバー「MOGRA」を運営する、株式会社モエ・ジャパン代表取締役社長。3歳からピアノを始め、国立音楽大学附属音楽高校ピアノ科にてクラシックピアノを学んだ後、東京芸術大学音楽学部音楽環境創造科にて様々な音楽に触れる。結果、なぜかアニソンに目覚める。その後、ニート期間をはさみつつ数ヶ月ごとに様々な職を転々とする。結果、秋葉原に漂流。アイドルとヲタクに囲まれた楽しい日々を過ごしている。



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