ブレンダン・フレイザー×HIKARI監督インタビュー。全編日本ロケ敢行『レンタル・ファミリー』を掘り下げ

レンタル彼女や彼氏から、お母さん、お父さん、祖父母、きょうだい……「レンタル家族」の存在は、もはや国内では知られるようになってきたが、どうやら日本独自の文化らしい。そんなビジネスを起点に物語が広がる映画『レンタル・ファミリー』が公開された。

主演はブレンダン・フレイザー。2022年、映画『ザ・ホエール』で272キロの巨体と孤独を抱えた主人公を演じ、『第95回アカデミー賞』で主演男優賞を受賞したフレイザーが、本作では「日本でくすぶるアメリカ人俳優」を演じる。全編日本でロケが行われ、北米では昨年11月に公開された作品だ。またメガホンをとるHIKARIは、アメリカを拠点に活動し、Netflixシリーズ「BEEF/ビーフ」(2023年)などに携わってきた日本人監督。今月開催された第76回ベルリン国際映画祭では審査員も務めている。

今回は、来日したブレンダン・フレイザーとHIKARI監督にインタビュー。フレイザーはこの物語について「いま私たちの生活を蝕む冷笑的でデジタル化された価値観に対する一種の解毒剤のような温もりがある」と評した。HIKARI監督は「『私は孤独』だと感じている人は多いかもしれないけれど、みんな似た寂しさを抱える似たもの同士。だからこそ、みんな一緒に手を合わせていける——」と、本作のメッセージについても語ってくれた。

日本でのロケはどうだった? 「フィリップ」という役をどうとらえて演じた? そもそも「レンタル家族」を通して伝えたかったのは——2人は、朗らかに笑いながら、一つひとつ丁寧に答えてくれた。

あらすじ:東京で暮らす落ちぶれた俳優フィリップは、日本での生活に居心地の良さを感じながらも、本来の自分自身を見失いかけていた。そんななか、「レンタル家族」として他人の人生のなかで「仮の」役割を演じる仕事に出会い、想像もしなかった人生の一部を体験する。

なぜ「レンタル家族」を題材に? 出演オファーに「もちろんOKだよ」

—本作の出発点は、監督のパートナーであるスティーブン・ブレイハットさんだったとうかがいました。ブレイハットさんの本業は撮影監督ですが、本作には脚本家兼エグゼクティブ・プロデューサーとして参加していますよね。日本人にも馴染みのない「レンタル家族」という仕事を、どのような経緯で知り、映画の題材にしようと考えたのでしょうか?

HIKARI:アメリカでパンデミックが起きているときに、ふとスティーブンが「日本で外国人がする仕事にはどんなものがあるんだろう」と調べたところ、出てきたのが「レンタル家族」のビジネスでした。

私も知らない仕事だったんですが、「人をレンタルするなんて面白いな」と思うと同時に、なぜこのビジネスが日本で生まれて、レンタルする人とされる人がどういう気持ちで存在するのか興味を持ったんです。それで、調べるうちに映画の題材として扱いたいと考えるようになりました。

—監督とフレイザーさんがつながったのは、『ザ・ホエール』の試写会だそうですね。

HIKARI:ええ。ブレンダンに脚本を渡して読んでもらい、その数か月後にお会いしたんです。内容を気に入ってくれたと会う前から聞いていたんですが、いざ会ったときには、映画の話よりもお互いの話から始めました。まずは私のことを知ってほしかったし、ブレンダンのこともすごく知りたかったから。

ブレンダン・フレイザー(以下、フレイザー):そうだった。互いの人生についてたくさん話し合ったね。

HIKARI:それで5時間くらい喋ったあとに、ようやく「この映画、どう?」って(笑)。すると「僕が参加すると思ってくれて良いよ」って言ってくれたんです。

フレイザー:「本当に僕にやらせてくれるの? 大丈夫? それなら、もちろんOKだよ」ってね(笑)。

「現代の価値観に対する、一種の解毒剤のような温もりがある」(フレイザー)

—脚本を読んで、フレイザーさんはどのような感想を抱いたのでしょうか?

フレイザー:まず、その独創性に驚かされました。「家族をレンタルする」なんて風変わりな設定の脚本はこれまで読んだことがありませんでしたから。

言ってしまえば、それは人々が存在しない誰かを演じることで、真実を捻じ曲げるサービスです。倫理的な危うさを孕んでいますが、同時に、人に輝きをもたらす価値もある。たとえ短期間のつくりものの関係であっても、誰かの助けになるかもしれない。

フレイザー:それはまさに自分の感性に響くものであり、きっと多くの人にとってもそうだろうと感じました。なぜならこの物語には、いま私たちの生活を蝕む冷笑的でデジタル化された価値観に対する、一種の解毒剤のような温もりがあるから。

他者に「あなたを見ている」「あなたが存在していることを知っている」と伝えることや、互いに共感し合えること——それは、お金以上の価値を持ち得るのだと思い出させてくれるのです。

—フィリップという主人公についてはどのように感じたのでしょうか?

フレイザー:日本において「外国人」であるフィリップが置かれている状況についてはすぐに理解できました。正直に言えば、彼は決して「上手い役者」ではないと思うんです。けれど上手くある必要もない。

というのも、彼が演じることをやめ、出会ったり関わったりした人々に本心をさらけ出せるようになったときに初めて、自分が持つ真の価値に気づくのですから。そこがフィリップの魅力であり、私が演じるうえで最も大切にしたポイントでもありました。

—物語と主人公像、その両方に魅力を感じたと。

フレイザー:そうです。そしてもう一つ、この作品に参加したいと思った理由があります。25年前、別の映画のプロモーションで初めて日本に来たときから抱いてきた願いを叶えられると感じたからです。

その願いとは、外の目線でつくられた「日本像」ではなく、真に日本的な作品の現場で、日本のキャストやスタッフとともに仕事をするということ。作中で唯一、「完全な白人」として参加できたのは私だけの特権でしたし、そんな役を演じられたことは本当に幸運だったと思います。

フレイザーと「フィリップ」。役や国を知るために「迷子になるくらい歩き回った」

—フレイザーさんの出演が決まったあとで、フィリップというキャラクター像に変化はあったのでしょうか?

フレイザー:たしかにそれは気になるね。

HIKARI:完成した脚本をもとに誰が演じるのが良いのかを考えていたときに、ブレンダンを見て「この人しかいない」と感じ、彼が演じるイメージもすべて見えたんです。なので、そこから変えることは基本的にはしていません。彼に委ねた選択に間違いはなかったですね。

撮影が始まって1日目の段階から「すごい」と感じたのは、テイクを重ねるごとに違う演技を見せてくれたこと。どの演技も面白くて、編集していても楽しいんですよ。いろんな表現をしてくれたおかげで、組み合わせ次第でコメディにもドラマにも持っていけたし、より創造的に物語を構築していくことができた。

彼のような素晴らしい俳優がいてくれたおかげで味のある映画にできたと思うし、監督としてもすごく良い経験になりました。

—フレイザーさんは日本という特殊な文化圏に長年暮らすフィリップという人物を、どのように探求していったのでしょうか?

フレイザー:じつに丁寧に書かれた脚本で、演じるうえで必要なことの大部分は脚本のなかにありました。また、自分のなかでフィリップをつくり上げていったというより、ただ自分のいるべき場所に身を置き、そして演じることに没頭した結果、自然と人物像がかたちになっていきました。

というのも、私は「よそ者」や「場違いな存在」でいる感覚を、さまざまなかたちで知っています。俳優というのはそういう職業ですからね。プロジェクトごとに自分をつくり替えて、毎回新たな場所に入り込んでいく。それがこの仕事のあるべき姿であるとも思いますし、それができるのは幸運なことです。

さらに言えば、私は幼い頃から3、4年ごとに引っ越しをしながら育ちました。そういった私生活や仕事での経験は、私にあらゆる生き方や国々の多様性に対する理解や敬意を与えてくれたし、寛容であることの感覚も育んでくれたように思います。

—撮影が始まる少し前にフレイザーさんは日本を訪れ、いろんな場所で日本人と交流したそうですね。それはどのような経験になったのでしょうか?

フレイザー:港区中を迷子になるくらい、たくさん歩き回りました。あと新橋で美味しいタイ料理を食べたこともよく覚えています。本当にたくさんの人々と出会いましたし、みなさん温かくて、親切で、助けてくれました。私は明らかに「よそ者」なのに、不思議と居場所がある感覚を覚えたんです。

幸運にも出会いに恵まれて自然と日本語を学ぶことができましたし、街の端から端まで誇らしげに食べ歩きもしていました(笑)。というのも、私はその街や土地を知りたければ、人々が何を食べ、どんな言葉で罵り合い、どういうふうに愛し合っているかを見れば良いと思っているんです。それを見れば、その社会に必要なことはだいたいわかる。いわば東京の「グレイテスト・ヒッツ」みたいなものです(笑)。

HIKARI:あはは! ブレンダンはみんなに対して本当にフレンドリーなんですよ。アメリカで役者の人とご飯を食べにいくと、周囲の人は気づいてもヒソヒソ話をして終わりなことが多いんですが、ブレンダンのときだけみんな彼に話しかけに来る。いつも3、4人くらい「ハーイ!」って言ってこない?

フレイザー:最近はそうかも!

HIKARI:一緒にいるたびだからね。そんなこと普通はないですよ。でも人々をそうさせてしまうフレンドリーなオーラが彼にはあるんですよね。人を招き入れるエネルギーと言いますか。彼のそんな部分に憧れるし、尊敬もしています。

全編日本ロケ——大変だったことは? フレイザーのお気に入りは?

—全編日本でロケを敢行されたとのことですが、特に東京中心部での撮影は大変だったのではないかと思います。

HIKARI:大変でしたね。難しかったのは、直前で予定の変更を余儀なくされることがしばしばあったこと。ドリー(カメラを載せて移動させる台車)を引くつもりで申請して進めていたものが当日になってダメになったり、クレーンで撮るつもりだったシーンが急に無理ですとなったり。意外にも東京はそういうことが多いんです。

そして人留めができないので、人が通るたびに一旦ストップしなくてはいけない。それは役者さんに申し訳ないなと思った部分でした。それでも撮影を続けるしかない。たとえばラストの桜の場面は、何度も中断しながら撮った苦労したシーンのひとつです。

—撮影するなかで印象に残った場所はありましたか?

フレイザー:(柄本)明さんが私を引っ張り上げてくれた天草の山ですね(笑)。彼は撮影が終盤に近づくにつれ、どんどんエネルギッシュになっていったんです。驚くべき持久力を持つ素晴らしい俳優で、たくさん刺激をもらいました。

フレイザー:あとはチームラボも大好きでしたね。あの場所は、フィリップとミアが自分でもまだ気づいていない、彼らの内なる美しさが具現化されたような空間だと思いました。そこからふたりは少しずつ互いを受け入れていきますが、それを予期させるとても素敵な場所でした。その場所を紹介してくれたタカシ(チームラボのコミュニケーションディレクターである工藤岳)ともいまでは親しい友人になれましたし、とても良い経験として記憶に残っています。

そして浅草のお好み焼き屋も印象的でした。とても歴史を感じさせるお店で、入った瞬間に大好きになりました。

HIKARI:「染太郎」という現存する東京最古のお好み焼き屋さんなんです。

フレイザー:身体の大きな私が明さんを追いかけてドアをくぐろうとする姿は、自分でも笑ってしまうくらい滑稽でした。彼はサッと外に出ていくんですが、私は「クソッ、この靴め!」みたいな感じでもたついちゃうんですよ。言ってしまえばフィリップは丸い穴に押し込められた四角い杭のようなもの。どこもかしこもサイズが合ってないけれど、なんとかしてすり抜けていくんです。

あとフェリーや乗り物も大好きでしたし、電車も楽しかった。胸が躍って、自分がまるでファンタジーのなかにいるみたいに感じたんです。人々の家のなかを垣間見ることができたのも印象的でしたし、撮影を許してもらった小さなアパートに入れたこともうれしかったですね。

—どの撮影現場もすごく楽しまれたんですね。

フレイザー:そうなんです。あと忘れちゃいけないのが、歯磨き粉のCMのシーン。撮影中も本当に面白くって、あれだけで人生の価値があったと思えるくらい気に入っています。……というように、どれが一番というより、日本で訪れた場所全体が大好きでした。

HIKARI:本当にたくさんのロケ地を訪れたよね。

フレイザー:ええ、本当に恵まれた時間でした。

社会課題に向けられた目線。孤独を抱える「似た者同士」で手を合わせて

—本作は日本文化を美しく描くと同時に、メンタルヘルスサービスの欠如や人々の孤独感など、日本に対する批評的な視点も含まれていますよね。

HIKARI:どの国にもそれぞれ社会的な課題があり、個々人にも抱えている問題がある。そんな時代に生きる人間として、そして映画監督として、人々の考え方や世の中にどう良い変化を生み出せるのかを考えていて。

世の中を良くするというとどうも大袈裟で不可能なように思えるけれど、じつは難しいことじゃないのかもって伝えたいんですよね。だから、東京を映す一つひとつのショットにも、そこには私たちの生活とも地続きでつながる無数の暮らしがある、という意味を込めているんです。

HIKARI:日本には美しいところもたくさんあるけれど、日本ならではの寂しいところもある。たとえば日本人はメンタルヘルスについて自分からあまり言わない。年齢を重ねた人はもちろん、若い子だってそうですよね。この社会で人とのつながりをうまく持てず独りだと感じてしまう。けれど問題を抱えているなら内に秘めないでもっと発信したり、ケアを求めたりできるようになってほしいんですよね。

「私は孤独」だと感じている人は多いかもしれないけれど、みんなそれぞれ似た寂しさを抱える似たもの同士だと思う。だからこそ、みんな一緒に手を合わせていける。そのことを、この映画を通じて伝えられたら良いなと思っています。

—最後に、フレイザーさんが好きな日本語を教えてもらえますか?

フレイザー:(両手を合わせて)「お疲れさまです」!

作品情報
『レンタル・ファミリー』

2月27日(金)公開

監督:HIKARI
脚本:HIKARI スティーヴン・ブレイハット
出演:ブレンダン・フレイザー
平 岳大
山本 真理
柄本 明
ゴーマン シャノン 眞陽 ほか
プロフィール
HIKARI (ひかり)

大阪府出身。脚本家、監督、プロデューサー。ダンサー、ミュージカルパフォーマー、画家、写真家としての経歴を持つ。デビュー作『37 セカンズ』は『第69回ベルリン国際映画祭』でプレミア上映され、パノラマ観客賞、CICAE アートシネマ賞をW受賞。過去のテレビ作品には、『エミー賞』受賞シリーズ「BEEF/ビーフ』の第一話監督、アンセル・エルゴートと渡辺謙主演、マイケル・マンがエグゼクティブプロデューサーを務めた「TOKYO VICE」がある。また、短編映画も脚本・監督し、数々の受賞歴を持つ。

ブレンダン・フレイザー

米インディアナポリス出身。俳優。ダーレン・アロノフスキー監督の『ザ・ホエール』(2022年)に出演し、初の『アカデミー賞』主演男優賞を含む数々の賞を受賞。そのほかの出演作に、『ハムナプトラ』シリーズ(1998年〜)や『ジャングル・ジョージ』(1997年)、『クラッシュ』(2005年)、『センター・オブ・ジ・アース』(2008年)、『G.I.ジョー』(2009年)など。



記事一覧をみる
フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Movie,Drama
  • ブレンダン・フレイザー×HIKARI監督インタビュー。全編日本ロケ敢行『レンタル・ファミリー』を掘り下げ
CINRA Inspiring Awards

Special Feature

CINRA Inspiring Awards

CINRA Inspiring Awardsは、これからの時代を照らす作品の創造性や芸術性を讃えるアワード。芸術文化をルーツとするCINRAが、媒介者として次世代の表現者を応援できたら。そんな思いに力を貸してくださる審査員のかたがたに、作品を選出していただいた。

詳しくみる

CINRA JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて