ドリームポップ界の新たな旗手 Serphインタビュー

ピアノと作曲を始めてわずか3年で作り上げたというデビュー作『accidental tourist』から1年、東京在住の電子音楽家Serphがセカンド『vent』を発表する。ジャズを基盤に、エレクトロニカやハウス、映画音楽などが見事にクロスオーヴァーされ、なおかつドリーミーでメロディアスな旋律に溢れた素晴らしい作品だ。ツールの進化によって、誰もが平均以上の作品を作れるようになった一方、没個性化も進む中、ひさびさにワクワクするような電子音楽家の登場である。彼にとっての初インタビューとなった以下の対話の通り、現在の彼が音楽に向かうモチベーションは、あくまで自分に向けられている。しかし、本作で大きく開かれるであろう聴き手の存在が、今後の彼にどのような影響を及ぼすのか、楽しみに待っていたいと思う。

(インタビュー・テキスト:金子厚武)

他にやることもできることもないんで、ただひたすら楽しくて。

―昨年リリースされたデビュー作『accidental tourist』は、ピアノと作曲を始めて3年で作り上げた作品だったそうですが、それ以前に音楽活動はされてなかったんですか?

Serph:学生時代にDJをやってて、その後1年ぐらいサンプリングだけで楽曲制作をしてたんですけど、それからキーボードを弾き始めて、3年ぐらいでデビューしたって感じです。

―DJではどんな曲をかけていたんですか?

Serph:デトロイト・テクノと竹村延和さんの初期の曲を一緒にかけたりとかしてました。

―DJから制作に移られたのはなぜなんですか?

Serph:仲間内の学生で集まってやっていたイベントをやらなくなったのが大きいです。イベントも何もなくなって無為な日々が続いていたんですけど、制作を始めて、コピーというか、コード進行とかを他の人のCDを聴きながら真似していって。他にやることもできることもないんで、ただひたすら楽しくて。

ドリームポップ界の新たな旗手 Serphインタビュー
アルバム『vent』アートワーク画像

「こんなのが出回ってるのか」って失望して、それで自分がやるしかないなって(笑)。

―元々歌ものよりインストがお好きだったんですか?

Serph:そうですね。歌ものはあんまり聴かないですね。特に男性ボーカルが聴けなくて、聴いてて違和感があるというか、あんまり聴く気にならない。言葉があるとイメージが固まっちゃうじゃないですか?

―「Serph」という名義もイメージを限定しない言葉ですが、いつ頃から使っているんですか?

Serph:MySpaceを始めたときで、一昨年ぐらいからですね。元々はゲームのキャラクターの名前で、意味がないのがいいなって。

―制作をするときは、楽曲のイメージってあるんですか?

Serph:イメージは特に決まってないです。毎朝の日課としてiTunesとかで新譜をチェックするんですけど、聴いてるうちにモチベーションが上がるというか、インスピレーションが沸くって感じですね。

―毎朝どれくらい聴いてるんですか?

Serph:調子いいときは10分ぐらい聴いて「こんなのが出回ってるのか」って失望して、それで自分がやるしかないなって(笑)。サンプリングすることもありますし、音色としてパソコンに取り込んで使うネタを探すみたいな意味でもiTunesは使ってます。

理想郷みたいな、ユートピアに行きたいみたいな気持ちを、音楽にした感じはありますね。

―それって1曲単位で買って聴いてるんですか?

Serph:そうですね。

―CDで育った世代って1曲単位で聴くことに抵抗があったりする人もいるじゃないですか? そういうのはないですか?

Serph:全然ないですね。若い頃は新しい刺激が多いっていうか、フレッシュな状態で、知らない音楽が多かったんですけど、音楽ばっかり聴いてると「みんなそんなに大したことないな」ってなってきて。傲慢ですけど(笑)。だから、独学でキーボードをやってることとも関係してると思うんですけど、「こういう構造なんだ」とか「ここでこういう音が入って、こう展開して」っていうことを勉強するために聴いてるって感じですね。

ドリームポップ界の新たな旗手 Serphインタビュー
アルバム『vent』アートワーク画像

―そもそも音楽を聴き始めたのっていつぐらいからなんですか?

Serph:二つ上の兄がいて、DJをやってたイベントのオーガナイザーだったんですけど、中学生ぐらいのときは、その兄の影響でヘビメタとかプログレとかを聴いてて。

―でも楽器には行かなかった?

Serph:中学のときにクラシック・ギターを1年、エレキ・ギターを1年習ってたんですけど、挫折しました(笑)。

―(笑)。では影響を受けたアーティストを教えてください。

Serph:竹村延和さんと、dimlite(Jazzanovaが主宰するSonar Kollektiveなどからリリースをしているスイス人のエレクトロニカ系アーティスト)っていうアーティストがいるんですけど。

―どんな部分に魅力を感じたんですか?

Serph:インストゥルメンタルのクラブ・ミュージックを背景にしながら、展開があるっていうか。ループがない、ダンスに特化してないっていう。

―確かにSerphの音楽は展開が多いですよね。特に今回の作品は、「adventure」などの単語から取られたという『vent』というタイトル通り、イマジネーションの世界を冒険するような感覚があって、さらに言えば、夢を見ているような感覚に近い。まったく辻褄が合ってないんだけど、夢の中にいるときは辻褄が合ってるように感じる、そういう感覚をSerphの音楽を聴いているときも感じます。

Serph:無意識ではあるんですけどね。作ってる最中っていうのは無我夢中で、半分トランス状態みたいな感じでやってるんで(笑)。『vent』っていうタイトルも、響きが良かったっていうのと、文字にしたときに見栄えがいいなってぐらいで。理想郷みたいな、ユートピアに行きたいみたいな気持ちを、音楽にした感じはありますね。

―制作時に特に重要視したことはありますか?

Serph:今回のアルバムに収録されてる曲以外にもすごくいっぱいストックがあるんですけど、アルバムには結果的にメロディやコード進行があるような曲が残ったっていう感じですね。自分が聴きたい音楽を自給自足するっていうか、色んなジャンルの音楽を毎日作ってるんで。

僕の一番の悩みっていうのは、やることがないってことなんです。やることがないとホントにつらい。

―それってなにか理由とか目的があるんですか?

Serph:ジャンルとして成立してるような音楽、「次はこう行って、こう行って、こういうところに落ち着く」っていうのがあるじゃないですか。そうじゃなくて、やっぱり新しいものを作りたいっていう欲求がすごく強くて。

―今回の作品が結果的にポップなものになったのはなぜなんでしょう?

Serph:思春期にループもの、ダンスものばかり聴いていた反動みたいのがありますね。あとはファーストが出せた、デビューさせてもらえたっていうのがすごく大きな転機で。「こういう音楽性なら世に出せたんだ」っていうのがあったので、今回もその流れでいった感じです。アンビエントとか、もっとジャズっぽいものとか、自分が納得した曲っていうのはできればリリースしたいですけどね。

―アニメーション作品がお好きだと伺ったんですけど、それも曲作りのインスピレーション源になっていると言えますか?

Serph:それは結構ありますね。ユーリ・ノルシュテインっていう作家がいるんですけど、その人の作品はすごく好きです。絵本が動くみたいな、童話をアニメ化したみたいな感じで。たいていそういうのを見るときは、音を消して、字幕も消して見るんですよ。やっぱり絵の美しさ・雰囲気が魅力で、制作するときに横でかけて、視覚情報を(音に)変換するみたいな。

―たとえばアニメーションのサントラを作ってみたいとか思いますか?

Serph:サントラだと長くても1曲2分とかですよね。場面に合わせて30秒とか1分の曲を作るのは、あんまりやってもしょうがないかなって気がします。

―対象に合わせるんじゃなくて、あくまで自分の作品を作りたい?

Serph:そうですね。

―作品をリリースをしたことで聴き手を意識するようになったりとかはしましたか?

Serph:それはないですね。自分っていうリスナーのために作ってる感覚です。音楽的な、精神的な飢餓感っていうのが常にあって、それを満たすために毎日曲を作っている感じです。

―その飢餓感っていうのはどこから来ているんでしょう?

Serph:社会的な立場がないとか、仕事がないとか、友人が少ないとか、そういうところでしょうね。

―一番の充実感を感じるのってどんなときですか?

Serph:作ってる最中に高揚するっていうのもありますし、いい曲ができたときにものすごい満足感もあります。完成した後にその新曲をひたすらループして聴いてるときが一番楽しいですね。

―でもMySpaceを作って曲を乗っけたり、もっとリリースしたいっていうのは、これを聴いて喜んでくれる人がいたら嬉しいっていうのはもちろんあるわけですよね。

Serph:そうですね。ただリスナーっていうか他人の評価を気にして音楽制作をするっていうのは結構ストレスじゃないですか? それよりは、自分の飢えを満たす、頭空っぽになってひたすらキーボードを弾いたり、プログラミングをしたりっていう時間があるから音楽をやってるんです。でも人に聴かせたい、認められたいっていう欲求もものすごくあります。

―音楽家として生活することは考えませんか?

Serph:それはあまり考えてなくて、職業じゃなくて仕事っていうか、その人がやるべきこと・やれることとして、それがたまたま音楽だったって感じですね。僕の一番の悩みっていうのは、やることがないってことなんですよ。やることがないとホントにつらいんで、自分ができる作業というか、表現方法があるならどんどん増やして行きたいですね。

リリース情報
Serph
『vent』

2010年7月9日発売
価格:2,300円(税込)
noble CXCA-1271

1. march
2. pen on stapler
3. feather
4. sleepwalking
5. mint
6. azul
7. silencio
8. flatland
9. snow
10. iceyedit
11. vent
12. planet

プロフィール
Serph

東京在住。20代男性によるソロ・プロジェクト。2009年7月、ピアノと作曲を始めてわずか3年で完成させたアルバム『accidental tourist』をelegant discよりリリース。2010年7月、1年振りの2ndアルバム『vent』をnobleよりリリース。



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