pupa(高橋幸宏、高野寛)インタビュー

高橋幸宏の呼びかけにより、原田知世・高野寛・高田漣・堀江博久・権藤知彦という、日本の音楽シーンのトップ・ランナーが集合して結成されたpupa。2年ぶりの新作『dreaming pupa』には、インタビュー中でも語られている「別荘に集まった親戚」のような気の置けないメンバーの関係性と、その長である高橋の穏やかな人柄が反映された、前作同様の軽やかでエレガントなポップ・ソングが並んでいる。しかし、その一方で、ややシリアスな側面を強めているのも特徴で、“Let's Let's Dance”の<今空には君の星 輝いているよ いつだって変わらないまま 思い続けるよ>という歌詞が象徴的なように、昨年から今年にかけて、多くのミュージシャンが亡くなったことをはじめとする、時代のムードも確実に反映されている。高橋と高野の二人に話を聞いた。

(インタビュー・テキスト:金子厚武 撮影:柏井万作)

一人でやって作れる世界ってみんなわかってるから、途中でみんなの前に持っていって、その先どうなるのか面白がってるところがある。

―pupaの結成は2007年ですが、当初から継続的な活動を予定されていたんですか?

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高橋幸宏

高橋:全然考えてなかったです(笑)。まあ辞めるつもりもなくて、「チャンスがあればまたやるんだろうなあ」ぐらいに思ってたんですけど、去年の10月ぐらいから僕のスケジュールがちょっと空き始めて、もう一枚pupaのアルバムできるかなと思って(メンバーに)聞いてみたんですよ。そうしたら「忙しいけどできる」って言うから(笑)。それで権藤君が空いてる時間に二人で始めて。でも、6人がばっちり揃ったのは10日もないんですよね。


高野:10日のうち一回は飲み会です(笑)。

高橋:新年会だもんね(笑)。あれ、重要ですけどね。

―お二人もそうだし、メンバーのみなさん、とにかく忙しいですもんね。

高橋:特に今年は堀江君が忙しかったですね。3、4つバンドをやってて、the HIAUSっていう自分(がメンバー)のバンドもあるし。

高野:プロデューサーもやってるし、責任重大な仕事が多いんですよね。

―やっぱり、メンバーそれぞれが作詞作曲を担当し、プレイヤーであり、シンガーであり、プロデューサーでもあるっていうのがpupaの面白いところだと思うんですけど、改めて、ご自身が感じるpupaの面白みというと、どんな部分ですか?

pupa(高橋幸宏、高野寛)インタビュー
高野寛

高野:前に知世ちゃんが言っていた例えなんですけど、みんなそれぞれの活動があるのに対して、pupaは別荘みたいなもので、たまに集まって、仕事なんだけどのんびりしてる、憩いの場みたいなところがちょっとあるんですよね。


高橋:そうそう。だから音楽的にもめることが一度もないです。もめるって言うか、意見し合うこともあまりないよね。「あれやってくれる?」「これやってくれる?」ってゆるいことばかり言ってて、「わかりました。家でやってきます」って(笑)。

―(笑)。幸宏さんが中心になって結成されたとはいえ、「幸宏さんのバンド」ではないわけですよね。

高橋:全然違いますね。

高野:みんな守備範囲が違うのが逆に面白くて。一人でやって作れる世界って大体みんなわかってるから、それを途中でみんなの前に持っていって、その先どうなるのか面白がってるところがある。中途半端な状態で放り投げても、誰かが仕上げてくれるっていう(笑)。

高橋:高野君は5,6曲のスケッチを持ってきたんだけど、ギターでラララって言ってるだけの一番ちゃんとできてなかった曲をみんなが「これいいんじゃない?」って。それが最後の曲(“Kaleidoscope Waltz”)なんですけど、「続きをじゃあホリー(堀江)に投げちゃおう」って(笑)。

高野:でも一晩で考えてきたんですよ。

高橋:次の日にデータが届いて、聴いたらすごいよくて。映画音楽的であり、ブライアン・ウィルソンっぽい感じもあって。それにリズムを入れるとpupaっぽい感じになって、高野君が歌とかを入れてすぐ全貌が見えたんです。ひどいのが、漣君も高野君もギタリストなのに、段々自分の楽器を持って来なくなるんですよ(笑)。スタジオに置いてあるやつを使うって。

高野:最後は漣君、僕のギターばかり使ってた(笑)。スタジオに置いてたら、「それ、貸してください」って。

飛び出したいっていう気持ちはいつも持ってるんだけど、飛び出せないジレンマみたいなのは底に流れてると思います。

―そういう気軽さもpupaならではかもしれないですね。でも、バンドとしてのまとまりは確実に高まってるんじゃないですか?

高野:そうですね。1stのときはみんながそれぞれ曲を書いて、曲を作った人が歌って、アレンジはみんなでやる感じだったんですけど、今回は作曲でいろんな人の組み合わせが自然と出来上がってきましたね。やっぱり、一枚アルバムを作って、ライブもやって、お互いのいいトコロとか癖がわかってきたから、あの人ならこうしてくれるだろうなって、頼ってもそれに答えてくれる安心感がありますね。

―曲や詞を持ち寄る際には、「今回はこういう方向性で」っていうテーマ設定があって持ち寄るんですか?

高橋:普通そう思いますよね。でも、ほとんどないんですよ。リリカルな叙情的な部分と、pupaっていうのはサナギだから、ずっとサナギでいることを前提に書こうっていうぐらいですね。だから飛び出したいっていう気持ちはいつも持ってるんだけど、飛び出せないジレンマみたいなのは底に流れてると思います。

高野:幸宏さんが最初にそういう大きな括りを示してくれるので、それをみんな心の中にしまいつつ、あとは自由にやってるって感じですね。

pupa(高橋幸宏、高野寛)インタビュー

みんな前だけを見てる歳じゃないんで、それが逆にいいのかもしれないですね。

―今作『dreaming pupa』は前作よりシリアスな側面が強くなっているように思いました。

高橋:ただ夢見心地ってだけじゃないですよ。だから逆に『dreaming pupa』っていうタイトルが生きてると思うんだけど。シリアスな人生観も十分入ってるし。僕も人生を振り返ることが多くなる歳になったし、みんな前だけを見てる歳じゃないんで、それが逆にいいのかもしれないですね。堀江君が妙にそれに感化されてか、「詞がとにかく耳に入ってくるんで、キーボードは歌が入ってから、まとめて弾かせてほしい」って言ったり。

―それぞれが思ってるところと重なったんでしょうね。

高野:そうですね。pupaが集まると共有できる世界があるんですよね。ミーティングとか極端にやらないバンドなんですけど。

高橋:一枚目のときはみんなで一回集まって、僕が「最近こんなの聴いてる」って音楽をみんなで共有したんです。北欧のエレクトロニカが多かったんですけど、こういうのやりたいってことでもなく、聴いてみてって。今回はそういうのは何もなくて、みんな自分のメロディ、自分のスタイルを持ってきて、それをみんなでアレンジすればpupaになるってわかったから。慣れたというか、手の内がばれてしまったんで(笑)。

少年っぽさがみんなに残っていて。そういう儚さ、せつなさ、あとピュアさを表現できればなって。

―さきほど「pupaはサナギだから、飛び出したくても飛び出せない」という話がありましたが、今作からは「変化」に対する高い意識が感じられます。「変わっていくこと」と「変わらないこと」、それぞれに美しさと悲しみがあって、アンビバレンツではあるけど、そういうものなんだという。

高橋:そうですね、ホントに。僕たちはいい大人で、特に僕は昔で言ったらベテランの年なんでしょうけど、なんか少年っぽさがみんなに残っていて。そういう儚さ、せつなさ、あとピュアさを表現できればなって。

高野:時代の雰囲気もあるのかもしれないですね。僕は特にそういうのに影響を受けやすいところがあって、僕が書いた歌詞はそういうムードが強い気がするんです。特に去年から今年にかけていろんな人が亡くなったりとか、身近でもそうだし、マイケル・ジャクソンみたいな人とか、時代の象徴みたいな人がいなくなったりして。2000年前後にもこういう時期が一時あったんですけど、そのときは世紀末的なムードと相まって、なんとも重苦しかったんです。でも、今は僕の人生で2度目の経験なんで、「これは何なんだろう」と思いながら、世の中を見てるところがあるんですね。

―やはり時代は巡るんですね。

高橋:ある程度はそうですよね。ただ飛び越える場合もあるんで。例えば60年代の体験が、時空を飛び越えてくるときがあるんですよね、感覚的に。

高野:今って不思議で、いろんな時代のことが同時に起きてるような雰囲気がありますよね。

高橋:あるある。

高野:昔の再現っていうだけじゃなくて、いろんな時代のいろんなことが、いろんな場所でもう一回起きてる、一緒くたになってる感じがして。アルバムを作りながらホリーと「アルバムの中に60年代・70年代・80年代、00年代のエレクトロニカまで、全部の要素が入ってるね」って言ってたんですよ。

(今回のアルバムは)すごくポップだから、大して実験してないみたいに見えるんだけど、すごく変なことやってるんですよ。

―なるほど。そういう話のときにバンド内での世代の差は感じませんか?

pupa(高橋幸宏、高野寛)インタビュー

高橋:pupaのとき、みんなリスペクトしてくれないんですよ(笑)。

高野:いえいえ、そんなことはないですよ(笑)。

高橋:僕が一番理解できるのは高野君ですね。付き合いが長いから。でも、みんな変人なんですよ(笑)。僕と知世ちゃんはA型で、あとの4人はB型だから変わってるんだって思っていたんですけど、違いました。みんな変人なんだなって、気づきました。知世ちゃんも僕も(笑)。

―(笑)。

高橋:その中では、高野君は「こういうことやりたいんだろうな」って大体想像がつくし、こういう風に言っとけばやってくれるだろうっていうのがあるんですけど、他のメンバーは…

高野:変なことやりますよね。わざとやってるんですよね、きっと。

高橋:権ちゃんは実験音楽に詳しいし、堀江君はポップ・ミュージックを古典から聴きまくってて、漣君もそうだよね。若いのに、僕よりルーツをよく知ってるぐらい。みんなそれぞれの立ち居地がわかってるから、僕は客観的に、俯瞰で見てればいいのかなって感じでした。(今回のアルバムは)すごくポップだから、大して実験してないみたいに見えるんだけど、すごく変なことやってるんですよ。

定番は簡単にできるし、レシピに従って作ればできるから、独自のアイデアはいらないんですよ。

高野:僕はpupaの前作の後にソロを一枚作って、またpupaに戻ってきたんですけど、pupaの現場で自分としては反省した点がいくつかあって。pupaだとみんな一つ一つの音を、遊びながらでも、ものすごく吟味して、できるだけ定番ではないものにしてる。定番は簡単にできるし、レシピに従って作ればできるから、独自のアイデアはいらないんですよ。pupaはみんな定番のレシピは引き出しにいっぱい持ってるんだけど、あえてそこに行かないように、歌詞でもアレンジでもすごく工夫して作ってるんですね。そういえば、昔は引き出しが少なかった分、一生懸命ひねっていろんなものを作ってたなって思い出したところがあって。自分のソロだと自分の定番に陥りがちなんだけど、pupaをやってみて、もっといろいろ試行錯誤していかないとダメだなって、バンドに教えてもらいました。

高橋:それは、pupaの場合は責任がないからだよ。好きなことをやってるのは。

高野:好きなことをやるとオッケーになる、それ自体がありえないですもんね。

高橋:自分のソロではメーカーからのプレッシャーとか…

高野:ファンの要望とかいろいろありますもんね。

高橋:pupaは売れるための音楽を作るんじゃなくて、いい音楽を作って売りたいんです。それは大きな違いなんです、根本から。僕はそう思って音楽をずっとやってきたから。

高野:それをただ売れないでやってる人が言うと負け犬の遠吠えになっちゃうんだけど、YMOの幸宏さんが言うと説得力が違いますよね。

―例えば野外フェス『WORLD HAPPINESS』の開催って、今おっしゃったような考えが根底にあったりするのでしょうか?

高橋:年一回のYMOみたいのがあるんで、pupaもそこに入れさせてもらって。結局近い人、面白い人に声をかけていくと、pupaの中から派遣がすごい。さすが「派遣バンド」だと思うぐらい(笑)。

高野:堀江君はライジングサンで5つやるって言ってましたよ。

高橋:っていうか、夏フェス行くと、結構(ミュージシャンが)少ないんだなって思いますよ。

高野:大体同じ人に会って、「今年も来たね」って。フェスの裏の現場っていうのは、そういうものですね。

―商業的に成り立たせるために同じような面子になっちゃうことはある程度仕方がないのかもしれないけど、第三者としてはもっといろんな面子をフェスで見たいと思いますね。

高橋:面白いミュージシャンはいるんですけどね。インディーズ・シーンにも。ただ、ずっと自宅で宅録とかをやってる人は上手くならないですよ、人との交流がないと。あと自分たちのバンドのハングリー精神だけでも上手くならない。荒っぽさとかそういう良さは残すべきだから、それはそれでいいんだけど、夏フェスで会うサポート・ミュージシャンって上手くなきゃいけないんで、どうしても限られちゃうんですよね。

「夢」は必ずしも実現するとは限らない、それでもいいんだって感じも、ネガティブじゃなくありますね。

―確かにそうかもしれませんね。では最後に、『dreaming pupa』というタイトルについて教えてください。

高橋:おじさんたちが夢見てるのがなんかチャーミングで(笑)。ものすごく抽象的な「dreaming」ですから、ネガティブなものではないってことは確かで。「夢」は必ずしも実現するとは限らない、それでもいいんだって感じ。

―決して悲観的な内容ではないですよね。特にラスト2曲はすごくいいエンドロールになってるなって。

高橋:“Let's,Let's Dance”は去年のWORLD HAPPINESSでやってるんですよ。<Dance,Let's Dance>しか歌詞がなかったんですけど(笑)。で、レコーディングするときに日本語で、子供が歌ってるイメージがあって、それと去年から今年にかけて死んでいった人たちの思いが交錯して、あんな歌詞になっちゃったんですね。

イベント情報
『WORLD HAPPINESS 2010』

2010年8月8日(日)OPEN 11:30 / START 12:30
会場:東京 夢の島公園陸上競技場

出演:
Yellow Magic Orchestra
ムーンライダーズ
PLASTICS
カヒミ・カリィ
RHYMESTER
Cocco
MONGOL800
LOVE PSYCHEDELICO
安藤裕子
□□□
サカナクション
大橋トリオ
清竜人
pupa(高橋幸宏+原田知世+高野寛+高田漣+堀江博久+権藤知彦)
and more

料金:ブロック指定8,500円 小学生1,050円 親子チケット9,000円(大人1名・子供1名)
※レジャーシート付き
※未就学児童無料

pupa Live Tour 2010『dreaming 6 pupas』

2010年10月29日(金)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:大阪・サンケイホールブリーゼ

2010年11月3日(水・祝)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:東京・東京国際フォーラム ホールC

リリース情報
pupa
『dreaming pupa』

2010年7月28日発売
価格:3,000円(税込)
EMIミュージックジャパン TOCT-26960

1. Meta
2. Changing Skies
3. Azalea 〜五月の光・君のいない道〜
4. Mr. Epigone
5. dreaming pupa 〜夢見る僕ら〜
6. Current
7. Circadian Rhythm
8. Your Favorite Pain
9. All It Takes
10. If
11. Away Into Yesterday
12. Dun
13. Let’s, Let’s Dance
14. Kaleidscope Waltz

プロフィール
pupa

2007年夏、高橋幸宏の新バンド構想の呼びかけにより、原田知世、高野寛、高田漣、堀江博久、権藤知彦の計6人で結成。2008年7月デビュー・アルバム『floating pupa』をリリース。多くのミュージシャンや音楽ファンの間で作品が支持され、口コミでも話題を呼ぶ。第一回CDショップ大賞も受賞。2010年7月28日にニューアルバム『dreaming pupa』をリリース。pupa(ピューパ)とは、高橋幸宏が傾倒するフライ・フィッシングの用語で蛹(さなぎ)の意。



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