音楽のためにシーンを逸脱する勇気 LITEインタビュー

アーティストが自身の作品に対して、自信を持って「満足できた」と語ることのできるタイミングというのは、決して多くない。多くのアーティストが言うように、そのときの最大限で完成させた作品でも、リリースをしてしまえば「ここをこうすればよかった」という点が見えてきてしまうもので、逆に言えば、それが次の作品を作るモチベーションになるわけだ。よって、「満足できた」という話を聞くことのできるインタビューはとても貴重であり、それがそこにたどり着くまでの苦労を見てきたアーティストに対するものであれば、その喜びはひとしおというものだ。2008年の2ndアルバム『Phantasia』で、「国内インストバンドの雄」というポジションを確立したLITEだが、彼らに言わせればそれは「シーンと揃ってしまった」ということであり、そこから、その壁を突き破るための苦難の日々がスタートしたのである。それから3年、新しい楽器を取り入れ、海外でも活発な活動を続けてきたLITEは、新作『For all the innocence』で、遂に真のオリジナリティを手に入れた。それは、とても感動的なことだ。

今まで思ってた「LITEっぽさ」を取り外しても、LITEっぽくなるんだなっていうのが大きかったんです。(武田)

―前々作の『Turns Red EP』や、前作の『Illuminate』は、「過程の作品」だと仰ってましたが、新作『For all the innocence』は明確に新しいLITE像を提示した素晴らしい作品になったと思います。実際、手応えはいかがですか?

音楽のためにシーンを逸脱する勇気 LITEインタビュー
武田

武田:珍しく満足度はすごく高いです。いつもその時点の最高のものを作ってる感覚はあるんですけど、すぐに「やっぱりこうやりたかったな」って想いが出てきちゃうんですね。でも、今回はやりたいことをやれたっていう充実感がまず来て、「これでよかったな」って思えたんです。

―もちろん、『Turns Red EP』と『Illuminate』での実験も踏まえてるし、さらに言えばそれ以前のロックバンドらしいLITEもちゃんと踏まえて、すごくオリジナルな作品になったと思うんですよね。

井澤:今仰っていただいた通り、今までを全部踏まえて、それを最大限に広げることができたと思います。今までのLITEは、意識的に耳を傾けながら聴く音楽だったんですけど、今回は、生活の中でポチッと再生したくなるような音楽として成り立ちつつ、聴こうと思って聴くと、すごい面白い展開も聴ける、絶妙なバランスで作れたんじゃないかなって。

―では、実際に『Illuminate』以降の制作はどのように進んでいったんですか?

武田:『Illuminate』を発表した後、最初にできた曲が“Rabbit”だったんですけど、1番でっかいチャレンジだったのがメジャーコードの進行をメインに使ったことですね。

―それは何かきっかけがあったんですか?

武田:今となっては、そもそも何でメジャーコードを使ってなかったのかもよく覚えてないぐらいなんですよ(笑)。

―今までもやってみたことはあったけど、上手くできなかったとか?

武田:だいぶ昔、LITEの前身バンドをやっていた時にやろうとしたことがあったはあったんですけど、上手く作れなくて。それとは違う、マイナー調というか、硬質な感じで作ったら上手くいったから、それをずっと「LITEっぽさ」としてやってきてたんです。でも“Rabbit”を作ってみて、「LITEっぽく作ろう」って考えなくても、作ってみたら「LITEっぽいじゃん」って感覚になれた。そこで自分の中で確信を得たというか。今まで思ってた「LITEっぽさ」を取り外しても、LITEっぽくなるんだなっていう発見が大きかったんです。そこがアルバムの土台というか、全体像の始まりでした。

2/4ページ:これはホントすごい…作ってる最中ずっと興奮してたんですけど(笑)

これはホントすごい…作ってる最中ずっと興奮してたんですけど(笑)(井澤)

―今回は共同プロデューサー/エンジニアとして三浦カオルさんを迎えているわけですが、三浦さんが手がけているのはBOOM BOOM SATELLITESとかDJ BAKUといった、いわゆるLITEのイメージとは少し違ったタイプのアーティストですよね。なぜ、三浦さんと一緒にやることにしたのですか?

武田:まず前作の『Illuminate』の時にジョン・マッケンタイアに(プロデュース/エンジニアを)お願いした経緯を説明すると、単純に憧れももちろんあったんですけど、あの人はやっぱりシンセサイザーの巨匠だと思うんで、ジョンが持ってるシンセサイザーの知識とか、音の選び方とか、そういうものとLITEとのコラボレーションが出来たらなっていうのがあったんです。で、実際やってみたら、ジョンは完全に生の音で録ってくれて、俺らはそれ以上を望んでたんですよね。

―意外とやってることはシンプルだったって言ってましたもんね。

武田:そうなんです。ミックスの段階でガラッと変わるのかなとも思ったんですけど、そういうわけでもなくて。やり切った感がなかった…と言ったら言いすぎかもしれないですけど、次は違う感じでやりたいなと思ったんです。三浦カオルさんは昔から知り合いでもあったし、シンセサイザーに関してもすごい知識がある人だから、そういう人と一緒に、自分らの足りない部分を補ってもらいながら作り上げていきたいと思って。やっぱりシンセサイザーはすごく大きなチャレンジで、同時にものすごい危険要素でもあったし。

―シンセサイザーを取り入れるにあたって、なにか参照点はあったんですか?

武田:アニコレ(ANIMAL COLLECTIVE)とかGANG GANG DANCEみたいな、アート的な要素のあるニューヨークのバンドはちょっと頭にありましたね。サイケだけどロックしてる、みたいイメージ。

―なるほど。日本のインストバンドって独自の進化を遂げてて、もちろんかっこいいバンドがいっぱいいるけど、日本の音楽と海外の音楽を一緒に聴いてきた一個人としては、あんまりそこに距離があるのもなと思ったりもしてて。だから、今回のLITEのアルバムは日本のバンドっぽさもありつつ、海外との同時代性もあるのがすごくいいなって。

武田:実は俺もそれは結構思ってて、僕らも「このメロディは日本の感じだよな」って思ったり、それはそれでいいんですけど、もうちょっと違うアプローチがあるんじゃないかって思う時も結構あって。

―“Pirates and Parakeets”は、これまでにないアフロテイストでかっこいいですよね。

音楽のためにシーンを逸脱する勇気 LITEインタビュー
井澤

井澤:これはホントすごい…作ってる最中ずっと興奮してたんですけど(笑)、元々スタジオで作った、アフロビートでもなんでもないフレーズを、ロジック(音楽制作ソフト)で武田が編集してもって来たんですけど、それを聴いた時の衝撃がすごかった。第一印象は「はてなマーク」だったんですけど、ずっと聴いてるうちに「これむっちゃいい」と思って(笑)、「絶対いける、この流れでいこう」ってぐらいの気持ちになりましたね。で、その時の、まだサンプル段階の音をバンドでレコーディングして、LITEとしての音にしていく楽しみがすごくあったんです。置き換えていくっていうか…

―LITEに戻していくっていう(笑)。

井澤:そのときの快感はこれまでにない感じでしたね。

3/4ページ:ポストロックでもマスロックでもそう呼ばれることは全然構わないんですけどね。一番重要なのは、自分たちがそれを一切気にしなかったってこと

ポストロックでもマスロックでもそう呼ばれることは全然構わないんですけどね。一番重要なのは、自分たちがそれを一切気にしなかったってこと(武田)

―3月に発売された“Rabbit”のアナログにはDE DE MOUSEのリミックスも収録されていましたが、三浦さんを起用した理由としてダンスミュージックの要素を取り入れたいっていう考えもあったりしたんでしょうか?

武田:いや、ダンスミュージックっていうのは頭になかったですね。純粋に、ロックというか、「音楽」をやるっていうだけで。

井澤:ジャンルみたいなことに関する会話は、メンバー間では全然してないですね。最近の取材で気付いたんですけど、ポストロックとかマスロックっていう言葉を使う人がいて、「そういうのひさびさに聞いた」みたいな(笑)。

武田:(アルバムの)タイトルにもかかってくるんですけど、今回はそれぐらい無垢な気持ちで作れたんですよね。さらに言えば、聴いてくれるお客さんも、ジャンルとかそういうんじゃなくて、ただの「音楽」として聴いてくれるような、そういう無垢な関係になれたらいいなって。

―なるほど。

武田:正直、ポストロックでもマスロックでもそう呼ばれることは全然構わないんですけどね。一番重要なのは、自分たちがそれを一切気にしなかったってことで、「LITEっぽさ」を変に意識することもなかったし、そういう風に枠を気にしなかったことが、爆発につながったんだと思うんです。『Phantasia』までは衝動の爆発だったけど、アートの爆発というか、内面の爆発をずっとやりたかったんで。

―逆に言うと、『Phantasia』の頃っていうのはポストロック、マスロックっていう言葉にアレルギーがあった?

武田:ありましたね。「本当はこういうんじゃないんだけどな」というか、もっと突き抜けたいのに、どう突き抜けていいのかわからなかったんです。

井澤:「逸脱したい」っていうのは『Phantasia』の後に結構話し合って、やっぱり海外に行くと絶対マスロックって言われちゃうし、そう言われることに「飽きたね」っていうのもあって(笑)。今は、そういう逸脱したいっていう気持ちも、「そういえばあったな」ぐらいの感覚で、今回はそれを超えたところで音楽を作れたのかなって思ってます。

―今回の作品を作り上げたことで、「マスロックって呼びたければどうぞ」っていう強さというか、余裕みたいなものが身についたんでしょうね。

武田:そうですね。バンドに対しての確信を得たというか、自信はすごくついた気がします。

井澤:(今日の取材は)『For all the innocence』のインタビューですけど、個人的にはLITE自身を見守ってほしいなって気持ちがある。「このアルバムを出したら、これからどうなるんだろう?」って楽しみを持ってもらうのもひとつだし、逆に今回初めて僕らの音楽を聴く人が、過去にさかのぼったら『Phantasia』って新しいと感じると思うんです。『filmlets』とか『Turns Red EP』を聴いたら、「昔はこんなんだったの?」ってびっくりすると思うし、そういう全体像で見てほしいなって。だから、今回のアルバムのインタビューっていうよりは、LITEのインタビューっていうか(笑)、今までの全部を含めて、これを出したんだよっていう。

音楽のためにシーンを逸脱する勇気 LITEインタビュー

どんどん脱皮して脱皮して新しいものになっていくのを、4人でやり続けるっていうのは強いモチベーションになってますね。(井澤)

―じゃあ、僕の方もLITEのバンド像に迫るような質問をさせてもらいますね。僕はLITE以外にもいろんなインストバンドと話をさせてもらってるんですけど、ポストロックとかマスロックっていう言葉を出すと、やっぱり「そういうのは関係ない」って言う人が多いんです。それはホントにそう思ってるんだと思うんですけど、正直ちょっと物足りない部分もあって。その点、LITEが「ポストロックとかマスロックから脱却したかった」って口にしてくれたのはすごく嬉しかったんですよね。もちろん、それって強いモチベーションがないと言えないことだと思うんです。そのモチベーションっていうのは、どこから来てるんでしょう?

武田:それはさらに歴史をさかのぼるんですけど、このバンドを始めた動機自体が、「誰もやってない音楽をやりたい」っていうことだったんです。俺らがインストをやり始めたのは結構前で、共演するバンドでインストってほとんどいなかったし、そのひねくれ感というか、「こういうのがあるんだったら、俺らはこういうのをやってやろう」みたいな気持ちが人一倍強いんです。見た目とか他の部分は結構どうでもよくて、音楽で常に前進していきたいっていうのがあるんで、ずっと同じ音楽をやることはないと思うんですよ。

―なるほど。

武田:音楽って常に新しいものが出てくるし、それに刺激されるから、それ以上のものを作りたいとか、とどまっていたくないっていうのが1番のモチベーションなんです。『Phantasia』の時は、シーンみたいなのと揃っちゃった感じがあったんですけど、そこを抜けだしたいっていうモチベーションは、バンドの根本にあるものだったんです。あの…こんなこと言うとあれなんですけど、BATTLESが出てきた時に俺、「あ、やべえコピーされた」と思ったんですよ(笑)。

―(笑)。

武田:当時、俺らCDも一切出してなかったんですけどね(笑)。そういう感覚がアホみたいに出てきちゃうぐらい、常に突き進んできたんです。今思えば世間知らずなところもあって、自分ら以上のバンドはいくらでもいて、打ちのめされてきたんですけど、今はそういうバンドとも同じような感覚で進めてるんじゃないかって。それは海外ツアーとかを周って気づいた部分でもあるんです。俺たちがやりたいことと、周りの世界がようやく近付いてきたっていう、そういう意味でも確信を得たっていうのはありますね。

―井澤さんいかがですか、バンドの核となるモチベーションについて。

井澤:今までやってないと思える場所に行きたいっていうのは根本的に変わってないですけど、それをずっと同じ4人で続けることがモチベーションなのかなと思います。実際『Phantasia』を4人で出した後に、いろいろ考えたんですよね。結果シンセサイザーをいれるって形に落ち着いたんですけど、ボーカルを入れるとか、ゲストで誰かに参加してもらうとか、いろいろ考えて行き着いたのは、4人でまだやれることがあるだろうってことだった。どんどん脱皮して脱皮して新しいものになっていくのを、4人でやり続けるっていうのは強いモチベーションになってますね。

―同じメンバーでやり続けるのってホントにすごいことですからね。

井澤:いろんなところで喧嘩したりもしましたし、そういうのがあったからこそ、今面白く、笑ってやれてるのかなって思うし。

4/4ページ:今この4人がいる偶然の中で、最大限にやれることを常に考えてる

今この4人がいる偶然の中で、最大限にやれることを常に考えてる(武田)

―お互いを見て、人間的に変化したと思いますか?それとも、変わってない?

武田:やっぱり大人になってると思います。いい意味で角が取れたっていうか。

井澤:俺は武田の根本的な部分は変わらないでほしいと思ってて、それをサポートしたいなと思ってて。マネージャーとかって意味でのサポートじゃなくて、バンドの中での自分の位置に説得力を持たせるって形で。それを身につけたいなってずっと思ってきたし、今でも思ってるんです…結局、自分の話になってますけど(笑)。

―(笑)。

井澤:武田は一番フラットにLITEのことが見えてる人なんで、もし俺がリーダーだったとしたら、自分の中のひねくれた考えとか出てきちゃうと思うんですけど、武田にはLITEだけのことを考え続けてほしいなって…なんか恥ずかしいね(笑)。

武田:感動的だね(笑)。

―こういう話って、ホントに自分たちでも納得のいく作品ができたときしかできないですから、せっかくなのでもう少し続けさせてください(笑)。武田さんはやっぱり昔から人と違うことをやりたいっていう気持ちが人一倍強いタイプだったんですか?

井澤:強いと思います。他の人と比べたことはないんで、「特に強い」とかって紹介の仕方はできないですけど、「こう行きたい」とか、「これがかっこいい」っていう意思をまっすぐ見せてくれて誰よりも説得力があるので、僕らはわかりやすいんです。

武田:俺は、みんなそれぞれに説得力があると思ってます。やっぱりドラムに関しては、自分の範囲を超えたら山本の方が長けてるし、ベースにしても結構丸投げしてる部分もあるんですけど、自分がやりたいと思うことっていうのははっきりしてるんで、みんなの指針になっていきたいんです。

―メンバーそれぞれが説得力を身につけたからこそ、今回の作品ができたっていう言い方もできるかもしれないですね。

武田:昔の音楽でも、すげえ演奏しょぼいけど、やれる範囲で最高のことやってるからかっこいい音楽ってあると思うんですよ。俺よりすごい人って世の中にたくさんいるし、ベースが井澤より上手い人もいっぱいいるけど、今この4人がいる偶然の中で、最大限にやれることを常に考えてるっていうか、逆に言えば、この4人だからこそできることってあると思うんです。天才の集まりじゃないんで、普通の4人が集まっても、その限界に行ければ、それはそれでオリジナルなものになるっていう確信があるんで、そこには正直でありたいですね。

リリース情報
LITE
『For all the innocence』

2011年7月6日発売
価格:2,000円(税込)
IWTM-1001D

1. Another World
2. Red Horse in Blue
3. Rabbit
4. Pelican Watched As The Sun Sank
5. Rebirth
6. Pirates and Parakeets
7. Chameleon Eyes
8. Cat Cat Cat
9. Duck Follows an Eccentric
10. 7day Cicada
11. Mute Whale
※初回生産限定盤のみ、紙ジャケット仕様、ボーナストラックのダウンロードコード/セルフライナーノーツ封入

イベント情報
『For all the innocence tour』

2011年7月22日(金)OPEN 18:00 / START 18:30
会場:石川県 金沢 VANVAN V4
出演:
LITE
nhhmbase
deafest
NINGEN OK
the girlfishing in her room
料金:前売2,000円(ドリンク別)

2011年7月23日(土)OPEN 18:00 / START 18:30
会場:長野県 上諏訪 DOORS
出演:
LITE
nhhmbase
and more
料金:2,000円(ドリンク別)

2011年7月24日(日)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:愛知県 名古屋 CLUB ROCK'N'ROLL
出演:LITE
料金:前売2,800円(ドリンク別)

2011年8月20日(土)OPEN 19:00 / START 19:30
会場:大阪府 鰻谷 SUNSUI
出演:LITE
料金:前売2,800円(ドリンク別)

2011年8月26日(金)OPEN 19:00 / START 20:00
会場:東京都 渋谷 WWW
出演:LITE
料金:前売2,800円(ドリンク別)

プロフィール
LITE

2003年結成、4人組インストロックバンド。プログレッシブで鋭角的なリフやリズムからなる、 エモーショナルでスリリングな楽曲は瞬く間に話題となり、同時に海外リリース、ヨーロッパ、USなどでツアーを行うなど国内外で注目を集めている。 FUJI ROCK FESTIVAL'10の出演や、BATTLES、 !!!(チック・チック・チック)などの来日アーティストとの共演など、インストロック・シーンの中でも、最も注目すべき存在のひとつとなっている。



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