大人の現実を知る、悩み多き青春時代 南波志帆インタビュー

南波志帆18歳(取材当時は17歳)。大人でもなく、子供でもなく、逆に言えばそのどちらでもあるような、そんな複雑な時期を彼女は今まさに過ごしている。Base Ball Bearの小出祐介と、サクナクションの山口一郎の共作でも話題の“こどなの階段”をはじめ、プロデューサーの矢野博康(ex.Cymbals)、YUKI、コトリンゴ、堀込泰行(キリンジ)といった豪華作家陣が楽曲を提供した初のフルアルバム『水色ジェネレーション』は、そんな「こどな」ならではの未来への期待と不安をギュッと詰め込みながらも、透明感のある歌声が爽やかな後味を残す、清涼感に溢れた1枚に仕上がった。同世代は自分の現在を重ね、もう少し上の世代は、当時の甘酸っぱい気持ちを思い出せるような、多面的な魅力を持った作品だとも言えるだろう。

一番最後にポツンと一言「よし、旅立て」と書いてあったんですよ!

―南波さんって福岡出身ですよね? 僕つい先週福岡に行ってきたんですよ。太宰府天満宮行ったりとか。

南波:私、太宰府天満宮のおみくじのおかげで上京したんです。

―え、そうなの!?

南波:中学校3年生で上京しようか迷っていた時に、おみくじを引いたら1番の大吉で、「華やかなる気候です」とか色々といいことが書いてあり、1番最後にポツンと一言「よし、旅立て」と書いてあったんですよ! 「これ、神様のお告げだ」と思い、見た瞬間にお母さんに「私、旅立つ」と言って、上京したんです。

―へー、そこで背中を押されたわけだ。

南波:そうなんです、(菅原)道真公に。

―(笑)。ちなみに、僕もおみくじひいたら大吉だったよ。

南波:ウソー! すごいですね!「旅立て」と書いてありました?

―それは書いてなかったかな(笑)。でも、色々いいこと書いてあった。

南波:あそこのおみくじ力ありそうですもんね。

―じゃあ、そんな後押しもあって上京した南波さんの初のフルアルバムが完成したわけですが、まず、すごく歌の表情が豊かになったなあって思いました。

南波:15歳のデビュータイミングの時は、声のニュアンスの付け方も何もかもわからなかったし、私ではなくて(曲を提供してくれる)クリエイターの方たちが注目されていることもあり、「歌っているのが自分じゃなくてもいいのかもしれない」と一時期悩んでいたんです。

―昔は自分の声に自信が持てなかった?

南波:歌手になりたいとは思っていたんですけど、そんなに強い声ではないし、自分には無理なのかなと思っていたんです。でも、プロデューサーの矢野博康さんと出会い、色んな音楽を聴かせていただき、様々な音楽のジャンルを知ることができて。ささやく感じの歌い方であれば自分の声を生かせるんじゃないかと気づかせてくださったんです。

―確かに、南波さんが10代前半の頃はちょうどR&B系の女性シンガー全盛期だったかも。

南波:そういう世界しか知らなかったので、自分の声が長所として生かせる場所があると気づけたのはすごく大きかったですね。

2/4ページ:ホントはただ楽しいだけじゃないとわかってきて、大人になるのが怖いなと思ったり。

ホントはただ楽しいだけじゃないとわかってきて、大人になるのが怖いなと思ったり。

―南波さんってよく「あくまで楽曲が主役」っていうことを言ってるでしょ? どうしてそういう風に考えるようになったのかな?

南波:自分の声も含めて楽曲が主役ということなんですが、自分が前に出過ぎるんじゃなくて、歌手として、リスナーの人がその曲の物語とか世界に入りやすくなるためのストーリーテラーみたいな役割ができたらいいなと思うんですよね。そうすれば、リスナーの人が自分の思い出を曲に重ね合わせたりとか、「この気持ちわかる」と共感してもらえたりとか、そういうことができやすくなるんじゃないかな。

―10代半ばでそう考えられるってすごいなあ。南波さんぐらいの年齢だと、「とにかく歌うのが楽しい!」っていうだけでも全然おかしくないのに。じゃあ、自分と歌詞との距離感はどんな風に考えているんですか?

南波:曲の主人公を演じることもあるんですけど、歌詞と自分との共通点を探して、そこに感情を重ね合わせるようにしています。アルバムには色んなタイプの主人公が出てくるんですけど、みなさん「南波志帆が今歌う」ということを意識して作ってくださっているので、「こんなのわからない!」という曲とは出会ったことはなくて。面白いのは、自分が知らなかった自分の側面を楽曲が気づかせてくれることが多くて、歌うことで改めて自分を知ることが多いんです。

―今回のアルバムは“こどなの階段”が象徴するように、大人でも子供でもない年齢ならではの期待と不安っていうのがテーマになってると思うのね。で、『水色ジェネレーション』ってすごくいいタイトルだなって思って、僕の解釈を言うと、10代ならではのまだ何色にも染まってない真っ白なキャンパスに、将来への不安だったりっていうブルーな気持ちを混ぜると、結果的に水色の大空のようにどこまでも広がる可能性に変わるんだなって。

南波:すごーい! 私とまったく同じ解釈ですね! 私のプロモーションしてもらいたい(笑)。今の年頃は、常に気持ちがふたつある気がしていて、ひとつの気持ちに絞れることはなかなかないと思うんです。「早く大人になりたい」けど「まだ子供でいたい」とか、「前に進みたい」けど「まだここでじっとしていたい」とか。常に気持ちがふたつあり、どちらかが大き過ぎるとバランスを崩しちゃうし、そのバランスを計っているのがこの世代な感じがして、それは「水色」な感じがするんです。複雑なんだけど、どことなく爽やかな感じというのは、水色にしか出せないと思うので。

―「早く大人になりたい」と「まだ子供でいたい」、今現在はどっちの気持ちが強い?

南波:今は「まだ子供でいたい」が勝っていて(笑)、半年前とかだと「早く大人になりたい」という気持ちが強かったんですけど、まだまだ先だと思っていた「大人」が、最近急に近づいてきた気がするんですよね。もうすぐ18歳になるから、20歳まであと2年じゃないですか? そう思うと色んなことが現実味を帯びてきたというか、前はすごい漠然としていたから、色んなことを想像したり、夢が膨らみやすくて、楽しいことばかり考えられてたんです。でも最近は、ホントはただ楽しいだけじゃないとわかってきて、大人になるのが怖いと思ったり。

―18歳が間近っていうのは大きいだろうね。

南波:そうですね。18歳になると色んなものが解禁になるじゃないですか? 社会に解放されて、今まで自分は守られていたんだと気づいたりとか、色んな責任も出てくるから、急にピーターパン的な思考になっちゃって(笑)。

―マリッジブルー的な、エイティーンブルーみたいな感じかもね(笑)。実際に18歳になってから取材したら、また違うかも。

南波:この時期は日ごとにローテーションで変わっていきますよね。まわりの大人たちが楽しそうにお酒飲んでいるのを見て、「早く大人になりたい」と思ったり、怒られた時に「まだ子供だもん」と言い張ったり。だから、ホント今「こどな」な感じですよね。どっちにも行けるというのは、すごくありがたいというか、「私子供でもあるし大人でもある」と思ったら、すごいワクワクしてきて。

3/4ページ:現在は一瞬しかなくて、先に進むしかないから、意外に未来はそばにいるんじゃないかな。

何気ない日常の断片がすごく青春な気がします。

―実際“こどなの階段”の歌詞をもらった時はどんなことを思いましたか?

南波:普段から考えてることというわけじゃないけど、自分の等身大な気持ちというか、小出さんがもしかしたら同世代なんじゃないかと思うぐらい、具体的な青春感みたいなものを感じましたね。

―Base Ball Bearでもそういうテーマを歌ってるし、さすがだよね。

南波:小出さんは、私が15歳でインディーズデビューした時からリスナーとして聴いてくださっていたみたいで、たまたまBase Ball Bearさんとサクナクションさんが一緒に出演されているイベントを見に行たときに、面識のあったサカナクションの(山口)一郎さんに挨拶しに終演後楽屋へ行ったら、小出さんが私を見つけて声をかけてくださって、「もしかして南波志帆ちゃん? 僕昔から聴いてて…」とおっしゃってくれて、「南波志帆の良さ」みたいなことを一郎さんにすごく熱く説明してくださって(笑)。それで3人で話してるうちに、小出さんに「一郎君と僕で共作したい」と言っていただいたんです。

―なるほどー、だからこんなにフィットする歌詞が書けるんだ。小出さんが南波さんに歌詞を書いたのは初めてでも、ちゃんと今までの南波さんを汲んだ上での歌詞になってるもんね。

南波:そうなんですよねー! 今までの流れもありつつ、新しい面も見せることができて、小出さんさすがだなと思いました。

―“こどなの階段”も青春感があるし、“たぶん、青春。”っていう曲もあるでしょ? 「青春」っていう言葉からパッとどんなイメージが浮かぶ?

南波:青春かあ…。今リアルタイムで過ごしてる、現在進行形の思い出な気がしていて…普通に制服を着て、学校に行って、友達と何気ない話をしてる時とか、廊下を走って先生に怒られたりとか(笑)、そういう何気ない日常の断片がすごく青春な気がします。青春とは振り返った時に感じるものだと言う人もいるけど、リアルタイムの青春もある気がするんですよね…。でも、「これが青春なのかな?」と疑問符が付いてるから、それが“たぶん、青春。”ということなのかもしれないし、大人になって振り返った時に、「あの時が青春だったのかな?」と思う気もするので、どっちでも取れる歌詞になっているのかなと思います…。青春は難しいですね(笑)。

―色んな見方があるよね(笑)。

南波:でも小出さんの歌詞は、Base Ball Bearの曲もそうですけど、楽しいこととか嬉しいことはもちろん、悲しいこととか辛いことでも、よかったなと思える思い出に変えてくれる力があるなと思いますね。悲しい思いをして、忘れたいことも多いと思うけど、そういう思い出さえも、自分の中で大切だったと思わせてくれるような、そうやって変えてくれる力のある歌詞だと思うんです。


現在は一瞬しかなくて、先に進むしかないから、意外に未来はそばにいるんじゃないかな。

―“たぶん、青春。”は、「こどな」のブルーの部分、不安感も強く出てる曲だと思うけど、実際に今どんなことに不安を感じていますか?

南波:今感じてる感情とか、見た風景とか、大人になったら忘れちゃうのかな…という不安はあります。色んなものを吸収していくと、その反面何かを失っている気がしちゃうんです。昔の自分を自分の中に残して、一緒に成長していきたい気持ちはあるのに、あんまり抱え過ぎると重くなっちゃうから、何かを捨てないと前には進んで行けないのかなと思うんです。そういう気持ちも“たぶん、青春。”には含まれている気がして、「情熱とあきらめの真ん中で 揺れて 戸惑っている」というところは、そういう気持ちがすごく含まれてる歌詞なのかな。

―同世代の子とそういう話ってしたりする?

南波:みんな薄々気づいている感じはするんですけど…最近「永遠に続くものはあるのかな?」と思うことも多くて、部活動とかも、一生懸命やっても、それが職業になる人はあんまりいないと思うし、男の子と付き合ったとしても、その人と結婚するわけじゃない子も多いから、「じゃあ、なんで始めるんだろう?」と思っちゃったり。“こどなの階段”にも「永遠の 意味なんか 考えちゃ いけないの」という歌詞があるんですが、それはみんな薄々考えてることだと思うんですけど、でも見ないようにして、今を楽しんでるというか…。だから、あんまりそういう話はしてないかな…。

―口に出して語り合ったりはしないけど、そんな空気感はある?

南波:そうですね…ふとした瞬間に寂しさがこみあげたりとかはしますね。

―じゃあ、歌手・南波志帆を「永遠に続くもの」っていうテーマで考えるとどうですか?

南波:自分の気持ちとしては、10年後も20年後もずっとずっと歌っていきたいという意思はあるんですけど、何が起こるかわからないから、怖いなと思いますね。急に声が出なくなるかもしれないし。だからこそ、一瞬一瞬を大切にしなきゃなと思います。今は二度と戻ってこない日々なわけじゃないですか? 同じ日も同じ時間も二度とないから、一瞬を大切にしていくことが、未来にもつながっていくと思うんです。

―矢野さんが書いた“ミライクロニクル”は、まさに今言ってくれたような南波さんの心境を汲んだ、プロデューサーからのメッセージっていう感じがするよね。

南波:そうですよね。すごくわかりますよね、この歌詞。「未来に近づきたい」と思っても、自分がその場でじっとしてただ手を伸ばすだけじゃ、どんどん未来との距離が離れていくと思うし、逆に自分から一歩進んでみようと思ってがむしゃらに頑張ってみたら、未来の方から手を差し伸べてくれるんじゃなかという感じもするし。だから、未来は遠くないんじゃないかという気もして、今は(パンと手を叩いて)この瞬間には過去になっているわけじゃないですか? 未来だと思っていた瞬間が、今はもう現在になっていて…

―今は過去になってる。

南波:そう、そうやっていくと、現在は一瞬しかなくて、先に進むしかないから、意外に未来はそばにいるんじゃないかな。そう考えたら、すごいポジティブになれたんですよね。

―そこまで見据えてこういう曲を持ってきた、さすがプロデューサー(笑)。

南波:この曲は「ライブで盛り上がる曲が欲しいです!」と言っていたら作ってくださったんです。しかも、メッセージつきでした(笑)。

4/4ページ:私は炭酸系のアーティストになりたいと思っているんです。

私は炭酸系のアーティストになりたいと思っているんです。

―自分から「こういう曲が歌いたい」ってリクエストすることって、時々あるの?

南波:“ミライクロニクル”以外はないですね。それもリクエストしたというより普段の話の延長線上で、「欲しいです!」と軽い感じで言っていたので、これからもっと自分の色がわかってきたら、提案していけたらいいなと思っています。

―今はまだ探り中?

南波:自分はやっぱり真っ白でいいのかもしれないと最近は思っていて、今は自分の色んな角度や側面を知りたいから、たくさんの方に曲を提供していただいて、大人になってから自分に一番合う色を見つければいいかなと思うんです。いずれは「自分はこれです」と示さなくちゃいけない時が来ると思うから、その時までにたくさん準備しておきたいな。

―清涼感はひとつ南波さんの色だと思う。

南波:そこは南波志帆のいいところかなと自分なりに思っていて、私は炭酸系のアーティストになりたいと思っているんです。砂糖菓子みたいに甘いだけじゃなくて、スカッとした爽やかな気持ちにもなるし、ちょっと刺激もあって、たまに鼻にツンときたりとか、そういう取扱注意なところもあったり(笑)。

―じゃあ、よく言われるとは思うんだけど、自分で作詞をするのはまだ考えてない?

南波:もっと経験を積んで、自分が発したい言葉が見つかった時に書ければいいかなと思っています。今は色んなタイプの楽曲とか世界観を、歌で表現することを一生懸命やろうと思っていて、それが完成したら歌詞に行ければいいのかもしれないけど、当分ゴールは遠そうなので…今は提供して頂いた曲をしっかりと歌うことに集中したいですね。

―そっかあ、でも17歳にしてちゃんと自分の考えを持ってて、しっかりしてるよね。

南波:ホントですか! ウソー! (スタッフに)びっくりしたでしょ? 「しっかりしてる」なんて言われて。

―少なくとも音楽活動に関してはしっかりしてると思うな(笑)。ちなみに、プライベートで最近ハマってることとかある?

南波:ウィンドウショッピングです。パンの。

―パンの? 買えば?(笑)

南波:菓子パンはカロリーが高いから、食べると太っちゃうので、パンを食べるものじゃなくて、観賞物にしてやろうと思っているんです。だから、最近よくパン屋さんで眺めています(笑)。

リリース情報
南波志帆
『水色ジェネレーション』

2011年7月20日発売
価格:2,850円(税込)
PCCA-03444

1. 水色ジェネレーション
2. ミライクロニクル
3. こどなの階段
4. たぶん、青春。
5. みっつの涙
6. まちかどハルジオン
7. もんだいとこたえ
8. ふたりのけんか
9. あいのことかも
10. 2センチのテレビ塔
11. オーロラに隠れて

プロフィール
南波志帆

1993年6月14日生まれ。福岡県出身。プロデューサー矢野博康との出会いを機にシンガーとしての道を歩むことを決意。2008年11月にデビューし、09年9月にリリースしたセカンドミニアルバム『君に届くかな、私。』が各CDショップのインディーズチャートにランクイン、インディーズシーンで注目される存在に。2010年6月にメジャー第1弾アルバムとなる『ごめんね、私。』をリリース。そして11年7月20日に、初のフルアルバムとなる『水色ジェネレーション』をリリースする。



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