渋谷慶一郎×朝吹真理子「ロスト・イン・カンバセーション #2」

6月11日行われた震災復興イベント『SHARE FUKUSHIMA』への道行きを共にした、音楽家の渋谷慶一郎と作家の朝吹真理子。いまだかつて見たことのない荒涼とした風景について、それをインプットした創作活動に携わるものとしての逡巡を語り合い、話は流れて日々の暮らしにまで及ぶ。今宵も「Chat―雑談―」は、ゆるやかに脱線しながら、然るべきところへ舞い戻り、ふたりの創り手のタイピングは弾んだ。

ボランティアでもなく被災地に縁もゆかりもない人間が『みたい』という欲望のまま行って良いのかという逡巡はあったのですが、行ってから後悔しようと思い、一緒に行かせてくださいとご返事をしたのです (朝吹)

―こんばんは。

渋谷:ども。ちょっと待ってください

―はい~。

渋谷:すいません。

―朝吹さんは、今お口にご飯がついているそうです~(笑)。

渋谷:僕はキュウリ食ってます(笑)。

朝吹:もぐもぐ……。

朝吹:こんばんは。ごぶさたしております。

渋谷:おばんですー

渋谷:っていうかさ!!!

朝吹:なぁに?

渋谷:真理子ちゃん、

朝吹:はい。

渋谷:僕、新幹線のお金返してないよね(笑)。

朝吹:(笑)。あなたにいつ言おうか、迷っていたのですw。

渋谷:そんなのさっさと言ってくれ!

朝吹:新津保さんは即返却でしたよw。

渋谷:僕は遅刻のバタバタと鰻弁当で完全に飛んでた。。。責めないでw。

朝吹:あの渋谷さん喜悦の鰻弁当ね……。

―それは『SHARE FUKUSHIMA』のときですか?

渋谷:そうそう福島行くとき。

朝吹:渋谷先生遅刻なさった。

―(笑)。

渋谷:僕が遅刻して、真理子ちゃんに切符買っておいてもらったのを、お金返してなかったのです。。

朝吹:でも、すごくふしぎな一泊二日でしたね。

渋谷:そうだねー。

朝吹:誘ってくださってほんとうにありがとうございます。深く感謝です。

渋谷:それはよかった。しかしさ、

朝吹:うん。

渋谷:当然これの話題になるわけだけどさ。

朝吹:そうね、あれ以来お目にかかっていないしね。

渋谷:こういう場合、経緯からっていうのが普通なんだけど、それは言ってみればマクロな視点でしょ。そういうパブリックな話というのは、結構してるのね、他でも。だからミクロな視点で話せたらいいなと思ってます。

朝吹:そうですよね、きっと。ただ、私は直接『SHARE FUKUSHIMA』とは関係のない人としておじゃましていたので、存在の仕方が、至極あいまいです……。

渋谷:そうなんだよねー。所在なげでおもしろかったw。

朝吹:完全に寄る辺ないかんじでw。

―朝吹さんは『SHARE FUKUSHIMA』のために福島へ同行されたのですか?

朝吹:私は公で話したことがないので、私だけ、ここで経緯を簡単に……。

渋谷:そうだね。

朝吹:渋谷さんからSMSで、津波被害がもっとも甚大であったと言われる、宮城県の女川町に行きたいか? と問われたのです。

―はい。

朝吹:みなさまは仕事(ボランティア)で行きますが私は同行するだけです。ボランティアでもなく被災地に縁もゆかりもない人間が「みたい」という欲望のまま行って良いのかという逡巡があったのですが、行ってから後悔しようと思い、一緒に行かせてくださいとご返事をしました。

―ええ。

朝吹:ライブ前日(5月10日)に、写真家の新津保さんと渋谷さんといっしょに仙台までゆき、七尾旅人さん、津田大介さん、戸田誠司さん、ナタリー編集の方、津田さんの助手の小嶋さん、仙台で渋谷さんのドキュメンタリーを撮る映像班の方々、みなさんとご一緒して、宮城県の女川町まで行ったのです。どうしても外せない仕事があって、私は肝心のライブがはじまる寸前に東京に戻ったので、ほんとうに、謎の人のままおじゃましたのです。この場を借りて一言みなさまに御礼を。ほんとうにみなさまにはお世話になりました。ありがとうございます。……これが経緯です。

渋谷:なんだそりゃ。

朝吹:だってw。

渋谷:僕もさ、すごく深く考えて誘ったというよりは、

朝吹:突発的っぽかったですよね。

渋谷:まあ、深く考えるなんていうことがあるのかっていう話もあるのですがw。

朝吹:深く考えると行けなかったと思う。

渋谷:でしょ。

朝吹:即決したもの。

渋谷:なんか、結婚式の途中かなんかでレスしてたよねw。

朝吹:広尾の瀟洒な二次会会場でブーケトスとかビンゴとかしてたよ。

渋谷:ブーケトスのときに即レスか、アツイなw。

朝吹:未婚なのにソファ席の隅でひとり坐ったまま、

渋谷:ああ、暗示的だね。

朝吹:え?

朝吹:ちょっと待って。

渋谷:ん?

朝吹:「暗示的」?w

渋谷:いや、なんでもないですw。

朝吹:えー。

―そんなことないと思いますよ。

朝吹:ほら!

朝吹:ありがとうございます。

渋谷:編集者を味方につけてる時点で……。

―(フォローすると深みにはまる罠)

朝吹:!

朝吹:もうやだw。

2/8ページ:僕は音楽家だからさ、僕が『こんな音楽は聴いたことがなかった』、って言ったら聴いてみたいと思うでしょ?(渋谷)

僕は音楽家だからさ、僕が『こんな音楽は聴いたことがなかった』、って言ったら聴いてみたいと思うでしょ?(渋谷)

渋谷:でさ、話を戻すと、

朝吹:はい。

渋谷:『SHARE FUKUSHIMA』というのが津田さんの企画で進んでたじゃない。

朝吹:そうですね。そういう基本的な情報もぎりぎりまでわかっていなくて……。

渋谷:そもそも発表も一週間前くらいだったりするくらいだから、

朝吹:車もきつきつ……、

渋谷:そうそうw。何年かぶりに車中で吐くかと思った。

―やはり悪路だったんですか?

朝吹:地面に亀裂が走っていてこまかく地盤沈下しているので、被害が大きい場所に近づくほどどんどん揺れる。

渋谷:揺れる上に津田さんの運転が相当飛ばすからw。

朝吹:でも津田さんプロフェッショナルな腕前でした。

渋谷:そうそう。運転好きなんだなーと思ったね。

朝吹:あとは、臭気がきついところがあったので、窓をあけてもリフレッシュできなかった。よく笑ったね。

渋谷:そうだね。笑わないと吐くからね。

朝吹:うん。

渋谷:笑いながら吐いたら怖いけどね。

朝吹:w。吐くフリうまいんです、渋谷さん。

―えw。

渋谷:あれは天才的でしょ、グリッチノイズ的なw。

朝吹:30分くらい前から、まわりの人を用意周到にだまそうとする。

渋谷:そうそう、空のほう見上げたりちょっと苦しそうな顔してみたり、唾飲んだりしてねw。

―おそろしい才能ですね……。

朝吹:涙目でねw。

渋谷:でもさ、新津保さんから絶対に女川は行ったほうがいいって聞いてたわけ。

朝吹:うん。

渋谷:僕も行ってなにかやりたいって津田さんに言ってたけど、ホントに行くのかな、みたいなところはあったのね。自分でちょっと信じられないというか。変な話だけど。

朝吹:おもしろい。

渋谷:で、それを背中押したのが新津保さんの言葉でさ、「こんな風景はみたことがなかった」っていうわけよ。僕は音楽家だからさ、僕が「こんな音楽は聴いたことがなかった」、って言ったら聴いてみたいと思うでしょ?

朝吹:思う。写真家が言うと大きいね。

渋谷:そうそう。で、僕も信頼してる友人だし、そもそも「こんな~は~なかった」っていう経験自体へってきてるわけ、僕は。単純に驚くことが少ないというか。

朝吹:アウトプットする人はインプットこそ大事なのに、激務故になかなかできない、というお話もしましたね。うまく言えないのですが、やっぱり、みたことのない風景をみに行くわけですから、哀悼とはまったく矛盾しないところで、なんというか、人間が持っている凶暴な欲望があらわれると思うんです。私自身は自分にそれを感じました。

渋谷:うん。

朝吹:でも、仙台駅はすごくのどかで、それなのに、これから「甚大な被害があった」と伝え聞いている場所に行く、というのは、すごくふわふわしたふしぎな気持ちになっていました。

渋谷:そうだね。だからなんというか、そういう場所に行くというのはさ、ある種の不可避というのがどんどん迫ってくるわけじゃない。

朝吹:そうです。徹底的に戻れないような気持ちがありました。なにに対してかわからないけれど。

渋谷:そういう経験はなかなか得難いと思ったわけ。やはり新津保さんがそこまで言うなら、行ってみたほうがいいんだろうなと思ったんだよね。僕は付き合い長いし、彼が本気で撮るときというのはわかるから。で、新津保さんがファタールで真理子ちゃんを撮ってたりして、

朝吹:新津保さんとはヒルサイドテラスでばったりお会いする関係でした。

渋谷:そうそう、そんな話も聞いてたのと、その不可避な現実が、関係性じゃなくて現実が迫ってくる環境というのは真理子ちゃんも体験したほうがいいんじゃないかな、とか思ったのね。

朝吹:うん。ほんとうにありがとうございます。でも、行くことができて(おじゃますることができて)ほんとうに良かったんだけれど、「行けて良かったです」ってなかなか声にだしにくくもあります。

3/8ページ:私、自分の興奮状態を信頼できないのですが、渋谷さんはいかがですか? (朝吹)

私、自分の興奮状態を信頼できないのですが、渋谷さんはいかがですか? (朝吹)

朝吹:ちなみに、私は、実際宮城県の女川町の光景を目の当たりにしたときは零度の興奮でした。自分の予想とは全く違う感情でした。

―零度の興奮とはどのようなものですか?

朝吹:私は、シュトックハウゼンとかダミアンハーストとかの言葉にある種のシンパシーを感じていたので、自分は女川町をみたら、「みたかった未知なるものをみられた!」という興奮を得てしまうんじゃないかという恐怖が行く前にはありました。ただ、実際に、女川町にゆくと……、

渋谷:違ったよね。

朝吹:ほんとうに人類は惑星に住んでいるのだな、という気持ちしかわかなかったんです。涙もでないし、無常観もなかったんですね。諦念の果て、だけあるという感じで。

渋谷:僕も全く感情が波立たなかった。

朝吹:ね。考えてみれば、大陸っていっぱい動くものだし、波は立つものだし、何万何億もの時間が流れた上でのいまだから、こういうことはふつうに起こる、という気持ちでした。それが、零度の興奮です。

渋谷:というのもさ、あそこはもはや人間の形跡がないでしょ。ここに人がいたということが想像できない。しかし被害にあったという情報だけがある、というときに、感情というのはその外にいっちゃうんだなと思った。

朝吹:そうですね、スニーカーも毛布も、あることはあったけれど、人のにおいがなかった。これは(女川原発はあるけれど)あくまでも津波被害の場所であったから抱いた思いだと思います。福島に入ると、そういう惑星に生きている感覚はなかったです。感情って簡単にどっかにいっちゃう。

渋谷:そうそう。で、やはり、人間は人間が作ったものが壊れてるのをみるとショックなんだということがわかった。

朝吹:うん。

渋谷:あそこで木が倒れてたりしても、うわーとは思わないじゃない。でも四角い家が傾いて、中から布団が飛び出してたりすると、やはりすごく悲しいというか、絶望的な気持ちになる。

朝吹:食べかけのワンタンメンとか、介護用おむつのストックが泥まみれだったり。

渋谷:そうそう。それで、これは自然が壊れることへの想像力が及んでないとかじゃなくてさ、そういうものなんだなと確認した。

朝吹:誰かの記憶の痕跡に対して心を寄せてしまう、という感じでした。もう絶対同じに戻らないからね。あたりまえだけれど、それってほんとうに酷。

渋谷:そうだね。あの人間の作ったものが壊れている様というのはさ、それぞれすごく違うんだけど、どれも同じという錯覚を覚えるじゃない。

朝吹:私はシジフォス神話を思い出しました。倒壊した家をみて。

渋谷:ああ。僕は、あれがランダマイズの罠だと思ったのは、被害にあった家とか、いわゆる人が作ったものの被害の写真というのは、プロが撮っても素人が撮っても変わらないわけ。ランダムだから。

朝吹:うん。

渋谷:でもさ、プロがそれを忘れちゃうくらい持っていかれるわけでしょ。やはり、そのときに。写真撮ってTwitterとかにupしてるわけだから。これは前に複雑なノイズだけで音楽作ってるときに思ったことでさ、複雑さの中でこの差異はすごい!って興奮してると出れなくなっちゃうんだよね、そこから。

朝吹:被害を伝える写真をみていてよく思うのは、撮った人の悲愴感か痛ましいと思う気持ちか興奮かはわからないけれど、すごく感情過多で、けっきょく、のっぺりした「被害」しかみえないように思えるのですが、渋谷さんが仰った言葉でわかった気がします。

渋谷:それがさ本人に必要なのはわかる。僕もそういうときはあるし。

朝吹:もちろん。そうですよね。人間だもの。

渋谷:でも、

朝吹:でも、

渋谷:あ、かぶったw。

渋谷:どうぞ。

朝吹:ほんとだw。

朝吹:お言葉に甘えて。その興奮をシャッターを押す稼働源にするといかんことになる、ように思います。

朝吹:渋谷さん、どうぞ。

渋谷:へい。

渋谷:だからそこの境界は微妙なんだなと思った。特に視覚を使ったものは。あと言葉もね。

朝吹:私、自分の興奮状態を信頼できないのですが、渋谷さんはいかがですか?

渋谷:えーと、それは一般的に? それとも普段から、ということ?

朝吹:ものをつくるときの興奮です。

渋谷:僕は、つくるときは、すごく興奮している。と同時に醒めている。だから、興奮状態にある自分はある程度信頼している。

朝吹:興奮しているのは後になってからしかわからなくて、そうすると「興奮していたらしい」という記憶でしか認識できないんです。

渋谷:醒めているのはスタミナ配分のためかも。

朝吹:スタミナ配分! おもしろい。

渋谷:あるでしょ。

朝吹:あります。醒めているからやっと興奮できる。

渋谷:僕は調子いいときは5分くらいの曲なら一気にあたまの中でできるから興奮するんだけど、

朝吹:すごい……。

渋谷:興奮し過ぎると逃げていくから、そっとそっと近づいていくというのも大事なのね。

朝吹:それわかる気がします。

渋谷:最初の興奮というのは絶対に正しい。これが一番いいのは絶対に真実で、それはどんなロジックも勝てないものがあるんだけど、それに便乗した興奮というのは正しくないんだよねー。

朝吹:超興奮状態の鮮烈なイメージは、あらわれるごとに消えてゆきそうで強烈な幸福感と恐怖心とでぐちゃぐちゃになっている自分をあきれ半分でみている、という感じです。最初の興奮が正しいのはわかる気がします。

渋谷:そうでしょ。

朝吹:羽生さんも、直感の一手が、やっぱり後から考えても一番いい手であることが多いと仰っていた。また将棋でごめん。

渋谷:また将棋か、将棋オタと話している気分ですw。

4/8ページ:無理なんだよね。ほんとうに。生活に興味がないのでw。『生活のキビ』というやつ?(渋谷)

無理なんだよね。ほんとうに。生活に興味がないのでw。『生活のキビ』というやつ?(渋谷)

朝吹:今度対局しようよ。

渋谷:強いの?

朝吹:超弱い。

渋谷:あ、だったらいいよ。

朝吹:やった。じゃあ、渋谷さん二枚落ちとかで。

渋谷:なにそれ?

朝吹:対戦相手の棋力があまりにも違う場合、上手の人が強い駒を落とすの。

渋谷:カルビとかじゃなくてねw。

朝吹:かるびちがうw。

渋谷:そんなの知らない……。負けるのかも……。

朝吹:だいじょうぶだいじょうぶ。私ほんとうに弱いから。

渋谷:じゃあやろうか。

朝吹:やったあ!!

渋谷:そんなに好きなんだ。家で将棋したりしてるわけ?

朝吹:うん。たまにね。もっぱら観戦ですが。

渋谷:親とは? 親としてたら重症だよねw。

朝吹:一度だけしてケンカになって終わった。

渋谷:26歳の娘が実家で父と将棋打ってたら、ニートだよね、それはw。

朝吹:もうひとりぐらしはじめたもん。ちなみに、将棋は打つではなく、

渋谷:刺す。

渋谷:差すか。

朝吹:指す。

渋谷:え。なんか自分のアホさが露呈していってるなw。

朝吹:かわいいです。あほーw。

渋谷:一人暮らしはどうなの?

渋谷慶一郎×朝吹真理子「ロスト・イン・カンバセーション #2」
(自宅)撮影:朝吹真理子

朝吹:ダンボール山積。

渋谷:あ、そういう感じね。

朝吹:キッチンもリフォーム前、あばらやです。

渋谷:リフォームするんだ! ちゃんと暮らす気あるんだ。

朝吹:だって、いまのキッチン超古い電熱器だもん。お湯わかすのに一年くらいかかる。

渋谷:なんかエコ雑誌の取材とか来そうだね。

朝吹:こないとおもうw。

渋谷:うんこないだろうねw。でも、そこでいまは暮らしてるわけ?

朝吹:実家はんぶん、あばらやはんぶんです。

渋谷:執筆も?

朝吹:書くのはあばらやで。

渋谷:っていうか今は?

朝吹:あばらやなう。

渋谷:初めての一人暮らしでしょ?

朝吹:うん。はじめて。よくわからないことばっかり。パスワードを作っては忘れの連続です。

渋谷:パスワード?

朝吹:え、ネット回線とかの。>パス

渋谷:ウケるな。バカだなそれはw。

朝吹:知らない人の名刺に書いてあった電話番号の末尾四桁とかにしたら、一発で忘れた。

渋谷:あたりまえだろ!

朝吹:バカです。でも、セキュリティ上、ぜったいに安全なものがいいと思って。そしたら自分で忘れちゃった……。ほんとうにいろいろむつかしい。

渋谷:なんか大人の階段だねー。

朝吹:渋谷さんをご尊敬します。

渋谷:いや、僕も同じようなもんだよ。管理総会でてくれとかいう苦情とか受けつつ、そんなものがあるのも知らなかったりw。

朝吹:マンションの?

渋谷:そうそう。僕は興味ないことは、完全にスルーするから。

朝吹:うちの父親毎回出席してた。

渋谷:えらいねー。

朝吹:自転車置き場とかゴミ集積場とかの話をするそうです。

渋谷:消化器とかね。

朝吹:そうそう。ベランダの点検とか。

渋谷慶一郎×朝吹真理子「ロスト・イン・カンバセーション #2」
(堂島にて)撮影: 渋谷慶一郎

渋谷:無理なんだよね。ほんとうに。生活に興味がないのでw。

朝吹:「生活」に?  もうちょっと詳しく教えてください。

渋谷:「生活のキビ」というやつ?

朝吹:ふーむ。

渋谷:植物育てたりとかさ、全般的に難しいわけ、僕は。

朝吹:私も。

渋谷:それと同様に管理総会とかさ、無理なんだよね。って書いててびびってるのは、これを同じマンションの人が読んだらキレるよなw。

朝吹:みられていないよたぶんw。

渋谷:そうか。

朝吹:私は同じマンションに26年間住んでいたので、10階に住んでいる美人おねえさん(元バレリーナ)に「芥川賞お目出度う」と言われたとき、しみじみしちゃいました。いいもんです、「生活」。

渋谷:ああ、でも僕は結構そういうのも苦手かも。最近、昔の友達からやたら連絡あるんだけど、それはまあいいんだよねw。

5/8ページ:食に対しての欲望が強いので、かき餅が食べたいから一人用火鉢は買う 。(朝吹)

食に対しての欲望が強いので、かき餅が食べたいから一人用火鉢は買う 。(朝吹)

朝吹:植物NGだとインテリアは?

渋谷:インテリアはね、仕事に関係しているものは興味ある。机とか椅子とか。でも高い本棚が欲しいとかは思わないな。

朝吹:痔にならないようにとか?

渋谷:腰痛ね。

朝吹:そういう身体に即したことですよね。

渋谷:作家は痔が多いからね。

朝吹:そうそう。

渋谷:芥川賞とって痔になったら作家としては王道だね☆ なった?

―なってません!

朝吹:なかじまさんありがとう(笑)

渋谷:なんで中島さんが知ってるんだw。

―(……)

渋谷:興味ある、インテリア?

朝吹:製品をつくっている人たちには興味があります。

渋谷:そうじゃなくて自分が揃えるの。きっと今回も写真をUPせねばならないと思うので、

渋谷慶一郎×朝吹真理子「ロスト・イン・カンバセーション #2」
(自宅)撮影:朝吹真理子

朝吹:部屋を撮ろうと思いますが、まったくものがないので、インテリアとか、ない。

渋谷:独身作家のw。

朝吹:じつは前回のも、ひとりぐらしのところなのですが、うちの祖父母が骨董マニアで。

渋谷:あ、そうなの?

朝吹:辟易です。

渋谷:ああ、骨董が揃ってるのね。

朝吹:うっぱらった。シンプルが好き。

渋谷:僕もそう。アンティークとか苦手。

朝吹:アンティークっぽい、のはもっと苦手。

渋谷:そうそう、すごく苦手。

朝吹:なぜ、わざと使いにくくするのか。

渋谷:なんで、あんなゴミみたいな板というか机に20万とか払うのか意味がわからない。

朝吹:w。

朝吹:ただ、かき餅食べたいから一人用火鉢は買う。

朝吹:ちっちゃい桐箱の。

渋谷:わけわからないなw。

朝吹:だって、おいしいもの。

渋谷:一人の何もない部屋で火鉢でかき餅食べてるって怪談話かよw。

朝吹:おいしいの!

渋谷:古い民家で、

渋谷:火鉢でかき餅を一人で、

渋谷:食べてる女性作家の、

渋谷:腐乱死体が、

渋谷:発見されました的な。

朝吹:孤独死。

渋谷:そうそう。電話していいからねw。

朝吹:死ぬ前にw。

渋谷:そうそう。

朝吹:どてらきようかな。

渋谷:どてらとか絶対にやめろw。

朝吹:あったかいよw。

渋谷:僕も実は、家に仕事場を作っているところで、いまはMAXにものが溢れているのね。家の中に。もう少ししたら非常に快適になる予定。

朝吹:おお。

渋谷慶一郎×朝吹真理子「ロスト・イン・カンバセーション #2」
(仕事場)撮影: 渋谷慶一郎

渋谷:もともと一人暮らしにしてはすごい広いからさ。調子に乗って床とか張り替えようかとか思ったりもしてるのだが。

朝吹:張り替えたらいいよ。愉しいです。

渋谷:でもさ、新しい仕事場のためにピアノ買うからw。

朝吹:資金繰りがw。

渋谷:そうそう。個人事業主なので。

朝吹:ほんとーーーーーにリフォームってお金かかりますね……。

渋谷:したことないから知らない。

朝吹:かくいう私も自営業……。労災ない。

渋谷:リフォーム的なものに興味がなかったからさ。

朝吹:私の場合は、リフォームしないと住めないからやむにやまれずだったのですが。

渋谷:かかった?

朝吹:リフォームはあとだしじゃんけん的にお金がかかるんです。最悪。

朝吹:はっ。

朝吹:これみていらっしゃったらどうしよう……。

渋谷:ははは。

朝吹:すごく適切な値段設定でした。

渋谷:ふざけるなw。

朝吹:w。

渋谷:でも家具は買ったの?

朝吹:少しだけ。

渋谷:なにを?

渋谷慶一郎×朝吹真理子「ロスト・イン・カンバセーション #2」
(自宅)撮影:朝吹真理子

朝吹:食卓と椅子、扇風機、洗濯機。あとカーテン。

朝吹:終わり。

渋谷:なんか圧倒的な孤独感が襲ってきているんだけどw。

朝吹:超幸福。ひとり最高。

渋谷:ひとり遊び得意だもんね。

朝吹:うん。

渋谷:なんか、(打つの)迷ってるでしょw。

朝吹:……。

渋谷:なに?

朝吹:友達もいることを強調しようとして恥ずかしいのでやめました……。

渋谷:遊びにきたりしてるの?

朝吹:誰も。

渋谷:どうやって友達いること強調するんだよw。

朝吹:「お引っ越し手伝いましょうか?」ってみんな言ってくれました……。

渋谷:手伝ってもらったの?

朝吹:ううん。自分で運びました。手伝ってもらうほどの物体がない。

渋谷:(笑)

朝吹:本に関しても所有欲0です。

渋谷慶一郎×朝吹真理子「ロスト・イン・カンバセーション #2」
(仕事場)撮影: 渋谷慶一郎

渋谷:僕もない。

渋谷:紙に対する愛着とかそういうのもないな。というか完全になくなった。

朝吹:クリスチャンマークレーの図録とか池田亮司さんの本とかは大事に包んで持っていったけれど……。

渋谷:僕は最近ビジュアルに触発されて仕事したりしないから、そういうのも新しい仕事場には持っていかないと思う。

朝吹:あ。それもいいと思います。

渋谷:新しく仕事場作るんだから、今まで自分を囲んでたインスピレーションの素みたいなのから離れたいなと思って。

朝吹:まっさらな空間でほんとうにひとりぼっちになれますね。ピアノだけで。

渋谷:あとシンセサイザーとコンピュータね。

6/8ページ:スペースマウンテン乗ってるときにうっすら黒闇の向こうに種明かしみたいなのがみえるじゃんw。レールとか。経験とか過去と現在の距離っていうのは、僕にとってはあれなの 。(渋谷)

スペースマウンテン乗ってるときにうっすら黒闇の向こうに種明かしみたいなのがみえるじゃんw。レールとか。経験とか過去と現在の距離っていうのは、僕にとってはあれなの 。(渋谷)

渋谷:すごく新しいことがしたいというときにさ、自分の過去受けた影響というのは、邪魔になるときがあるじゃない。なんかリニューアルしたいんだよね、今。というかすごく忙しいのが続いているから、せめてそういうのを切らないとダメなんだよね。

朝吹:これまでたくさんのものをつくった上で言える言葉ですね。

渋谷:現在というのが過去の蓄積の上にある、というのは事実なんだろうけど抗いたいのね、僕は。

朝吹:私はそう言えないのですが、でも、接続しているものを引きちぎったりしたいというのはわかるような気がします。

渋谷:スペースマウンテンってあるじゃん?

朝吹:えw。ぐわんぐわんで好きですが。

渋谷:13回続けて乗ったことがあるんだけど。

朝吹:13?

渋谷:雨の日で空いてたから。

朝吹:………よく溶けなかったね。

渋谷:いや、最後のほうはよく覚えてないんだけどw。

朝吹:エクトプラズムでそう。

渋谷:それはいつも。

朝吹:いつもw。

渋谷:でさ、スペースマウンテン乗ってるときにうっすら黒闇の向こうに種明かしみたいなのがみえるじゃんw。

朝吹:みえる。発光体とか。

渋谷:レールとかさ。経験とか過去と現在の距離っていうのは、僕にとってはあれなの。

朝吹:生まれてはじめて聞いた比喩です。

渋谷:僕はその比喩しか思いつかないくらい強い気持ちなんだけどw。

朝吹:過去や経験は「種明かし」だから、できればあまりみたくないの?

渋谷:みなくても出来るほうがいい。すがるのはイヤだね。

朝吹:すがるのはたしかにいやです。

渋谷:技術、にね。

朝吹:手練れ、

渋谷:そうそう、文学者に多いけどw。

朝吹:いまそう思っていました……w。

渋谷:あ、そいえば、

朝吹:はい。

渋谷:7月28日の文学者の復興支援のイベント(『復興書店』)で、また共演ということになるのか?

朝吹:ご一緒しますね。二度目ですね。

渋谷:こんな短期間にすごい速度だw。

朝吹:ねw。よろしくお願いいたします。

渋谷:あれはどうやったらいいのかまだ全然浮かばないんだけど、

朝吹:おもしろいことをしたいね。

渋谷:予想つかないでしょ、どうなるか。

朝吹:うん。

7/8ページ:しみじみ、音楽をつくるっていいな、と私は思いました (朝吹)

しみじみ、音楽をつくるっていいな、と私は思いました (朝吹)

渋谷:なんか福島で、全然音楽ができるときって違うんですね、って言ってたじゃん?

朝吹:はい。車内できゅうにリハーサルがはじまったとき、私は渋谷さんと七尾さんの間に坐っていたので、ふたりのやりとりを、息づかいから、直接感じ取ることができたのですが、

渋谷:うん。

朝吹:それまでは吐きマネとか、キャンドル・ジュン氏の名前の論法でゆくと、津田さんは、ツイッター・ダイスケ、渋谷さんは、ピアノ・ケイになるとか……。

渋谷:それは最悪だ……。

朝吹:もうほんとうにどうでもいい話ばっかりだったのにw。

渋谷:笑ってたじゃん。

朝吹:いや、もちろん、おもしろかったですけれどw。

渋谷:リハーサルっていうか、作曲し始めたんだよね、女川からいわきに行く間の車の中で。

朝吹:簡易エレクトーン(やすっちい耳が痛くなるような音の)を渋谷さんが弾いたとき、プロだなと。弾く人によってこうも違うのかとびっくりして、

渋谷:違わないはずなんだけどね。

朝吹:新しい曲を、言葉でのやりとりはきわめておさえられたかたちで進行していって、七尾さんも、歌うときは、声が複数性をもってでてくるふしぎな声で、ハミングに近しい音をだしていて、渋谷さんが、その声に、即興でメロディーをつくって、

渋谷:ああ。

朝吹:あれは複雑を、知っているから、単純な音で表現できるのだな、と思って、前回の対談内容を思い起こしました。

渋谷:あれはさ正直に告白するとさ、まずこのイベントに際して行く何日か前にすごくいい曲ができたわけ。降りてきた、という感じの。

朝吹:うん。

渋谷:ただAの部分が良過ぎて、Bが決まらないという状態が続いていたわけ。Aが極度にシンプルで強いから、Bが定まらない。

朝吹:うん。

渋谷:で、リハーサルでもBは決定できないまま、それ以外に日にちがなかったから、福島行く前日か当日でなんとかしようとか言ってたわけ。

朝吹:そうでしたか。

渋谷:でも、あの女川からいわきに向かう車中で、二音くらいか出ない簡易キーボードで弾くとさ、

朝吹:もう日付変わっていたよね。十何時間車中だったからね。

渋谷:極限的に単純なことしか弾けないじゃない?

朝吹:うん。あのエレクトーンはひどかったw。

渋谷:そうそうw。

朝吹:でも、ふしぎと弾く人が違うと……。

渋谷:魔法の指で。

朝吹:まほうのゆびw。

渋谷:加藤鷹みたいでしょ。

渋谷:あ、なんでもない。検索してくださいw。

―しないでいいです!

朝吹:はい、つぎつぎ。

渋谷:したんだw。

朝吹:ぐぐった。

渋谷:画像で検索してみw。

朝吹:がぞうではしません。

朝吹:いいから。

朝吹:つぎ。

渋谷:で、あのときいかにも作ってきたみたいに弾いてたけどさ、あの場で思いついて弾いてたの。っていうかBは福島行くまでに作ってくるからって言っちゃってたのね、旅人君にw。

朝吹:爆。

渋谷:でもその日は徹夜で朝の10時まで別のリミックスやってるような状況だったから、曲なんて作ってるわけないじゃん。

朝吹:そんな余裕零ですよね。

渋谷:で、Aをエレクトーンで弾いてそのまま即興で弾き続けたら、Bになったということなんだよね。だからあの環境、あのひどい楽器で、できたとも言える。

朝吹:ひどいがこれでもかと強調されているw。でも、しみじみ、音楽をつくるっていいな、と私は思いました。おふたりともまじめだったけれどすごく興奮した顔つきで遊んでいるようにもみえたしね。

8/8ページ:やっぱり、「作品」はなにがなんでもつくれたほうがいい? (朝吹)
ああ、つくれたほうがいい (渋谷)

やっぱり、「作品」はなにがなんでもつくれたほうがいい? (朝吹)
ああ、つくれたほうがいい (渋谷)

渋谷:これさ、こうやって文字で書いてどれくらい伝わるかわからないじゃない?

朝吹:歌仙とか巻くのとも違うだろうし。

渋谷:違うよw。あの状況の興奮が、

朝吹:わからないw。

渋谷:車の中で曲の途中が思い浮かんで出来てよかった、とかって、ともすると凡庸な話にもなるじゃん。

朝吹:まず、津田さんの新車に男7人ぎゅうぎゅうずめだったことが説明しにくい。

渋谷:そうそう。でも、あのとき君が間にいたのもよかったのかも。あれだけ狭い車の中でも、自我が完全に触れ合わない距離でしょ。

朝吹:私を挟んでおふたりが曲をつくっていたから、もっとスムーズになるように席を移動したかったのですが、何せ移動不可能で……。

渋谷:あのままでよかったんでしょう。

朝吹:ひたすら上体を反っていました。

渋谷:自我がぶつかりダスト、

渋谷:だすと、

朝吹:だすとw

渋谷:曲にならないから、

渋谷:うるさい……w。

朝吹:w。でも、すごくふしぎな距離感で、できあがってゆくなあと思いました。

渋谷:そうだね、全ては必然だねー。

朝吹:はじめてものをつくる前に、親しくならないほうがいいって言う意味もなんとなくわかりました。

渋谷:あの状況だとあれ以上親しかったら無理だよ。唯一残された道みたいな感じだと、つくれなかったら終わりになっちゃうからさ、そういうほうがいいのができるんだよね。

朝吹:やっぱり、「作品」はなにがなんでもつくれたほうがいい?

渋谷:ああ、つくれたほうがいい。

朝吹:前に、質と量の話していましたよね。「量から質は生まれるが、質から量は……」という。

渋谷:それ、女の子とたくさん付き合ったほうがいいっていう話でしょw。

朝吹:ええw。

渋谷:それだけじゃないけどね。

朝吹:でも、それって、ちょっと……、うーん、まとまらない。

渋谷:うわ、なんかすごい時間が経ってる! また今度にしようか。

朝吹:わ。そうしましょう。

朝吹:またね。

渋谷:そだね。

朝吹:ごはんのとちゅうだったから食べなきゃ。

渋谷:僕もw。

渋谷:来週飯行こうか。

朝吹:来週東京いない……。

朝吹:カネカエセw!

渋谷:返すからw。

番組情報
NHK-FM
『エレクトロニカの世界2011 ~渋谷慶一郎の電子音楽マトリックス~』

2011年8月13日(土)23:15~1:00 出演: 渋谷慶一郎
高嶋政宏
朝吹真理子
evala
中村としまる

プロフィール
朝吹真理子

1984年、東京生まれ。慶應義塾大学前期博士課程修了(近世歌舞伎)。2009年、『流跡』でデビュー。2010年、同作で『第20回Bunkamuraドゥマゴ文学賞』を最年少受賞。2011年1月、『きことわ』で『第144回芥川賞』を受賞。

1973年生まれ、音楽家。東京芸術大学作曲科卒業。2002年に音楽レーベルATAKを設立。国内外の先鋭的な電子音響作品をCDリリースするだけではなく、デザイン、ネットワークテクノロジー、映像など多様なクリエーターを擁し、精力的な活動を展開する。2009年、初のピアノソロ・アルバム『ATAK015 for maria』を発表。2010年には『アワーミュージック 相対性理論+渋谷慶一郎』を発表し、TBSドラマ『Spec』の音楽を担当。2011年は、モスクワでのイベント『LEXUS HYBRID ART』のオープニングアクトを担当するなど、多彩な活動を続ける。



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