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パペットが意志を持つ瞬間 ロシア生まれの「チェブラーシカ」

パペットが意志を持つ瞬間 ロシア生まれの「チェブラーシカ」

インタビュー・テキスト
森オウジ
撮影:寺沢美遊

生命を持たないパペットが人格を持つ、という不思議

―中村監督は、パペットアニメが持つ普遍的な面白さとは何だと思いますか?

中村:なんといってもパペット自体が持っている不思議な存在感でしょうね。たとえば2DやCGのアニメーションだと、まずキャラクターの存在感そのものを作り出さないといけません。いろんな撮影技法や描画テクニックを使って、無から有を創り出す。そういう方法とは違い、生命を持たないはずのパペットが、あたかも人格を持って画面上に存在し、ふるまっているかのように見える。そういう不思議な存在感がパペットアニメーションにはあります。言語化するとややこしいですが、子どもたちにはそれが無意識に伝わっていると思うんですね。

―確かに、チェブラーシカはたまに自分の意思で動いているかのように、ストーリーに沿わない動きをたくさんしていますよね。たとえば家を建てるシーンで、ゲーナとガーリャは一生懸命レンガを組み上げていきますが、チェブラーシカだけがそのレンガをあさっての方向へ運び続ける(笑)。とても面白いシーンです。

中村:あれも、パペットの不思議な存在感を演出するためにカチャーノフ監督が考えて作っているわけですよ。ストーリーとしては矛盾している行動を取らせることで、動かされている存在ではなく、チェブラーシカとしてのキャラクター人格を作っていく。カチャーノフのオリジナルでも、細かく見ると、関係ない動きがいっぱい入っていますね。

―本作は「パペットアニメーション監督としての中村誠をつくった作品」でもありましたが、その豊富なテクニックとイマジネーションはどこから出てくるのでしょうか?

中村:とにかくカチャーノフを踏襲しようと思ったのが大きなポイントです。研究を重ねて、「チェブラーシカならこう動く」という判断が自然にできるところまで落とし込みました。それと、さりげないことなのですが、日本人として、日本のアニメーションのパイオニアである手塚治虫さんの手法を生かしてみたいと思ったんです。たとえば、『ロストワールド』だとか『メトロポリス』といった初期の手塚さんの漫画には必ずモブシーンがある。いろんなキャラクターが見開き1コマで、自由気ままにいろんなことをしゃべっている。それをパペットアニメーションでやれば、パペットに人格が生まれるのではないかと思ったんです。カチャーノフ監督はメインとなるキャラクター以外は極力動かさないというスタンスで、キャラクターに人格を与えます。でも、僕の撮ったものは、そのモブシーンの中で全キャラクターを動かしている。つまりカチャーノフとは違った手法で、キャラクターに人格を与えようと試みています。

 

―なるほど、手塚治虫ですか。その他にも、日本の作家で影響受けている人や技法などはありますか?

中村:黒澤明映画の縦の構図をヒントにしたようなところはありますよ。縦の構図とは、パンフォーカスといって、レンズを絞って、画面全てにピントをあてる。そのときに、近いものを画面の下に置き、遠いものは上に配置するんです。で、『チェブラーシカ』ではその真逆のことをやってみたんです。まず、レンズの絞りを開けて、縦ではなく横の構図にした。そうなると被写界深度(写真のピントが合っているように見える被写体側の距離の範囲のこと)が浅くなりますから、「手前のもの」「ピントがあっているメインキャラクター」「奥のもの」という3レイヤー構図になるんです。結果的にそれが、セットとパペットの関係性を表現する上でも有利に働きました。

―たしかに、背景のやさしいボケ具合が、独特の世界観を作っています。

中村:作品の雰囲気を演出するために、カチャーノフの『チェブラーシカ』を見て、当時のレンズの性能やシャッタースピードがどれくらいなのかを調べて、現代の技術で再現しようとしたんです。ところが、全くできなかったんですよね。現在、カメラは当時とは別のものになってしまっているんです。

さてどうしようかと考えたときに、画面全部にピントが合うと、人形の精度も技術的に上がっていることもあって、1カットあたりの情報量がすごく増えてしまう。情報量が少なすぎると安っぽくなるのでダメなのですが、多すぎても現実的になりすぎてしまう。だから重要なところだけにピントを合わせるために、レンズの絞りを開けたわけです。そうすると、背景はぼんやりとボケます。それがちょっとレトロに見える演出にもなったので、採用! ということになりました。

それからアメリカのテレビドラマシリーズの『24』も意識していますよ(笑)。『24』は、画面の手前に必ず何かを置いて、隙間から手持ちカメラで見る視線、というショットがあります。日本のドラマにはそういう構図はないし、新鮮なので、チェブラーシカでは手前にいろいろ置いています。

―専門的な技法にまで踏み込んでお話しいただき、ありがとうございました。では最後にお聞きしますが、続編の可能性はありますか?

中村:作りたいという思いはあります。でも、「パペットアニメの人」になるつもりはありません。もちろんパペットアニメの面白さは好きだし、これからも作りたいですが、ジャンルにこだわらず、いろんなことに挑戦していきたいですね。

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リリース情報

『劇場版 チェブラーシカ 特別版』コレクターズエディション(2DVD)

2011年11月25日発売
価格:7,140円(税込)

監督:中村誠
脚本:金月龍之介、島田満、中村誠、ミハイル・アルダーシン
声の出演:
[日本語版]
大橋のぞみ
土田大
北乃きい
チョー
藤村俊二
[ロシア語版]
ラリーサ・ブロフマン
ウラジーミル・フェラポントフ
オリガ・ズベーレワ
ドミトリー・フィリモーノフ
アレクサンドル・パジャーロフ
[DISC1]
・日本語版本編
・ロシア語版本編
・ロシアプレミア上映時の映像
[DISC2]
・ロシア語本編(銀残しver.)
・メイキング映像
・原作者エドゥアルド・ウスペンスキー、オリジナル映画の美術監督レオニード・シュワルツマンインタビュー
[特典]
・『チェブラーシカ』資料集
・フィルムカットセット(3枚入り)

『劇場版 チェブラーシカ 特別版』通常版(DVD)

2011年11月25日発売
価格:4,410円(税込)

監督:中村誠
脚本:金月龍之介、島田満、中村誠、ミハイル・アルダーシン
出演:
声の出演:
[日本語版]
大橋のぞみ
土田大
北乃きい
チョー
藤村俊二
[ロシア語版]
ラリーサ・ブロフマン
ウラジーミル・フェラポントフ
オリガ・ズベーレワ
ドミトリー・フィリモーノフ
アレクサンドル・パジャーロフ
[収録内容]
・日本語版本編
・ロシア語版本編
・ロシアプレミア上映時の映像

プロフィール

中村 誠

1970年生まれ。アニメーション作品の企画・制作などを行う株式会社フロンティアワークスに所属し、アニメーション関連のシナリオライターとして活動。2004年、『チェブラーシカ』の新作の監督に抜擢される。2010年に公開された同作は、パペットアニメーションの秀作としてロシアをはじめ世界的脚光を浴びる。

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