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資生堂名誉会長・福原義春が自分を重ねた、駒井哲郎という生き方

資生堂名誉会長・福原義春が自分を重ねた、駒井哲郎という生き方

インタビュー・テキスト
杉浦太一(CINRA, Inc. 代表取締役)
白坂ゆり
撮影:菱沼勇夫
2012/04/25

僕はもともと実業家になるべき人間じゃなかった。

―福原さんは実業家で大企業のトップでいらして、一方駒井さんは1人の芸術家です。経済と文化、とくに芸術は、一見対極的に語られがちだと思いますが。

福原:実はそうじゃないんですよ。それから僕はもともと実業家になるべき人間じゃなくて、やはり趣味の世界で生きる人間なんですね。ですが、生まれからこういう風に位置づけられてしまったから、経営者として生きてきたに過ぎないんです。それを私は経営の職人だと考えています。今でも経済と文化が両立することが、世の中に幸福をもたらすことだと考えています。

駒井哲郎《食卓I》1959年 福原コレクション(世田谷美術館蔵)(展示期間:5月27日迄)©Yoshiko Komai 2010 /JAA1000185

駒井哲郎《食卓I》1959年 福原コレクション(世田谷美術館蔵)
(展示期間:5月27日迄)
©Yoshiko Komai 2010 /JAA1000185

―資生堂は今年140周年を迎えて、これだけ続いている大企業です。福原さんの時代にもいろいろな改革をされて、今なお業界トップ企業です。

福原:僕はもともと経営の職人のつもりでいます。駒井さんだって絵を描く職人だと思っていたに違いないし、僕は経営者という職人にだんだんなってきたわけです。それは、目先の利益にばかりとらわれず、いかにこの会社を世の中の役に立てる存在にし、世の中も社員も幸福にしていくか、それを実現することを第一にする。これが私の仕事だと思っています。

―福原さんの中では、芸術や文化と経営は思想として統合していると。

資生堂名誉会長 福原義春
資生堂名誉会長 福原義春

福原:ええ。たとえば今、アメリカ的な民主主義が世界中を吹き荒れていますけれど、それも金融資本が結びついて生まれた、ハリウッド文化がつくったものです。『十二人の怒れる男』『市民ケーン』『カサブランカ』などが世界に波及したからこそ、アメリカの政治が一番正当的だと世界中で思われているわけです。これは経済の力だけではなくて、ハリウッドの力なんですよ。そしてハリウッドをつくったのはヨーロッパからギリシャ・ローマ文化を持って亡命してきた人たちです。


―脈々と受け継がれた文化が根元になっていて、経済が生まれるんですね。

福原:そうなんです。根はとても深くて、「今日儲かって、明日潰れた」という話とはレベルが違うんですね。経済だけではここまで大きく、持続的な力はつくれないのです。

―震災もあり、日本は経済的な競争力が落ちてきていると言われています。これも日本の文化のありようと何か関係しているのでしょうか?

福原:薄っぺらになっちゃったんですよね。日本だけでなく世界中で文化は劣化しているんです。

―劣化、ですか?

福原:そうです。つまり、これ以上豊かな文化を求めなくなっちゃったから質が衰えてきているということです。例えば、銀座通りの名店はたとえ値段は高くても、他所よりも良質で筋の通った品物を売ることで成り立っていたのですが、今は「いかに安くていいものをつくるか」という文化に世界中が変わってしまったんです。「あるものを安く売る」というのは20〜30年前の話で、今は「安くていいものをつくる」。機能だけは現在の水準を満たしていますが、品質に関しては、必ずしも前世代までの水準を問わない。そうして妥協していくわけですから文化は劣化していきますよね。

―それは、付加価値を求めなくなったということでしょうか?

福原:見えない、もしくは見えにくい付加価値を求めなくなったんですよね。価格を安くするには、素材や人件費が抑えられてしまうから、職人による端正な仕事ができなくなる。そのため、一目見ても気づかないんだけれども、徐々に品質が落ちていく、そういうことだと思います。

―では、そういう時代を生きる若い世代には、どのような力を養ってほしいとお考えですか?

福原:本物に触れる以外ないと思います。本物に触れて自分で考えることですね。パソコンや携帯端末で調べれば、どんな情報にもたどり着く。たしかに便利にはなりましたけど、誰もが知るような名画でも、本物に触れると何故か全く違うんですよ。その喜びをみんな知らなくなっちゃった。だから美術館の役割というのは今後も大きくなっていくと思います。

3/3ページ:調べて出てくる答えは、他人の答えなんです。

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イベント情報

『福原コレクション 駒井哲郎1920-1976』

2012年4月28日(土)〜2012年7月1日(日)※前期・後期で作品総入替
第I部:若き日のエッチャーの夢(1935-1960)
4月28日(土)〜5月27日(日)
第II部:夢をいざなう版の迷宮(1961-1976)
5月30日(水)〜7月1日(日)

会場:東京都 世田谷美術館
時間:10:00〜18:00(入場は閉館の30分前まで)
休館日:毎週月曜日(但し4月30日は開館)※5月29日(火)は展示替えのため休室
料金:一般1,000円 65歳以上・大学・高校生800円 中学・小学生500円
(入場券半券のご提示で、2回目のチケットご購入時に、ご観覧料が2割引となります)

講演会
『コレクションを語る』

2012年4月29日(日)
会場:東京都 世田谷美術館 講堂
時間:14:00〜(当日、整理券を配布します)
講演者:福原義春(株式会社資生堂 名誉会長)
聞き手:清水真砂(世田谷美術館学芸部長)

講演会
『「レスピューグ」スライド原画に寄せて―実験工房を語る』

2012年5月3日(木・祝)
会場:東京都 世田谷美術館 講堂
時間:14:00〜(当日、整理券を配布します)
講演者:湯浅譲二(作曲家・国際現代音楽協会名誉会員、カリフォルニア大学名誉教授、桐朋学園大学音楽部特任教授)

講演会
『わが師 駒井哲郎を語る』

2012年6月2日(土)
会場:東京都 世田谷美術館 講堂
時間:14:00〜(当日、整理券を配布します)
講演者:中林忠良(版画家・東京藝術大学名誉教授)、渡辺達正(版画家・多摩美術大学教授)

『100円ワークショップ』

小さなお子様から大人の方まで、どなたでもその場で気軽に参加できる版画体験。
2012年4月28日〜6月30日の期間中、毎土曜日(随時受付)
会場:東京都 世田谷美術館 地下創作室C
時間:13:00〜15:00
参加費:100円

イベント情報

カフェ・ボーシャン CAFÉ BAUCHANT

世田谷美術館のリオープンに合わせて、美術館地下にカフェが新たにオープン。テイクアウトもでき、緑溢れる砧公園に立地する美術館カフェとして、公園利用者にも開放されています。
営業時間:10:00〜18:00(ラストオーダーは17:30)
休業日:毎週月曜日(その日が祝日の場合はその翌日)、年末年始

『世田谷アーティスト・コロニー「白と黒の会」の仲間たち』

2012年3月31日(土)〜6月17日(日)
会場:東京都 世田谷美術館 2階展示室
時間:10:00〜18:00(入場は閉館の30分前まで)
休館日:毎週月曜日(ただし4月30日は開館)
料金:一般200円 大学・高校生150円 65歳以上・中学・小学生100円

プロフィール

福原義春

1931年東京生まれ。資生堂名誉会長。資生堂創業者・福原有信の孫。1953年慶応義塾大学卒業、資生堂入社。資生堂米国現地法人社長、商品開発部長などを経て、1987年社長、1997年会長、2001年名誉会長に就任。文化・芸術に造詣の深い経営者としても知られ、エッセイ、蘭栽培、写真は有名。文部科学省参与、企業メセナ協議会会長、東京都写真美術館館長ほか多くの公職を兼務。『ぼくの複線人生』(岩波書店)、『わたしは変わった 変わるように努力したのだ―福原義春の言葉』(求龍堂)など著書多数。

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