最後の1ピース KAGEROインタビュー

バンドというのは、とても不思議な集団である。長年続いているバンドのメンバーというのは、家族や恋人以上に長い時間を共に過ごしていることになるが、その時間に比例して家族以上の濃密な関係性を築いているケースもあれば、バンドを離れればお互いのことはあまりよく知らないというケースも決して少なくない。また、バンドの中ではギスギスしていた関係が、解散や脱退などによって解消されるというケースもよくあることだ。もちろん、こういったことはどんな集団でも起こり得る話だとは思うが、やはりバンドというのはその中でも特殊な集団であり、だからこそ、そこで起こるドラマは非常に魅力的でもある。

今年の4月、KAGEROはバンド名の表記を改めるとともに正ドラマーとして萩原朋学を迎え入れた。バンドの中心人物である白水悠の大学の後輩であり、気が置けない友人でもあった萩原をバンドメンバーとして迎え入れることに、白水としては多少の躊躇もあったという。しかし、そこは変化を恐れず変わり続けていくバンド、時期を見逃さなかったのはさすがだ。結果として、KAGEROはライブバンドとしてこれまで以上の評価を獲得するようになり、萩原と共に過去曲をレコーディングし直した変則的なベスト盤『KAGERO ZERO』によって、新たなスタートを切ることになる。白水と萩原の話から、バンドという特殊な集団の不思議さと魅力をぜひ感じてほしい。

今までが友達だったから、KAGEROが上手く行かなくなったら、俺とハギの関係も崩れちゃうんじゃないかって。(白水)

―萩原さんが加入して、バンド名の表記も「カゲロウ」から「KAGERO」に変わり、ベスト盤の『KAGERO ZERO』が出るということで、今はバンドがある意味原点回帰を果たして、初期衝動を取り戻したような状態にあるのでしょうか?

白水:初期衝動はずっとなくさずにやってきたつもりだし、ドラムが3人いるっていう状態も楽しかったんですけど、今年になって『KAIKOO』への出演が決まったりしていく中で、3人でやるのはそろそろ限界かなっていうのがあったんです。状況がどんどん進展していく中で、スケジュールの面でも、音楽的な面でも、ここから先はちゃんと固まってやっていかないと無理だろうなって。ハギ(萩原)が入って今の4人になって、やっとバンドになったっていう感じかな。

白水悠
白水悠

―ちゃんとメンバーが4人揃った状態でのリリースって久しぶりですよね?

白水:『I』のときはまだ(菊池)智恵子がサポートだったし、『II』のときは4人いたけど、ドラムの(鈴木)貴之はツアー終ったらアメリカに行くのが決まってて、『III』はドラマー3人いたから、そう考えると初ですね。メンバーがしっかり固まって、先も見据えた状態でのリリースって、実は初めて。

―白水さんと萩原さんは元々どういうご関係だったんですか?

萩原:(白水は)大学の先輩です。

白水:後輩の中で一番仲よくて、よくコピーバンドとか一緒にやってて。

―今日のお二人の格好からして相性の良さが伺えます(笑)。音楽の趣味も近かったんですか?

白水:ハギの方がすげえ詳しくて、昔からよくCDを借りたりしてたから、ホント後輩っていうより友達って感じなんですよね。KAGEROで起きたことを「ハギ、聞いてくれよ!」ってしゃべってたし、遊びでインプロバンドをやったりするときはいつもハギに電話して……。

萩原:いきなりかかってくるんですよ。

白水:そう、「来週空いてる?」って。

萩原:「場所どこですか? ええと……仕事終わりでもいいですか?」みたいな(笑)。

白水:だから、今回ドラマーを決めようとなったらハギしか浮かばなかったんだけど、それってすごくリスキーでもあったんですよ。今までが友達だったから、KAGEROが上手く行かなくなったら、俺とハギの関係も崩れちゃうんじゃないかって。でも、今のKAGEROだったら、そのリスクも冒せるし、きっと大丈夫だろうと思って。

―逆に言えば、萩原さんがいなかったら他に候補がなかった?

白水:どうしようと思ったでしょうね。初っ端のライブがフェスだったし、そこは信頼感がないと、ただ上手いだけじゃ誘えないですからね。でも、変な話ハギの場合は、俺がどういうことをやりたいかっていうのを、Ruppaさん(Sax)や智恵子(Piano)以上にわかってるんですよ。もう……リーサルウェポンですね(笑)。

―萩原さんはバンドに誘われたときにどう思われました?

萩原:最初電話が来て、「あ、またインプロの誘いか」と思ったんですよ。そうしたら、「飲もうぜ」って言われて、「これは何かあるな」って。

白水:しかも、「再来週ぐらいなら」って言うから、「いや、近々なんだよ」って言って(笑)。チラッとよぎった?

写真左から:白水悠、萩原朋学
写真右:萩原朋学

萩原:……よぎったね。でも、実際言われるまでは考えないようにしてた。僕はずっとバンドをいくつか並行してやってて、ちょうど去年バンドがひとつ解散して、ちょっと時間できちゃったなって思ってたんですよ。それで飲みに行って……言うの早かったよね、お通しぐらい?

白水:ビール来る前に言った(笑)。

萩原:じゃあ、飲まなくてよかったじゃんっていう(笑)。

白水:酒の勢いを借りて告白するのはよくないでしょ?

―(笑)。

これまでのKAGEROを踏襲するんだったら、絶対俺じゃないと思うんですよ。でも、俺に話が来たっていうことは、「いいんですね?」っていう(笑)。(萩原)

―それで萩原さんは、すぐにOKを出したんですが?

萩原:頭によぎってたとはいえ、「うわ、来た!」と思って、やっぱり自分がKAGEROに入るっていうのが全然想像できなかったんですよね。もちろん曲は知ってるんだけど、「俺が入ってどうなるんだろう?」って。

白水:貴之はおかずがいっぱい出るドラマーで、ハギはご飯しかないから、「お前におかずがないのは知ってる、お前のご飯が欲しいんだ」って言って(笑)。

萩原:これまでのKAGEROを踏襲するんだったら、絶対俺じゃないと思うんですよ。でも、俺に話が来たっていうことは、「いいんですね?」っていう(笑)。俺はジャジーなドラムは通ってきてないんで、「俺がやってきたことの中でしかできないですけど、それでいいですか?」って聞いたら、「いいよ」って。そこのオッケーが出れば、やれるなって。

白水:でも、『III』とか大してジャジーじゃなかったでしょ?

萩原:いや、俺はちょっとジャジーな匂い出るだけでも緊張してたから(笑)。

白水:飲んでから、初めてスタジオに入るまで1週間ぐらい? 最初は二人で入ったんだけど、ハギはこう見えて真面目だから、その間ジャズを頑張って聴いてきたらしいんだけど、「いや、いらないから」っていう(笑)。

―(笑)。

萩原:ここ二人でやる分にはよかったんですけど、四人でやるときは結構緊張したんです。チエちゃんはほとんどしゃべったことなかったし、Ruppaさんともちゃんとバンドをやったことはなかったから、あの二人が俺のドラムでKAGEROの曲をやって、前より気持ちよくなれるかどうかは未知数だったし。すごくドキドキしました。

萩原朋学

―でも、結果的には萩原さん加入後のKAGEROはライブバンドとしての評価がかなり高まっていますよね。

白水:狙い通りですね。前までって、あんまりお客さんを意識してなかったんですよ。「かっこいいことやってれば伝わるだろう」ぐらいに思ってて。実際大きいところでやっても、「今日もかっこよかった」とか言ってもらえたんだけど、でもその状態がずっと続いてたから、もう一個次の段階のライブがしたいなっていうのは、『III』を作ってるぐらいからあって。ハギが入ったことで、次の段階に行けてる感じはありますね。

自分はやっぱりお客さんとのつながり、こっちから向こうに出して、向こうも返してくれるっていう方が楽しいんですよね。(萩原)

―メンバーが固まったことで、他にどんな変化がありましたか?

白水:Ruppaさんと智恵子は変わったね。僕らライブ会場限定のCDを作ってて、それが段ボールジャケットなんですけど、自分たちで段ボールを切って、ステッカー貼るんですよ。それを昔は全部俺が一人でやってたんだけど、ハギはそういうのも率先してやるから、それにつられて二人もやってくれるようになって。その意識は以前の二人に全くなかったから、そういう意味でもやっとバンドになったなって(笑)。

萩原:僕は今までずっとパンクスばっかりのところでやってきたんで、みんなが一斉に走ってるようなバンドスタイルが多かったんです。だからあのまま10〜20年やってたら死んじゃうなって思って。

白水:死んじゃうと思ったからお前を誘ったんだよ(笑)。

―(笑)。萩原さんが入ったことで、ライブにおいても、運営の面でも、バンドは今すごくいい状態にあるみたいですね。

白水:うん、今上手く行ってるだけにね、僕としてはここでいろんな結果も欲しくて。今結果を出して、よりテンションが上がることをやっていきたいなって思いが昔より強いかな。

―そんな中で、萩原さんと過去曲を再レコーディングしたベスト盤『KAGERO ZERO』が出るわけですね。

白水:ハギが入って、まずは昔の曲をハギならではのアレンジにしたいと思ってて、その流れの中でレーベルから「ベスト出そうよ」って言われたんで、「じゃあ、録り直させてくれ」って言って。大変だったけど、締め切りがあって逆によかったかも。

―最初の段階では、既発の曲をそのまま収録するベストを想定していたんですか?

白水:どうなんだろう……(レーベルは)一部録り直しぐらいに思ってたかもしれないですね。スケジュール的に、全部録り直すのは結構大変だったから。でも、これ全部録り直せるぐらいじゃないとダメでしょっていうのもあって、2日で13曲録ったっていう(笑)。

萩原:いやあ……胃が痛くてね(笑)。

―(笑)。その勢いもあってか、見事にどの曲もアグレッシブに生まれ変わっていて、萩原さんの顔見せ盤として相応しい仕上がりになっていますよね。

白水:お客さんがもっと戸惑うかなっていうのは正直あったんですよ。ハギと貴之は全然違うし、変な話だけど、貴之の方が好きな人もいてほしかったし。でも、おおむね今の方がいいって言ってくれてて、まあ比べてるわけじゃないんだろうけどね。ただ、ひとつだけ言えるのは、(萩原以外の)3人の演奏は格段によくなったでしょうね。「いい」っていうベクトルもいろいろだけど、僕の中での「いい」っていう方向に確実になってる。

―その「いい」っていうのを、具体的な言葉にできますか?

白水:前に飛ばす感覚かな。今僕はお客さんがいてこそのライブだと思ってるんで、お客さんに、前に飛ばすっていうのがすごくよくなってると思う。

萩原:前のKAGEROが他のバンドと違ったのは、いい意味で「見たきゃ見ろ」っていうライブだったんですよ。だから、引っかからない人には引っかからなかったかもしれない。それはそれでかっこよかったんですけど、自分はやっぱりお客さんとのつながり、こっちから向こうに出して、向こうも返してくれるっていう方が楽しいんですよね。

写真左から:白水悠、萩原朋学

白水:僕もハギも人間的に変わってきてるんだと思います。一時期はホント「見たきゃ見ろ」だったし。

萩原:顔が見えないアー写でもいいとか、ライブも照明暗くていいとかね。

白水:でも、お客さんが盛り上がってくれたら嬉しいし、物販に人がいっぱい来てくれたら嬉しいですからね。

萩原:健康的だよね(笑)。

白水:全然普通だよね(笑)。だったら、前に飛ばそうって気持ちになる。

萩原:入ったときは、「どっちに行くんだろう?」っていうのはあったんです。今までの「ちょっと突き放した感じなのかな?」とか。でも、自然と今みたいなライブになっていったんですよね。

こうやって状態が揃ってきて、今思ってるのは、4人の中で次に変化しなきゃいけないのは僕なんだろうなって。(白水)

―『KAGERO ZERO』に入ってる唯一の新曲“Pyro Hippo Ride”はどのようにできたのですか?

白水:ツアーから帰ってきて2、3日後がレコーディングだったんだけど、ここまでライブを意識して作った曲は初めてかもしれない。間奏に絶対盛り上がる四つ打ちを入れたり、「こういう曲が映えるライブをしたい」って思って。

―萩原さん加入後にできてる新曲は、やっぱり全体的にこれまでとは違うテイストになってるんでしょうか?

白水:一曲一曲の振り切り方が前より大きいかも。前は曲を作るときアルバムのバランスを考えて作ってて、「何曲目の曲を作ろう」みたいな感じだったんですけど、最近は一曲一曲がよければいいかなって。それがたまってアルバムでいいんじゃないかって。

萩原:もちろん今までの曲もやってて楽しいんですけど、やっぱり今の4人で作った曲の方が好きなんですよね。僕の中ではこれ(『KAGERO ZERO』)が出るまでが一区切りで、これが出ちゃえば、今までのことは気にせず新曲も作れるかなって。

―『KAGERO ZERO』はもちろんベスト盤でもあり、今の4人のそのままを詰め込んだライブ盤というような印象も受けました。

白水:感覚的にはファーストを出したときに近いかも。ファーストはアマチュアのときのベストだから、それに近い感じ。今KAGEROを知らない人に、「何から聴けばいいですか?」って聞かれたときに、ファーストとかセカンドは音もテンポも今と全然違うし、てか人が違うしっていう(笑)。そういうときに、「これでしょ!」って言えるものを作らせてくれたっていうのは、CDが売れないこの時代に、ホントありがたいなって思いますね。

―途中で「今調子がいいからこそ、結果も出したい」というお話もありましたが、KAGEROの「目的」について最後に改めて聞かせてください。前回の取材のときに、KAGEROが変化をし続けていることに関して、変化が目的なのではなく、目的があって、そこにたどり着くための手段が変化なんだっていう話をしていただいたのがすごく印象的だったんですね。では、その「目的」とは何なのか? 枚数や動員といった数字的な部分もあるだろうし、もっと内面的な、自分の中での達成感もあると思うのですが、KAGEROが目指す「目的」について、話していただけますか?

白水:それは結構目の前のことだったりするんですよ。ここから先はハギじゃないと無理だと思ったのもそうだけど、俺がどうこうしても進めないなってことが常に目の前に出てくるんです。今は昔みたいにバンドの中だけで「よかったね」で終わらせていいレベルじゃないし、具体的に「武道館でやりたい」とかそういうことでもなく、KAGEROに求めることって年々変わっていって、目の前の障害も変わってくるから、それに対して向かっていくだけなんですよね。

―さらに次の目的に行くために、今必要な変化は何だと思いますか?

白水:こうやって状態が揃ってきて、今思ってるのは、4人の中で次に変化しなきゃいけないのは僕なんだろうなって。ハギが入って、Ruppaさんと智恵子は僕に寄って来てくれて、でも僕自身はそこまで変わったわけではないので。ただ、前よりライブで盛り上げたり……。

萩原:恥ずかしがらずに盛り上げられるようになってきたよね。

白水:そう、ドヤ顔で盛り上げられるように(笑)。

―さすが、萩原さんは白水さんのことをよくわかってますね。萩原さんはKAGEROの目的について、どうお考えですか?

萩原:僕は今までパンクとかハードコアばっかり聴いてて、数字に対してアンチな人たちとか、アバンギャルドな人が好きだったりもして、特に高校生の頃とかそんなのばっかり聴いてたから、染みこんでる部分はあるんですね。でも、このバンドに入って、ちゃんと数字が目に見えて出るっていう状況で、少なくとも、このバンドでお客さんがいないライブをやってもつまんないと思ったんですね。それを続けていくためには、数字とかいいライブが必要で、それをやりつつ4人とも曲がらない、曲を作るときに数字の比重が大きくなっていくようなバンドにはなりたくないですね。

白水:いや、そんな器用じゃないっすよ(笑)。

萩原:そうですね(笑)。

白水:どうすれば数字が出るかなんてわかんないもん。やり方があるなら、教えてほしい(笑)。だから、まずは目の前だけを見て、今はライブで自分たちもお客さんもホントに楽しめるようにっていう、それを考えていくだけじゃないですかね。

イベント情報
『KAGERO ZERO Release Party』

2012年11月9日(金)
会場:東京都 渋谷 UNDER DEER LOUNGE
出演:KAGERO
※二部構成で実施、ゲスト参加者あり

『KAGERO ZERO release tour「ZERO WAY」』

2012年11月15日(木)
会場:北海道 札幌 KLUB COUNTER ACTION

2012年12月15日(土)
会場:栃木県 宇都宮 HELLO DOLLY

2012年12月22日(土)
会場:神奈川県 横浜 OTONAMA CIRCUIT -2012 WINTER CHRISTMAS SPECIAL-

2013年1月14日(月・祝)
会場:宮城県 仙台 RIPPLE

2013年1月26日(土)
会場:愛知県 名古屋 池下CLUB UPSET

2013年1月27日(日)
会場:茨城県 水戸 club SONIC mito

2013年2月2日(土)
会場:兵庫県 神戸 BLUEPORT

『KAGERO ZERO release tour「ZERO WAY」Tour Final 2Days』

2013年2月8日(金)、2月9日(土)
会場:東京都 下北沢 SHELTER

リリース情報
KAGERO
『KAGERO ZERO』(CD)

2012年11月7日発売
価格:2,000円(税込)
RAGC-005

1. DEATHVALLEY HIPPY DUCK
2. SCORPIO
3. Pyro Hippo Ride
4. YELLOW
5. ROYAL KLOVER CLUB
6. GAS
7. HOT ROD DEVIL
8. HYSTERIA
9. CHEMICAL ONE
10. MR.BROADKASTER
11. JAILBIRD
12. AIR
13. sheepless, but feel alright

プロフィール
KAGERO

白水悠(Ba)、佐々木“Ruppa”瑠(Sax)、菊池智恵子(Piano)、萩原朋学(Drums)。ジャズカルテット編成の常識を覆す攻撃的な轟音とパンクスピリット溢れるライブパフォーマンスを武器に、活動当初から都内アンダーグラウンドシーンを席巻。ジャズ、パンク、ハードコアシーンを股にかける異端児として、国内外問わず注目を集めている。



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