
入江悠×伊賀大介対談 映画とファッションの交差点
- インタビュー・テキスト
- 宮崎智之(プレスラボ)
- 撮影:菱沼勇夫
服が男をカッコ良くみせるのではなく、男が服をカッコ良くみせるという側面もあると思います。(伊賀)
入江:まさか監督の僕が、伊賀さんにスタイリングして頂いて、鈴木心さんにプロフィール写真を撮影して頂けるとは思いもよりませんでした(笑)。このスーツは「Yohji Yamamoto」ですか? しかも北野武監督の『アウトレイジ』に出てきそうな感じにまでして頂いて……。
伊賀:でも、気分変わりません?
入江:やっぱり自然とテンションも上がってきますよね。僕は監督なので、スタイリストの方に仕事をお願いすることはあっても、自分がスタイリングしてもらうことってないじゃないですか。でも今、すごく俳優さんの気持ちがわかる気がします。サイズ感とかも、「自分のために選んで頂いて着ているんだ」ということが実感出来て、役に入りやすくなりそうというか。さっき待ち時間にこのままトイレ行ってきたんですけど、歩き方が自然と変わっていましたから(笑)。
伊賀:そう。そこが重要なんですね。スタイリングって見た目だけじゃなくて、そういう気分的なことも含めて、映画の演出の一環だと思うんです。
入江:確かに僕は監督という立場からビジュアルの方を重視していたんですけど、スタイリングされて役者の気分が変わることで芝居も変わるし、ものすごく大きい影響を与えていたんだなと思い知りました。ちなみにこのスタイリングのポイントはどこにあるんですか?
伊賀:男のスタイリングのポイントって、実はあんまりないんですよ。便宜上いろんなパターンがあるだけで、ベースがカッコ良ければ何でもいいんです。ジェームズ・ディーンじゃないですけど、ジーパンとTシャツだけで「なんでこんなにカッコいいんだろう」なんてこともありますよね。服が男をカッコ良くみせるのではなく、男が服をカッコ良くみせるというか。その人の内面性まで出ちゃうから、怖い部分もありますけどね。
『苦役列車』のスタイリングは、80年代が衣装でリアルに再現されていて、見事だと思いました。これしかない! でもどこから集めてきたんだろう? みたいな。(入江)
入江:なるほど。本当にそうですね。スタイリストって、今回のような写真撮影や映画、雑誌、広告などいろいろな現場があると思うのですが、ジャンルによって仕事内容は違うものなんですか?
伊賀:そうですね。でも、その場その場でルールが違うってだけであって、ここはパンチ打ってはいけない、ここは膝蹴りなしだとか、その程度のことというか、リングの上に上がって戦うことは一緒ですね。
入江:最近だと、細田守監督のアニメ―ション映画『おおかみこどもの雨と雪』のスタイリングをされたとのことですけど、どうだったんですか?
伊賀:僕も仕事のオファーがきたときはビックリしたんですが(笑)、よくよく考えてみれば、いつもやってることとあんま変わらないんじゃないかと思ってきまして。細田監督の中に出来ているイメージを話してもらって、僕が服を持っていくという流れは、現実とほとんど同じですよね。それをアニメーターの人に描いてもらい、キャラクターにフィッティングするというだけで。
入江:確かにそうかもしれませんね。アニメのキャラクターも画面の中で生きているわけじゃないですか。人前に出ているのか、ダラっと家の中でビールを飲んでいるのかでファッションも変わってきますもんね。
伊賀:最近のアニメは、背景の看板や通行人、車などもリアルに表現されています。その中でキャラクターが着ている洋服だけ白色ばっかりだったとか、リアリティーがなかったら、観客が「ん?」となってしまうと思ったので、そうならないように気をつけました。
入江:山下敦弘監督の『苦役列車』のスタイリングもされていますよね。あの映画の時代、ちょっと一昔前の80年代の世界観が衣装でリアルに再現されていて、見事だと思いました。「これしかない! でもどこから集めてきたんだろう?」みたいな(笑)。
伊賀:意外と残っているものなんですよ(笑)。リサイクルショップや、古着屋、中野ブロードウェイ、ヤフオク……。友達のお母さんがSuicidal TendenciesのTシャツを着ていたりとか(笑)、そういう電波を張り巡らせながら探していると、網に引っかかってくるんですよね。
入江:主演の森山未來君の着ている服なんて、「この服しかないだろう」と思ったくらいです。人間の小ささとか、鬱々としている感じとか、襟のクタクタ感とか。
伊賀:森山未來君で一番出したかったのは、彼の肉体感です。時代だけじゃなく、肉体労働者に見えなかったら意味がないと思っていたので、黒いTシャツを着せて、帰りのバスになると塩が吹いているようにしました。街のパチンコ屋とかにいる人でも、男の仕事をしてきた人だな、みたいな感じの人っているじゃないですか。
入江:ありますよね。サラリーマンでも刑事でも朝と夜とでは、スーツの感じがぜんぜん違う。1日働いて帰るときって、絶対何か変わっているはずですよね。
伊賀:それぞれの映画で「ここが一番のポイントだ」ということだけは絶対に外さないようにしています。スタイリストは映画を全面的にコントロールする立場ではないので、「この映画に関しては、こういうことを伝えたい」ということは準備するようにしたいですね。
番組情報
- 『入江悠の追い越し車線で失礼します Driven by 三井ダイレクト損保』
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毎週日曜日20:30〜21:00からTOKYO-FMで放送
リリース情報

- 『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(DVD)
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2012年11月21日発売予定
価格:3,990円(税込)
発売元:アミューズソフト/メモリーテック監督・脚本・編集:入江悠
出演:
奥野瑛太
駒木根隆介
水澤紳吾
斉藤めぐみ
北村昭博
永澤俊矢
ガンビーノ小林
美保純
橘輝
板橋駿谷
中村織央
配島徹也
中村隆太郎
HI-KING
回鍋肉
smallest
倉田大輔
プロフィール
- 入江悠
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1979年、神奈川県生まれ。監督作『SRサイタマノラッパー』(2009)が『ゆうばり国際ファンタスティック映画祭』でグランプリ、『富山国際ファンタスティック映画祭』で最優秀アジア映画賞を受賞。同シリーズ3作目『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(2012)では野外フェスシーンに延べ2000人のエキストラを集め、インディペンデント映画として破格の撮影規模が話題となる。
- 伊賀大介
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1977年 西新宿生まれ。96年より熊谷隆志氏に師事後、99年、22才で独立してスタイリストとして活動開始。雑誌、ミュージシャン、広告、映画、演劇のスタイリングなどを手がける。band所属。