
音楽が希望であり続けた男 Serphインタビュー
- インタビュー・テキスト
- 金子厚武
死を近くに感じたことで、自分の人生の優先順位がはっきり見えて、音楽が最優先だなって気づいた。
―「希望」という強い言葉を使っていらっしゃるのは、リスナーの存在を自覚したこと以外にも、ご自身の音楽に対する意識の変化があったのではないかと思うのですが、いかがですか?
Serph:そうですね……やっぱり、震災は大きかったですね。死を近くに感じたことで、自分の人生の優先順位がはっきり見えてきて、その中でやっぱり音楽が最優先だなって気づいて。気持ちの持ち方って、自分の周りのいろんな現実に反映されるじゃないですか? その気持ちの核にエネルギーを送り込むための手段として音楽があって、僕が信じる希望みたいなものをそこに込めて、人に伝えたいと思っています。
―Serphはファンタジックな世界観が魅力ですが、そこには現実とのリンクもあると。
Serph:生きるために音楽が必要だって自覚したんです。特別なケースだと思いますけど。
―確かに、「音楽は何の役にも立たないから」って、まずはボランティア活動を実行した人もいますし、アーティストによって震災の受け取り方は様々でしたよね。
Serph:自分にできるベストなこととして、目の前に音楽っていう道が開かれてるっていうことに改めて感謝したっていうか、最高に悔いのない仕事として、音楽をやるしかないって思ったんです。
―「従来のやり方、形の希望ではなく、新しい希望が必要」というコメントは、震災によって、これまでの認識とは違う認識が必要になったということを意味しているわけですか?
Serph:まさにそうですね。ホントに明日がどうなるかもわからないなって思ったし、あと震災後の様々な問題っていうのは、やっぱり古い、動きにくいシステムによるところが大きいから、新しい、もっとやわらかい心のあり方っていうのが、希望なのかもしれないなって思います。
―震災が起こってすぐにそういった前向きな気持ちになれましたか?
Serph:いや、そりゃあもう、いろいろ葛藤して……でも、人生に何を望むか考え抜いた末に、音楽っていうところに至りました。例えば、あと1時間でもう地球が終わりますってなって、1時間何をして過ごすか、じゃあ音楽をかけようってなったときに、「Serphいいんじゃない?」って言われるようなディスクが作りたいですね。
―その考えは、実際に『el esperanka』の楽曲に反映されていると言えますか?
Serph:ポップであったりメロディアスだったりすることの重要性っていうのは考えました。聴きづらいとか、特定のサウンドシステムが要るとか、実験的なだけの音楽っていうのは、少なくとも僕は終わりが近づいて切羽詰まったときに聴いていたくはないですからね。
「自分のハートが求めるところを一番大事にしなさい」っていうことを、僕はビートルズの音楽から感じてますね。
―事前に2012年によく聴いていた音楽をお伺いしたら、ビートルズの名前を挙げていらっしゃいましたよね? しかも、“Let It Be”“Hello,Goodbye”“Hey Jude”といったポップソングを挙げられていたのは、さきほどの「ポップの重要性」という話に通じる部分と言えますか?
Serph:そうですね。“Let It Be”なんかは、すごく気持ちが楽になる歌詞だし、音楽的にも、ハーモニーだったり、作りがすごくしっかりしてる。ビートルズは人間を通して現れるエネルギーの重要な結節点だったんだと日々思います。
―“Let It Be”の歌詞は、具体的にどんな部分に惹かれるんですか?
Serph:自由だと思うんですよね。余計なものを全部取っ払って、好きなようにしなさいっていう。ただ、現実の状況っていうのは、自分の力だけではどうにもできないところがあるから、そこはあるがままに、まさに“Let It Be”っていう。とにかく、「自分のハートが求めるところを一番大事にしなさい」っていうことを、僕はビートルズの音楽から感じてますね。
―言うまでもなく、Serphの音楽はインストゥルメンタルですが、言葉の持つ力について、改めて考えたりもしましたか?
Serph:それはあるかもしれないです。自分の言葉に責任を持たなければいけないなっていう当たり前のことを、最近やっと気づいて(笑)。それぐらい言葉以外のリアリティーが僕にとっては大事だったっていうことでもあるんですけど、今回はできるだけポジティブで、でもひとつには捉われないような言葉として、『el esperanka』っていうタイトルにしたっていうのもあります。
Serph『el esperanka』ジャケット
―同じく、2012年によく聴いた音楽として、大橋トリオさんの『NEWOLD』も挙げていらっしゃいましたね。
Serph:トラックも声もすごく好きですね。
―歌ものとはいえ、ジャズを基調とした音楽性には通じるものがありますもんね。さらに言えば、大橋さんは「やるからには本場のアーティストにも負けたくない、高みを目指したい」っていう姿勢をすごく持ってらっしゃって、そういう部分でもシンパシーを感じるところがあるのかなって。
Serph:それはすごくありますね。僕も地球規模で注目されるような作曲家、プロデューサーになりたいと思っているので。
―そこがまさに「自分のハートの求めるところ」なんでしょうね。他にも、インストじゃない日本の音楽で、最近よく聴いていた人っていますか?
Serph:志人の『Zymolytic Human 〜発酵人間〜』はヘビロテです。
―ああ、Serph、大橋トリオ、志人って、音楽ジャンルは全く違うけど、でもすごくしっくりくる並びですね。職人気質な部分があって、己の道を歩んでる、それこそ武士道に近いような芯の強さを持ったアーティストというイメージがあります。やはり、シンパシーは強いですか?
Serph:そうですね、すごく感じますね。
―己の道を歩むという意味では、本作でも多彩な展開を持ったプログレッシブな楽曲というSerph節は健在で、ますますテクニカルかつエモーショナルに進化をしていると感じました。プログレッシブであること自体は、意識してそうしているというより、自然とそうなっていくわけですよね?
Serph:その通りです。本能的な感じですね。
―難しい質問だとは思いますが、プログレッシブなものに本能的に惹かれるっていうのは、何か理由というか、背景があるのでしょうか?
Serph:難しいですね……音楽って、実生活の裏返しみたいな部分があると思うんです。実生活で抑えてるものを、音楽で吐き出して形にしてる部分はすごくあると思うので、たぶん僕が実生活であまり展開を作ってないということかもしれません(笑)。それを音楽で吐き出すという、代替行為じゃないですけど、そういう部分があるのかもしれないですね。
―実生活は「ABサビ」的な、よく言えばストレートな、悪く言えば単調な進み方をすることが多いと(笑)。
Serph:そうかもしれないです(笑)。
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命を削って作ってる感覚はあります。
リリース情報

- Serph
『el esperanka』(CD) -
2013年3月15日発売
価格:2,300円(税込)
noble / NBL-2071. twiste
2. magicalpath
3. session
4. vesta
5. parade
6. shift
7. ankh
8. wizardmix
9. felixz
10. curve
11. vitt
12. rem
13. crystalize
プロフィール
- Serph
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東京在住の男性によるソロ・プロジェクト。2009年7月、ピアノと作曲を始めてわずか3年で完成させたアルバム『accidental tourist』をelegant discよりリリース。2010年7月に2ndアルバム『vent』、2011年4月には3rdアルバム『Heartstrings』、11月にはクリスマス・ミニ・アルバム『Winter Alchemy』を、それぞれnobleよりリリース。2013年3月に、フルアルバムとしては約二年振りとなる新作『el esperanka』をnobleよりリリースした。より先鋭的でダンスミュージックに特化した別プロジェクト、Reliq(レリク)でも一枚アルバムを発表している。