
音楽家であり絵描きでもあるロマンチスト 渡會将士インタビュー
- テキスト
- 石角友香
- 撮影:豊島望
ロマンチックであることは凄く大事だなって最近思うんですよ。
―渡會さんが絵を描くのは、実写では表現できないし、簡単に歌詞や言葉にもできないものを描いているといえるのでしょうか?
渡會:そうだと思います。たとえばこの渦巻の絵も、実写では100%不可能な絵だし、そういうものを表現するツールっていう感じですかね。だからなんか、実写的な全体図が頭にあって描いてるわけじゃなくて、描いているうちに渦巻っぽくなってきて、それをそのまま渦巻にしていった感じで、連想ゲームのように描きながら遊んでる感覚が強いですね。
―さきほど、人から与えられたテーマに合わせて描くのは嫌いという話がありましたが、ご自身でテーマを設定して描くことはあるんですか?
渡會:そんなに多くはないですけど、そういうときもありますね。たとえば『GO WAY GO WAY』のジャケットは、たまたま去年のバンドのスローガンが「YES」と「GO」だったっていうところからスタートしてます。世の中に原発反対っていう主張が溢れていると思うんですけど、大人が一生懸命「NO! NO!」って叫んでるのは、かっこ悪いと思って。
―それは原発肯定ということではなくて、単純に「反対!」という負の方向にエネルギーが向かうのはよくない、ということですか?
渡會:そうです。だからもっと、「新しいことを始めよう」っていうニュアンスにしていきたくて、そのときに描いた絵は、デモ行進をしてるんですけど、主張の内容が恐ろしく肯定的なものっていう。
―ユーモアもあって素敵ですね。渡會さんの絵は人物の描き方も上手だし、緻密だと思うんですけど、モチーフや構図はちょっとファンタジーな感じもありますね。
渡會:はい。
―「こうであったらいい」という希望とか、現実ではない空想を描くっていう意識はありますか?
渡會:現実をきれいに模写するんだったら写真でいいと思っちゃいますし、音楽もそうですけど、ロマンチックであることは凄く大事だなって最近思うんですよ。新しいアルバムも火星がテーマになってるんですけど、このところのロックンロールって、凄くテーマが消極的だったり、「あの子」のことしか歌ってないものが多いんですよね。
―もうちょっと夢を語る必要がある?
渡會:そう思うんですけど、夢を語るようなロックンロールが減ってるのは、そういうことを歌っても説得力がないからだと思うんですよ。だから今回、説得力のあるロマンチックなテーマを探していて、たまたま火星になったんですけど。
―火星に焦点をあてながらも、一つひとつファンタジーをロックンロールに乗せたアルバムになっていますよね。悲惨な現実よりも、フィクションが人を救うことってあると思いますし、ロマンって、そういうことなのかなって。
渡會:物語を作り上げること自体が、すでにロマンチックなのかなって気もしますしね。僕は、何かが出来上がるまでの過程を想像するのが好きで、そういう想像の中にもロマンって生まれてくるんですよね。だから僕のこの絵も「これ全部描いたのか〜。バッカじゃねぇの?」って思いながらでもいいから、隅々まで見て、その過程を想像してもらえたら嬉しいですね。それって楽しいことだと思うので。
どうでもいいことが沢山あるから人生は充実しているし、そこでみんなが共感できるっていうことが、凄く大事な気がするんです。
―渡會さんがここまで表現者として歩んできた中で、その「過程を楽しむ」という姿勢は、やはりとても重要なものだったのでしょうか?
渡會:僕は小説を読むのも好きなんですけど、小説って、始まりと終わりが凄く大事だと思うんです。でもその小説を一番面白くしてるのは、その間にある、どうでもいい過程な気がしてるんですよ。いかに寄り道するかとか、いかにどうでもいいことを書くかということが、作家さんの一番チャーミングなところかなと思うんで。
―なるほど。ハッピーエンドだとかバッドエンドだとか、そういう結論が大切なわけではない?
渡會:音楽でも小説でも、みんな一生懸命いろんなことを考えて、大きな話を表現したいと思うし、結論が大きくて、素晴らしくて、感動するものになるのはいいと思うんです。でも、「人間はいつかは死んでしまうから、今を大事に生きよう」みたいな考え方は凄く嫌いで、「死」を引き合いに出されたら誰も抗えない。「はい、感動してください」っていう、感動の押し売りだし、脅迫だなと思うんです。
―はい、わかります。
渡會:「死」という結論じゃなくて、そこまでの過程が凄く大事だと思うから、「いや、いつかは死んじゃうかも知れない。でも、僕は絶対、IPS細胞を研究して200歳ぐらいまでは生きるから大丈夫」とか、「君のために万能細胞を研究する、絶対二人で永遠に生きよう」って歌う方がいいと思うんですよね(笑)。
―そういう部分が、凄く渡會さんらしい表現ですね。
渡會:そうやっても僕は、その過程の中にある、どうでもいいことをなるべく表現に取り入れたいんです。カイワレとか、柔軟剤とかいう単語を歌詞に使ってるのもそういうことだし、絵にしても、なるべくテーマと関係ないものとか、場違いなものを入れていったりします。そういうどうでもいいことが沢山あるから人生は充実しているし、そこでみんなが共感できるっていうことが、凄く大事な気がするんです。
リリース情報

- FoZZtone
『Reach to Mars』(CD) -
2013年6月5日発売
価格:2,800円(税込)1. 世界の始まりに
2. 情熱は踵に咲く
3. Master of Tie Breaker
4. She said
5. Shangri-La
6. BABY CALL ME NOW
7. 1983
8. ニューオーリンズ殺人事件
9. 21st Century Rock'n'roll Star
10. Reach to Mars
プロフィール
- FoZZtone(ふぉずとーん)
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2001年に竹尾典明(Gt)と渡會将士(Vo&Gt)が出会い、2003年に菅野信昭(Ba)が加入しFoZZtoneを結成。2010年秋からはサポートドラマーの武並"J.J."俊明がライブ、レコーディングに参加している。同年、"購入者が選曲し曲順を選べる"という業界初の「オーダーメイド・アルバム企画」を実施し話題となる。2013年は結成10周年イヤーということで、様々な企画を計画・実行中。