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できないことを、必死にやり続けたい 曽我部恵一インタビュー

できないことを、必死にやり続けたい 曽我部恵一インタビュー

テキスト
金子厚武
撮影:田中一人
2013/06/25

“ギター”で<夕方ぼくは渋谷の洋書屋で>って歌ったのは、自分にとってすごく冒険だった。

―ROSE RECORDSが下北沢に事務所を構えてスタートした頃っていうのは、『shimokitazawa concert』(2004年6月)や『sketch of shimokitazawa』(2005年6月)のリリースがあり、CITY COUNTRY CITY(カフェ&レコードショップ)もオープンするなど、下北沢というのが明確に打ち出されていた時期でもありました。下北沢というのは、今も活動の基盤であり、表現においてもひとつの基盤であると言えますか?

曽我部:そうですね。住んでる街のことを歌うってわりと自分にとって大事で、知らないどっかの風景を歌う前に、自分が見て、感じて、吸ってる空気のことを歌うべきだっていうのは中心にあるかな。それ以外でどういう説得力を自分が持てるんだろうって思う。とりあえず仮想と理想だけで作ったもので俺が人を感動させられるかっていうと、すごく疑問はあるね。そこは才能の問題だと思うけど、僕には無理。他の誰かが言ってるような正しいことや誰かが聞きたいと思ってるようなことを、じゃあ自分も歌に乗っけて言ってみましたで、人が感動するとは思えない。

―最近「東京」を歌う若いミュージシャンが増えているように思うんですね。例えば、THEラブ人間だったら、『下北沢にて』っていうイベントをやっていたりもする。そういう今の状況をどう見ていらっしゃいますか?

曽我部:まあ、諸刃ですね。自分が住んでる街を歌うことがその人にとって冒険になればいいと思うんだけど、そうでもない場合もあって。例えば、すごくパーソナルな歌を歌うシンガーソングライターの人だと、中野とか高円寺とかのピンサロとかがすぐ歌詞に出てきたりするけど、それで「俺はパーソナルな歌を歌ってます」ってなると、それはちょっと違うと思うんだよね。

曽我部恵一

―固有名詞を出すことが、方法論として安易に映ってしまう場合もあると。

曽我部:うん、だからそれはすごく難しいところで。“ギター”で<夕方ぼくは渋谷の洋書屋で>って歌ったのは、自分にとってすごく冒険だった。渋谷ってものをイメージできない人に対して、これはすごく虚ろに響くんじゃないかっていう危険性もあったんだけど、逆に限定された自分の生活空間を歌うことで、聴き手のいる場所と濃密につながることができるかもと思った。僕の「渋谷」が聴き手の、例えば「米子」とかにつながっていくような、そういうコミュニケーションがあるんじゃないかと思ったのね。

―なるほど。

曽我部:だから、結局そこに音楽のマジックがあるかどうかなんだよね。「東中野の駅前で〜」って歌ったときに、実際そこを知ってても知らなくても、別のレベルにジャンプできるようなものであればいいんだけど、「それ、今とりあえず言ったでしょ?」って感じだったら小さく収斂しちゃうこともある。だから、諸刃だと思うんだよね。

―確かに、難しいところですね。

曽我部:僕も昔は地名を織り込んだりとかしてましたけど、最近はちょっと変わってきましたね。ドキュメンタリーって言っても、それだけでもって感じがしてます。だから、今回のベスト盤って自分にとっては整理するいい機会になって、また真っさらにしたいなって思ってて。ライブのやり方とか歌い方とか、「こうやったらこうなるよね」っていうのがスキルとして身についてきてて、そういうのがちょっと面倒くさいというか、やった感じがしないというか。自分ができないことを必死でやって、「できてないね」っていうのをやりたいんですよね。それが一番好き。

時代性を重視して作るのもダサいじゃん? 「こういう時代だからこういう作品を作りました」みたいのって、「じゃあ、別のことやったら?」って気がする。「ハフィントンポストみたいのやれば?」って。音楽は音楽だからね。

―震災についても改めてお伺いしたいのですが、昨年発表された『曽我部恵一BAND』には、“満員電車は走る”という曲が収録されていて、今回のベストアルバムでは2007年に発表した“魔法のバスに乗って”(2008年発表のアルバム『キラキラ!』に収録。曽我部恵一BANDとしての1stシングル曲)の前に収録されています。この「満員電車」と「魔法のバス」という言葉は非常に象徴的な変化に映るのですが、実際にこの2曲に関係はあるのでしょうか?


曽我部:俺は“満員電車は走る”も“魔法のバスに乗って”も同じことを歌ってると思うんですよ。っていうか、全部どの曲も同じことを歌ってると思う。夢があること、愛が自分の中にあることと、それが手に入らない、それを上手く口に出して言えない、上手く触れない、でも自分はその力を持ってるし、溢れんばかりの愛を持ってるんだっていう歌しかないと思うんです。“満員電車は走る”も“魔法のバスに乗って”も、乗り物が違うだけであって、同じことを言ってると思いますね。

―“満員電車は走る”は震災後にできた曲なんですか?


曽我部:“満員電車は走る”は3.11のすぐ後、3月中には書いた曲です。僕は3.11が起きて、音楽でみんなの表現することがすごく甘くなってしまったことが、ホントに不思議でならなかったんだよね。それまでは憤ってた人たちが、急に優しさとか絆になっちゃう。いやいや、何にも変わらず、自分たちの救われない魂っていうのがあるじゃん? どんな災害が起きようが、戦争が起きようが、自分たちの満たされない心っていうのがここにそのままあるじゃんって思った。そういうところからこの曲ができてきた。

―確かに、当時は絆を歌う曲が溢れてましたもんね。

曽我部:地震があって、絆を探しあったり、手をつなぎ合わなきゃいけないかもしれないけど、相変わらず満員電車の中は無言じゃんっていう。なのに歌だけ優しい歌になっちゃった。もちろん、変わんなきゃいけないことはいっぱいあるし、考えなきゃいけないことは増えたし、手助けは必要だし、でも自分の心は何も変わらないよってことを僕は歌いたかった。大事なものは変わらない、地震が起きようが起きまいが、みんなでそこに向かって今日も生きるんだっていうことを、どうしても歌いたくて。

―『曽我部恵一BAND』は作品全体のトーンがシリアスで、そこには時代背景が何らかの影響を及ぼしていたかもしれないけど、根本にあるものは少しも変わっていないと。

曽我部:そうですね。もちろん、影響はあると思うんです。地震とかとんでもなく大きい災害というか、人災でもあるんだろうし、自分たちの生活にも影響はあると思うけど、気持ちは何も変わらないな。信用できないやつは信用できないまんまだし、大好きなことは大好きなまんまだし、そこを機に自分の生き方が変わるってことはやっぱりない。

―そういう意味では、昨年末に発表された『トーキョー・コーリング』は、クラブの一晩に視点を置いて、音楽の享楽性の部分を抽出した作品だったのかなって。


曽我部:ああ……でも、自分ではわかんないんですよ。どうしようもなく作るだけなんで、「こういう作品にしよう」みたいのはないんだよね。後で振り返ると、「あのときあんなことあったな」とか「あんな風なこと思ってたな」とかはあるんだけど、「今回こういう作品にしよう」っていうのはなくて、ほぼ苦し紛れに作ってるから(笑)。

―(笑)。

曽我部:『トーキョー・コーリング』も、ハードディスクの整理をしてたら、打ち込みのトラックとか出てきて、それをいじってるうちに、モヤモヤしたものがアルバムっていう形になっただけの話であって、何をしたかったのかはよくわかんないですね。自分の作品が社会的な事象にどう対応してるかはあんまりわかんなくて、そのとき自分が一生懸命やったっていうだけだけど。

―最初の方の話にも出たように、作品はどれもそのときそのときの自分がそのまま出たものだと。

曽我部:そうなんだよね。あんまり時代性を重視して作るのもダサいじゃん? 「こういう時代だからこういう作品を作りました」みたいのって、「じゃあ、別のことやったら?」って気がする。「ハフィントンポストみたいのやれば?」って。音楽は音楽だからね。

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リリース情報

曽我部恵一<br>
『曽我部恵一 BEST 2001-2013』(CD)
曽我部恵一
『曽我部恵一 BEST 2001-2013』(CD)

2013年6月26日発売
価格:3,000円(税込)
ROSE RECORDS / ROSE-155

[DISC1]
1. ギター
2. 瞬間と永遠
3. 恋人たちのロック
4. おとなになんかならないで
5. 女たち
6. キラキラ!
7. 抱きしめられたい
8. 浜辺
9. シモーヌ
10. 満員電車は走る
11. 魔法のバスに乗って
12. 東京 2006 冬
13. 春の嵐
14. LOVE-SICK
15. おかえり
[DISC2]
1. サマー・シンフォニー Ver.2 feat. PSG
2. テレフォン・ラブ Single version
3. ほし TRAKS BOYS remix
4. ロックンロール TOFUBEATS remix
5. 世界のニュース -Light of the world!!-
6. カフェインの女王(TSUCHIE feat. 曽我部恵一)
7. イパネマの娘
8. ぼくたちの夏休み
9. スウィング時代 DJ YOGURT & KOYAS remix
10. White Tipi SUGIURUMN house mission mix
11. クリスマスにほしいもの
12. トーキョー・コーリング Studio live version
13. STARS Studio recoding
14. ジムノペディ
15. サマー・シンフォニー

サニーデイ・サービス<br>
『サニーデイ・サービス BEST 1995-2000』(CD)
サニーデイ・サービス
『サニーデイ・サービス BEST 1995-2000』(CD)

2013年6月26日発売
価格:3,500円(税込)
MIDI / MDCL-1538/39

[DISC1]
1. 恋におちたら
2. 雨の土曜日
3. 恋はいつも
4. スロウライダー
5. あじさい
6. 青春狂走曲
7. いつもだれかに
8. シルバー・スター
9. baby blue
10. さよなら!街の恋人たち
11. サマー・ソルジャー
12. 白い恋人
13. 夜のメロディ
14. NOW
15. 若者たち
[DISC2]
1. サマー・ソルジャー(2000.12.14 @新宿リキッドルーム 解散ライブ)
2. 花咲くころ
3. 恋人の部屋
4. あの花と太陽と
5. 魔法(Carnival mix)
6. 真昼のできごと(Unreleased version)
7. 96粒の涙(Alt. version)
8. 何処へ?
9. Somebody's watching you
10. ここで逢いましょう
11. 成長するってこと
12. からっぽの朝のブルース
13. 土曜日と日曜日
14. 恋におちたら(AG version)
15. いつもだれかに(1996.4.24 @渋谷クラブクアトロ 公式デビューライブ)

プロフィール

曽我部恵一(そかべ けいいち)

1971年生まれ、香川県出身。ミュージシャン。ROSE RECORDS主宰。ソロだけでなく、曽我部恵一BAND、再結成を果たしたサニーデイ・サービスなどで活動を展開し、歌うことへの飽くなき追求はとどまることを知らない。プロデュースワーク、執筆、CM・映画音楽制作、DJなど、その表現範囲は実に多彩。下北沢のカフェ兼レコード店CITY COUNTRY CITYのオーナーでもある。

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