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やなぎみわトーク&インタビュー 演劇が持つ危険なチカラ

やなぎみわトーク&インタビュー 演劇が持つ危険なチカラ

インタビュー・テキスト
内田伸一
撮影:高見知香
2013/07/01

第二次世界大戦中、米軍兵士の間で話題になったラジオパーソナリティーに「東京ローズ」という女性がいました。いや、正確には、彼女が誰だったのかを知る人はいないのかもしれません。戦中、日本からの短波ラジオを通して夕食どきの連合軍兵士たちに呼びかけたのが彼女。ときに魅惑的に、ときに毒気をはらんだジョークを交えて敵側に語りかけるその「声」の主に対し、付いた愛称が「TOKYO ROSE」だったのです。現代美術界で活躍するやなぎみわが、近年力を注ぐ演劇プロジェクトの最新作は、史実に残るこの謎の女性をモチーフに作られます。今回はその『ゼロ・アワー〜東京ローズ最後のテープ〜』上演目前のレクチャーイベントに潜入し、さらにやなぎみわご本人へのインタビューも敢行。やなぎはなぜ、東京ローズの謎に魅せられたのでしょう。

謎の女性ラジオアナウンサー「東京ローズ」の光と影

「ハロー、太平洋上のみなし子ちゃんたち。こちらはあなたの敵よ……」。日本を代表する美術作家の1人、やなぎみわが新作演劇作品で挑むモチーフは、「東京ローズ」。6月9日、その取り組みの一部が明かされるレクチャー『私の声がきこえてる?』が、KAAT神奈川芸術劇場(以下KAAT)にて開かれました。

レクチャー『私の声がきこえてる?』会場風景

そもそも、史実上の「東京ローズ」とはどんな存在だったのか。壇上のやなぎさんが語り始めます。制作のために戦中のプロパガンダ放送についてリサーチしていたやなぎさんは、そこに登場する特異点としての「東京ローズ」に惹き付けられたと言います。

やなぎ:第二次大戦中、日本軍による連合国軍撹乱作戦の1つとして、主に南太平洋で戦う米軍兵士たちに向けて発信されたプロパガンダ放送番組がありました。ラジオ・トウキョウ放送(現在のNHKワールド・ラジオ日本)から発信されていた『ゼロ・アワー』です。ひとくちにプロパガンダ放送といっても、味方を鼓舞したり、敵の戦意喪失を狙ったりと色々ですが、この番組では女性アナウンサーの軽快なトークでジャズやブルースを流したりしていたそうです。


敵方の兵士たちに向け、長距離まで届く短波ラジオでの英語放送。そこで彼らに語りかける顔の見えない「声」の主に、いつしかリスナーがつけたあだ名が東京ローズでした。ときに友好的に語りかけつつ、ときに「今ごろ貴方の恋人や奥さんは、他の誰かと……?」といった毒のある言葉も差し挟んだり、極秘任務で移動中の兵士たちに「今からあそこに行くのでしょう?」とズバリ言い切った、という伝説めいた逸話も残されています。放送は1943年に始まり、終戦直前の1945年8月14日まで続いたそうです。

終戦後、連合国軍最高司令官マッカーサーと共に日本に上陸したアメリカ人記者の一部は、我先にとこの東京ローズを見つけてスクープを狙いました。そこで「発見」されたのが、日系アメリカ人「アイバ・戸栗・ダキノ」。カリフォルニア州出身で、親戚の見舞いのため初来日した最中に開戦、帰国できず滞在を続けていた女性でした。自宅に直撃取材を受けた彼女は、自分が東京ローズであったことを認めます。

やなぎ:ただ、実際には「彼女だけ」が東京ローズではなかったようで、今日では少なくとも該当し得る複数の女性アナウンサーがいたとも言われます。しかし、自分がそうだと認めたのは彼女だけでした。そんなこともあり、母国アメリカからも注目を浴びることになったのです。

レクチャー『私の声がきこえてる?』会場風景

突然「時の人」となり取材攻勢を受け、映画出演もしたというアイバ。しかしアメリカに帰国後、彼女が「日系アメリカ人」であることから、『ゼロ・アワー』でのアナウンス活動が母国を欺く行為として国家反逆罪で裁かれ、有罪判決を突き付けられます。

判決内容は禁固10年と罰金1万ドル、そしてアメリカ国籍の剥奪。日本で知り合い結ばれた夫とも別れを余儀なくされます。模範囚として6年2か月で出所、後に特赦を得て国籍も取り戻しますが、退役軍人会に「困難な時も米国籍を捨てようとしなかった『愛国的市民』」として表彰されたその年、90歳で世を去りました。

レクチャー『私の声がきこえてる?』会場風景

やなぎ:戦中、日本にいた日系外国人はいずれも国籍を日本に変更することを求められたそうです。でも、アイバはそれを拒否しました。もしそれが母国アメリカへの愛国心からだったとすれば、皮肉にもそのことが裁かれる前提を作ってしまったとも言えますね。そこには、戦争に運命を大きく狂わされた1人の女性の人生があります。しかし今回の新作演劇は悲劇のヒロインとしての「東京ローズ」より、そこで重要な役割を果たした「声」という存在に注目したものになると思います。

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イベント情報

やなぎみわ演劇公演
『ゼロ・アワー 〜東京ローズ 最後のテープ〜』

2013年7月12日(金)〜7月15日(月・祝)全6公演
会場:神奈川県 横浜 KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
作・演出・美術:やなぎみわ
音声デザイン:フォルマント兄弟(三輪眞弘+佐近田展康)
装置デザイン:トラフ建築設計事務所
出演:
松角洋平
荒尾日南子
吉田圭佑
高橋紀恵(文学座)
高橋牧
小田さやか
明季
声の出演:
Clyde Stroman
Lucas Kushner
松崎颯
Morley Robertson
料金:一般4,000円 学生3,000円 当日4,500円

『あいちトリエンナーレ2013国際美術展』

ワークショップ+パフォーマンス『案内嬢プロジェクト』
2013年8月10日(土)〜8月11日(日)
会場:愛知県 栄 愛知芸術文化センター内

『あいちトリエンナーレ2013』パフォーミングアーツ委嘱公演
『ゼロ・アワー 〜東京ローズ最後のテープ〜』あいち公演

2013年8月30日(金)〜9月1日(日)
会場:愛知県 栄 愛知県芸術劇場 小ホール

プロフィール

やなぎみわ

兵庫県生まれ。京都を拠点に活動。京都市立芸術大学大学院美術研究科修了。1990年代後半より、若い女性をモチーフに、CGや特殊メイクを駆使した写真作品を発表し、とりわけ、制服を身につけた案内嬢たちが商業施設空間に佇む『エレベーターガール』のシリーズで注目を集めた。2000年より、女性が空想する半世紀後の自分を写真で再現した『マイ・グランドマザーズ』シリーズ、少女と老婆が登場する物語を題材にした『フェアリーテイル』シリーズなどを手がける。いずれの作品にも、ジェンダー、若さと老い、美と醜といった女性を取り巻く問題への深い洞察があるとともに、語ること、場を設定することへの演劇的な関心を認めることができる。国内外での個展多数。2009年、『第53回ヴェネツィア・ビエンナーレ』日本館代表。2010年より演劇公演を手がけるようになり、2011年から新たに演劇プロジェクトを始動させた。大正期の日本を舞台に、新興芸術運動の揺籃を描いた『1924』三部作、明治後期のパノラマ館などを舞台にした『パノラマ』シリーズなど美術館と劇場、双方で上演した。

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