学校では教えない本当の「音楽」 RONDENIONインタビュー

2013年、旬のダンスミュージックである「EDM(Electro Dance Music)」。J-POPヒット曲のEDMリミックスが流行するなど、メジャーなダンスミュージックとしての地位を築きつつあるが、そういった画一的な流れが起こると、それに反発するかのようにアンダーグラウンドから面白い音楽が生まれてくるのもクラブ〜ダンスミュージックの魅力である。そんな現在、注目したいのは、世界的なムーブメントでもあるアンダーグラウンド / ニューディスコを通過した新世代のハウス系クリエーターたちだ。

このムーブメントは日本にも伝わり、2010年には約8年ぶりにハウス〜ディスコダブの先駆者DJ Harveyを招聘して話題となった『Rainbow Disco Club』をはじめ、ニューディスコシーンを牽引する2人組ユニットRub N Tugが出演した『XLAND』など、良質なアーティストを集めたフェスが各地で成功し、その波は確実に波及しつつある。そんな中、日本でも気鋭のハウス系クリエーターたちが存在感を強めていて、その中でも卓越したブラックネスを内包したハウスミュージックを世に送り出しているのが本稿の主役であるRONDENIONだ。

彼の最新作でありRONDENION名義としては1枚目のアルバム『LUSTER GRAND HOTEL』で聴けるサウンドは、ムーディーマンやセオ・パリッシュを彷彿とさせる漆黒のグルーヴミュージックであった。もともとクラシック畑で育ったという彼が、いかにしてダンスミュージックの虜になったのか? 幼少期の音楽体験から音楽学校時代の葛藤、さらにはダンスミュージックを経て開眼した独自の音楽哲学まで、あますことなく語ってもらった。

「好きです」を反復練習して上手に発音できる人より、片言の発音でもいいから、ちゃんと「好き」という想いを届けられる人が、いい音楽家です。

―子供の頃に音楽に魅了されたきっかけは?

RONDENION:最初にハマった音楽はTM NETWORKでしてね。小学校の頃に観た『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の主題歌が彼らの曲だったんです。生音だけのバンドサウンドでもなし、洋楽っぽい不思議な雰囲気があって、今でもとても好きな曲です。

―実際に音楽を始めたのはいつからだったんですか?

RONDENION:中学のブラスバンド部がきっかけです。兄に入部を相談したら「チェッカーズが吹いているサックスがカッコいい」って言われて楽器はサックスに決めた。そんな始まり方でしたね。

―でも、もうその頃から自発的に音楽をやりたいって思っていたんですか?

RONDENION:そう。入学式のとき、ブラスバンド部の生演奏に迂闊にも感動したんですよね。その時から音楽を実際にやりたいと思うようになりまして。しかもちょうどその頃になると、小室哲哉がメガヒットを飛ばし始めた「小室黄金期」が到来してたので、将来は彼みたいになるんだと思っていましてね。中学の頃にやってたバンドにはシンセサイザーを使えるメンバーがいて、これがあればTM NETWORKみたいな音楽ができるぞー! となったわけです。

RONDENION
RONDENION

―なるほど。そのあとはクラシック系の音楽高校に進学されるわけですよね?

RONDENION:そうです。そのままサックスで進学しました。音楽がどういう仕組みになっているのかちゃんと学びたかったんです。

―音楽理論に対する知的欲求が、すでにあったんですか?

RONDENION:中学のブラスバンド部の恩師はピアニストだったので、聴いたことのある曲であれば、楽譜を見ずして演奏することができたんです。当時の僕にとってはもう魔法みたいに思えたんだけど、自分でもいくつかの曲をコピーしているうちに、どうやらこれにはルールがあるぞ!? っていうのが見えた。そのルールを身につけるという意味でも音楽理論の勉強はしたかったし、実際それは面白かったんですが、高校時代に音楽自体の魅力を上手く伝えてくれる講師には出会えなかった。それがとにかく嫌でしてね。おいおい、音楽のプロなのにそれはないだろ? という気分です。

―それでも音大進学の道を進んだのはどうしてなんですか?

RONDENION:東京に行けばいい環境で音楽が学べると思ったからです。それでもやはり僕の知りたいことを教えてくれる人に出会えなかったので、音大もすぐに辞めました。

―高校のときと同様、「音楽の魅力」を教えてくれる人がいなかった?

RONDENION:いません。いるんでしょうが、出会えませんでした。学校では「楽譜を上手く演奏するための練習」に終始する事がほとんどです。演奏の正確さだけを鍛錬しても、それで音楽の表現が上手くなるとは到底思えないわけですよ。例えば「好きです」っていう楽譜があったとして、どんなに「好きです」を上手く発音できるようになったとしても、想いが伝わらなかったら意味がないんです。片言の発音でもいいから、ちゃんと「好き」という想いを届けられる人が、いい音楽家なんですよ。

―すごくよくわかります。そういう部分に、教育の難しさがありますね。

RONDENION:そういうことが知りたいのに、どうしても試験対策になっていっちゃいます。学校にも都合があるでしょうが、前例の無いものに点数は付けられないのでハミ出した演奏は許されない。それだと芸術ではなくなってしまいます。高校のときも、卒業試験の課題曲を、生徒はみなレッスン通り演奏するわけです。僕にはそれが音楽を演奏しているように聴こえない。オメーらそんなんじゃ足りねーよって事で、僕はその課題曲を自分流にリアレンジして卒業試験に挑むわけです。これが俺の演奏だ! というのを、奴らに見せつけてやったら「こんなものは試験でも何でもない!」って、採点用紙を破り捨てて先生は出ていきましたけどね。それでも評価してくれる人はいましたが、危うく卒業出来ないところでした。マジメに音楽に取り組んだ結果ですよ。

―なぜそんなマジメに「音楽」に取り組んでいったんでしょう?

RONDENION:単純に好きなんですよ。自分にとって音楽とはどうあるべきなのかが重要であって、それを利用して試験に受かるとか、ご飯を食べるとかいう風には思えない。

アートとは「関わる人たちの人生を変えてしまうもの」と僕は定義しているので、そういう意味で「サンプリング」は、ひとつのアートフォームになりうる。

―面白いですね。しかしこのままだとなかなかテクノの話に辿り着かない気がするので(笑)、最初に出会ったダンスミュージックについて教えてください。

RONDENION:そうですね、4つ打ちの初体験は小室哲哉プロデュースの楽曲や、たまにポップフィールドに顔を出してくる坂本龍一とかですか。その後、Frogman Records(日本のインディーズレーベルで、KAGAMIやRIOW ARAIなど多くの日本人クラブミュージシャンを輩出した)を発見したのが今のキャリアの始まりでしたね。ちょうど僕が18歳くらいのときに音楽雑誌『GROOVE』にFrogmanのレーベルカタログが付録CDでついていて、それに収録されていたKAGAMIのトラックが面白くて、自分でもやってみるべきだと思ったわけです。

―では、クラブに通ううちに現場でダンスミュージックに魅了されて、それらの音楽に傾倒していったタイプではなかった?

RONDENION:ええ、むしろクラブはレコードデビューが決まってから初めて行ったくらいで、どちらかと言えばダンスミュージックの音楽的な部分に興味を持ってました。だから僕が制作する音楽は、もちろんダンスミュージックなんですけど、リスニングミュージック的な感覚はあると思います。

―クラシックを通ってきたという経歴からして、RONDENIONさんがダンスミュージックに興味持つのって意外だと思うんです。ずっとループしていて退屈だって言う人もいるわけですが、ダンスミュージックのどこに魅力を感じたのですか?

RONDENION:単純なんですよね、音楽の楽しみ方が。音楽を形成する要素がシンプルな分、作り手のアイデアが見えやすくて強烈だし、ちょっとした違いが大きく音楽自体を左右するところが面白い。

―今のRONDENIONのサウンドを聴くと、まず印象に残るのはブラックミュージックのフィーリングです。その感覚はどうやって培ったんですか?

RONDENION:興味の赴くままダンスミュージックを調べていくと、黒人のコミュニティーから派生していることがわかって、シカゴ〜デトロイトのダンスミュージックに辿り着きます。それが自分にとってのブラックミュージックになっていきましたが、これはもう時代とタイミングの問題なんですよ。その当時に4つ打ちの音楽を深く掘れば、誰だってシカゴハウスやデトロイトテクノに必然的に辿り着くわけです。その中でもサンプリングでトラックを作っているアーティストは特に気になりましてね。ヤツら、どうやらサンプリングで曲を作ってるらしい? だったら俺もやってみせる! となったわけです。

RONDENION

―サンプリングによる楽曲制作の手法を知るようになって、制作のスタイルも変わりましたか?

RONDENION:変わります。これまで自分が培ってきた音楽制作の基盤や概念はサンプリングという手法にはまったく通用しません。自分が常識だと思っていた事が全部崩されるわけです。音楽学校を経てきた人間にとって、既存曲の一部を拝借して別の新しい曲を作ろうなんてのは、全く想像していない世界ですからね。サンプリング手法は間違いなく音楽的「発明」と呼べますし、アートなものだとも思いました。

―アートですか?

RONDENION:僕はアートを「関わる人たちの人生を変えてしまうもの」というふうに定義してますので、そういう意味でサンプリングは、ひとつのアートフォームになりうるんです。現に僕はこの制作手法で生きる哲学を変えられてしまったわけです。「今までの自分の常識」が通用しないのですから、生き方そのものを変える必要がある。サンプリングする限り、変わってしまうという方が正しいかもしれません。

―サウンドだけじゃなくて、サンプリングの発想そのものに惹かれたんですね。

RONDENION:そうです。それまでは音楽という世界の中に自分がいて、その音楽世界のルールや決まり事にのっとって、音楽を作ったり解釈したりしていたんです。でも逆にその考え方が、自分の中の音楽を狭いものにしていたと思えるのは、サンプリングという手法が音楽世界の外の話だからです。

―既存の音楽世界から外に出てみることで、音楽の解釈がより幅の広いものになる、ということですか?

RONDENION:広がるというより、解釈が変わるんです。音楽って人間が作るものなので、その人がどういう人間であるのかが重要なんです。その人の解釈によって、音楽が決まる。音楽が変われば、その人も変わるという事です。僕はサンプリングを始めた時点で違う人間になってしまったわけです。音の影響で人が変わる良い例ですよ。それに加えて著作権的に面倒な話もありますし、ある意味で直接、音楽には関係のない事まで考えなくてはいけない。でも、だからこそ僕が音楽に求めていた、アートに繋がる活動っていうのが「サンプリング」の中にあるのかもしれない。それをちゃんとやってみたいと思うんですね。

長い間、騙されてました。音楽には「メロディー」「ハーモニー」「リズム」の3つが必要とされますが、実際にはそれが無い音楽はたくさんある。

―そういう流れで、サンプリングを主体としてトラック制作を始めていったと。

RONDENION:そうなんですけど、すごくマジメな人間なので割ときっちり作っちゃうわけですよ。大振りなサンプリングもやりますが、それが得意な方ではないでしょうね。大ネタだって、ラフに使えばいいのにって自分で思うんですが、それをなかなかやらない。でもここ数年は、向こうのミュージシャンたちが、なぜこうもフランクかつラフにやれるのかわかるようになったんですよ。

―ぜひ教えてください。

RONDENION:音楽の解釈の仕方が全然違います。どう違うかというと、我々日本人はビートを音楽の「一要素」だと捉えるのに対して、彼らはビートそのものを音楽として解釈しちゃう。4つ打ちが鳴っているだけでも音楽になるわけなので、我々に比べれば音楽をラフに扱う癖があります。それに気づいてから、急に海外からのリリース話が増えたということもあるんですよ。

―面白いものですね。

RONDENION:面白いんです。まさに音が人を変えるということです。しかし長い間、騙されていましたが、みなさんもご存知の通り、音楽を構成する要素は「メロディー」「ハーモニー」「リズム」の3つだと言われています。が、実際にはメロディーやハーモニーが無い音楽はたくさんあるわけです。逆に、どんな音楽でも、リズムだけは絶対にある。始点と終点があればそこに時間の流れが成立するので、それはリズムとして解釈できます。ジョン・ケージの“4分33秒”ですら始まりと終わりはありますからね。だから僕は、すべての要素をリズムとして解釈するのがダンスミュージックに向き合う正しい姿勢だとしています。

RONDENION

―全ての要素がリズムというのは、どういうことですか?

RONDENION:音楽は数多くの音で構成されているわけですが、様々なデカい音や小さい音が、それぞれのタイミングで鳴っている時間軸を、音楽と捉えるんです。例えば2個の音のハーモニーよりも10個の音のハーモニーの方がデカい音が鳴るし、高い音や硬い音の方がより耳に響きます。それらを使ってリズムを組むんです。メロディーやハーモニーは、様々な強弱の音の「鳴るタイミング(リズム)」が違うことで作られているだけで、決して、メロディーやハーモニーが「鳴るタイミング(リズム)」を作ったとはしないんです。これは解釈の問題なんですよ。 ルサンチマンが原動力でもあるし、ルサンチマンを克服していくのがRONDENIONの目標でもあります。

―ちょっと話を変えますが、名義をHirofumi GotoからRONDENIONに変えた理由は?

RONDENION:海外での活動が増えた時期だったので、ネットで検索したときにかぶらない言葉がいいというだけですね。

―では、そのRONDENIONとしての初アルバム『LUSTER GRAND HOTEL』ですが、これまでお伺いしてきたような細かさだったり理詰めな印象をまったく感じさせない、いい意味でラフなグルーヴに仕上がっていて驚きました。

RONDENION:そう言ってもらえると嬉しいですね。いろいろ堅い話をしましたが最後にはラフにやりたいんです。たかがダンスミュージックという体裁は守りたいんです。

―それがコンセプトになっている?

RONDENION:このアルバムのコンセプトは「1人で仕事を完結させない」っていうものでした。色んな人の意思を反映させることでアルバムにゴツゴツとした感じを出したかったんです。それがあって、今作のタイトルにもある映画の技法「GRAND HOTEL=群像劇」をアルバムに活用したんです。

―具体的に言うと?

RONDENION:他の人を制作に参加させると僕の意思だけで作品をまとめられなくなるんですよ。だったらまとまっていなくても、まとまる方法はないものかと発想したんです。群像劇は、同一の時間かつ同じ場所に集まった複数のグループの行動を一度に描くというものなので、集まったグループ同士が勝手に行動して、別のストーリーが生まれたりもします。つまりそれぞれの曲を群像と例えるわけです。そうすれば各曲が作者の意思以外のところで動いても、アルバムとしての共通イメージを保持できると思ったんです。なので海外盤と日本盤では曲順も違うし、選曲もレーベルに任せた部分がある。どの曲から始まっても作品となり得る自信があったし、そういうゴタゴタがアルバムに聴きごたえのある「何か」を付加させるんです。

―なるほど。では、そうしたRONDENIONの創作意欲っていうのは、どんなところから生まれているのか教えていただけますか。

RONDENION:一言でいうとルサンチマンでしょうね。例えば、僕はクラブミュージックを迂闊に好きになってしまったがために、憧れていた小室哲哉みたいなメインストリームな道を歩んではいません。そこにルサンチマンは宿るんですよ。「なぜなら俺の音楽はお前とは違うから当然だ! 魂は売るもんじゃねえんだぜ?」っていう、ある種の嫉みのような思いが生まれてしまう。それが原動力でもあるし、そういうルサンチマンを克服していくのがRONDENIONの目標でもあります。

―確かに今日お話を伺っていて、RONDENIONさんの「そうじゃない、違うんだ!」っていう葛藤と前進、そしてそこから生まれる思想というのは、とても興味深いものでした。今後、RONDENIONとしてはどんな活動をしていく予定ですか?

RONDENION:信頼できる仲間と共に活動の拠点を目に見える形にしていきたいですね。自分でRagrange Recordsを立ち上げたのもそうなんですけど、海外の色んなレーベルからリリースをしていると、RONDENIONは一体どこを軸に活動しているアーティストなのか、わかりづらい。そういう意味でも、自分のレーベルを中心として、ちゃんとした足場を作っていきたいと思います。

リリース情報
RONDENION
『LUSTER GRAND HOTEL』(CD)

2013年10月9日発売
価格:2,200円(税込)
Plug Research/Underground Gallery

1. Plus Eight
2. Babel
3. Assemblage
4. Never Despair
5. Well Done
6. Joy
7. Glitter Hole
8. Moon Sniper
9. Memories
10. Hallucination

プロフィール
RONDENION(ろんでにおん)

DJ/プロデューサー。90年代後期からHirofumi Goto名義でアーティスト活動を開始し、世界リリースされた"Ameria EP"は日本人とは思えぬ黒いビートで注目を集め、Derrik May等のトップDJたちにプレイされた。後にシカゴ/デトロイトへの敬意を形にすべく名をRONDENIONと改め海外のレーベルを中心にリリース活動を展開し、大手レーベル「Rush Hour」からリリースされた「Love Bound EP」がBIGヒットを記録。RushHourStoreのセールスチャートのTOPに輝き、欧州での人気を獲得する。日本国内では「日本人離れした漆黒のサウンド」と評された。近年は自身のレーベル"Ragrange Records"を中心にダンスミュージックシーンに新たなサウンドを提案している。



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