止められない破壊衝動 ハルカトミユキインタビュー

<引きずり出して飛び散った 赤や緑のハラワタ / 「早くなんか言えよ」>(“マネキン”)<毛頭、伝える気がないなら 今すぐに消えろ。>(“mosaic”)

11月6日に発表される初のフルアルバム『シアノタイプ』から、先行で公開された2曲の歌詞を見てもわかるように、ハルカトミユキの表現の背景には、多くの場合何らかの「怒り」が存在し、ときにそれは「破壊衝動」と言えるほど強烈なものとなっている。果たして、この「怒り」は何に対して生まれ、どこに向けて放たれているのだろうか? ハルカトミユキの魅力を探る連載企画、先日のハルカと穂村弘の対談に続いて、今回はメンバー二人へのインタビューを敢行。ユニットの結成以前までさかのぼり、この二人が共に音楽を鳴らすことの必然性を改めて探ってみると、彼女たちがあくまで自らをマジョリティーと捉え、1人でも多くの人へと音楽を届けようとする理由がはっきりと浮かび上がってきた。『シアノタイプ』の発売までは、あと約3週間。その出来は、決してあなたを裏切らない。

男性的なものへの憧れはすごくあります。(ミユキ)

―ミユキさん、ハルカさんと穂村弘さんの対談は読んでもらえました?

ミユキ:はい。ただ、穂村さんのことはよくハルカが言ってるから知ってはいたんですけど、歌集は、穂村さんのもハルカのも読んだことがなくて……。

―そうなんだ(笑)。ミユキさん、本はほとんど読まないそうですね。

ミユキ:はい。(歌集を)開いてはみたんですけど、ちょっとわからないなと思って……。でも、対談でハルカがフェスのことを言ってたじゃないですか?

―「盛り上がるかどうか」ということが最優先になっているような状況の中で、自分たちの存在意義を改めて考えたっていう話ですよね。

ミユキ:はい、私も同じことは感じてて。人それぞれ楽しみ方はいろいろだと思うけど、ワーッてならなくても、立ちすくんじゃうような感動のさせ方って、すごくかっこいいなって思うから、ハルカトミユキもそういうライブができるようになれたらいいなって。

―対談の中で、ハルカさん一人称の話が出たじゃないですか? 歌詞だと「僕」で、短歌だと「私」が多いっていう。あの理由を考えたんですけど、ハルカさんって、好きなアーティストとして男性のバンドをよく挙げてますよね。銀杏BOYZ、THE BACK HORN、エレファントカシマシとか。そういったバンドの影響で、歌詞の一人称が「僕」になってるんじゃないかと思ったんですけど。

ハルカ:確かに男の人の歌を聴いてきたし、男性的な破壊衝動への憧れは多分にありました。でも、私の声は女性の声だし、そういう方に行けないことがコンプレックスだったんですよね。すごく意識していたわけではないけど、男性的なものや中性的なもの、ジェンダーレスな方向に自然と向かっていったのかもしれないです。

左から:ハルカ、ミユキ
左から:ハルカ、ミユキ

―そもそも、男性的なものへの憧れはなぜ生まれたんでしょうか? 例えば、昔から女の子同士で群れることに違和感を感じるようなタイプだったとか。

ハルカ:完全に、違和感を感じるタイプでしたね(笑)。大衆的なものにもすごく抵抗があって、何か人と違うものが好きだったり、女の人の集団のキャピキャピした感じが性格的に好きじゃなくて。

―その感覚は、きっとミユキさんも持ってるものですよね?

ミユキ:男性的なものへの憧れはすごくあります。シャウトとか、私には絶対できないから、すごく憧れるし、服装も中性的に見えた方がいいなって思うし、群れるのは無理だし。そこに関してはまったく一緒ですね。

―家族の影響ではない?

ハルカ:私は妹が2人いて、女ばっかりの家で育ったから、昔は男性的なものに全然触れてこなかったんです。でも、小っちゃいときから活発で、ボーイッシュなタイプではあったんですよね。

ミユキ:私は一人っ子なので丁寧に育てられてきたんですけど、厳しいところは厳しくて、小さいときは漫画もアニメも見せてもらえなかったから、それに対する反発でかけ離れた方に行ったのかなっていうのは、ちょっと思ったりしますね。

本物の悪にもなれないし、自分はどっちにもいい顔して、中途半端で、「全然ホントじゃない」みたいな。(ハルカ)

ハルカ:ずっと変身願望というか、自分じゃないものになりたいっていうのはあったんですよね。だから、女性性の対極にあるような激しい表現や破壊衝動にすごく魅力を感じてたのかも。

―「変身願望」を持ってること自体は、すごく女の子らしいですよね。でも、パターンとしては、音楽でしかコミュニケーションできなかったような内気な子が、何かをきっかけに、カラフルでポップな表現に向かうことが多いのに対して、ハルカさんみたいに、それが破壊衝動に向くのは、珍しいかもしれないです。

ハルカ:私はその逆で、もともと元気なタイプだったけど、ワイワイするのに疲れてる自分に気がついたんですよね。子どものうちは周りに合わせないといけないと思ってたんですけど、中学や高校に進むにつれてどんどん居心地が悪くなっていって、今はそっちを表現してるというか。

ハルカ

―無意識に押さえつけてた部分が、今は表出してると。

ハルカ:暗いことを思ったらダメ、怒ったらダメ、泣いたらダメっていう、どっちかっていうと優等生だったので……。当時は別に厳しくないと思ってたけど、家でもすっごく勉強させられて。

―ああ、それは厳しい方かも。

ハルカ:学校での成績もよかったし先生にも気に入られてたんですけど、裏で悪い人たちとつるんでるようなタイプで、その感じが嫌だったんです。なので、大学まではちゃんと入って、そこからは自由にやってやろうっていう気持ちがありました。

―そうしたら、同じ匂いを感じるミユキと出会ってしまったと(笑)。つまり、「破壊衝動」という言葉は、ある種「自分を壊す」ところがスタートになっている。

ハルカ:そうかもしれないです。根が真面目なことも自覚してて、それがすごく嫌だったんですよね。本物の悪にもなれないし、自分はどっちにもいい顔して、中途半端で、「全然ホントじゃない」みたいな感覚が昔からあって。大人の言ってることも全部見えてしまって、「こういうことを言ったら喜ぶ」ってことも何となくわかって、それをしてる自分もすごく嫌でした。

―そういう自分に気づいたきっかけがあったんですか?

ハルカ:太宰治の『人間失格』を読んだときに、すごく共感しちゃったんです。あれを読んで「ホントにこいつ嫌なやつだな」って思う人もいっぱいいると思うんですけど、私は、自分もこういう人間なんだから、押さえつけていたものを壊しちゃえばいいんだって思ったんです。

情熱的な赤よりも、静かだけど、熱くて強い青がしっくりきたんです。(ハルカ)

―ここまで話してもらったことって、ハルカトミユキの表現のベーシックとして、すごく大事な話だったと思うんですけど、当然、今回のアルバムとも関連してくると思うんですね。『シアノタイプ』というタイトルは、文字通り「青写真」、つまりは「ハルカトミユキの未来の青写真を描いた1枚」ともとれると思うけど、一方で「自分たちの青さと向き合った作品」でもあるのかなと思って。

ハルカ:「青さ」がなくなっちゃうとダメだなって思います。特に私が書く歌なんて、「青さ」から来てる部分がすごくあるから、歌を書く人間としては、ずっと子どもでいるような感覚でいたいんです。

―「青の時代の終わり」を表明したかったのではなく、「青さ」は自分の表現の一部だと肯定しているわけですね。『シアノタイプ』という言葉自体は、どこから出てきたんですか?

ハルカ:感覚的に「青写真」っていうのが浮かんで、それを「シアノタイプ」に変換しました。「青写真を描く」っていう意味合いよりも、ビジュアル的な青さが浮かんだんですよね。このアルバムには、青いビジュアルがすごくはまる気がして。

―「青」って一言で言っても、グラデーションがあると思うんですけど、ハルカさんのイメージする「青」はどんな「青」だったんですか?

ハルカ:炎って、青い方が赤いよりも熱いじゃないですか? そのイメージは昔からすごくあって、情熱的な赤よりも、静かだけど、熱くて強い青がしっくりきたんです。

―「若さ」という意味での「青さ」は、ミユキさんにとっても大事?

ミユキ:私はそれこそ中2男子みたいな部分がすごくあると思います(笑)。嫌いなものは徹底的に受け付けないし、すごく頑固なところがあって。普通に生活する上では、「人としてどうなの?」って思ったりするんですけど、音楽だったら、そのこだわりは通していいと思うし、むしろ誇れることかなって思います。

左から:ハルカ、ミユキ

ハルカ:人間として大人になることと、アーティストとしてずっと子どもでいることの難しさはよく感じることで。怒って曲を書いたりするんですけど、でもその怒りって、生活する上では抑えなきゃいけないときもあるんですよね。そうやって大人になることで、表現者としての怒りの感覚が鈍っちゃうんじゃないかなって。

―確かに、難しいところですね。

ハルカ:鈍感力ってあるじゃないですか? それがあれば、生きていく上ではよっぽど楽なんですけど、そうなってはいけないっていう気持ちもあって、常にその狭間にいる感覚なんです。

―アルバムの中にはさまざまな怒りが込められていますが、ハルカさんが歌詞を書くにあたっては、何に対する怒りが根本になっていると言えますか?

ハルカ:一番根底にあるのは、同調圧力に対する違和感、拒否感ですね。Twitterや政治、大衆文化的なものだったり、対象は変わるんですけど。

―やっぱり自分自身がそういう同調圧力の中で生きてきて、それをずっと押し殺してきたからこそ、今はそこに対する怒りが強烈な表現へとつながっているんでしょうね。

ハルカ:居心地が悪いのに、「何で一緒にそこにいないといけないんだろう?」って感じてきたことが、拒絶反応につながってるのはあると思いますね。

感覚的なことが一番人をびっくりさせることができると思うので、そこにちょっと知能的なものを入れていきたい。(ミユキ)

―サウンドは言葉の意味を補完するための意味合いが強いのか、それとも、サウンドはサウンドで独立しているのでしょうか?

ミユキ:サウンドを作るときに歌詞の世界はあんまり意識してなくて、普段はコードだけを聴いて、そこにぶち当たっていくようなフレーズを思いつきで入れています。それを頭で考えてしまうと、コードに寄り添った音になっちゃって、つまんないものになっちゃうんですよね。よく「壊してください」って言われるので、“mosaic”とか結構壊すようなフレーズを入れたんですけど、それは結局すごく小っちゃい音で入ってて……壊しすぎました(笑)。

―“mosaic”の間奏は十分壊してると思いますけどね(笑)。何にせよ、一番大事にしてるのは、感覚的な部分だと。

ミユキ:そうですね。“振り出しに戻る”なんかは完全に遊んでますからね。ただ、そういう風に遊んでるから、“長い待ち合わせ”や“Vanilla”みたいな曲でガッチリと世界観を作ったときに、より伝わりやすくなるかなと思ってて。あとは、大学で出会った頃からハルカの声とメロディーラインはすごくきれいで、みんなに入っていきやすいと思ってたから、それさえあれば私がどんなに壊しても、面白いものになると思うんです。

―ミユキさんは海外のインディーロックがお好きなんですよね?

ミユキ:大好きです。今年は一人で『フジロック』に行って、一人で堪能してきました(笑)。最近はPARADESとかPASSION PITとか、あとMUMの新作もすごく良かった。

―カラフルなサウンドメイキングは、その辺りの影響も大きいわけですよね。

ミユキ:大きいですね。でも、一番尊敬してるというか、「この感じだな」って思うのは、ジェイムス・ブレイクですね。声のハーモニーやコードも秀逸だなって思うし、キーボーディストとしてもすごく尊敬してます。

―ここでジェイムス・ブレイクの名前が出てくるあたり、やっぱり感覚派ですよね。身体的な快楽に忠実というか。でも、今回はミユキさん作曲のインスト“7nonsense”もありますし、技術的な面でもすごく向上してますよね。

ミユキ:今回Cubase(音楽制作ソフト)を買って、一緒にアレンジをしていただいた安原兵衛さんから基本的な使い方や、声の加工の仕方を教わったんです。レコーディングとミックスはエンジニアの渡部高士さんにしていただいたんですけど、それもすごく勉強になりました。ただ、やっぱり感覚的なことが一番人をびっくりさせることができると思うので、そこにちょっと知能的なものを入れていくやり方を続けていきたいと思います。

―ハルカさんとミユキさんの二人ではどんなやり取りをしてるんですか?

ハルカ:歌詞のことは気にせず弾いてもらいたいし、むしろ「歌詞がこうだから、真逆のことをやってほしい」って言ったりします。音色は「もっと冷たい感じ」とか「もっと残酷な感じ」とか、イメージで伝えて弾いてもらうっていう感じです。

―そのジャッジは感覚的に行ってると。

ハルカ:それが見つからないときは、延々何時間も、千本ノック状態(笑)。

ミユキ:延々黙って弾き続けて……。

ハルカ:「今の!」って(笑)。その1個が決まれば、曲全体がバーッと決まっていくんですけど、それが決まるまでは地獄だよね(笑)。

左から:ハルカ、ミユキ

私はものすごくマジョリティーなことを言ってるし、歌ってると思ってる。(ハルカ)

―僕はハルカトミユキの音楽っていうのは、より広いマスに届けられるべき音楽で、今のロックフェス的な価値観に合わせる必要はないと思ってるんです。今日話してもらったような同調圧力に対する違和感っていうのは、きっと誰もが沸々と感じているものだと思うし、あくまでポップミュージックとして成立させてるわけだから、むしろこういう音楽こそが今マスで鳴らされるべきだって、すごく思います。

ハルカ:こんなことは意識したことも口にしたこともないですけど、私はものすごくマジョリティーなことを言ってるし、歌ってると思ってて、大げさに言うと、私たちの音楽を日本全国みんなが聴いていたとしても、不自然じゃないっていう感覚は、漠然とだけどすごくあるんです。

―うん、決して間違ってないと思います。

ハルカ:フェスでのらせるバンドをディスってるわけじゃなくて、楽しく盛り上がって初めて成立する音楽ってあるじゃないですか? それに比べたら、私たちの音楽はよっぽど広く届くものだっていう自信はあるんです。私たちの音楽は、実はお客さんを盛り上げる可能性も秘めてると思っているんですけど、盛り上げて初めて成立する音楽は、私たちが目指す音楽のように人を立ちすくませることはできないんじゃないかって。だから、根本的にはこのままやっていけばいいんじゃないかと思ってるんです。

―その目線の広さはすごく重要なことだと思います。

ハルカ:色物に走ったり、パフォーマンスを派手にしたりしてわかりやすくすることは簡単だし、そういうバンドはいっぱいいると思うんですけど、今はそこをグッとこらえてます。「またこういうの出てきたけど、それはやらないぞ」って思いながら、あえて茨の道を行ってるっていう。

―これまでに出た2枚のEPのタイトルが短歌になっていたのに対して、今回は一語でビシッと言い切ったタイトルになってるのも、「マジョリティーへと打って出る」みたいなイメージがあったんですか?

ハルカ:それもあったかもしれないですけど、単純に、「いつまで短歌で行くんだろう?」って(笑)。それに、5曲入ってて、タイトルが短歌っていうのと、12曲入ってて、タイトルが1つの単語っていう、そのバランスだからこそ成立するんだと思うんですよね。

―そのバランス感はすごくわかります。ミユキさんは自分たちの立ち位置について、どう捉えてますか?

ミユキ:私はステージで踊ってますけど、別にみんなに踊ってほしくてやってるわけじゃなくて、それを見て楽しんでいただければいい。自分でライブを見に行くときも、初めて聴いてだんだん体が勝手に動いて、最終的に手が上がっちゃうみたいな、そういうときが一番楽しかったなって思えるんですよね。

―同調圧力ではなく、そういう空間を作れればベストですよね。

ハルカ:それこそ、バンド自体も同調圧力に負けないことって大変で、特にフェスみたいな場所に出ると、「自分たちも同じようにやんないとな」って思っちゃったりもすると思うんですけど、そこは屈せずに、自分たちのやり方を貫いていきたいと思います。

イベント情報
ハルカトミユキ ワンマンライブ
『シアノタイプ』

2013年12月10日(火)OPEN 19:00 / START 19:30
会場:東京都 新代田 FEVER
料金:前売2,300円(ドリンク別)

リリース情報
ハルカトミユキ
『シアノタイプ』(CD)

2013年11月6日発売
価格:3,150円(税込)
AICL-2598

1. 消しゴム
2. マネキン
3. ドライアイス
4. mosaic
5. Hate you
6. シアノタイプ
7. 7nonsense
8. 振り出しに戻る
9. 伝言ゲーム
10. 長い待ち合わせ
11. ナイフ
12. Vanilla

プロフィール
ハルカトミユキ(はるかとみゆき)

2012年終盤に突如現れた、新生フォークロックユニット、ハルカトミユキ。詩人・ハルカ(Vocal / Guitar)と奇人・ミユキ(keyboard / Chorus)のデュオ。1989年生まれの二人が立教大学の音楽サークルで知り合い、唯一「同じ匂いがする」とひかれあう。森田童子、銀杏BOYZ、ニルバーナを同時期に聴いていた「言わない」世代が静かに奏でるロックミュージック。2012年11月14日、『虚言者が夜明けを告げる。僕達が、いつまでも黙っていると思うな。』(H+M Records)でデビュー。iTunesが選出する2013年ブレイクが期待新人アーティスト「newARTIST2013」にも選ばれる。2013年3月13日、2nd e.p.『真夜中の言葉は青い毒になり、鈍る世界にヒヤリと刺さる。』(H+M Records)を発売。2013年11月6日に待望のメジャー移籍第1弾となる1stフルアルバム『シアノタイプ』を発売予定。



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