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生ける伝説の素顔に迫る 喜多郎インタビュー

生ける伝説の素顔に迫る 喜多郎インタビュー

インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:高見知香
2013/12/25

マイケル・ジャクソンの『スリラー』ツアーで使われていたSynclavierが家にありますよ。鍵盤を押すとマイケルの歌声が再生されるようになっているんです(笑)。

―アナログシンセは今も使っているそうですが、「お宝」的な珍しいシンセもお持ちですか?

喜多郎:マイケル・ジャクソンの『スリラー』ツアーで使われていたSynclavier(シンクラヴィア / シンセサイザー、サンプラー、シーケンサーなどを統合した電子楽器)が家にありますよ(笑)。ツアーバンドでキーボード奏者だったクリストファー・カレルが僕の友人で、彼から譲り受けたものなんです。マイケルの歌声がサンプリングされていて、鍵盤を押すとそれが再生されるようにもなっているんですよ(笑)。

―ええ!? それはすごいですね!

喜多郎:ただね、そのSynclavierに入ってたデータが今、自宅で行方不明なんです。コンピューターのシステムを変更したとき、そのままどこかへいってしまって……。ストレージしてあるはずなんだけどなあ。あれを見つけられたら大騒ぎだと思うんだけど(笑)。

細野さんたちと同じことやってもなあ……という気持ちはありました。シンセサイザーの世界を広げていくためには、色んなものがあった方がいいと思うしね。

―喜多郎さんがシンセサイザーに傾倒していった頃、日本では冨田勲さんやYellow Magic Orchestra(YMO)など、他にもシンセサイザーを駆使した音楽を作るアーティストが次々と登場して、世界的にも話題になっていきます。彼らに対してライバル意識などはありましたか?

喜多郎:冨田さんはドビュッシーのアレンジをやっていて「すごく綺麗だな」と思っていたし、クラシックをシンセに置き換えるアイデアは面白いと思いました。一方、細野さんたちはKraftwerkを始めとするヨーロッパの電子音楽から影響を受けた曲を作っていたから、「僕が同じことやってもなあ……」という気持ちはありましたね。元々路線も違ったし、それほど意識したり競争心を持ったりはしなかったかな。「みんな、頑張ってるな」って。シンセサイザーの世界を世に広げていくためには、1つの音楽ジャンルを全員で突き詰めても仕方ない。色んなものがあった方がいいと思うしね。

喜多郎

―1985年にアメリカのゲフィンレコードから6枚のアルバムがメジャーリリースされ、喜多郎さんは、「ニューエイジミュージックの先駆け」として世界中でファンが急増します。

喜多郎:「ニューエイジ」という言葉が出てくる前は、僕の音楽は「マインドミュージック」と呼ばれていたんですよ。1978年に初ソロアルバム『天界』をリリースしたとき、レコード会社が戦略的に命名した。それがいつの間にか「ニューエイジ」って呼ばれるようになっていく……。ジョージ・ウィンストンとかマイケル・ヘッジスとかそういう人たちが出てきて、グラミー賞に1986年から「ニューエイジ部門」が設立されたのは大きかったですね。僕は翌年、尊敬するGrateful Deadのパーカッション奏者、ミッキー・ハートとの共同プロデュースで『THE LIGHT OF THE SPIRIT』というアルバムをリリースしたのですが、その中の楽曲“The Field”が、グラミー賞の「ベスト・ニューエイジ・パフォーマンス」にノミネートされました。

ヤッピーたちは僕と同世代なので、一緒に歳を取ってきたっていう意識はどこかにあります。彼らが僕の音楽に「東洋哲学」的なものを感じ取り、癒しを求める気持ちもよく分かりました。

―今の若い世代にとっては、「ニューエイジ」というジャンル自体に馴染み薄い人が多いと思うんですが、そもそもどのようにして誕生し、どんな定義なのかを教えてもらえますか?

喜多郎:1980年代の初め頃、「ヤッピー」という言葉がアメリカで使われ始めたのはご存知ですか?  当時20代後半から30代後半で、都会に住んで高収入を得る仕事に就いた人たち。スーツや車、住居などにお金をかけるような人たちを指す言葉です。彼らはヘルシーな食事を好み、瞑想やヨガを実践するなど精神的な部分での「癒し」を求めていた。そういう人たちが聴いていた音楽が「ニューエイジ」と呼ばれるようになったんです。彼らは年齢的には僕と同世代なので、一緒に歳を取ってきたっていう意識はどこかにありますね。

―喜多郎さんは1980年代後半、長野の山中からアメリカのコロラド州へと活動の拠点を移されます。そこには、「ヤッピー」と呼ばれた人々に向けて音楽を発信しようという意識もあったわけですか?

喜多郎:最初は全然なくて、自分の音楽を、自分の生活の中でクリエイトしていくということだけを考えてました。移住した場所はロッキー山脈の麓で、とにかく素晴らしい環境だったんです。「こんなところに住んでていいのかな?」って毎日思っていました(笑)。幸せでしたね。だって、標高2,800メートルで暮らしていると、雪が結晶の形をしたまま降ってくるんですよ。それを手のひらで受けとめても、しばらく融けない。そういう美しさは、都会にいたら感じられないじゃないですか。ただ、そうした環境で作られる僕の音楽の中に「東洋哲学」的なものを感じ取り、そこに癒しを求めるヤッピーたちの気持ちはよく分かりました。そしてそれが、「よし、この国に腰を据えて音楽を作っていこう」という意識にも繋がっていったんだと思います。

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リリース情報

喜多郎<br>
『Final Call』(CD)
喜多郎
『Final Call』(CD)

2013年9月4日発売
価格:3,150円(税込)
YZDI-10106

1. Final Call
2. Jupiter's Beam
3. Yo-en
4. Shadow Of The Moon
5. Traveler
6. Valley Of The Spirit
7. After Glow
8. Wind From The Desert
9. Moment Circle
10. Whispering Shore
11. Solar Eclipse

プロフィール

喜多郎(きたろう)

1953年生まれ、愛知県豊橋市出身。作曲家。オリバー・ストーン監督による映画『天と地 (Heaven & Earth)』(1994年)でゴールデングローブ賞作曲賞受賞。2001年、米音楽界最高峰であるグラミー賞受賞、これまでにノミネート15回。自然環境からインスピレーションを取り入れた独自のクリエイティブな作品は世界中で高い評価を受けている。毎年夏には富士山の5合目太郎坊駐車場にて、日没から夜明けまで約12時間かけた無料イベント『富士山讃歌』を行っている。これは年に一度、大地への感謝の気持ちを表現したファンと一体になったイベントである。2006年に、アメリカのコロラド州からカリフォルニア州セバスタポウルに移住。2013年秋、ニューアルバム『Final Call』をリリース。第56回グラミー賞「最優秀ニューエイジアルバム賞」にノミネートされている。

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