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現代アートの祖マルセル・デュシャンを継ぐ、古橋まどかの精神

現代アートの祖マルセル・デュシャンを継ぐ、古橋まどかの精神

インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:西田香織

ユーモア、ジョーク、ハッタリ。デュシャンのそういう軽やかな身の処し方、精神みたいなものを受け継いでいきたい気持ちは絶対にありますね。

―先ほどお話されていた「型にはまりきれない部分」というのは、ある種の生きづらさみたいなものでしょうか?

古橋:日本にも、イギリスにも、いまだに溶け込めない感じはします。それでいて、住む家にこだわったり、身の回りにある日用品を気にしたりします。あと、部屋の模様替えも大好きなんです。「make yourself at home」というのは、英語で「くつろいでください」という意味ですが、詳しく言えば「自分の家のようにしてください」ということですから、自分の居場所を作るというのも、ある種の表現方法なのかもしれません。ちょっとまだ分析しきれていないんですが(笑)。

『shiseido art egg 古橋まどか展』展示風景 撮影:高見知香
『shiseido art egg 古橋まどか展』展示風景 撮影:高見知香

―なんとなく分かります。これは推測ですけど、たとえば模様替えを繰り返し試すことは、部屋と自分との関係性を探る作業でもあるんじゃないでしょうか。別にアートとか関係なく、自分の部屋がなんとなくしっくりこないからベッドの位置を替えてみよう、壁紙を替えてみよう、って普通にやることですよね。多かれ少なかれ、誰もがそうやって空間との関係性を見つけているような気がします。

古橋:そうですね。あと10代の頃に民藝運動(柳宗悦が提唱した日用品の中にある「用の美」を見出す芸術・デザイン運動)の研究に没頭していた時期があって。やっぱりハイアートじゃなくて下手物というか、日常的に使う品物に美を見つけることに影響を受けていると思います。なんでもかんでもアートにしてしまう現代美術とも通じますよね。

―古橋さんは「現代美術」に対して、疑いの目を持って作品を制作しているようにも感じていたのですが、美術自体を疑っているとか、既存の美術史に対する抵抗が目的というわけではないんですね。

古橋:その辺のスタンスは難しいです。美術は好きって言ったら大好きなんですけど(笑)、はっきり好きとも言えないし、嫌いとも言えない……。英国で教育を受けると、万事に対して批判的な視点を持つことが歓迎されますが、自分自身、常に批判的な姿勢を取り続けることが好きなわけではないんです。そこはやっぱり日本人だから馴染めないところがあるのかもしれません。研究や批評といった学術的な環境にいると、いろいろ難しいことを考えてしまいがちですが、「それって、楽しい?」と、少しユーモアを入れたくなるときもあるんです(笑)。それも、ある意味で自分なりのいたずらというか、批判的なアプローチなのかもしれません。

『shiseido art egg 古橋まどか展』展示風景 撮影:高見知香
『shiseido art egg 古橋まどか展』展示風景 撮影:高見知香

―自分は外国人である……言ってしまえば、自分は外側の人間である、っていうことを意識したことはありますか?

古橋:プライベートな話ですけど、ロンドンの家は私が住み始める以前にも、方々から移住してきた人々が住んでいたようで。ブラジルのタバコの空き箱があったかと思えば、ロシアのマトリョーシカ人形があったり、残された物を見ると、とても国際的でした。それが、イギリス社会の外側にあるものの残滓のように感じられて。外国人としても日本人としても、どっちつかずの意見しか持てない私を肯定してくれたというか、それでよしと、思い始めさせてくれたというか。

―ちなみにアーティストや建築家でこの人が好きだ、というのはありますか?

古橋:アーティストだとやっぱりマルセル・デュシャンにすごく影響を受けていますね。デュシャンはパフォーマー的な要素もあって。作品だけではなく、彼の自伝的な要素もすごく面白いと思います。後はメキシコの作家でガブリエル・オロツコも、日常的な偶然とかユーモラスな部分があって大好きです。

『shiseido art egg 古橋まどか展』展示風景 撮影:高見知香
『shiseido art egg 古橋まどか展』展示風景 撮影:高見知香

―デュシャンは、現代美術の始祖と言われますが、一方でチェスの名人であったり詩人のようでもあったりして、一概に美術の人とは言えない要素がありますよね。その意味では、古橋さんが感じる居心地の曖昧さをデュシャンの作品からも感じます。

古橋:そうですね。デュシャンが活動していた頃は、現在の美術シーンの状況とはまったく違っていて、今の評価のされ方のようには彼も作品を作っていなかったと思います。ですから美術のコンテクストとはまた別に、個人的にもっと知りたいっていう欲求を刺激されます。謎の多い人物ですし。

―発言を見ていると、本人も自分がなにかにカテゴライズされるのを避けているようなところがありますよね。ある意味、詐欺師っぽくもある(笑)。

古橋:間違いなくそうですね(笑)。

古橋まどか

―今の美術界でもカテゴライズされることを嫌がるアーティストって沢山いますが、現代美術の始祖と言われるデュシャンからしてそうだった、というのは希望を感じます。美術の歴史に照らし合わせて自分と自分の作品をいかに価値付けていくかというのがアート界のパワーゲームなんだ、という考え方がますます強くなっていますが、そうではないものがちゃんと最初からあったんだという事実。日本にも「ネオダダイズム・オルガナイザーズ」とか「ゼロ次元」とか、美術史の流れに反旗を翻すような運動が一杯ありますが、それこそが世界を多様に、豊かにしている。

古橋:そうですね。一方でデュシャンには既存の体制に対する反抗とか破壊っていう要素が少ないとも思うんですよ。やっぱりユーモア、ジョーク、ハッタリ(笑)。そういう軽やかな身の処し方に、すごく共感します。その精神を受け継いでいきたいという気持ちは絶対にありますね。

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イベント情報

『第8回 shiseido art egg 古橋まどか展』

2014年3月7日(金)~3月30日(日)
会場:東京都 銀座 資生堂ギャラリー
時間:火~土曜11:00~19:00、日曜・祝日11:00~18:00
休館日:月曜(祝日が月曜にあたる場合も休館)
料金:無料

プロフィール

古橋まどか(ふるはし まどか)

1983年長野生まれ。2013年ロイヤル・カレッジ・オブ・アート美術修士課程修了。主な展覧会に、『5 Under 30』(Daniel Blau、ロンドン)『Show RCA 2013』(Royal College of Art、ロンドン)、『RCA Secret』(Dyson Building, RCA、ロンドン)、『All I Want is Out of Here』(October Gallery、ロンドン)等。現在、名古屋在住。

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