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佐々木俊尚インタビュー ネット社会では悪口を拡散してはいけない

佐々木俊尚インタビュー ネット社会では悪口を拡散してはいけない

インタビュー・テキスト
宮崎智之
撮影:豊島望

ネットによって人間関係が可視化されることにより、「正直者がバカをみない」世の中になってきている。善人であるインセンティブが高まってきているんです。

―ネット上での振る舞いによって、現実の人間関係にも影響が及んでしまうということですね。流れに停滞をきたす「渋滞状態」がリアルの世界でも発生してしまう……と。

佐々木:はい。ネットによって人間関係が可視化されることにより、「正直者がバカをみない」世の中になってきていると言えます。昔の映画を観ていると、善良で正直な人がずる賢い人間に騙されるみたいなイメージがステレオタイプに描かれていることが多い。なぜ、そんなイメージがあったのか。それは、当時の社会にとって、「善良であることのインセンティブが低い」と、皆が無意識に感じていたからだと思うんです。しかし、今のような透明性の高い社会では、むしろ善良であることのほうが得をするケースが増えてきています。

―まさに、「渋滞学」の考え方と同じですね。

佐々木:最近では山崎製パンの配送トラックが、大雪で高速道路に閉じ込められたドライバーたちにパンを配ったというエピソードが話題になりました。昔なら埋もれてしまっていたかもしれなかったこうした美談も、現代ならネット上で拡散して多くの人に伝わります。山崎製パンのドライバーは、損得を考えて行動したわけではないにも関わらず。

―どんどん、「思いやり」を持つことのインセンティブが高まっていきていると。

佐々木:かつて人間関係は所与のものでした。就職先などで人間関係が固定され、与えられた環境の中で生きることが普通だった。そんな社会を上手く渡っていくためには、自分の裏表を使い分けて、駆け引きをしていくしかありません。表向きは仲良くしていても、陰で悪口を言われたり、手柄を横取りされたりなんてことは、会社員なら一度や二度は経験していると思います。そんな環境の中では、善良であっても何も得はしませんよね。

―そうですね。

佐々木:しかし、雇用の流動性が高まった昨今では、人間関係は自分で選ぶものに変わってきています。すると、裏表がある人は自然と排除されてしまうわけです。「あの人は嫌な人だから距離をおこう」と。となると、善良であることのインセンティブが、ますます高まってくる。さらに、インターネット上でのコミュニケーションは後から検証することが可能なので、裏表があるとすぐにバレてしまいます。発言や考えが変わるのは悪いことではないとは思いますが、あまりに不誠実な言動は批判の対象になるでしょう。

佐々木俊尚

インターネット上で世論形成をする際の問題点は、誤った「直接民主制」のような状況を加速してしまいかねないということです。

―この変化は個人だけではなく、社会にも大きな変化を与えそうですね。

佐々木:まさにそうですね。最近では、そもそも「インターネットは何か?」という枠組み自体が変わってきているように感じています。2005年くらいの状況を振り返ってみると、ブログを皆が書くようになったり、2ちゃんねるが盛り上がってきたりという現象はあったものの、まだまだネットとリアルは別のものであるという認識が主流でした。ネットの世界は完全に独立していて、リアルの社会とは関係ない、と。

―あくまで「バーチャルな空間」での出来事という認識でしたよね。

佐々木:しかし、東日本大震災の後、TwitterやFacebookなどが多くの人に使われるようになったという劇的な変化が起きた結果、リアルとネットの世界がシームレスに繋がるという状況が進みました。もはやネットは「おたく」だけのものではなく、普通の人たちが当たり前に使うツールになってきています。たとえば、「ネット右翼」の台頭を、「あれは所詮、ネットの中だけの現象だ」と切り捨てる人もいますが、排外的なデモを繰り返すグループが生まれるなど、すでに現実社会にも影響を及ぼし始めています。

―ネット選挙が解禁され、さらに影響は高まってきているように思います。

佐々木:これまではネットでいくら話題になっても、マスメディアが取り上げなければ大きな問題にならなかった。しかし、これからはネットでの言論や現象が直でリアルの生活に影響を及ぼすという状況が生まれるかもしれない。ですから、ネット上の公共圏をどう設定するかという議論は、リアルの世界での課題にもなってくるわけなんですね。

―もはや「バーチャルな空間」だけの問題ではなくなってきたと。

佐々木:これにはポジティブな面とネガティブな面が両方あって、ポジティブな面としては、若年層の意見を引き込む形でネット世論が形成され、現実社会を動かす可能性があることです。新聞やテレビといった既存のマスメディアは、もはや高齢者の世論しか形成する力がないという状況になってきていますので、ネットにはそれを補完する機能が期待できる。一方、ネットにはフィルタリング装置がないという問題があります。

―というと?

佐々木:マスメディアには情報を収集して、それを編集して発信するという機能だけではなく、アジェンダ設定、つまり今何が問題なのかということを、世論として形成するという重要な役割がありました。たとえば、『朝日新聞』が1面トップで掲載すれば、その記事に書かれていることは社会問題なんだという認識が共有されていた。しかし、ネットにはその能力がありません。どんどん議論が拡散していくだけで、一切集約されないんです。

―確かに、話題が広がるスピードだけでなく、忘れられるスピードも速いように感じます。

佐々木:さらにもう1つ問題なのは、誤った「直接民主制」のような状況を加速しかねないということです。というのも、政治の課題を議論する際に、ただ皆の意見を集めれば正しい政策になるのかというと、私はならないと思うんですね。たとえば「韓国のことが嫌い」と言う人が大半だったとしても、現実的な政治で韓国と国交を断絶するということにはならない。また、誰もができれば税金は払いたくないものですが、「税金を払わなくてもいい法律を作ろう」ということには、絶対になりませんよね。そのギャップを埋めるために、政治家や官僚がいるんです。しかし、ネット上で直接民主制的な状況が起きてしまうと、「声が大きいから、それが正しい」みたいな結論になってしまう懸念があるわけです。

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書籍情報

『簡単、なのに美味い! 家めしこそ、最高のごちそうである。』
『簡単、なのに美味い! 家めしこそ、最高のごちそうである。』

2014年2月27日(木)発売
著者:佐々木俊尚
価格:1,365円(税込)
発行:マガジンハウス

『レイヤー化する社会』
『レイヤー化する社会』

2013年6月5日(水)発売
著者:佐々木俊尚
価格:820円(税込)
発行:NHK出版新書

プロフィール

佐々木俊尚(ささき としなお)

作家・ジャーナリスト。1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社で事件記者を務めた後、『月刊アスキー』編集部デスクを経て、2003年にフリージャーナリストへ転身。IT・メディア分野を中心に取材執筆、公演活動を展開。著書に『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『当事者の時代』(光文社新書)、『レイヤー化する社会』(NHK出版新書)など多数。近著は『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)。総務省情報通信白書編集委員。

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