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藤田貴大×川上未映子の叫び「まだ全然言い足りてない」

藤田貴大×川上未映子の叫び「まだ全然言い足りてない」

インタビュー・テキスト
橋本倫史
撮影:永峰拓也

藤田くんは、人生が1回しかなくて、すべてが過ぎ去っていくことが許せないんですよ。私も許せない。(川上)

川上:彼の作品を観ていると、「過去・現在・未来」というものにものすごく拘泥しているんですよね。「時間が過ぎ去っていくことに対してまったく僕は了承しないし、当然だなんて思わない。徹底して抗います」という気持ちをすごく感じます。そこが私と彼に共通するところなのかなと思っているし、彼の作品を観たいのもそのせいだと思う。彼は、人生が1回しかなくて、すべてが過ぎ去っていくことが許せないんですよ。私も許せない。つまり、いつか全員が消えてしまって、この世のすべてが終わってしまうということが本当に理解できない。

藤田:まったく、そうですね。

川上:マームの舞台のいくつもある特徴のひとつには、「日常の反復性」と、私たちを捉えて、常に/いつか、引きずり込まれてしまう「一回性」のせめぎ合いがありますよね。留めようもなく過ぎ去ってしまう1分1秒をつかまえて、それを最大限に引き伸ばして、そこになにがあるのかを確かめようとしている。だから彼らの作品は「リフレイン」という手法を使って、何回も台詞や情景を繰り返して、その繰り返しの中で出てくる差異を記録して一回性というもの、瞬間性というものに、抗っているように見える。それをまた、文字というかたちではなくて、舞台という一回性を持つかたちでやろうとしているわけですよね。そこに私は感動するし、とても美しいことだと思うし、同時にものすごく悲しいことだとも思う。なぜならやはり、すべては過ぎ去って必ず終わってしまうだろうから。そうした抗いのぜんぶが、誰も免れ得ない「有限を生きる人間の儚さ」みたいな絶対的な矛盾そのものとして響くから、マームの作品を観ると、ゆさぶられるんだと思います。

藤田:確かに、「納得がいかない」という思いは常にあります。特に、時間や記憶というものに対しては本当に納得がいってなくて、その納得のいかなさが僕の劇で「反復」の演出をさせているんだと思うんですよね。

左から:川上未映子、藤田貴大

男の人が女の人を描くとき、だいたいよく似た気持ち悪さがあるけれど、藤田くんがそれを免れているのは「性のない者たちの蠢き」を描いているからだと思います。(川上)

川上:対談の冒頭で、藤田くんが「女性作家が女性を描くことに抵抗があったけど、私のテキストには抵抗がなかった」と言ったでしょう? その感触はけっこう腑に落ちるところがあって。藤田くんも女の子のことをたくさん描いていて、生理や喪失ということを扱っていたりするんだけれども、それはきっと、表現の志向として、「未性」、つまりまだ性のないものを希求する気持ちが強いからじゃないかと思うんだけれど。

藤田:そうかもしれない……。

川上:さしたるわけも了解もないまま、私たちは男性や女性として生きているんだけれども、記憶や時間や数ということ自体を考えるとき、性というのは関係がないものともいえるでしょう? 生物学的な性、そしてジェンダーといったいくつかの性を抱えた女の子のいくつかの層を藤田くんは描いているけど、じつは私たちが「未性」として存在していた可能性を探っているんじゃないかな。彼はやっぱり、男が男であること、女が女であることにも納得していないんですよ。彼は女の人をモチーフにしているけど、それは別に女の人のことを書いているわけじゃない感じがするんです。

藤田:僕が最初に未映子さんのテキストに感じたことと同じですね。

川上:彼が書いているのは、男であるとか女であるとか以前の「さけび」だと思うんです。否定でも肯定でもない、さけびみたいなもの。もちろん男や女が背負っているさけびというのもあるんだけど、それ以前のさけびというか……つまり存在してしまったことに対するさけびや、時間に対するさけびというものがあるわけですよね。彼は女の子を舞台の上でいっぱい動かすことによって、「性的存在」から性をはがした「存在者」としての可能性を常に提示してる気がする。男の人が女の人を描くとだいたいよく似た気持ち悪さというのがあるんだけれど、藤田くんがそれを免れているのは、「未性」を志向していることが大きいんじゃないかな。もちろん、観る人によっては「藤田くんの作品だってマチズモじゃん」とか「性の漂白自体がファンタジーじゃん」って言うかもしれない。でも、「時間や存在そのもの」を希求する姿勢っていうのは、少なくとも性に割り振られたイメージをそのまま引き受けて、感情や欲望や関係をそのまま都合よく展開する男性にありがちなファンタジーではない。藤田くんはまったくそうではないと思う。藤田くんが探っているのは、性のない者たちの蠢きなんですよね。

藤田:そう言い当てられたことは初めてだから、そのことは持ち帰って考えたいんですけど……まったくその通りだと思いますね。

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イベント情報

川上未映子×マームとジプシー
『まえのひ』全国ツアー

テキスト:川上未映子『まえのひ』『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』『冬の扉』『戦争花嫁』『治療、家の名はコスモス』『少女はおしっこの不安を爆破、心はあせるわ』
※各地の会場に合わせながら、セットリストを変更予定。

演出:藤田貴大
出演:青柳いづみ
音:zAk

長野公演
2014年4月15日(火)19:00~
会場:長野県 松本 まつもと市民芸術館小ホール
料金:前売・当日2,500円

京都公演
2014年4月18日(金)~4月20日(日)全5公演
会場:京都府 元立誠小学校 音楽室
料金:前売・当日3,000円

大阪公演
2014年4月22日(火)~4月23日(水)全2公演
会場:大阪府 難波 味園ユニバース
料金:前売・当日3,000円(ドリンク別)

熊本公演
2014年4月25日(金)~4月26日(土)全3公演
会場:熊本県 早川倉庫
料金:前売・当日2,500円

沖縄公演
2014年4月29日(火・祝)全2公演
会場:沖縄県 那覇 桜坂劇場
料金:前売・当日2,500円(ドリンク別)

東京公演
2014年5月2日(金)~5月4日(日)全5公演
会場:東京都 新宿 風林会館5Fニュージャパン
料金:前売3,000円 当日3,500円

プロフィール

藤田貴大(ふじた たかひろ)

{北海道出身。劇作家・演出家。マームとジプシー主宰。2011年6月~8月にかけて発表した三連作「かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと、しおふる世界。」で『第56回岸田國士戯曲賞』を26歳で受賞。今までに様々なジャンルの作家と共作を発表。2013年「てんとてんを、むすぶせん。からなる、立体。そのなかに、つまっている、いくつもの。ことなった、世界。および、ひかりについて。」で初の海外公演を成功させる。2013年8月漫画家・今日マチ子原作「cocoon」を舞台化。<

川上未映子(かわかみ みえこ)

大阪府生まれ。2007年、『わたくし率 イン 歯—、または世界』で第一回坪内逍遥賞新人賞を受賞。2008年『乳と卵』で芥川賞、2009年詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で中原中也賞を受賞。ほかに小説『ヘヴン』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、紫式部文学賞、詩集『水瓶』で第43回高見順賞を受賞。『愛の夢とか』で谷崎潤一郎賞を受賞。

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