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『そこのみにて光輝く』呉美保監督×田中拓人対談

『そこのみにて光輝く』呉美保監督×田中拓人対談

インタビュー・テキスト
藤田ひとみ
撮影:永峰拓也

5度の『芥川賞』候補になりながらも生前ついに受賞することなく、1990年に41歳で自ら命を絶った不遇の小説家、佐藤泰志。死後20年を経て、2010年に熊切和嘉監督が手がけた『海炭市叙景』の映画化により再び脚光を浴び始め、満を持して今年映画化された唯一の長編小説『そこのみにて光輝く』は、間違いなく日本映画の未来に新たな希望を抱かせる秀作となった。

この映画のメガホンを取ったのは、『酒井家のしあわせ』『オカンの嫁入り』で家族の絆を独特に描いてきた呉美保監督。それまで得意としてきたアットホームな作風から一転、互いを想い合うが故に、それが足枷となって逃れられない不幸の連鎖に陥ってしまった過酷な家族を、優しい光と淡い音楽による繊細で力強い映像で見事に表現している。これほどまでにタフな映画を作り上げた呉監督は本作が監督第3作目。前作『オカンの嫁入り』で音楽を手がけ、本作でも共演を果たした音楽家・田中拓人との息の合ったコンビネーションで、映画『そこのみにて光輝く』の製作現場を振り返ってもらった。

今作は初の「ラブストーリー」でありながら、これまで描き続けてきた「家族の物語」でもあり、非常にぜいたくな題材だと思いましたね。(呉)

―今作は佐藤泰志さんの同名小説が原作ですが、呉監督は前作の『オカンの嫁入り』でも「家族」をテーマにした作品を撮られていますよね。

:これまでは男と女の機微を描く機会がなかったということもあり、次の映画ではぜひ描いてみたいと思っていたんです。だから今回のお話をいただいたとき、これはチャンスだととても嬉しかったです。

『そこのみにて光輝く』より ©2014 佐藤泰志/「そこのみにて光輝く」製作委員会
『そこのみにて光輝く』より ©2014 佐藤泰志/「そこのみにて光輝く」製作委員会

―時代から取り残されたような函館の海辺で暮らす人々の閉塞感を描きながらも、達夫(綾野剛)と千夏(池脇千鶴)の関係が丁寧に描かれることで、原作よりも温もりや希望が感じられる作品になっているのが印象的でした。

:原作では、25年前のバブル絶頂期の裏側で、不器用にもがき必死に生きる人を、非常にハードボイルドな文体で描いています。それを現代の「映画」にするために、どうアレンジするべきかは模索しました。

呉美保
呉美保

―それで二人の関係に重点を置いたと。

:はい。原作に流れる熱のすべてを、男と女の胸をこがすような恋愛に注ぎたいと思ったんです。男女が惹かれていく過程をちゃんと描くことで、女性の観客には達夫に、男性には千夏に、次第に魅了されていくように、瑞々しく艶っぽく描こうと思いました。

―なるほど。

:特に気をつけたのは、千夏のキャラクターです。彼女がひとりよがりな女に見えてしまわないように、さまざまなアレンジが必要でした。原作だと千夏はカラダを売ることだけで家族を養っていますが、それではおそらく現代には通用しないので、昼は塩辛工場でも働いている設定に変更しました。さらに、ひとりで家族を背負っている疲弊感を際立たせるため、家事をしている描写も加えました。

―あとなんといっても函館の街の描写が印象的で、千夏の家族が住んでいる函館の海辺に建つバラックのうらぶれた感じはすごかったですね。

:過剰になりすぎないようにしようと思う反面、中途半端には描けないという想いもありました。過酷な生活環境がリアリティーをもって伝わるように、実際に函館に建っていた、潮風に吹きさらされた倉庫をベースに美術さんに作り込んでいってもらいましたね。

『そこのみにて光輝く』より ©2014 佐藤泰志/「そこのみにて光輝く」製作委員会
『そこのみにて光輝く』より ©2014 佐藤泰志/「そこのみにて光輝く」製作委員会

―田中さんのご両親は函館のご出身なんですよね?

田中:そうです。小さい頃は親戚を訪ねによく函館に行っていたので、僕にとって函館というのは、訪れるとみんなが迎えてくれる天国のような場所だというイメージでした。でも、撮影の近藤龍人さんが切り取ったショットは、僕の知らない正反対の函館だった。それでこの作品に一気に魅了されてしまいましたね。それに、原作からの変更点はあっても、僕はどのシーンからも佐藤泰志さんの情念が覆い被さってくるような気迫を感じ、覚悟をもって挑まねばと思いましたね。

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作品情報

『そこのみにて光輝く』

テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国にて絶賛公開中
監督:呉美保
脚本:高田亮
原作:佐藤泰志『そこのみにて光輝く』(河出書房新社)
音楽:田中拓人
出演:
綾野剛
池脇千鶴
菅田将暉
高橋和也
火野正平
伊佐山ひろ子
田村泰二郎
配給:東京テアトル+函館シネマアイリス(北海道地区)

リリース情報

田中拓人<br>
『そこのみにて光輝く オリジナル・サウンドトラック』
田中拓人
『そこのみにて光輝く オリジナル・サウンドトラック』

2014年4月16日(水)発売
価格:2,000円(税込)
DIAA / B00I2UOBIC

1. SoundscapeI
2. Main Theme(Guitar solo)
3. SoundscapeII
4. Buddy
5. Fallen in Love
6. In My Dreams
7. SoundscapeIII
8. Theme of Love
9. Nakajima
10. Taluji
11. そこのみにて光輝く Main Theme feat. VASKO VASSILEV

プロフィール

呉美保(お みぽ)

1977年3月14日生まれ。三重県出身。大阪芸術大学映像学科卒業後、大林宣彦事務所PSCに入社。スクリプターとして映画制作に参加しながら監督した短編『め』が2002年Short Shorts Film Festivalに入選。PSC退社後初の長編脚本『酒井家のしあわせ』が2005年サンダンス・NHK国際映像作家賞/日本部門を受賞。翌年同脚本を監督し長編映画デビュー。2010年、脚本・監督を務めた『オカンの嫁入り』で新人監督賞・新藤兼人賞の金賞を受賞。現在は映画のほか、CMやドラマも手掛けている。

田中拓人(たなか たくと)

1974年9月7日生まれ。札幌市出身。筑波大学人間学類心理学専攻卒業。作曲家・音楽プロデューサー。映画では『オカンの嫁入り』(10/呉美保監督)、『WAYA!宇宙一のおせっかい大作戦』(11/古波津陽監督)、『たしかなあしぶみ~なかむらはるじ~』(12/中江裕司監督)など。『フィッシュストーリー』(09/中村義洋監督)では劇中バンドの演奏指導を担当。その他、TVドラマやCM音楽、アーティストプロデュースも手がける。

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