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『そこのみにて光輝く』呉美保監督×田中拓人対談

『そこのみにて光輝く』呉美保監督×田中拓人対談

インタビュー・テキスト
藤田ひとみ
撮影:永峰拓也

今までとは違う振り切ったものを作りたいという思いもありましたし、映画製作に対して渇望していた部分もありました。(呉)

―それまで過剰な演出がないからこそ、あのシーンが際立って感じられますよね。それから、うらぶれたネオン街を達夫が彷徨う、英詞つきの曲が入る場面もガラっと雰囲気が変わりますよね。

『そこのみにて光輝く』より ©2014 佐藤泰志/「そこのみにて光輝く」製作委員会
『そこのみにて光輝く』より ©2014 佐藤泰志/「そこのみにて光輝く」製作委員会

田中:あのシーンは、監督がもともとルー・リードの曲をイメージとしてあてがっていたんですよ。だからその雰囲気を参考にして曲を作ったんです。歌詞つきのものにしたのも監督のアイデアですね。

:達夫と千夏がワンカットで交差するシーンなのですが、彼らの何気ない日常、つまり千夏はカラダを売るために客をとり、達夫は今夜も飲み歩くという気怠さを、ワンカットである意味雑に表現したかったんです。それで私が日本語で作詞して、田中さんに英訳をお願いして、1つの曲にしてもらいました。

田中:バンドネオン(主にタンゴで使用される民俗楽器)に和太鼓を合わせる祭のシーンの音楽も、監督のアイデアなんですよ。そこに「お父さん綿あめ買って~」みたいな平和な声が入ることで、ラブシーンのときの綿密で正統派の作りとはうって変わって、即興的で意外性の強いシーンになりました。

:でも、私の映画の作り方って、職人さんに対してすごく失礼なやり方なんだろうなって思うんです。ちょっと大胆すぎる編集をしたり、いわゆる「映画編集」としてのルールから外れたやり方なので、昔ながらの映画スタッフにはとても無礼なやり方をしてると自覚してて……。田中さんにもいろいろご迷惑をかけたと思います。

田中:でも、「現場で本当に良いものを作ってきた」っていう満足感と誇りに満ちた表情が、出演者やスタッフの皆さんに初めてお会いしたときの印象だったんです。僕たちのポストプロダクションの仕事はそこからスタートしますから、そのプレッシャーたるや……。でも、みんなの気持ちを背負ってやるというのは、覚悟はいりますが幸せなことでもあり、監督に一番初めに脚本を渡されたときに「この脚本に惚れたら引き受けてくださいね」って言われたんですよ。そのときに、監督のこの作品にかける熱い気持ちを感じましたし、監督に試された思いでした。

:いや、それには理由があって……。製作費の兼ね合いもあるし、本当に好きじゃないと物理的にやり抜けないんじゃないのかなって(笑)。

田中:なるほど、そうだったんだ(笑)。

:田中さんだけじゃなくて、みんなそうです。綾野さんだって、池脇さんだって。綾野さんは身を潜めるようにして過去から逃れてきている男の役だから、函館という街をちゃんと自分自身で感じて咀嚼しないと演じられないと考えられたようで、地元の若い人たちと毎晩のように繁華街に繰り出されていましたね。

―それはだいぶ熱を入れられていたんですね。

:そうすることで、函館の方言を自分の言葉として習得されていました。それに函館には、私たちと同世代のたくさんの若者が、地元を盛り上げようとしていて、そういう人たちに綾野さんもすごく触発されたんじゃないでしょうか。

『そこのみにて光輝く』より ©2014 佐藤泰志/「そこのみにて光輝く」製作委員会
『そこのみにて光輝く』より ©2014 佐藤泰志/「そこのみにて光輝く」製作委員会

―田中さんもおっしゃっていましたが、役者の熱演も含めて、スタッフの深い思い入れが感じられる作品に仕上がっているのは、作ってる方々が自発的に関わっていることが大きいんですね。

:それは本当にありがたいことでした。私としても、監督3本目となる今作は、今までとは違う振り切ったものにしたいという思いもありましたし、新作としても4年ぶりなので、映画製作に対して渇望していた部分もありました。この作品では、達夫と千夏の愛はもちろん、家族の愛や姉弟の愛、いろいろな愛の形を描いていて、愛を1つの型にはめ込むんじゃなくて、そこで生まれたあるがままの形を肯定したかったんです。ずっと撮りたいと思ってじっくり考えてきたものを、今作ではたくさん詰め込むことができたと思っています。

左から:呉美保、田中拓人

―破滅へ向かっていく物語の中での、ラストカットの光の美しさは圧巻で、こういっては大げさにも聞こえますが、個人的に、その光というのは日本映画界の一筋の光にも感じられました。

『そこのみにて光輝く』より ©2014 佐藤泰志/「そこのみにて光輝く」製作委員会
『そこのみにて光輝く』より ©2014 佐藤泰志/「そこのみにて光輝く」製作委員会

:ラストシーンは、脚本家やプロデューサーとたくさん悩んだ末の、答えです。そのラストシーンがタイトルにも結びついていて、ポスタービジュアルにもなっているのですが、本編では敬意を込めて、佐藤泰志さんご本人の題字でタイトルを出しています。この映画はすでに公開が始まっているのですが、観客の方が私以上に映画について深く考え理解してくれていたり、哲学的な解釈も聞けたりして。作品が一人歩きを始めつつあるのが、心から嬉しいですね。

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作品情報

『そこのみにて光輝く』

テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国にて絶賛公開中
監督:呉美保
脚本:高田亮
原作:佐藤泰志『そこのみにて光輝く』(河出書房新社)
音楽:田中拓人
出演:
綾野剛
池脇千鶴
菅田将暉
高橋和也
火野正平
伊佐山ひろ子
田村泰二郎
配給:東京テアトル+函館シネマアイリス(北海道地区)

リリース情報

田中拓人<br>
『そこのみにて光輝く オリジナル・サウンドトラック』
田中拓人
『そこのみにて光輝く オリジナル・サウンドトラック』

2014年4月16日(水)発売
価格:2,000円(税込)
DIAA / B00I2UOBIC

1. SoundscapeI
2. Main Theme(Guitar solo)
3. SoundscapeII
4. Buddy
5. Fallen in Love
6. In My Dreams
7. SoundscapeIII
8. Theme of Love
9. Nakajima
10. Taluji
11. そこのみにて光輝く Main Theme feat. VASKO VASSILEV

プロフィール

呉美保(お みぽ)

1977年3月14日生まれ。三重県出身。大阪芸術大学映像学科卒業後、大林宣彦事務所PSCに入社。スクリプターとして映画制作に参加しながら監督した短編『め』が2002年Short Shorts Film Festivalに入選。PSC退社後初の長編脚本『酒井家のしあわせ』が2005年サンダンス・NHK国際映像作家賞/日本部門を受賞。翌年同脚本を監督し長編映画デビュー。2010年、脚本・監督を務めた『オカンの嫁入り』で新人監督賞・新藤兼人賞の金賞を受賞。現在は映画のほか、CMやドラマも手掛けている。

田中拓人(たなか たくと)

1974年9月7日生まれ。札幌市出身。筑波大学人間学類心理学専攻卒業。作曲家・音楽プロデューサー。映画では『オカンの嫁入り』(10/呉美保監督)、『WAYA!宇宙一のおせっかい大作戦』(11/古波津陽監督)、『たしかなあしぶみ~なかむらはるじ~』(12/中江裕司監督)など。『フィッシュストーリー』(09/中村義洋監督)では劇中バンドの演奏指導を担当。その他、TVドラマやCM音楽、アーティストプロデュースも手がける。

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