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渋谷慶一郎×川上シュン アーティストと共生する新しい広告の形

渋谷慶一郎×川上シュン アーティストと共生する新しい広告の形

インタビュー・テキスト
金子厚武
撮影:豊島望, 場所提供:INTERSECT BY LEXUS CAFE

人間っていう設定を、テクノロジーを通じてもう1回見直す時期が来てるんだと思う。(渋谷)

―では、実際の曲についてお伺いすると、渋谷さんの楽曲のキーワードが「バイオテクノロジー」。会社の根幹と言っていいテーマですね。

川上:やっぱり一番最初が重要なので、このテーマを渋谷さんにお願いするのが、プロジェクトのスタートとしてベストかなって。そもそも、渋谷さんの音楽からバイオテクノロジーを感じるんですよ。オートマティックにジェネレートしてる感じもするし、自分でピアノも弾くし、オーガニックさとテクノロジーが混ざってる。

渋谷:それは確かにそうかも。ただ、ピアノを使うからオーガニックとかではないし、今さらテクノロジーが前面に出てる音楽はそんなに面白くないんだよね。ただ、テクノロジーを使うときも、人間を想定したほうがいいと思っていて。例えば、RolandのTR-808っていう1980年代のドラムマシンがあるじゃないですか? 今でも使ってる人がたくさんいる名機だけど、Rolandのエンジニアはあれを作ってるときに「人間のドラマーを殺そう」と思って作っていたという話を聞いたことがあるのね。結果的には人間が出すリズムとはまったく違うんだけど(笑)、その人間を超えようという目標設定が30~40年使われる名機を生んだわけで。だから、人間っていう発想は、テクノロジーのハードルを高くするんですよ。

―なるほど、面白いですね。

渋谷:あとコンピューターで作ってると、基本的には全部グリッド上に音を置くから、整理整頓された音楽になってしまいがちなのね。それで僕がよくやるのは、ノイズをオートマティックにジェネレートさせて、書き出して、曲とは全く関係ない時間軸で動いてるそれを薄く入れておくわけ。そうすると情報密度がガラッと変わる。でも、複数の人間が即興演奏してるときも、全然関係ないフレーズが出てきて、それが上手くハマることもあれば、上手くいかないこともありますよね。普通に曲を演奏しているのだってズレているから面白いわけです。それを踏まえた上で、コンピューターで作曲するときも、その曲の時間軸とは関係ないものをどう入れておくかというのが醍醐味だと思っています。

―渋谷さん自身も、人間を想定してテクノロジーを使っていると。

渋谷:そう。最近よくやるのが、「ここは人間だったらこう揺れるよな」っていうのを想定して、コンピューター上でBPMの揺れをすごく細かく書き込むの。そうすると、完璧にデジタルで人工的な世界になるんだけど、変な感じでオーガニックな感覚が宿る。よくある実験音楽みたいにテンポがランダムに変わりまくるよりも、「人間だったらこうなるだろう」っていうのを、データのカーブで書くほうが大変なんだけど、結果的に面白くなる。人間っていう設定を、テクノロジーを通じてもう1回見直す時期が来てるんだと思う。

渋谷慶一郎

―リズムマシンを手打ちして人間の揺らぎを担保していた時代から、今度はその揺らぎをテクノロジーを使って再現する時代になってきたと。

渋谷:うん、僕はドラムマシンとかサンプラーを手打ち(実際に手でパッドを叩いて打ち込むスタイル)で叩くみたいなのは、一義的だからあんまり好きじゃないんです。デジタル処理によってオーガニックな感触を生み出すことのほうに興味があるんですよね。

ラーメン屋に行くって決まってて、スーツを着たりしないでしょ? 何かお題があったときは、それを特別意識しなくても、頭の片隅にあるぐらいが一番いい。(渋谷)

―楽曲自体はパリで作られたそうですね?

渋谷:そうです。シュンくん、1回パリまで来たよね?

川上:「どうですか?」って見に行ったら、もうほぼできてた(笑)。

―バイオテクノロジーというキーワードを表現するにあたって、何かポイントはありましたか?

渋谷:これはよく使う例えなんですけど、ラーメン屋に行くって決まってて、スーツを着たりしないでしょ? 逆に、相手がオシャレしてきてるのに、「俺はラーメン屋に行きたいんだ」って、意地を張る必要もないわけじゃない?(笑) だから、何かお題があったときは、それを特別意識しなくても、頭の片隅にあるぐらいが一番良くて、そのほうがテーマと楽曲がいい関係になると思うんです。

―つまり、今回も特別にバイオテクノロジーっていうのを意識していたわけではないと。

渋谷:さっきも言ったように、もともと僕の音楽にはその要素が入ってるし。今、パリのシャトレ座の一室を提供してもらっていて、そこが仕事場になってるんですけど、初めてその部屋に行ったとき、「ここで今日から音楽が作れるんだ、やった!」って思って、鞄をソファーに投げ捨ててピアノを弾き始めたら、すぐにメロディーが出てきて、それが今回の曲のもとになってます。

―環境の変化から生まれたものとも言えそうですね。

渋谷:外からの刺激や条件は、積極的に取り入れるほうなので、そうなんだと思います。今回の曲は今までとちょっと印象が違うって周りからも言われるし、自分でもそう思います。抜けがいいと言うか、せかせかしてない感じがする。こういうことを言うとポエティックな人みたいだけど、パリって空が広いのね(笑)。

川上:わかるわかる(笑)。

渋谷:見えてる景色がそうだからなのか、音もなんか抜けがいいわけ(笑)。そういうふうになってくるのかなって。

川上:渋谷さん自身がおおらかになってる感じしたもん(笑)。その感じは曲からも伝わってきて、東京とパリの空は色も広さも、温度も含めて全部違うから、それを感じて作ってる感じがして、このタイミングでオファーできて良かったなって思いました。

左から:川上シュン、渋谷慶一郎

渋谷:「できた!」と思った日があって、すごく興奮してなぜか「この曲は“天国と地獄”だ!」って思って、普段通ってるメトロの階段をすごい勢いで駆け下りて家に帰ったの。“天国と地獄”は(ジャック・)オッフェンバックの有名なオペレッタで、パリでの大衆性もあるんだけど、チャレンジングな仕掛けもしていて、その印象もあったのかな。それで、「“天国と地獄”って英語だと何だろう?」と思って調べたら、“Heaven and Hell”で、「ヘビメタみたいだな」って思って(笑)。

―AC/DCの曲名みたいですね(笑)。

渋谷:それでもう少し検索したら、『Heavenly Puss』っていうのが出てきて。これは『トム&ジェリー』の短編映画のタイトルで、トムの魂が夢の中で地獄に落ちて、ピアノの間に落ちて死ぬのね。それで夢から覚めて、「これは夢なのか? 現実なのか?」っていう話なんだけど、それが曲の展開とあまりにもぴったりだったから、そのまま曲名にしてみたんです。

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リリース情報

『10 SOUNDS OF LIFE SCIENCE』

参加アーティスト:
渋谷慶一郎
no.9
STUDIO APARTMENT
JEMAPUR
DJ KAWASAKI
blanc.
Open Reel Ensemble
i-dep
高木正勝
蓮沼執太+コトリンゴ

プロフィール

渋谷慶一郎(しぶや けいいちろう)

音楽家。1973年生まれ。東京芸術大学作曲科卒業。2002年に音楽レーベルATAKを設立、国内外の先鋭的な電子音楽作品をリリースする。2012年末に、初音ミク主演によるボーカロイドオペラ『THE END』を山口情報芸術センター(YCAM)で制作、発表。2013年5月には東京・渋谷のBunkamura・オーチャードホールで、11月にはパリ・シャトレ座にて『THE END』公演を開催。2014年4月、パリのパレ・ド・トーキョーで開催された現代美術家・杉本博司の個展に合わせて、杉本とのコラボレーションコンサート『ETRANSIENT』を公演。同年10月には、シャトレ座にて、ピアノとコンピューターによるソロコンサート『Perfect Privacy』を開催。2015年6月には、ボーカロイドオペラ『THE END』のオランダ・ホーランドフェスティバルでの公演が決定している。

川上シュン(かわかみ しゅん)

1977年、東京都生まれ。artless Inc.代表。ブランディングやデザイン・コンサルティングを中心に「アートとデザイン」を横断的に考え、グローバルに活動している。2010 年にはフィンランドの TV 局(ch4)の為に制作した映像作品が「カンヌ国際広告祭」で金賞を受賞。NY ADC、D&AD、The One Show、 London International Award 、NY TDC、Tokyo TDC、グッドデザイン賞、Tokyo Interactive Ad Award 等、国内外で多数の受賞歴を持つ。

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