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安藤裕子が映画ヒロインに初挑戦、遂にたどり着いた憧れの世界

安藤裕子が映画ヒロインに初挑戦、遂にたどり着いた憧れの世界

インタビュー・テキスト
藤田ひとみ
撮影:豊島望
2014/10/07

脚本を読むと、ファンタジックなお話というよりは、むしろ人間模様が描かれているのに、演じる人たちの衣装や美術、背景は現実の世界とは程遠いので、それがどう融合するのかはじめはよくわかりませんでした。(安藤)

―『ぶどうのなみだ』の舞台となった北海道という大地は、開拓の歴史から様々な新しいものを受け入れる多様性の土地であって、映画に出てくるキャラクターも北海道そのものを体現しているようでした。

三島:そうですね。厳しい土地で、抗えない自然の猛威、人知ではコントロールできない理不尽さを思い知る経験が、主人公のロクにはあったかもしれません。だからこそ、時に思いがけないプレゼントも与えてくれる自然の偉大さを、一番理解していると思います。人の寛容性は、自然を見つめる中で育まれるものなんでしょうね。

©2014『ぶどうのなみだ』製作委員会
『ぶどうのなみだ』 ©2014『ぶどうのなみだ』製作委員会

―北海道という場所をヨーロッパのように、特に南フランスのプロヴァンス地方を感じさせる色調で描いていますが、そういった三島監督特有の作りこみや世界観を、安藤さんはどう感じて現場に向かわれたのでしょうか?

安藤:『しあわせのパン』を観て、監督独自の寓話的な表現方法は知っていたので、三島監督らしい画角だなって思いながら現場にいましたね。だけど、衣装合わせでは驚きました。日常生活では着ないような服をエリカは着ているから、最初手渡されたときには「これは……『風の谷のナウシカ』か!?」って思っちゃいましたよね(笑)。

―ファンタジーの世界のような衣装だった、ということでしょうか。

安藤:風をまとう、常にどこかがはためくような衣装ですから。脚本を読むと、ファンタジックなお話というよりは、むしろ人間模様が描かれているのに、演じる人たちの衣装や美術、背景は現実の世界とは程遠いので、それがどう融合するのかはじめはよくわかりませんでした。だけど撮影していく過程で、そこに立って、呼吸をして、言葉を発していると、自然に受け入れることができていました。

安藤裕子
安藤裕子

―作品の印象として、映画の虚実を楽しむ、大人のファンタジーを描くことに注力している一方で、幸せだけではなく、辛さや涙によって拓けていく、現実的な部分も強く感じますね。ファンタジックな世界の中で、ときどきリアルな部分が垣間見られるっていうのがすごく印象的でした。

三島:私の中では、ファンタジーを作ったつもりはまったくないんです。どこの国なのか、いつの時代なのか、わからないように作ることは意識していましたが、「大人の寓話」という現実以外の世界に没入してもらいたいという想いがあったので、都会的で人工的なノイズを極力排除した結果、安藤さんが言うように現実とは離れた衣装や美術、背景になりました。今回の作品は、人間模様という基盤のある物語ですので、表現したいことはあくまで「リアル」なんです。

安藤:『しあわせのパン』を観たときは、人の感情を寓話的に、オブラートに包んでむき出しにはしていない印象だったのですが、今回の『ぶどうのなみだ』は、本を読んだときに、よりリアリティーのある悲しみ、もしくはちょっとした憎しみ、挫折を含めて、少しダークな面を感じました。登場人物それぞれが、「解決できない何か」を抱えていて、そこがちゃんと捉えられていたので、リアルな感じがしましたね。

©2014『ぶどうのなみだ』製作委員会
『ぶどうのなみだ』 ©2014『ぶどうのなみだ』製作委員会

世の中では不器用な人間ばかり、たいてい損をするじゃないですか。だからこういう人こそが幸せになって欲しい、光が当たって欲しいなと思いながら、作品を仕上げていきました。(三島)

―アオの苦悩と、エリカの母への想い、ロクの辛抱強さ。決して明るいだけのヒューマンストーリーではない分、対照的に穏やかな画角が、物語全体にバランスをもたらしていました。

三島:人間ってすごく明るく見える人でも、何かしらの抱えている闇があって、一つひとつ小さな扉を開けていくとその人の内面が見えてくる。そして、その人が抱えている感情が少しずつ見えていくっていうのが好きなんです。最初エリカはものすごく明るくて、太陽のような存在でみんなが寄ってくるんですけど、扉を開けるといろんな面が見えてきて。

―エリカは突飛なキャラクターに見えるけど、その要素は誰にでもあるものなんだなって思いますね。

三島:エリカは傷ついた経験がある分、人を抱擁するような温かさがあります。あけっぴろげでガサツなように見えて、すごく人の心の機微に敏感というか。日々をあそこまで楽しくハッピーに過ごせる人って、根本的に何か大きなものを抱えている人なんですよね。

安藤:単純にあれだけ日々を一生懸命楽しもうとするのは、疲れちゃうよね。

三島:でもエリカは、見せかけの明るさではなく、「日々をこう暮らすんだ」っていう強い決意があるんだと思うんです。自分の幸せはわかっている。「おいしいものを食べたいし、おいしいワインが飲みたいし、楽しい音楽を聴いていたいし、みんなと楽しく過ごしたい。それが幸せでしょ?」という確信があります。「パンのみでは生きられない」っていうセリフに表れていますよね。楽しいことがたくさんあっていいじゃないかって、心底思っているんですよ、エリカって。

安藤:エリカはそうやって「楽しく生きる」ことに邁進することでフタをしてきた感情があったんだけど、アオやロクとの関わりの中でつつかれて少しずつほどけてきた。強く封印していた想いだったので、それが開かれたとき、いろんな決断へつながるんです。

―冒頭に、監督はシナリオの世界観と安藤さんの歌詞の世界観が近い、とおっしゃっていましたが、具体的には、エリカの生き方と、安藤さんご自身の生き方は、近いところがあると思いますか?

安藤:うーん……エリカは、私の母親に似ているなって思うんです。高らかに笑って、みんなに囲まれていて、面倒見がよくて、だけど内側は繊細で少女性があって。私は小さい頃そんな母と対立もしていたこともあったし、感情過多な家族を遠くで眺めているような部分があったんですけど、その母親を演じているような感覚はあったかもしれません。私は、どちらかというとアオの方が自分に近いな。

三島:私も! かなり不器用で他の事は見えないし、自分のやりたいことに向かって邁進するし。ただ、アオも、エリカも、不器用なんですよね。世の中では不器用な人間ばかり、たいてい損をするじゃないですか。だからこういう人こそが幸せになって欲しい、光が当たって欲しいなと思いながら、作品を仕上げていきましたね。

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イベント情報

『ぶどうのなみだ』

2014年10月4日(土)から北海道先行公開、10月11日(土)から全国ロードショー
監督・脚本:三島有紀子
音楽:安川午朗
出演:
大泉洋
安藤裕子
染谷将太
田口トモロヲ
前野朋哉
りりィ
きたろう
大杉漣
江波杏子
配給:アスミック・エース

プロフィール

三島有紀子(みしま ゆきこ)

大阪府出身。18歳からインディーズ映画を撮り始め、大学卒業後NHKに入局。『NHKスペシャル』『トップランナー』など「人生に突然ふりかかる出来事から受ける、心の痛みと再生」をテーマに一貫して市井を生きる人々のドキュメンタリー作品を企画・監督。11年間の在籍を経て独立後、『刺青~匂ひ月のごとく~』で映画監督デビュー。オリジナル脚本で監督を務めた『しあわせのパン』は、同名小説も執筆し、ともにヒットを記録した。次回作『繕い裁つ人』(主演・中谷美紀)は来年1月公開予定。

安藤裕子(あんどう ゆうこ)

神奈川県出身。2003年シンガーソングライターとしてメジャーデビュー。2005年、月桂冠のTVCMソングに「のうぜんかつら(リプライズ)」が起用され、一躍話題に。2010年にリリースした5thアルバム『JAPANESE POP』が、ミュージックマガジン年間ベストアルバムJ-POP部門1位を受賞。自身の作品ではすべてのアートワーク、メイク&スタイリングをこなし、ミュージックビデオの監督も手がけるなど、楽曲制作だけに留まらない多才さも注目を集めている。ミュージシャンとしてデビュー後は、本作が本格的な演技初挑戦となる。

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