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宇川直宏インタビュー 5年目を迎えたDOMMUNEの次なる目標

宇川直宏インタビュー 5年目を迎えたDOMMUNEの次なる目標

インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:相良博昭

「Final Media」を高らかに宣言し、2010年にスタートしたDOMMUNEは、恵比寿地下に潜伏するライブストリーミングチャンネル / スタジオであると同時に、主宰する宇川直宏の現在進行形のアートワークでもある。世界に向けて生中継される多種多彩なジャンルのクリエイターらによるトークと、有名DJによるプレイ中継は、宇川自身がキュレーションし、映像のスイッチングも行う。それは無数の情報と、フロアの興奮に共振する宇川の身体性をネットを介して世界に伝播させるパフォーミングアーツであり、現代における呪術の連鎖とも言えるだろう。あなたがこれを読んでいる今も、宇川は自身のミーム(模倣子)を、世界に向けて吐き出し続けているのだ。

さて、そのDOMMUNEは現在、秋葉原と上野の間にある「3331 Art Chiyoda」に放送局を出張中だ。『DOMMUNE University of the Arts』と銘打ち、毎晩日本を代表する現代美術のアーティストのトークを配信している。また、会場では同作家の作品などによる企画展も同時開催中。アーティストの生の声を伝えると同時に、彼 / 彼女らの分身とも呼ぶべき作品を併置させることで、芸術のアウラ(ドイツの思想家ヴァルター・ベンヤミンが提唱した、芸術作品を前にして人が経験する畏怖や崇敬の感覚)を現出させる同プロジェクトの目的は「アーカイブ」なのだと宇川は言う。これまで、情報の伝播と拡散は行いつつも、その保存や維持からはあえて距離を置いてきた宇川とDOMMUNEが、今このときにアーカイブする意思を示したのは何故か。会場に設えられた放送ブースで話を聞いた。

DOMMUNE開局前と今とでは、僕の脳がアップデートされて、情報と情動の処理能力が加速している気がします。いい意味でも悪い意味でもナチュラルに逸脱し、覚醒している。

宇川:CINRAって毎日更新のウェブサイトですよね。つまり日刊メディア。僕らもですが、日刊の編集仕事って脳が破綻しません? たとえば、同時通訳の仕事は脳の特殊重労働なので、15分で交代するのが望ましいそうなんですよ。僕らも同じく「現在」を解読する仕事ですよね。そういう意味では、妙な脳領域を酷使している。日々、文化的出来事を過度に気にかけ、膨大な情報量が脳を通過して行くので、その為に神経過敏になっていて……、映画を観て、物語は体感できても、余韻を味わえなくなってしまった。僕は平日毎日DOMMUNEをやっているので、常に現在を切り取りながら、同時に明日の配信のことを考えなくちゃいけないし、3か月後のスケジュールも日単位で意識しているので、日々の達成感に浸ったり、成功を振り返っている場合じゃなくなってくるのです。逆説的に言えば、現在を過剰に意識するということは、未来を予感し続けることだと最近感じています。

宇川直宏
宇川直宏

―僕はフリーランスのライターなのではっきり答えられないですけど、CINRA編集部のバタバタした様子はざらに目撃しますね(笑)。

宇川:でしょうね。僕はもうDOMMUNEを5年やっていて、開局以前と現在とでは、脳が独自にアップデートされていて、情報と情動の処理能力が加速しているような気がします。ドーパミンも漏れっぱなしのメルトダウンだし(笑)、いい意味でも悪い意味でもナチュラルに逸脱し、覚醒している。1日に2番組、1週間に4日放送して8番組、1か月間で32番組以上。それを5年間ずっと1人でブッキングし、テロップを全て自らデザインし、最小限のスタッフと共に、現場で撮影や映像のスイッチングをしつつ、ツイートもしながら、全世界に配信している。まるでストリーミングマシーン。ここ5年間、人間らしい生活はできていません。

―やばいですね(笑)。で、今回の『DOMMUNE University of the Arts』なんですが、そもそも「3331 Art Chiyoda」にスタジオを移して、DOMMUNEを放送することになった経緯を聞いてもいいですか?

宇川:以前から考えていたプランとして、まず「アーカイブにどう向き合うか?」という問題があります。その先駆けが今回の『DOMMUNE University of the Arts』で放送する新番組シリーズ『THE 100 JAPANESE CONTEMPORARY ARTISTS』で、アーカイブ化することを前提に日本の現代アーティストのインタビューを100人分、2020年に向けて収録していく。つまり『東京オリンピック』以前に、現代の美意識を更新する日本代表100人を独自選出し、世界の側に伝え広めるのです。短絡的なクールジャパンなどではなく、普遍的文脈に根を下ろしたディープジャパン。日本の現代美術って、たとえば椹木野衣さんの著書『日本・現代・美術』の論考では「悪い場所」とされていますよね。

『DOMMUNE University of the Arts -Tokyo Arts Circulation-』展示風景
『DOMMUNE University of the Arts -Tokyo Arts Circulation-』展示風景

―戦後の日本には歴史を蓄積する意思が育たず、そのために現代美術も厚みや重みを持ち得ない場所だ、という主張ですね。

宇川:そう。また椹木さんも引用していた彦坂尚嘉さん(現代美術家)が言うところの「閉じられた円環」を、ライブストリーミングの力によって、世界の側に解放することができるのかどうかという。

―それが1つ目の理由。

宇川:2つ目は、アーカイブの問題。DOMMUNEがこれまでアーカイブを残してこなかった理由に繋がります。開局当時の2010年は、まだ前世代の著作権法に振り回されていた時代でした。SNSもライブストリーミングも一般的ではなくて、ネット中継を介して楽曲を鳴らすということが、とてつもない問題提起になっていたんです。ソフトバンクの孫正義さんがUstreamスタジオを立ち上げる以前から、僕は自分のお小遣いでDOMMUNEを立ち上げていたけれど、個人メディアが著作権法を踏みにじり、崩壊させてしまうかも、っていうくらい勢いのあったムーブメントでしたから、当時は各方面から警戒視されていました。

『DOMMUNE University of the Arts -Tokyo Arts Circulation-』蜷川実花 展示風景
『DOMMUNE University of the Arts -Tokyo Arts Circulation-』蜷川実花 展示風景

―たとえばJASRAC(日本音楽著作権協会)からですか?

宇川:いや、JASRACには先回りしてコンタクトを取らせて頂いており、すでに著作権を扱える許諾番号をもらっていました。ライブストリーミングにおける音楽と映像の管理、そしてアーカイブにおける管理。だから、じつはDOMMUNEは開局当初からアーカイブを解放する前提だったんですよ。ただこの他に原盤権(マスター音源を持つ権利)の問題があるでしょう? なので開局してしばらくは、レコード会社から「俺たちの利権を荒らすなよ」っていう威圧的空気を感じましたね。それはごもっともなんですが、DOMMUNEでプレイされる音楽の9割はアンダーグラウンドなレーベルからリリースされた12インチレコードだったから、日本の音楽市場においてコピーライトの問題はまったく管轄外で、我が国での著作権登録は皆無だし、なにより、彼らトラックメイカーはDOMMUNEでプレイされたがっている(笑)。まったく場違いな前世紀的権威との葛藤がありました。

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イベント情報

『DOMMUNE University of the Arts -Tokyo Arts Circulation-』

2014年9月20日(土)~11月3日(月・祝)
会場:東京都 秋葉原 3331 Arts Chiyoda 1F メインギャラリー
時間:展示12:00~19:00(番組配信日は23:30まで)、番組配信19:00~23:30(期間中不定期開催)
参加作家:
会田誠
飴屋法水
榎忠
岡崎乾二郎
小谷元彦
河原温
鴻池朋子
小林正人
杉本博司
田名網敬一
chim↑pom
椿昇
中村政人
原口典之
堀浩哉
蜷川実花
毛利悠子
森山大道
ヤノベケンジ
横尾忠則
宇川直宏
料金:展示800円 番組観覧(展示入場込)1,800円

プロフィール

宇川直宏(うかわ なおひろ)

1968年香川県生まれ。映像作家 / グラフィックデザイナー / VJ / 文筆家 / 京都造形芸術大学教授 / そして「現在美術家」……幅広く極めて多岐に渡る活動を行う全方位的アーティスト。既成のファインアートと大衆文化の枠組みを抹消し、現在の日本にあって最も自由な表現活動を行っている自称「MEDIA THERAPIST」。2010年3月に突如個人で立ち上げたライブストリーミングスタジオ兼チャンネル「DOMMUNE」は、開局と同時に記録的なビューアー数をたたき出し、国内外で話題を呼び続ける「文化庁メディア芸術祭推薦作品」。現在、宇川の職業欄は「DOMMUNE」。

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