インタビュー

連載をもつ漫画家がなぜ音楽を? 感傷ベクトルインタビュー

連載をもつ漫画家がなぜ音楽を? 感傷ベクトルインタビュー

インタビュー・テキスト
金子厚武

「この曲だったらみきとPが作ればいい」とか、「この曲だったらじんくんが作ればいい」とか思ってるうちに、何で(曲を)作ってるのかもわからないし、ホントに何もやりたくなくなっちゃって。(田口)

―では、アルバムについて訊かせてください。これって、制作はいつから行われてたんですか?

田口:まだ連載が始まってないときに、漫画のネタを考えながら、一方でアルバムも作ってたんで、結構苦しい時期でした。『シアロア』(2012年発売)を出してから『エンリルと13月の少年』が出るまでの2年間ずっと作ってて、そこから順に、『エンリルと13月の少年』が発売されて、『フジキュー!!!』の連載が始まって、やっとアルバムを出せる番がきましたね。

―『エンリルと13月の少年』が出たときの取材でもちょっと話したけど、やっぱり『シアロア』という世界観が規定された作品を作った後で、「感傷ベクトルとして何を表現するのか?」が最大のテーマだったと思うんですね。で、結果的に、このアルバムには田口くんのパーソナルがすごく出ている。1曲目の“神様のコンパス”に対して、田口くん自身が「この曲が出来たおかげでこのアルバムの構想が固まりました」ってコメントが資料に書いてありますが、まずは、ここにたどり着くまでの変遷を話してもらえればと思うのですが。

田口:『シアロア』ができて、「次何しようか?」っていう話し合いの中に、「次はパーソナルなことをやろう」っていう案もあれば、「またコンセプト的なことをやろうよ」っていう案もあったり、なかなか方向性が固まらない中、ひたすらデモを出していく時期があったんです。そういう中で、“神様のコンパス”ができたときに、ディレクターさんが「この曲を中心にしたら、アルバムになるんじゃないか?」って、外から言ってくれて、やっとビジョンが見えました。

―最初のまだ方向性が固まってないときには、他にどんなアイデアがあったんですか?

春川:「学園もの」とか、シチュエーションを決めて、それに沿ったアルバムにするっていう案もありました。あとこのアルバムにも若干残ってますけど、「旅、ロードムービー」というテーマもあったり。

―まさに、このアルバムは「旅」のアルバムですよね。こういう言い方をしちゃうとちょっと中二っぽいけど、「自分探しの旅」というか。

田口:そうですね……ホントに、自分探しバンドです(笑)。

春川:そろそろいい年なんですけど、相変わらず(笑)。

―(笑)。“神様のコンパス”ができて、田口くんとして手応えはどうだったんですか?

田口:それは全然なかったんです。「新曲です」って聴かせはしたものの、その後で一気に嫌になっちゃって、封印したいくらいでした。でも、ディレクターさんが他の曲と並べて見せてくれたときに、1曲単位で見ると嫌だったけど、並べてピースの1つとして見たら、案外この恥ずかしい歌を作品として見せられるのかもなって思えて。

田口囁一 撮影:西槇太一
田口囁一 撮影:西槇太一

―「恥ずかしい」っていうのは、やっぱりパーソナルを出すことに、最初はすごく抵抗があったってことですか?

田口:この曲を作ったときは、すごくありましたね。それまでは、サービスでアルバムを作らなきゃって思ってたんですよね。

―リスナーに求められていることに応じなきゃ、という気持ちで作ってたってことですか?

田口:「どういう見られ方をしたいか」とか、「こういう層の人たちに聴いてもらって、もっと売れたい」とか、そういうことを考えて曲を作ってたんですけど、そこを考えれば考えるほど「俺が作らなくてもいいや」って思っちゃったんですよね。「この曲だったらみきとPが作ればいい」とか、「この曲だったらじんくんが作ればいい」とか、そういうことを思ってるうちに、何で作ってるのかもわからないし、ホントに何もやりたくなくなっちゃって。でも、ずっと主観に寄って行った後に、フッとディレクターさんの話で客観に引かせてもらって、やっと踏ん切りがついたというか。

―春川くんは“神様のコンパス”が出てくるまでの過程をどう見てましたか?

春川:作曲面でクリティカルに助けてあげられることは少ないので、「とりあえずドーナツ持って田口の家行こうかな」ぐらいしかできなかったんですけど(笑)。でも、できあがってみて、パーソナルに寄ったのはよかったと思います。昔に戻った感じがあって、高校生のときに一緒にやってたバンドは、パッケージ云々とかは考えずに、パーソナルに寄ったことを歌ってたんですよね。

田口:感傷ベクトルになってからは、『シアロア』みたいな漫画と音楽のパッケージ的な曲作り、作品のための曲作りしかやってなかったんですよね。

春川:どうやったら手に取ってもらえるかを計算した上での曲作り、という方法が長年しみついてたんで、今回はそこから抜け出して、初心に帰れたのかなって思います。

堂々といじけられるとか、声高に叫べるとか、ボロボロ泣けるとか、それって発散が上手い人たちだと思うんですよ。「それができねえからつらいんじゃん」って言いたい。(田口)

―「鬱ロック」って言葉があるじゃないですか? 感傷ベクトルも、その範疇の中にあるバンドだと見る人もいるかもしれない。実際そう言われてる人たちの音楽と、自分たちの音楽を比べたときに、何か思うことってありますか?

田口:作ってる側の気持ちとしては、そこの範疇に入ってるつもりなんですけど、俺はすごく暗い人間なのに、同じ人種であるはずの暗い人たちからはそう思われてなくて、むしろ「いけすかねえ」って思われてるんじゃないかと思うこともあります。それで、「もっと鬱に見られなきゃいけないんじゃないか?」とか思って悩んでみたり。

―鬱ロックに入れてない?

田口:そこに混ざれてない自分の偽物感とか、どこにも振り切れてないことに対する居心地の悪さみたいなのは、これを作った後もまだちょっとありますね。

春川:「俺たちはあそこまで堂々といじけられないな」とは思ったりします。

田口:そう、堂々といじけられるとか、声高に叫べるとか、ボロボロ泣けるとか、それって発散が上手い人たちだと思うんですよ。「それができねえからつらいんじゃん」って言いたい。

春川:僕らは、もっともっとさらに教室の隅っこにいたんで、根が彼らより引きこもりなんですよね(笑)。

田口:鬱な方向に振り切る勇気もない。振り切る前に、俯瞰した自分が出てくるせいで、ホントに何にもできなくなっていくっていう。

春川:「ホントは俺だってそういうこと言いてえよ」っていう、憧れの目線で鬱ロックを見てるところはありますね。

―なるほどなあ。でも、“神様のコンパス”をきっかけにして、今回は振り切れた表現ができたんじゃないですか?

田口:そう思ってもらえるとありがたいんですけど、振り切れたかは自分では全然わからないんですよね。

Page 2
前へ 次へ

リリース情報

感傷ベクトル<br>
『君の嘘とタイトルロール』初回限定盤(CD+DVD)
感傷ベクトル
『君の嘘とタイトルロール』初回限定盤(CD+DVD)

2014年10月8日(水)発売
価格:3,780円(税込)
SPEEDSTAR RECORDS / VIZL-663

[CD]
1. 神様のコンパス
2. エンリルと13月の少年
3. 星のぬけがら
4. 初夏の哀悼
5. 涙のプール
6. ひとりの週末
7. 光のあと
8. 生者の更新
9. 終点のダンス
10. その果て
11. 僕の嘘とエンドロール
[DVD]
・“エンリルと13月の少年”PV
・初のワンマンライブ「一人の終末」から厳選されたライブ映像6曲を収録

感傷ベクトル<br>
『君の嘘とタイトルロール』通常盤(CD)
『君の嘘とタイトルロール』通常盤(CD)

2014年10月8日(水)発売
価格:3,024円(税込)
SPEEDSTAR RECORDS / VICL-64156

1. 神様のコンパス
2. エンリルと13月の少年
3. 星のぬけがら
4. 初夏の哀悼
5. 涙のプール
6. ひとりの週末
7. 光のあと
8. 生者の更新
9. 終点のダンス
10. その果て
11. 僕の嘘とエンドロール

書籍情報

『フジキュー!!! ~Fuji Cue's Music~』
『フジキュー!!! ~Fuji Cue's Music~』

2014年10月9日(木)発売
著者:田口囁一
価格:463円(税込)
発行:講談社

プロフィール

感傷ベクトル(かんしょうべくとる)

ボーカル、ギター、ピアノ、作詞、作曲、作画を担当する、漫画家・田口囁一(タグチショウイチ)と、ベースと脚本を担当する小説家・春川三咲(ハルカワミサキ)によるユニット。音楽と漫画の2面性で世界観を作り上げることから、ハイブリッドロックサークルと銘打ち、発表媒体を問わず幅広く活動する。 自在にセルフメディアミックスで表現する様は、まさにデジタルネイティブ世代の申し子と言える。その一方で、「僕は友達が少ない+」をジャンプSQ.19で連載するなど、プロの漫画家としても活動しており、現在は別冊少年マガジンにて青春バンド漫画「フジキュー!!!」を連載中。既刊1巻。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

カネコアヤノ“光の方へ”

カネコアヤノの新作『燦々』より、すでに先行配信もされている屈指の名曲“光の方へ”のスタジオライブ映像。Tシャツ一枚に素足の飾り気ない佇まいが、音源よりも強気な歌声が、遠くを見つめたり、マイクをすっと見据えたり、手元を確認したりする一瞬一瞬が、いちいちかっこいい。カネコアヤノは、常に、今が一番最高なアーティストだと思う。(山元)

  1. PEDROのアユニ・Dと田渕ひさ子が語る「音楽が開く心の扉」 1

    PEDROのアユニ・Dと田渕ひさ子が語る「音楽が開く心の扉」

  2. ヨルシカインタビュー 自分を滅却し、芸術に人生を捧げた2人の決断 2

    ヨルシカインタビュー 自分を滅却し、芸術に人生を捧げた2人の決断

  3. 『HiGH&LOW THE WORST』ドラマ版が完結。映画に向けてキャストをおさらい 3

    『HiGH&LOW THE WORST』ドラマ版が完結。映画に向けてキャストをおさらい

  4. 三浦春馬が歌いながらダンスする「グロップ」新CM 振付はs**t kingzが担当 4

    三浦春馬が歌いながらダンスする「グロップ」新CM 振付はs**t kingzが担当

  5. ビリー・アイリッシュ×Bershkaがコラボ、カプセルコレクション発売 5

    ビリー・アイリッシュ×Bershkaがコラボ、カプセルコレクション発売

  6. 伊藤健太郎、玉城ティナ、秋田汐梨が荒れた教室に 『惡の華』メイキング 6

    伊藤健太郎、玉城ティナ、秋田汐梨が荒れた教室に 『惡の華』メイキング

  7. Hump Backが「生活」を歌う理由。人の優しさを信じるために 7

    Hump Backが「生活」を歌う理由。人の優しさを信じるために

  8. 星野源、全楽曲のストリーミング配信が解禁 8

    星野源、全楽曲のストリーミング配信が解禁

  9. 佐久間由衣の主演映画『“隠れビッチ”やってました。』主題歌はKitri新曲 9

    佐久間由衣の主演映画『“隠れビッチ”やってました。』主題歌はKitri新曲

  10. 吉田豪が見た『全裸監督』と村西とおる 過去の危ない体験談を語る 10

    吉田豪が見た『全裸監督』と村西とおる 過去の危ない体験談を語る