インタビュー

連載をもつ漫画家がなぜ音楽を? 感傷ベクトルインタビュー

連載をもつ漫画家がなぜ音楽を? 感傷ベクトルインタビュー

インタビュー・テキスト
金子厚武

“涙のプール”の歌詞があがってきたときは、「ランランって言えるようになったんだな、俺らも」って思いましたね。(春川)

―“神様のコンパス”で始まって、10曲目の“その果て”にたどり着くまでの流れっていうのは、すごく作品としてまとまってると思いました。

田口:いままではコンセプトが先にあった上で、1曲目から順に作っていく作り方が好きだったから、バラバラに作っていったものをまとめるというやり方は初めてで、上手くまとまったのかもいまいちわからなくて。“その果て”だけは、最後に作ったんですよ。やっぱり、最後をまとめるというか、できあがったものに署名をするみたいな意味でほしかった1曲で、そこだけ空けてあったんです。他の曲を全部並べた上で、この曲だけ決め打ちで作って。

―署名を入れたことで、作品としてまとまった手応えはありましたか?

田口:ハンコが押せたかなって。

春川:丸の中にずれずにね(笑)。

田口:リスナーに向けて、歩いていってもらうために、最低限必要なパーツはちゃんと与えられたかなって。

―五体満足の子供を産むことはできたと。

田口:そうですね。そういう感覚です。

―単純に、春川くんが今回のアルバムの中で気に入ってる曲はどれですか?

春川:好きなのは“生者の更新”なんですけど、“涙のプール”の歌詞があがってきたときは、「おいおいおい」と思って、しばらく「あのランラン言ってる曲なんだっけ?」っていじりました(笑)。「ランランって言えるようになったんだな、俺らも」って思いましたね。心の底からは言ってないですけど。

―曲名が、“涙のプール”ですもんね(笑)。

春川:でも、それがお届けできるようにはなったんだなって。

田口:いままでだったら、恥ずかしくて出せなかったですね。でも、「そういうテンションの日もあるよ」っていうぐらいには出せるようになったかなって。

―「今日だったらスタバ入れるな」ぐらいの(笑)。

田口:スタバはギリギリ無理かなあ。スタバに行ったら注文の過程でダメージ受けて、“終点のダンス”になっちゃう(笑)。

春川:コンビニでコーヒー買って、海に行くぐらいはできる。

―(笑)。

フィクションと現実の垣根をあやふやにしていきたくて、もっと言ったら、自分も架空の人になってしまいたい。(田口)

―“その果て”のさらに後にあるラストナンバーが“僕の嘘とエンドロール”で、この曲は旅の感覚を引きずりつつも、ちょっと独立した感じがあって、漫画家の田口囁一が顔を出していますよね。最後にこの曲を持ってきたのは、どんな意図があったのでしょう?

田口:いろんな意味があるんですけど、「なーんちゃって」って言いたかったんですよね。最後に「こんなに真面目に考えちゃって、どうすんの俺?」って。

―まさに、「僕の嘘」だ。

田口:そうなんです。もちろん、漫画を描いてる田口囁一との同一性を持たせる目的もあったし、あとは、「俺の個人的な旅だったけど、あなたの旅にしてもいいんですよ」ってことが言いたくて。

―だから、アルバムタイトルは『君の嘘とタイトルロール』になっていると。

田口:そういうことです。ちなみにこの曲は完全にじんくんの影響でできたと思っていて、ああいう物語的な詞っていうのを、「こういう風にやればいいんだ」って気づかせてもらったから書けた詞で、できあがったものはじんくんと全然違うけど、影響としてはすごく大きいです。

感傷ベクトル 撮影:西槇太一
感傷ベクトル 撮影:西槇太一

―でも、じんくんが世界観を作品全体で作り上げるのに対して、今回のアルバムは田口くんのパーソナルもかなり出ているわけで、独特なバランスになってますよね。

田口:そこって実は『シアロア』のときからのテーマで、がっつり物語の世界観を作るんだけど、曲があることでフィクションと現実の垣根を取っ払いたくて。前は「シアロア」っていうユニットが本当にどこかにいるのかもしれないっていう世界観を作り出したくて、それが僕ら自身にすげ替わって、シングルではキャラクターが作詞してたり、曲を架け橋にして、フィクションを現実に引き込み、もしくはその逆で現実をフィクションに見せるという、独立した架空の世界を作り込むのではない形をやりたくて。

―そういう意味じゃ、今回はホント逆かもしれませんね。『シアロア』は架空のユニットなのに、ホントにいるように思わせたのに対して、感傷ベクトルはホントにいるんだけど、でもどこか架空のバンドのようにも思えるっていう。

田口:そうなんですよね。そうやってフィクションと現実の垣根をあやふやにしていきたくて、もっと言ったら、自分も架空の人になってしまいたい(笑)。

―『グラスハート』(田口がファンを公言するライトノベルシリーズ)の天才作曲家になりたいと(笑)。

田口:そうですねえ……いまさらなれないけどね。

春川:ちょっと年食っちゃったね。

田口:超えちゃったからね、年。

春川:悲しい……。

―まあまあ(笑)。でも、今回のアルバムができたことは、感傷ベクトルにとってすごく大きな一歩になったことは間違いないと思う。

春川:ちょっと自由になれたとは思います。また『シアロア』みたいな漫画と音楽を連動させたコンセプチュアルなことをやりたくなったらやるし、別のことを思いついたらそれもやれるし、今回で「『シアロア』みたいな形態だけじゃないんだよ」っていうことは伝えられたと思うんで、これからは好きなことをやって行けるなって。

田口:最近音楽の使い方について考えてて、「なんでわざわざ作るのか?」を考えると、「結局自分と上手く付き合っていくために作るんだな」っていうのが結論だったんですよね。自分の中の片づけというか、そのときにある荷物を整理するために使うんだろうなって、そういう予感だけはありますね。

春川:一時期「俺、音楽好きなのかな? NO MUSIC, NO LIFEとか一切言えないな」って思う時期があって、それはいまも言えないんですけど(笑)、でもアルバムを作って、バンドでライブをやるようになって、やっぱり音楽好きなんだなって思ったんですよね。すごく楽しいし、これからもいい音楽作りたいなと思います。

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リリース情報

感傷ベクトル<br>
『君の嘘とタイトルロール』初回限定盤(CD+DVD)
感傷ベクトル
『君の嘘とタイトルロール』初回限定盤(CD+DVD)

2014年10月8日(水)発売
価格:3,780円(税込)
SPEEDSTAR RECORDS / VIZL-663

[CD]
1. 神様のコンパス
2. エンリルと13月の少年
3. 星のぬけがら
4. 初夏の哀悼
5. 涙のプール
6. ひとりの週末
7. 光のあと
8. 生者の更新
9. 終点のダンス
10. その果て
11. 僕の嘘とエンドロール
[DVD]
・“エンリルと13月の少年”PV
・初のワンマンライブ「一人の終末」から厳選されたライブ映像6曲を収録

感傷ベクトル<br>
『君の嘘とタイトルロール』通常盤(CD)
『君の嘘とタイトルロール』通常盤(CD)

2014年10月8日(水)発売
価格:3,024円(税込)
SPEEDSTAR RECORDS / VICL-64156

1. 神様のコンパス
2. エンリルと13月の少年
3. 星のぬけがら
4. 初夏の哀悼
5. 涙のプール
6. ひとりの週末
7. 光のあと
8. 生者の更新
9. 終点のダンス
10. その果て
11. 僕の嘘とエンドロール

書籍情報

『フジキュー!!! ~Fuji Cue's Music~』
『フジキュー!!! ~Fuji Cue's Music~』

2014年10月9日(木)発売
著者:田口囁一
価格:463円(税込)
発行:講談社

プロフィール

感傷ベクトル(かんしょうべくとる)

ボーカル、ギター、ピアノ、作詞、作曲、作画を担当する、漫画家・田口囁一(タグチショウイチ)と、ベースと脚本を担当する小説家・春川三咲(ハルカワミサキ)によるユニット。音楽と漫画の2面性で世界観を作り上げることから、ハイブリッドロックサークルと銘打ち、発表媒体を問わず幅広く活動する。 自在にセルフメディアミックスで表現する様は、まさにデジタルネイティブ世代の申し子と言える。その一方で、「僕は友達が少ない+」をジャンプSQ.19で連載するなど、プロの漫画家としても活動しており、現在は別冊少年マガジンにて青春バンド漫画「フジキュー!!!」を連載中。既刊1巻。

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