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minus(-)藤井、震災後に建築現場で働くことを選んだ表現者の想い

minus(-)藤井、震災後に建築現場で働くことを選んだ表現者の想い

インタビュー・テキスト
渡辺裕也
2014/10/29
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今からおよそ3年前、突如として音楽シーンからその姿を消した一人のアーティストが、ようやく1つの作品を携えて帰ってきた。元SOFT BALLETのメンバーとしても知られる男、藤井麻輝。2000年代に入ってからは女性ボーカリスト・芍薬とのユニット、睡蓮(SUILEN)を中心に活動し、いくつもの素晴らしい作品をリリースしていた彼のキャリアは、少なくともファンの視点から見れば、あきらかに充実しているものだったと思う。しかし、その藤井は、2011年3月の東日本大震災直後にいきなり行方をくらまし、それからしばらくは誰もコンタクトを取れない状況が続いていた。そして2014年。ようやくその姿を見せた藤井は、彼が音楽活動に復帰するきっかけとなったバンド、Lillies and Remainsの新作に携わりながら、同じく元SOFT BALLETの森岡賢と再びタッグを組み、minus(-)という名の新ユニットを結成したことを発表。そのあとに数本のライブを経た彼らは、『D』というミニアルバムを完成させ、ついにその全貌をここに表したのだ。

藤井と森岡が過去に鳴らしてきたエッジーなサウンドをご存じの人であれば、恐らく本作を聴いたとき、いくらかの驚きを感じるのではないかと思う。というのも、ここに収められたサウンドはとてもアンビエントで柔らかく、どこまでも穏やかなのだ。全編にとても優しいムードが通底している本作は、このminus(-)というユニットの性格が、これまでに藤井と森岡がそれぞれに体現してきたものとは一線を画すことを、静かに物語っている。そして、彼らがこうした作風に取り組んだ背景には、当然ながら藤井がこの3年間に過ごしてきた時間も関わっているようだ。では、行方をくらましていたこの3年間、彼はどこで過ごし、何を想っていたのだろう。そしてこれからの活動を彼はどう見据えているのだろうか。藤井麻輝に話を訊いてみた。

2011年に震災が起きて、いわゆる「音楽の力で復興を」みたいな話がどんどん増えてきて。そこで、僕は完全に音楽業界と決別しちゃったんです。

―今日はまず、藤井さんがこうして音楽活動を再開するまでの変遷をお伺いできればと思ってます。ある時期から音楽としばらく距離を置いていたそうですね。

藤井:音楽というより、音楽産業と距離を置いていた、と言った方がいいのかな。自分は無限に音楽を制作できるわけじゃない。だから、僕はその一つひとつにものすごい手間暇をかけて作品を作ってきたんですけど、そうやって骨身を削って作ったものは、定期的なスパンで世に出ていってしまうんですよね。そういう状況に僕はすごく抵抗を感じるようになっていたんです。それが2009年頃。

―藤井さんがそうした違和感を抱えるようになったのは、何かきっかけがあったのですか?

藤井:睡蓮で、2年間にミニアルバムを4枚、DVDを1枚リリースして、それらの作品はすごく評価してもらえたと思っているし、けっこう売れたんです。でも、その一方で、「果たしてあれらの作品は一つひとつ、ちゃんと愛していただけているんだろうか」っていう、変なジレンマに陥っちゃって。もちろん、すごくコアな付き合い方をしてくれる方もいたとは思うんですけど、どちらにしても「このペースでリリースを続けていくのはどうなんだろう」と。そういう自問自答があったんですね。

藤井麻輝
藤井麻輝

―その自問自答の果てに、藤井さんはどんな決断を下したんですか?

藤井:そもそも睡蓮って、2004年の活動開始から1枚目の作品を出すまでに相当な時間がかかっているので、まずはその頃のペースに戻そうと思ったんです。つまり、しばらくはリリースを休んで、制作期間を長く取ろうと。そう思っていたところで、2011年に震災が起きて。それからしばらくは、当然ながら音楽どころじゃなかった。ところが、日にちが経ってくると、いわゆる「音楽の力で復興を」みたいな話がどんどん増えてきて。そこで、僕は完全に音楽業界と決別しちゃったんです。

―これはあきらかに違うと。藤井さんは、その「音楽の力で復興を」みたいな動きのどんなところに違和感を覚えたんですか?

藤井:たしかに音楽って、力はものすごくあるんですよ。でも、その力は受け手によって、正方向にも負方向にも捉えられるものなんですよね。すべてがプラスに働くわけじゃないと。だから僕は、「音楽の力で復興を」みたいな動きをすごくナンセンスなものに感じちゃったんです。一方で、その時期の僕は「今の自分がするべきことって、音を作ってその対価を得ることじゃないよな」とも思っていて。基本的に猪突猛進タイプなので、そういう流れで、音楽業界から遠ざかってしまったんですね。

―自分が今やるべきことは音楽ではないと。では、そこで藤井さんは実際に何をやろうと思ったんですか?

藤井:最初は、原発に行こうと思っていました。作業員が足りないと言われていたし、素人の自分でも行けると聞いて。でも、それは家族からストップをかけられたんです。だったら、現実的に役に立つであろう仕事に携わろうって。

―そこで、建築の仕事に就くことを選ばれたと。もともと建築に興味があったんですか?

藤井:関心はありました。以前、自分のスタジオを作ったときも、僕はその工事に途中から参加していたくらいなので。つまり、もの作り全般が大好きなんですよ。それが建築だろうが、音楽だろうが、絵だろうが、すべて一緒だと思っています。だったら、自分が今やるべきなのは建築なんじゃないかなって、そのときは考えたんですよね。それこそ建築はストレートに生活を支える仕事でもあるし。

―なるほど。そこで藤井さんは、実際にどういう現場で働かれていたんですか?

藤井:それはもう、いろいろです。メジャーなところだと、東京駅とか、羽田空港とか、スカイツリーとか。さまざまな現場で延々と働いていたら、いつの間にか2年半が経っていました。最初は汚いコンクリートの屑しか転がっていないような現場が、最終的にはキレイになるのを目の当たりにすると、やっぱり楽しくなっていくんですよ。それに建物って、目の前にカタチが残って、みんながそれを意識せずとも愛し続けてくれるわけじゃないですか。

―たしかに。その点においては、音楽を作ったときの手ごたえとはまた違いますね。

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イベント情報

『[AM] bit minus(-)xATOM ON SPHERE』

2014年11月9日(日)
会場:東京都 新代田 FEVER
出演:
minus(-)
ATOM ON SPHERE
料金:前売4,500円 当日5,000円(共にドリンク別)

『Lillies and Remains "Romanticism" Release Tour 2015』

2015年1月18日(日)
会場:宮城県 仙台 enn 2nd

2015年1月24日(土)
会場:愛知県 名古屋 CLUB UPSET

2015年1月31日(土)
会場:福岡県 福岡 Queblick

2015年2月1日(日)
会場:大阪府 大阪 CONPASS

2015年2月7日(土)
会場:東京都 代官山 UNIT

出演:
minus(-)
Lillies and Remains

料金:前売3,800円 当日4,300円(共にドリンク別)

プロフィール

minus(-)(まいなす)

元SOFT BALLETの藤井麻輝と森岡賢で2014年に結成されたユニット。もともと睡蓮で積極的に活動していた藤井は、2011年の東日本大震災を機に「今は音を鳴らしている場合ではない」と、音楽活動から離れ、建設の仕事につき、音楽から完全に離れていた。そんな彼が、やはり音楽への思い捨て難く、脳裏に閃いたのが盟友、森岡賢だった。即時に連絡を取ってみると、森岡も異論はなかった。すぐに曲を作り始め、5月30日の高円寺HIGHのライブで、その姿を我々に見せた。その後、渋谷スターラウンジのワンマンライブ、yukihiro(acid android、geek sleep sheep、L'Arc~en~Ciel)の主催イベントへの出演を経て、遂に10月には東名阪を廻るライブツアーを決行。

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