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能町みね子が『ニンフォマニアック』に見る恋愛に屈しない生き方

能町みね子が『ニンフォマニアック』に見る恋愛に屈しない生き方

インタビュー・テキスト
武田砂鉄
撮影:西田香織 取材協力:NOTRE MUSIQUE
2014/10/06

見る側の観念や想念を根こそぎ揺さぶりまくる挑発的な作品を発表してきた鬼才ラース・フォン・トリアー監督の新作『ニンフォマニアック』。色情狂(Nymphomaniac)の女の半生を描く新作は、セックスに次ぐセックス、あらゆる性交のぬめりと渇きが常時立ちこめる2部構成・4時間超えの超大作。セックスに溺れ続けたジョー(シャルロット・ゲンズブール)とインテリ紳士のセリグマン(ステラン・スカルスガルド)が語り合う、8章にわたる女の一代記。そこら辺に転がっている男と女のルールなんぞ秒速でぶっ壊す直情的な作品に漲るインパクトを、ブログ『オカマだけどOLやってます。』で頭角を現し、「モテ」とは一線を画す独自の視点を提示し続けるコラムニストの能町みね子さんに聞いた。

※本記事は『ニンフォマニアック』のネタバレを含む内容となっております。あらかじめご了承下さい。

(主人公は)決して男に対して従順にならない。全て主体的に動いていて、本当に爽快な女だな、と思いました。

―映画の推薦コメントとして、能町さんは「どろどろで気持ちいい女の一代記」と寄せられていますが、ジョーに感じた「気持ち良さ」って、具体的にはなにを指しているのでしょう。

能町:ただただ肉体的な快楽を追求していく気持ち良さと、恋愛に囚われていない気持ち良さ、この両方ですね。4時間を超える作品が、「これこそが愛なんです」みたいな結論に落ち着いたら本当に最悪だなって思っていたんですけど、そんなところへ向かっていくこともなかった。彼女は、自分がセックスしたいとき以外は一切ヤっていない。

『ニンフォマニアック Vol.1/Vol.2』
『ニンフォマニアック Vol.1/Vol.2』 ©2013 ZENTROPA ENTERTAINMENTS31 APS, ZENTROPA INTERNATIONAL KÖLN, SLOT MACHINE, ZENTROPA INTERNATIONAL FRANCE, CAVIAR, ZENBELGIE, ARTE FRANCE CINÉMA

―確かに。色情狂といっても、相手やタイミングを自ら選んでますよね。

能町:男に媚びた洋服を着ていたとしても、決して男に対して従順にならない。全て主体的に動いていて、本当に爽快な女だな、と思いました。私はこの映画を見て不快感など1つも生じなかったのですが、後々になってチラシにずらりと並んだ推薦コメントを読むと、大抵は不快感を入口にコメントされていたことに驚きました。とりわけ、男の人がことごとく辛そうな反応をしていて。

―トリアー監督のこれまでの作品が「不快」とは切り離せないものだという事実はあるにせよ、今作で多くの男性が「不快だ」と提示するところから語り始めているのは興味深いですね。終盤、セリグマンの「男が君と同じ人生を歩んだら? とてつもなく凡庸だ」というセリフが出てきます。どうでしょう、この映画が男の物語だったら凡庸な仕上がりになったと思いますか?

能町:その凡庸さっていうのは、例えば「結婚しているのにふらふら他の女に手を出して子どもを捨てた男」みたいな話なら凡庸だし、「電車の中でヤレそうな女を探して歩きまわる」とかでも凡庸でしょう。でもこの映画って、男女を反転させただけで凡庸になる話ではない。セリグマンの発言に対して、ジョーは「今までに散々聞き飽きた陳腐な言い方ね」と答えていますよね。あれはとても気持ち良かった。つまり、男女を比較しようとすること自体に、くだらない、って言っているわけ。


『アナと雪の女王』もそうですが、男に助けてもらうんじゃない、という流れが出てきているのかもしれないですね。

―この映画は、自身の半生を回想するジョーとセリグマンの対話によって進んでいきますね。ジョーが苛烈な性体験を回想する度に、セリグマンが「それは『釣り』で言うとだね……」とか「哲学者が言うには……」とインテリジェンスにかぶせていく。最初は「このオジサン、正しいこと言うなぁ」と素直に聞けるのですが、徐々にセリグマンの説明が面倒臭くなってくる。

能町:エンディングを知った上で2回目を見てみたんですけど、やっぱりセリグマンの話がどうにも理屈っぽいんですよ。ただし、ベタな映画だと「セックスで傷ついてきた女」と「助けた男」って、うっかり真実の愛を見つけちゃったりしますよね(笑)。でもトリアー監督は、全編にわたってその筋を叩き壊していく、これが私からすれば爽快だったんです。

能町みね子
能町みね子

―「傷ついた女」というのは、物語の前提やイントロとして頻繁に使われますよね。傷ついた女をヒーローチックな男が回収していく「いい話」。でも、この映画はイントロからアウトロまで徹底的にジョーの物語、女の物語ですね。

能町:『アナと雪の女王』もそうですが、男に助けてもらうんじゃない、という流れが出てきているのかもしれないですね。女の人がずっと主体、という。

―公開前ですから詳細は書かないにしても、あのラストシーンを能町さんはどう見ましたか?

能町:とにかく最後のセリフが痛快でした。「男とはこういうもの」に突き動かされちゃう男を皮肉でぶん殴るような言葉でしたよね。色情狂と言われる過剰な女は、決して男に屈しているわけではない。この主張を最後まで崩さなかった。

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作品情報

『ニンフォマニアック Vol.1』

2014年10月11日(土)から新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

『ニンフォマニアック Vol.2』

2014年11月1日(土)から新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

監督・脚本:ラース・フォン・トリアー
出演:
シャルロット・ゲンズブール
ステラン・スカルスガルド
ステイシー・マーティン
シャイア・ラブーフ
クリスチャン・スレイター
ジェイミー・ベル
ユマ・サーマン
ウィレム・デフォー
ミア・ゴス
ソフィ・ケネディ・クラーク
コニー・ニールセン
ジャン=マルク・バール
ウド・キア
配給:ブロードメディア・スタジオ

プロフィール

能町みね子(のうまち みねこ)

コラムニスト、漫画家。北海道出身、茨城県育ち。著書は『オカマだけどOLやってます。』『くすぶれ! モテない系』、雑誌『装苑』で連載していた『雑誌の人格』など多数。フジテレビ系『久保みねヒャダこじらせナイト』、ニッポン放送『今夜もオトパラ!』に出演するなど活躍の場を広げている。

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