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「音」を使う現代美術家・八木良太の音楽的ルーツを探る旅

「音」を使う現代美術家・八木良太の音楽的ルーツを探る旅

インタビュー・テキスト
竹内厚
撮影:佐々木鋼平

科学の世界では、フィクションや嘘は絶対に許されないような状況ですけど、美術であれば大げさな嘘もOKだし、まだできることもあるような気がしています。

―八木さんの作品は「音楽」というより「音」、もっと言えば、音だけにこだわっているわけでもないですよね。

八木:そうです。作品ごとに何を表現したいか、何を成し遂げたいかという目的に対して、いろんな素材をこだわりなく使うという感覚ですね。最近になってわかってきたのは、やっぱり「メディアアート」というのが一番近いのかなという気がします。それは、テクノロジーやコンピューターを使うということじゃなくて、もっと本質的な意味で「メディア=媒介」について考えたいということ。

Sound Sphere (2011) photo:Nobutada Omote
Sound Sphere (2011) photo:Nobutada Omote

―作品を通して、何気ない物事の仕組みを探求するような、大いなる実験という印象もあります。どのようにして作品を発想されるのでしょう。

八木:結果はどうなるかわからないけど、とりあえずやってみるという姿勢は大事にしています。常にいろんなものを見たり、調べたり、興味を持ったものはまず手元に置いてみたりして、いろんな素材をストックしておいて、後からこれとこれで面白いことができそうだと思いついたりして、それをやってみる。やってみて失敗しても、その思い通りにいかなかった原因を分析し直して、作品に仕上げることもあります。

―何が失敗なのかわからないところが、科学的な実験とは違う気もしますし、もしかしたら科学とも通じているのかもしれません。

八木:12月の神奈川県民ホールギャラリーでの展覧会を『サイエンス/フィクション』と名付けたのは、科学には何かを信じさせる力があって、それによってフィクションすらも成立する状況が面白いと思ったからで。科学の世界では、特に今年いろんなことがあって、フィクションや嘘は絶対に許されないような状況ですけど、美術であれば大げさな嘘もOKだし、まだできることもあるような気がしています。

『サイエンス/フィクション』展覧会チラシ design:nicole schmid  photo:nobutada omote
『サイエンス/フィクション』展覧会チラシ design:nicole schmid photo:nobutada omote

音の波形をプリントしたものにレコードの針を落としてみたら、何やら声らしきものが聴こえてきたり。単純な現象なんですけど、アナログメディアには不思議なところがまだまだありますよ。

―最近、気になっているメディアなどがあれば教えてください。

八木:一昨年くらいからですけど、スライドプロジェクターに興味があって、レコードプレイヤーとの類似性みたいなことをすごく感じるんですよ。面白がって、今家に何台あるかな……8台くらいはあるかもしれません。

―スライドプロジェクターが8台、かなりの実験室ぶりです(笑)。すでに作品にも活かされていますね。

八木:「phono/graph」というプロジェクトでは、もっと実験的なことばかりしています。「phono/graph」はアート、デザイン、音楽といった境界を設けず、「音」「文字」「グラフィック」という3要素の関係性を探るのが大きなテーマなんですね。その3つの要素の組み合わせってたしかに面白くて、たとえば、レコードプレイヤー、タイプライター、スライドプロジェクターで何かやれないかとか、いろいろヒントをもらっています。

Megaphonia (2013) photo:Tetsuo Ito
Megaphonia (2013) photo:Tetsuo Ito

―「phono/graph」としては、来年3月にも神戸アートビレッジセンターで展覧会の予定がありますね。

八木:先日も「phono/graph」のミーティングがあって、音の波形をシルクスクリーンでプリントしたものにレコードの針を落としてみたんですけど、何やら声らしきものが聴こえてきたり。原因を突き詰めていくと、単純な現象なんですけど、アナログメディアには追っかけていくと不思議なところがまだまだありますよ。

―八木さんの様々な背景を知れば知るほど、12月の『サイエンス/フィクション』展が楽しみになってきました。これまでの集大成的な展覧会となるのでしょうか。

八木:そうですね、今回はカタログにもすごく力を入れていて、これまでの自分の作品をアーカイブするいい機会にもなっています。僕は過去の作品を引っ張りだしてきて、作り直すこともよくするんですけど、そうした過去作品の再編集も制作の一環だと思っています。それに、ウェブサイトを作って、自分の作品をまとめたりするのも、制作と同じくらい面白いと思える作業なんです。

―そういえば、『サイエンス/フィクション』展の特設ウェブサイトは、神奈川県民ホールギャラリーのウェブサイト内ではなく、八木さんの個人ウェブサイト内に紐づくかたちになっていますね。

八木:そうなんです。ただ、作品コンセプトの説明は、カタログではなるだけしないでおこうと思っています。どういう風にも理解できるものですし、何より自分で説明してしまうと、後から「やっぱり違うかも?」って言いにくいでしょ(笑)。他人と話していて、後から自分の作品の違う側面に気づくこともよくあるんです。

八木良太

―再制作の話もそうですけど、八木さんは作品の固有性みたいなことをかなり自由に捉えていますよね。

八木:作品の素材として、日用品をよく使うのもそういう理由があるかもしれません。ガチガチの1点もの作品だと、やり直しができない状態になってしまう。日用品を使っていれば、壊れてもまた作り直せばいいやってなりますしね。

―いろんな実験や思索、解釈の可能性が内包されていて、見れば見るほど、考えれば考えるほど、な作品です。

八木:そこが美術作品の豊かなところだと思います。『サイエンス/フィクション』展の会場となる神奈川県民ホールギャラリーは吹き抜けもあって、とても広いので、最初はどうしようかと思っていましたけど、そういう意味では意外と盛りだくさんになりそうです。空間というよりは時間の密度としてかなり濃密なものになる。作品ごとに意味や謎のようなものが含まれているので、それをちゃんと理解して巡ろうとすれば、かなり時間がかかると思いますよ。

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イベント情報

八木良太展
『サイエンス/フィクション』

2014年12月21日(日)~2015年1月17日(土)
会場:神奈川県 横浜 神奈川県民ホールギャラリー
時間:10:00~18:00(入場は閉場の30分前まで)
休館日:12月29日~1月3日
料金:一般700円 学生・65歳以上500円
※高校生以下、障がい者手帳をお持ちの方とその付添者1名は無料

展覧会関連イベント
八木良太展『サイエンス / フィクション』アーティスト・トーク

2014年12月21日(日)14:00
出演:八木良太、ほか
料金:無料(要展覧会チケット、予約不要)

八木良太展『サイエンス / フィクション』トークセッション「物の理(もののことわり)八木良太の場合」
2015年1月12日(月・祝)14:00
出演:畠中実(NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]主任学芸員)、金子智太郎(東京藝術大学/本展図録ゲスト執筆)、八木良太
会場:神奈川県 横浜 神奈川県民ホールギャラリー
料金:無料(要展覧会チケット、予約不要)

イベント情報

八木良太展×アートコンプレックス2014『タイムトラベル』

2014年12月23日(火・祝)19:30開演
会場:神奈川県 横浜 神奈川県民ホールギャラリー
出演:
岩渕貞太(パフォーマンス)
八木良太(美術)
音楽:蓮沼執太(楽曲提供のみ)
料金:2,000円(全席自由、要事前予約)

八木良太展×アート・コンプレックス2014『タイムトラベル』公開稽古
2014年11月30日(日)14:00~15:30(予定)
出演:岩渕貞太、八木良太
会場:神奈川県 横浜 急な坂スタジオ ホール
料金:無料(予約不要)

八木良太展×アート・コンプレックス2014『タイムトラベル』アフタートーク
2014年12月27日(土)14:00
出演:平倉圭(横浜国立大学)、岩渕貞太、八木良太
会場:神奈川県 横浜 神奈川県民ホールギャラリー
料金:無料(要展覧会チケット、予約不要)

プロフィール

八木良太(やぎ りょうた)

1980年愛媛県生まれ、京都府在住。2003年京都造形芸術大学空間演出デザイン学科卒業。音響作品をはじめとして、オブジェや映像、インスタレーションからインタラクティブな作品まで、多様な表現手法を用いて制作を行なう。身近なものを題材にして、それらが持つ機能を読み替え再編集することによって関係性や価値を反転させ、もう1つの意味を浮かび上がらせる。

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