
ついに一人になった志磨遼平の嘘を、気鋭作家・松居大悟が暴く
- インタビュー・テキスト
- 金子厚武
- 撮影:永峰拓也
「大悟くんと僕に共通項あるかな?」って考えると、大悟くんは脚本を書く人だし、やっぱり「言葉」なのかなと。独白というか、私小説的なところというか。(志磨)
―自分の創作を導いてくれる存在?
松居:でも、1歩や2歩じゃなくて、結構先のところにいるので、「負けないぞ」みたいな感じではなくて、憧れというか、崇拝に近いような……。
志磨:この間、ゴジゲンの舞台(『ごきげんさマイポレンド』)を観に行って、『ゴジゲンbook』(活動再開を記念して作られた、過去の全公演を当時の出演者とともに振返るガイドブック)を寝る前に読んだら、過去公演の稽古期間にゴジゲンのメンバーがよく聴いてた音楽がそれぞれ載ってて、その中に僕の曲も選んでくれていて。
松居:下北沢の駅前劇場でやることがずっと劇団の目標だったんですけど、2010年に『美しきラビットパンチ』という公演で初めて上演したときに、毛皮のマリーズの“ビューティフル”を稽古前にみんなでフルボリュームで聴いて、トランス状態になってから芝居をしていたんです。そのときのメンバーが今回も多く出ているので、志磨さんが観に来てくれてホントに嬉しかったです。
志磨:でもさ、大悟くんの音楽の趣味の中で、僕ちょっと浮いてない? そんなことない?
松居:そんなことないとは思うんですけど……自分だとちょっとわからないですね。僕はただ好きなだけなので。
―志磨さんは、松居さんに対してどんな印象をお持ちですか?
志磨:「大悟くんと僕に共通項あるかな?」って考えると、大悟くんは脚本を書く人だし、やっぱり「言葉」なのかなとは思った。独白というか、私小説的なところというか。
松居:個人的なことを歌えば歌うほど、それが大衆というか、広く多くの人に届くようなものが好きなのかもしれないです。志磨さんは、自分が見ている景色の中で歌おうとしてて、僕はそこに連れてってもらって、その景色を一緒に見られるような気がするから、好きなのかもしれない。
今回もまた、僕は1個の大きな悲しみと、すごく大切だった季節に鍵をかけようとしてて、大悟くんにそこを引きずり出して撮ってほしかった。「僕は絶対隠すから、大悟くんはそれを見つけてね」って。(志磨)
―では“スーパー、スーパーサッド”のMVに関しては、どのようなやり取りを経て作られたのでしょうか?
志磨:この曲から今回のアルバムのレコーディングが始まったんですけど、録ってみたら、僕とスタッフの中で「これ、リード曲じゃね?」って話になって、レコーディングの帰りに大悟くんにメールしたんです。そうしたらすぐに「やるに決まってるじゃないですか」ってちょっと怒った感じのメールが返ってきて(笑)。そのメールをスタッフに送ったら、「これ絶対いいMVになりますね。熱量ヤバいじゃないですか!」って話になって。
志磨が“スーパー、スーパーサッド”のレコーディングの帰り道に
松居に送ったメールのやりとり(一部)
―志磨さんの側から何かリクエストはあったんですか?
志磨:いや、「こういうふうに撮って」っていうのは特になくて、大悟くんに「こうやれ」って言われたら、何でもしようと思った。ジャージで人前に出たの初めてだし、髭も「伸ばしといてください」って言われて。
松居:志磨さんの「日常」みたいなものを見せたかったんですよね。
志磨:……僕は、全部の感情に鍵をかけていってしまうんですよ。例えば、今回のような受け入れがたいメンバーとの別れとか、そんなものを受け入れるキャパは僕にないので、キャパオーバーしたものを別の箱に入れてしまう。それがアルバムなんです。その箱に収納して、鍵をかけると、それは二度と振り返らないものになる。僕はそうやって、かろうじて生きてるというか。今回もまた、僕は1個の大きな悲しみと、すごく大切だった季節に鍵をかけようとしてて、その必死に隠そうとする感情を、大悟くんに引きずり出して撮ってほしくて。「僕は絶対隠すから、大悟くんはそれを見つけてね」って。
松居:「潜在的に隠してる感情を暴いてください」っていうメールをくれましたよね。僕、そのメールをスクショしました(笑)。でも、僕は志磨さんの中から掬い取るだけじゃなくて、志磨さんを好きな人がどう思うかっていう、その両方から描きたいと思ったんです。「じゃあ、志磨さんを好きな僕が一番見たいのは何か?」と考えると、志磨さんがどう葛藤して、悩んで、この曲ができたかが見えたらいいなって。とはいえ、いろいろ迷って、かなり相談もしたんですけど。
―志磨さんが自身の過去の写真を燃やすシーンはショッキングでした。
松居:最初は過去のCDとかをバンバン投げてぶっ壊すっていう案もあったんですけど、「作品はいろんな人が関わってできたものだから、僕だけに関することならオッケー」ってことで、自分の写真を燃やすというアイデアを志磨さんからもらったんです。その後の展開も、最初は花畑に行く案もあったんですけど、ちょっと極端すぎて、わかりやすいかなと思ってやめました。そうじゃなくて、「きっとこの人にとっては花畑に見えてるんだろう」っていう風景を描くほうが素敵だなって。
志磨:僕はすぐにきれいなものに昇華しようとするから、アルバムにはすごくきれいな記憶が並んでいるように見えるんですけど、アルバムというのはあくまで独立した作品で、記憶ではないんですよね。でも、まるで僕の記憶がそうだったかのように、自分で捏造してる。つまり、僕のアルバムって全部過去の捏造で、アルバムだけを聴くと、めちゃくちゃドラマチックな人生を歩んでいるように聴こえるんですけど、実際はそんなことはないわけで。今回、また同じことをするのを阻止してほしかったんですよね。
松居:志磨さんは、“スーパー、スーパーサッド”の曲の中では行くところまで行ききって、「イエ・イエ」なんて歌ってるから(笑)、画的には本物の花畑でも全然合うんですよね。でも、実はその割り切った感情の裏側にはもがきや葛藤があるという映像の解釈が加わると、そこに奥行きが出るというか、それで曲の印象が変わればすごく素敵だなと思って。僕がずっと愛してる志磨遼平が、一人になって初めて世に出す曲に対して、僕なりに培ってきたクロニクルをもとに「この曲はこう聴くんだ」っていう想いをぶつける。その戦いでしたね。
志磨:なるほどなあ。今はもうアルバムが完成して、結局また鍵をかけちゃったのでわからないんですけど、たぶん僕はこれまでの音楽人生の中で今一番弱ってて。それで、醜態をさらそうとしたんだと思うんですよね。でも、どこまでさらしていいのか自分ではわからないから、大悟くんみたいに自分をずっと見てくれた人に撮ってもらうことしか考えられなかったんです。
松居:こういう時期だから、「ここはこう見せてほしい」っていう要望も多いのかなと思ったら、逆に何もなさ過ぎて、「こんなにも自由なのか」って思いましたけどね(笑)。
作品情報
- 『ワンダフルワールドエンド』
-
2015年1月17日(土)から新宿武蔵野館ほかで公開
監督・脚本:松居大悟
主題歌:大森靖子“呪いは水色”
音楽:大森靖子、直枝政広
出演:
橋本愛
蒼波純
稲葉友
利重剛
町田マリー
大森靖子
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
- 『私たちのハァハァ』
-
2015年夏公開予定
監督:松居大悟
出演:
井上苑子
大関れいか
真山朔
三浦透子
池松壮亮
中村映里子
クリープハイプ
製作:SPACE SHOWER NETWORKS INC.
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
リリース情報

- ドレスコーズ
『1』初回限定盤(CD+DVD) -
2014年12月10日(水)発売
価格:3,780円(税込)
KICS-93146[CD]
1. 復活の日
2. スーパー、スーパーサッド
3. Lily
4. この悪魔め
5. ルソー論
6. アニメみたいな
7. みずいろ
8. 才能なんかいらない
9. もうがまんはやだ
10. 妄想でバンドをやる(Band in my own head)
11. あん・はっぴいえんど
12. Reprise
13. 愛に気をつけてね
[DVD]
・“スーパー、スーパーサッド”PV
・ 『「ワン・マイナス・ワン」DOCUMENTARY VIDEO』
コメントゲスト:薔薇園アヴ(女王蜂)、大山卓也(「音楽ナタリー」編集長)、川上洋平([Alexandros])、THE BAWDIES、青木 優(音楽ライター)、越川和磨(THE STARBEMS ex.毛皮のマリーズ)、オカモトレイジ(OKAMOTO'S)、松居大悟(映画監督)、奥野望(作家)、山田玲司(漫画家)、鈴木拓郎(所属事務所社長)
プロフィール
- ドレスコーズ
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2012年1月1日結成。2012年7月に1stシングル『Trash』をリリースし、タイトル曲は映画『苦役列車』主題歌となり話題を集めた。12月に1stフルアルバム『the dresscodes』をリリース。2013年8月、フジテレビ系アニメ『トリコ』エンディング主題歌となる2ndシングル『トートロジー』リリース。11月、2ndフルアルバム『バンド・デシネ』をリリース。同日をもって、志磨遼平のソロプロジェクトとなることが発表され、12月10日には現体制で初となるニューアルバム『1(読み方:ワン)』がリリースされる。
- 松居大悟(まつい だいご)
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1985年生まれ。脚本家、演出家、映画監督、俳優。慶應義塾大学在学中に劇団ゴジゲンを旗揚げ、全作品の作・演出・出演を手掛ける。2009年にはNHK『ふたつのスピカ』で同局最年少のドラマ脚本家デビュー。2012年映画の初監督作『アフロ田中』が公開。その他、監督作品に映画『スイートプールサイド』(2014年) 『自分の事ばかりで情けなくなるよ』『男子高校生の日常』(2013年)。 2015年1月に橋本愛&蒼波純主演の『ワンダフルワールドエンド』、夏にクリープハイプと組んだ映画『私たちのハァハァ』を公開予定。
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