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しりあがり寿に教えてもらう、めんどくさがりな脱力系芸術論

しりあがり寿に教えてもらう、めんどくさがりな脱力系芸術論

インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:相良博昭

最近の僕は「美術もやっている」って言われるけれど、どちらかというとギャグ漫画の延長のつもりなんです。それはずっと変わらない。

―ギャグ漫画には、琳派と同じように実験的な表現も多い気がします。しりあがりさんはもちろん、赤塚不二夫さんの『天才バカボン』とか。

しりあがり:普通の漫画と違って、ギャグ漫画にはメタ的な視点が入ってきますからね。笑わせるためだったら、ストーリーや設定なんか崩してもいいところがあって。だから、編集者に絵を描かせたり、フキダシの中に絵を描いたりもする。常識を壊して「これなんなの?」って問いかけ続けるみたいな。そういう意味ではやっぱり、赤瀬川原平さんの『超芸術トマソン』(街に残る無用の建築物を撮影したシリーズ)も大好きです。

しりあがり寿『ぞんざいな王国』展覧会風景 NODA CONTEMPORAY
しりあがり寿『ぞんざいな王国』展覧会風景 NODA CONTEMPORAY

―ギャグ漫画と前衛美術もつながりました(笑)。

しりあがり:最近の僕は「美術もやっている」って言われるけれど、どちらかというとギャグ漫画の延長のつもりなんです。それはずっと変わらない。学生の頃、イラストの授業で自由課題が出たんですよ。それで「自由だ!」と喜んじゃって、海老の天ぷらを買ってきて、ピカピカ光る豆電球の上に置いて提出したんです。『海老の天ぷらを辱める』っていうタイトルで。そしたら「いくら自由って言ったって、これはイラストの授業だ!」って注意されて(笑)。

―マルセル・デュシャン(コンセプチュルアートの祖とされるアーティスト)ぽいですね(笑)。

しりあがり:デュシャンいいですよね。男性用小便器をそのまま展示した『泉』とか好きです。常識とか既成の概念を壊すっていうよりは、後ろから膝カックンするようなところが好きですね。

人々の心の中に、憧れの対象として「アート」っていうのがあると思うんです。そうでなきゃ、表現することに憧れたり、自分をアーティストって呼んでほしいとか言わないでしょう。

―しりあがりさんのアート観って、どんなものでしょうか?

しりあがり:うーん……人々の心の中に、憧れの対象としてアートっていうのがあると思うんです。そうでなきゃ、表現することに憧れたり、自分をアーティストって呼んでほしいとか、会社の名前に「アート」ってつけたりしないでしょう。

しりあがり寿

―引っ越し屋さんとか(笑)。

しりあがり:どの絵がアート? とか考え出すとわからなくなるけど、人々の心の中に芸術とかアートに憧れる心があるっていうのだけは確かだと思うんです。で、「じゃあ、何に憧れているの?」って考えると、やっぱりそれは、社会の諸事情やルールにとらわれないような、値段がはっきりしないような、どうやって作ったのかわからないような、そういう未知のものっていうか……。だからアートの役割としては、サーチライトみたいなものかなあ。

―サーチライトですか。

しりあがり:人って、見えていないものを見たがるじゃない。みんなサーチライトで闇の奥を見ようとするんだけど、要するにアーティストっていうのは、人よりもちょっと遠くまで光が届くサーチライトを持っているんだろうなって。科学者だったらそれは新しい発見だろうけど、芸術家の場合は新しいビジョンやイメージを人類にもたらすのが役割だと思うんです。それ以外に存在意義がないのかもしれないけど、そういう存在ってすごいなって思います。

中島克子『ハレのうつわ』撮影:林達雄 多治見市文化工房 ギャラリーヴォイス
中島克子『ハレのうつわ』撮影:林達雄 多治見市文化工房 ギャラリーヴォイス

―日本美術はもともとお好きだったんですか?

しりあがり:漫画の画材に毛筆を使うこともあるし、墨絵とかも好きですね。筆と墨って画材としてすごく自由度が高いんです。強弱や濃淡を自由に扱えるし、たった1本の筆で豊かな表現ができる。

―『双子のオヤジ』(2012年)は筆と墨で描かかれていますよね。初期作だと、1980年代に『宝島』で連載されていた『お猿のロッカー孫悟空』とか。

しりあがり:当時は筆と墨で描く漫画は少なかったから、人がやらないことをやりたかった。自分とすごく相性のいい画材だと思います。めんどくさがりだから、1つ手に道具を持ったら何度も持ち換えるのがイヤなんです。

―絵具やペンが、何種類もあるのがめんどくさいんでしょうか?

しりあがり:そう。だから、二色えんぴつも好き。向きを変えれば色が変わる(笑)。1本でいろんな表現ができる筆は、相当好きです。

―めんどくさいから、なるべく同じ画材で済ませたいというのは、先ほどの『美術手帖』の漫画に描いた俵屋宗達の姿にもつながりますね(笑)。

しりあがり:たしかに……。あと、筆を叩き付けたときの「ばしゃん!」っていう感じが好きなんです。筆先が割れちゃう大胆な感じも気持ちいい。僕の場合は、いきなり紙に「びしゃ!」って筆を入れて、その模様が顔に見えたら顔にするとか、お尻に見えたらお尻にしちゃうとか、先に手の行為があって、後から頭で解釈しながら描くことも多いです。

―なりゆきを利用して描いていくわけですね。

しりあがり:大きな絵を描くときは特にですが、「こういう絵が欲しいな」って描こうとすると、絶対に欲しいものは描けないんです。単純な円を描こうと思っても、人の手って長さに限界があるから、上の方に腕を伸ばしたときに線がよれてしまうんです。それで「しょうがない。ごまかそう」と思って、バランスをとるために違う場所に別の円を描く。そうするとこれもイマイチ上手くいかない。それで「しょうがないなあ……」って、また別の円を描く。それが延々と続くんです。バランスを取るために。

―セルフフィードバックというか。

しりあがり:「それってなんだろう?」って一度考えてみたんですが、結局、命とか生きていることって、「永遠の過不足」でもあるわけじゃないですか。「対流」っていうのかな。熱いところと冷たいところがあって初めて気が流れるみたいな。だから、バランスが取れた瞬間に死んじゃうというか、物事っていうのはストップしちゃうわけで、過不足があるから、あっちへ動いたり、こっちへ動いたりする。そういうのも、なんかいいなって思ったんですよね。

―絵は人生、だと。

しりあがり:だから、時間があったら描いて描いて、一度画面が真っ黒になるまで描いてみたいんです。どんどん描き足していって、真っ黒になって、何もなくなってしまう。そこまで描けば、きっと完成になる気がします。

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イベント情報

『アートフェア東京2015』

2015年3月20日(金)11:00~21:00
2015年3月21日(土・祝)11:00~20:00
2015年3月22日(日)10:30~17:00
※全日入場は終了30分前まで
会場:東京都 有楽町 東京国際フォーラム 地下2階 展示ホール
料金:
1DAYパスポート2,000円(一般会期中の1日に限り自由に入退場が可能)
3DAYパスポート3,500円(一般会期中自由に入退場が可能)
※小学生以下無料(ただし大人同伴)
※前売は各500円引き

プロフィール

しりあがり寿(しりあがりことぶき)

1958年静岡市生まれ。1981年多摩美術大学グラフィックデザイン専攻卒業後キリンビール株式会社に入社し、パッケージデザイン、広告宣伝等を担当。1985年単行本『エレキな春』でマンガ家としてデビュー。パロディーを中心にした新しいタイプのギャグマンガ家として注目を浴びる。1994年独立後は、幻想的あるいは文学的な作品など次々に発表、新聞の風刺4コママンガから長編ストーリーマンガ、アンダーグラウンドマンガなど様々なジャンルで独自な活動を続ける一方、近年では映像、アートなどマンガ以外の多方面に創作の幅を広げている。

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