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歴史に残るデザインとは?吉岡徳仁が辿り着いた、みえないかたち

歴史に残るデザインとは?吉岡徳仁が辿り着いた、みえないかたち

インタビュー・テキスト
内田伸一
撮影:西田香織

偶発性やハプニングは、個人の想像を越えたものを生み出し得ます。その意味で僕の場合は、机上のスケッチから新しいものはほとんど生まれません。

―自然に着想した表現は、透明性をもった作品群にも見られます。水の塊を取り出したようなガラスのベンチ『Water Block』や、数百個のプリズムをステンドグラスにした『虹の教会』など。これらは「光を素材として扱っている」とも評されました。

吉岡:たとえばクリスタルは、その表面を然るべきデザインでカットして初めて、あの美しい輝きが生まれる。光を考える上で、透明なものとの関係性はかなり重要だと気付き、こうした作品に取り組み続けています。

『Water Block』(2002)/ 佐賀県立美術館『吉岡徳仁展―トルネード』展示風景
『Water Block』(2002)/ 佐賀県立美術館『吉岡徳仁展―トルネード』展示風景

―『Water Block』はパリのオルセー美術館内で、光と密接に関わる印象派の名作ギャラリーに設置された逸話も興味深いです。また今、京都の「将軍塚青龍殿」には、街を一望する檜舞台に吉岡さんによる『光庵 - ガラスの茶室』が建っていますね。これは、日本人独自の自然観や、空間を知覚する感覚について、茶室という元来伝わる閉ざされた小宇宙空間を用いて日本文化の根源を見つめるという展覧会でした。

吉岡:『光庵』は写真で見る以上に、実際は光を受けてすごく輝いて感じられます。すべてガラスとステンレスのみで構築されていて、周囲の自然と一体化することで、僕たちの感覚の中に存在する日本文化の本質を見ることを考えました。実際、茶室内に入ったときは、物質的なものから解放された時間の芸術をみたように感じましたね。

『吉岡徳仁 ガラスの茶室 - 光庵』
『吉岡徳仁 ガラスの茶室 - 光庵』

―この「透明な部屋」から眺めることでこそ知覚できる自然があるのかも、と思いました。吉岡さんの自然のとらえ方は、エコロジー的な自然礼賛や、「芸術は自然を模倣する」といった考え方とも異なると感じます。いわば、作品を通じて初めて触れられる、未知の自然の姿を探るというか。

吉岡:『光庵』では、床にはガラスの塊によって水が作り出す美しい波紋を連想させるような煌めきが広がり、また午後のある時間には天井から太陽の光とプリズムによって七色の虹色が現れ、光の花となります。また、雨や雪、四季ごとにも違う世界を感じるでしょう。もっとも、こうしたことは作りながら考え、輪郭をつかんでいくことが多いです。

『吉岡徳仁 ガラスの茶室 - 光庵』
『吉岡徳仁 ガラスの茶室 - 光庵』

―自然を創作の源泉にする上で、今おっしゃったような偶発性のようなものも取り入れていますね。特殊な溶液の中で自然構造によって生み出された結晶の椅子『VENUS-Natural crystal chair』は、自然現象とコラボレーションしたような作品です。

吉岡:偶発性やハプニングは、個人の想像を越えたものを生み出し得ます。逆に、設計によってできることは、あるレベルまでいくと限られてくる。その意味で僕の場合は、机上のスケッチから新しいものはほとんど生まれません。僕のもの作りにおける設計とは、かたちのバリエーションを作ることではないからです。

『VENUS-Natural crystal chair』(2008)/ 佐賀県立美術館『吉岡徳仁展―トルネード』展示風景
『VENUS-Natural crystal chair』(2008)/ 佐賀県立美術館『吉岡徳仁展―トルネード』展示風景

シンプルかつインパクトがあるものは、生み出すまでに時間がかかります。大抵が不可能なことへの挑戦から始まるので、途中まで自分でもわからないことが多くて。

―それも「みえないかたち」の創作ですね。音楽を聴かせながら結晶化させた絵画作品『Swan Lake』もありますが、これも「良い音楽で良く育つ」的な擬人化的な想像力と違い、音の振動という自然の理を結晶化に取り入れた印象です。

吉岡:こうしたやり方だと作品ごとにプロセスが全く違ってくるので、そのぶん時間もかかりますし、近道はありません。でも、だからこそ面白い。半分は自分の力、半分は偶然の力で生まれたようなもので、経緯を僕自身が見つめながら、発見もしていく。最初はオフィスの駐車スペースで、デザインの仕事を放り出してひたすら結晶化の実験を続けていました。

『VENUS-Natural crystal chair』制作風景
『VENUS-Natural crystal chair』制作風景

―著作の中で、制作姿勢について豆腐のたとえ話がありました。完成したものはシンプルだけど、素材の大豆選びから仕込みまですごく時間と労力をかけている。それが深みにもつながるのでは、という。

吉岡:シンプルかつインパクトがあるものは、生み出すまでに時間がかかります。僕の場合、本当の意味での新作は数年に1つ程です。大抵が不可能への挑戦から始まるので、途中まで自分でも何をしたいのかわからないことが多くて。最終的にはまとまるんですけどね。

―結晶を使ったこれらの作品群が生まれたきっかけは?

吉岡:椅子も絵画も世界共通のもので、それゆえ多層的なメッセージ性もある。結晶の予期しない造形をとりこむ作品には、こうした存在が合うのではと考えました。その結果、より広く、自然を考えるというメッセージが宿ったとも感じます。それもやはり、シンプルで驚きのあるものだったからではないかと思っています。

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イベント情報

『吉岡徳仁展―トルネード』

2015年7月2日(木)~8月2日(日)
会場:佐賀県 佐賀県立美術館 2号展示室、3号展示室、4号展示室
時間:9:30~18:00
休館日:月曜(7月20日は開館、7月21日は休館)
料金:無料

プロフィール

吉岡徳仁(よしおか とくじん)

1967年生まれ。2000年吉岡徳仁デザイン事務所設立。アート、デザイン、建築など幅広い領域において自由な着想と実験的なクリエイションから生まれる作品は、国内外で高く評価され、数々の作品が、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、ポンピドゥー センター、ビクトリア アンド アルバート ミュージアム、クーパー ヒューイット国立デザイン博物館、ヴィトラ デザイン ミュージアムなどの世界の主要美術館で永久所蔵されている。また、ISSEY MIYAKEのショップデザインやインスタレーションを20年近くにわたり手がける他、Hermès、BMW、MOROSO、TOYOTA、LEXUSといった世界有数の企業とコラボレート、SWAROVSKIの世界中のフラッグシップストアのコンセプトデザインも手がけている。近著に『みえないかたち』など。

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