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歴史に残るデザインとは?吉岡徳仁が辿り着いた、みえないかたち

歴史に残るデザインとは?吉岡徳仁が辿り着いた、みえないかたち

インタビュー・テキスト
内田伸一
撮影:西田香織

かつては「日本的なもの」とはあえて距離を保ってきました。そうした要素を安易に使うと、ものごとの本質や、その神秘性は正しく表せないのではと思っていました。

―吉岡さんのそうした思想は、自らディレクションを担ったグループ展『セカンド・ネイチャー』(2008年、21_21 DESIGN SIGHT)にも通底していたように思います。あの展示は、自然の模倣をするのではなく、テクノロジーやアイデアをもとに、新たな自然のかたち、つまり「第2の自然」を作り出そうとする試みでした。

吉岡:あの時期、最終的にはすべての価値が自然に帰結するのではないか、という考えを持っていました。また、では自然とは何か? 日本人の自然観とは何か? をじっくり考えた時期でもありました。それまでは世界に向けて表現をする上で「日本的なもの」とはあえて距離を保ってきました。そうした要素を安易に使うと、キャッチーな反面、ものごとの本質や、その神秘性は正しく表せないのではないかと思っていたからです。

『セカンド・ネイチャー』(2008年) / 21_21 DESIGN SIGHT
『セカンド・ネイチャー』(2008年) / 21_21 DESIGN SIGHT

―「それまでは」ということは、その考え方にも変化が?

吉岡: 2006年に『ミラノサローネ』で作品を発表したときです。これは無数のファイバーを天井からつり下げて空間を覆う『Tokujin Yoshioka × Lexus L-finesse』というインスタレーションでしたが、そこへ入ってきた欧米の人が、なぜか中で両手を合わせている姿を見ました。

『Tokujin Yoshioka × Lexus L-finesse』(2006年)
『Tokujin Yoshioka × Lexus L-finesse』(2006年)

―作者の意図を越えて、何か神々しい印象を感じたということでしょうか。

吉岡:僕も最初は「何をしているのだろう?」と驚きました。自分の作るものにそういう類いの感覚を抱く人がいるとしたら、それとは何なのか? という疑問と関心の両方がわき始めて。また、多くの方からすごく日本的な表現だとも言われました。それらを問うことで、自分の生きる国を考えることにも繋がり、なぜ人は自然に対して強く感情が動くのか知りたい、という想いが強くなりました。

―人が制御できないエネルギーも、やはり自然の一面ですね。最新個展のタイトルでもある作品『TORNADO』は、200万本を超えるストローが渦をまくダイナミックなインスタレーションで、最初に発表した地、マイアミで猛威をふるうトルネードも着想の源だったと聞いています。

吉岡:これは、2007年の『ミラノサローネ』でストローを大量に使用した空間を作った経験から発展しています。『TORNADO』と違い、ストローの向きを整然と揃えた上で、雲のような形を壁として出現させたものです。実はこれが展示前に崩壊してしまうということがあって。周囲は大騒ぎでしたが、僕はその崩れた様を見たとき「これは美しい!」と思いましたね。

『TORNADO』 / 佐賀県立美術館『吉岡徳仁展―トルネード』展示風景
『TORNADO』 / 佐賀県立美術館『吉岡徳仁展―トルネード』展示風景

―それもまた、重力によって引き起こされた「自然」の姿?

吉岡:『TORNADO』は最終的に、現地の展示空間とも関わり合い、強力なパワーやエネルギーを表現する作品になりました。実験や偶然から生まれるものも大切で、僕の作品はそこから始まることが多いかもしれません。

『TORNADO』 / 佐賀県立美術館『吉岡徳仁展―トルネード』展示風景
『TORNADO』 / 佐賀県立美術館『吉岡徳仁展―トルネード』展示風景

今の時代は価値観が広がっているようで、意外と狭まっているかもしれません。そこであえて「よけいな実験」をすることにも、活路があると思う。

―佐賀県立美術館での個展について伺います。国内の美術館では2013年の東京都現代美術館以来で、九州では初の個展ですね。今日のお話にも登場した『TORNADO』が一変させた美術館の空間で、やはり代表作の『Honey-pop』『Water Block』『VENUS』などに出会えると聞いています。

吉岡:生まれ育った地で個展をするということは非常に楽しみですし、佐賀県立美術館のリニューアル記念という特別な機会に展示ができることにもとても有り難く思います。また、『TORNADO』のような大規模なインスタレーションの展示機会はこれまで多くなかった場所なので、世代を超えてよりたくさんの方々に体験してもらえたら嬉しいです。

佐賀県立美術館『吉岡徳仁展―トルネード』展示風景

佐賀県立美術館『吉岡徳仁展―トルネード』展示風景
佐賀県立美術館『吉岡徳仁展―トルネード』展示風景

―今日お話してきた「自然」や「感覚」、それを通した「かたちのないもの」も、文化や時代でとらえ方は異なれど、世界共通で存在し、かつ続いていくものですね。

吉岡:作品を前に、誰もが素直に感じられる何かを持つものを作りたい。自然は短い時間で価値が変化していくものではないので、テーマとしてはそこが難しく、かつ面白くて、意義深いと思っています。その際「デザインとアートの境界線を越えて」ということではなく、生み出したいものがごく自然にあり、結果として両領域のグラデーションの中に自分がいる感覚です。ただし、クオリティーは常に高くありたいと思いますし、そうあるべきだと考えています。

―今後の創作において、またはより若い世代に向けて、今の状況について感じることはありますか?

吉岡:情報が豊富な反面、情報に左右されやすい環境でもありますよね。やはりそこで、各々が何をテーマにするか、という一見地味に見えるようなことがより大切になるのではないでしょうか。価値観も広がっているようで、意外と狭まっているかもしれません。赤か青、どちらの色でいくかというとき、世間で「今は青が良い」となれば、多くはそちらを向きがちです。でもいわゆる「よけいな実験」にも活路があると思っています。たとえば赤と青の二項対立で考えることで、赤も組み合わせの1つの要素となり、見たことのない色が生まれるかもしれないですよね。

―あえての選択も試してみることで、見逃してしまいそうな可能性を拓く?

吉岡:アイデアが表現として実現する過程を山にたとえれば、頂上への道が予め示されることはありません。だから、最初のルートがダメだったときにすぐ不可能だと諦めず、違う道も通ってみたり、みんなが使わないロープで挑んでみたりすることが鍵になる。アイデアを実現させる道は1つではないということです。そして、経験の中からより多くの選択肢を考え出すことができることで、実現の可能性をさらに高めるのだと思います。感動には、今まで体験していないもの、常識を越えたものの要素が確かにあると思うんですね。単なる奇抜さとは別の次元で、「こうでないといけない」という価値観から1つ抜けていく必要はある、と信じています。

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イベント情報

『吉岡徳仁展―トルネード』

2015年7月2日(木)~8月2日(日)
会場:佐賀県 佐賀県立美術館 2号展示室、3号展示室、4号展示室
時間:9:30~18:00
休館日:月曜(7月20日は開館、7月21日は休館)
料金:無料

プロフィール

吉岡徳仁(よしおか とくじん)

1967年生まれ。2000年吉岡徳仁デザイン事務所設立。アート、デザイン、建築など幅広い領域において自由な着想と実験的なクリエイションから生まれる作品は、国内外で高く評価され、数々の作品が、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、ポンピドゥー センター、ビクトリア アンド アルバート ミュージアム、クーパー ヒューイット国立デザイン博物館、ヴィトラ デザイン ミュージアムなどの世界の主要美術館で永久所蔵されている。また、ISSEY MIYAKEのショップデザインやインスタレーションを20年近くにわたり手がける他、Hermès、BMW、MOROSO、TOYOTA、LEXUSといった世界有数の企業とコラボレート、SWAROVSKIの世界中のフラッグシップストアのコンセプトデザインも手がけている。近著に『みえないかたち』など。

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