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ソニーは何も終わっていない。伊藤弘(groovisions)×田幸宏崇

ソニーは何も終わっていない。伊藤弘(groovisions)×田幸宏崇

ソニー株式会社「Life Space UX」
インタビュー・テキスト
ヤマザキムツミ
撮影:永峰拓也

モノのバリューではなく、体験としてのバリューとして作っていく。(田幸)

―伊藤さんがおっしゃられたように、Appleがプロダクトデザインで1つの世界観を作ってしまった感じはありますが、ソニーの新プロジェクト「Life Space UX」は「空間」という、また違うオルタナティブな提案をはっきり打ち出しているように感じます。

田幸:Appleがプロダクトデザインに与えた衝撃って、金属素材を当たり前に使うというパラダイムシフトを起こしたことだと考えているんです。持ち歩くモノの素材が重くていいわけないじゃないですか。プラスチック素材を使ったり、軽くしようとしていた流れのなかで、いきなりアルミをくり抜いたデザインを量産されたことは、やっぱり悔しかったです。こうなってしまったら、新しいカテゴリーというか、これまで出会ったことのないデザインを作っていくしかないと思いました。

シンフォニックスピーカーライト(Life Space UX)
シンフォニックスピーカーライト(Life Space UX)

ポータブル超短焦点プロジェクター(Life Space UX)
ポータブル超短焦点プロジェクター(Life Space UX)

―その思いは、社内的にもありましたか?

田幸:あったと思います。これまで通り、ソニーの持っている技術を駆使しながら、プロダクトデザインのプロとして追究していく部分ももちろんありますし、「Life Space UX」のように、別のベクトルから空間体験ベースのデザインを打ち出していく。その両極があるのが、これからのソニーの強みになっていけばと思いますね。

―Appleと戦うだけではなく、新しい提案をし続けていくということですね。

田幸:iPhoneのホーム画面ってみんな同じですけど、Androidはバラバラですよね。「みんな同じ画面って少し気持ち悪くないか?」っていうムードが、周囲からも感じられる気はしています。いいモノはいいけど、100人がすべて同じじゃなくてもいいですよね。ソニーはもともとユニークなことにチャレンジしている企業なので、いろんなアプローチで反撃できるポジションにいれたらいいなと思っています。

手前:田幸宏崇、右奥:伊藤弘

伊藤:時間は後戻りできないわけですし、Appleの大きな波に逆らうだけじゃ意味がない。「Life Space UX」プロジェクトはある全然違ったアプローチで、生活を豊かにしていこうとするチャレンジを感じるので、健康的というか、あってしかるべき動きだと思います。

田幸:だから、じつはソニーらしいプロジェクトなんですよね。

伊藤:いま見せていただいた「4K超短焦点プロジェクター」に関しても、本当はプロジェクター本体だけでいいんだけど、スピーカーやキャビネットもまとめてデザインして、1つのデザイン家具のようなものとして提案してしまう。こういった実験的なプロジェクトを実際に製品化して世の中に出すことで、ソニーの存在意義がユーザーにも伝わるというか、僕みたいな部外者でもなにか新しいプロジェクトに着手してるんだなぁという面白さは伝わってきます。

4K超短焦点プロジェクター『LSPX-W1S』(Life Space UX)
4K超短焦点プロジェクター『LSPX-W1S』(Life Space UX)

―伊藤さんがLED電球スピーカーをご購入されたのも、ソニーの挑戦に期待を込めてのことだったんですか?

伊藤:僕はモノを買うことって、大袈裟に言うとある意味投票だと思っていて、面白いけど人が手を出しにくそうなモノはなるべく買うようにしているんです。照明としてもスピーカーとしても期待してなかったと言ったら変ですけど、使ってみないとわからないですし、「ソニーがこんなモノを出すの?」という興味が一番でしたね。

田幸:照明でもスピーカーでもある製品を、いったい部屋のどこに置くんだろう? っていう疑問はありますよね。一番困っているのが売り場なんですよ。既存の照明売り場にも、スピーカー売り場にも馴染まない(笑)。でもこういった製品が現れることでモノの見方が変わったり、売り場自体も変化していったらいいなとも思います。もうちょっと馴染むかたちで新しい空間が作られていけばいいですよね。

―これは個人的な意見ですが、これまでの大型テレビやオーディオ製品ってあまり好きじゃなくて、それはいくらデザインがよくても部屋に置くことで、空間全体を支配してしまうような感じが苦手だったんです。だけど「Life Space UX」の製品は、プロダクトが主張せず、空間に溶けて隠れようとしていて、その新鮮さや、驚きがありました。明らかに次の新しいプロダクトデザインのかたちを作ろうとしているのかなと感じましたが。

伊藤:よりかたちのないプロダクトに近づいているモノの1つだと思いますね。

田幸:その通りですね。このプロジェクトでも、家具や部屋の一部として空間に馴染ませるために、デザインをそぎ落としていく作業にとにかく時間がかかりました。たとえば「Life Space UX」シリーズのビジュアルが象徴的なんですが、4K超短焦点プロジェクターはこんなに大きな製品ですけど、メインビジュアルのなかでは端っこにありますよね。モノのバリューではなく、体験としてのバリューを作っていく。テレビでもスピーカーでも照明でもないし、何者でもない1つのカテゴリーとして打ち出していくことで、ソニーのイメージも変えていけるのかなと思っています。

4K超短焦点プロジェクター『LSPX-W1S』(Life Space UX)のイメージビジュアル
4K超短焦点プロジェクター『LSPX-W1S』(Life Space UX)のイメージビジュアル

―伊藤さんは、プロダクトのデザインがなくなっていくかもしれない流れについてはどう思われますか?

伊藤:ないほうがいいと思いますけどね。機能第一で考えれば、モノは限りなくゼロに近づいていくし、デジタルテクノロジーはそれを加速させますね。

―音楽で言えば、最終的には音というカタチのないモノで鼓膜が震えればいいわけで、それを聴くためのスピーカーは必ずしも必要ないということでしょうか。

伊藤:実際にどんどんなくなっていますからね。CDプレーヤーもメディアもだんだんなくなって、データすらも自分の手元にはなくなってきていますし。極端なことをいえば、聴覚を使わなくても音楽を認識できる時代がくるかもしれないし。

左から:伊藤弘、田幸宏崇

田幸:僕はソニーでプロダクトデザインを作っている人間でもあるので、モノがなくなっていくとははっきり言えないですけど(笑)。でも、そういった「体験」だけを取り出したときに、ソニーがどういうことができるのかというのは常に考えていますね。「Life Space UX」は、モノを打ち出してきた自分たちに対してのアンチテーゼでもあるので、商品化の際には社内でかなり問題が起きるんですけど(笑)、まだお見せできないんですが、この流れを汲みつつ、いろんなことに取り組んでいます。「Life Space UX」の将来像も含めて、ぜひ期待していただきたいです。

―過去でいえば、ウォークマンやスマートフォンがそうだったように、実際の体験を通して伝わるものがあるプロダクトだと思いました。11月27日から京都ではじまる『Sony Design: MAKING MODERN』展のトークカンファレンスでも、今日のようなお話が伺えそうですね。

田幸:ソニーの歴代製品から「Life Space UX」の一部製品も含めた2015年の新作も実際に展示します。また、これまでや、これからのプロダクトを紹介しながら、僕を含めた6人のデザイナーがいま考えていることを語るイベントもあります。ソニーの未来はどうあるんだろう? デザインの未来ってどうなるんだろう? っていうことを、来ていただいた方も含めて、みんなで話せたらいいなと思っています。

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イベント情報

『Sony Design: MAKING MODERN』

2015年11月27日(金)~11月29日(日)
会場:京都府 京都造形芸術大学 瓜生山キャンパス 瓜生館
時間:10:00~17:00
料金:無料

プロフィール

伊藤弘(いとう ひろし)

groovisions代表。ピチカート・ファイブのステージビジュアルなどで注目を集め、以降グラフィックやムービー制作を中心に、音楽、出版、プロダクト、インテリア、ファッション、ウェブなど様々な領域で活動する。また、主に海外ではファインアートの展覧会にも数多く参加、オリジナルキャラクター「chappie」のマネージメントを行うなど、ジャンルにとらわれない活動が注目されている。

田幸宏崇(たこう ひろたか)

ソニー(株)クリエイティブセンター チーフアートディレクター。2004年 ソニーに転職後、2012年にチーフアートディレクターになり、現在はLife Space UX、テレビ、ホームシアター、メディアプレーヤーなどホームカテゴリー製品全般、およびR&D系プロジェクト全般のアートディレクションを担っている。

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