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ソニーは何も終わっていない。伊藤弘(groovisions)×田幸宏崇

ソニーは何も終わっていない。伊藤弘(groovisions)×田幸宏崇

ソニー株式会社「Life Space UX」
インタビュー・テキスト
ヤマザキムツミ
撮影:永峰拓也

昔はかっこいいものを作って人に自慢したいとか、自分のポートフォリオに、みたいな思いがあったんですけど(笑)、いまは全然ないですね。(田幸)

―田幸さんはgroovisionsのデザインのどういった部分に惹かれたんでしょうか?

田幸:1990年代だったと思いますが、中目黒にあった「オーガニックカフェ」の前にチャッピー(groovisionsのオリジナルキャラクター)の人形が立っていて、それがすごく印象的だったんです。いまでいうフラットデザインの走りでとても新鮮でしたよね。ロンドンで、ジュリアン・オピー(シンプルな線で人物像を描くイギリスの現代アーティスト)の作品を観て、groovisionsさんのとコンセプトが似てるなぁ、と思ったり(笑)。

Book & DVD『GROOVISIONS MGR』(2008年)
Book & DVD『GROOVISIONS MGR』(2008年)

伊藤:僕らのフラットなテイストは1960年代のデザインがルーツなんですよ。1980年代の半ばぐらいに、イギリスを中心に音楽やカルチャーの文脈で1960年代のデザインを再編集しはじめた人たちが出てきたんですけど、自分たちはその影響をすごく受けていたりするので、じつはそれほどオリジナリティーがあるわけじゃないんです(笑)。

田幸:たしかにロンドンって、編集が得意な都市ですよね。映画もグラフィックもみんな編集はロンドンでしていることが多い。groovisionsさんのルーツがロンドンにある感じはしないですけど、ロンドンのデザインってアーティスティックなテイストに振るから、独自のかっこよさがある。groovisionsさんは、それを商業ベースに置き換えて作っているのがすごいなと思ったんですよね。

伊藤:でも、いまでは当たり前になったような気がするので、もう一巡しちゃったかなって思いますね(笑)。

―そんな(笑)。でも、1993年のgroovisions結成から20年以上、伊藤さんはグラフィックデザイン界の最前線に居続けているわけですが、やっぱり続けていくなかでの苦労や悩みはあったりするのでしょうか?

伊藤:悩みですか? groovisionsというか、僕の話なんですが、僕はそれほどデザインの専門家というわけじゃないので……。

田幸:それは、衝撃的な発言ですね(笑)。

『JAM Tokyo-London exhibition poster』Barbican Gallery(London)2001年
『JAM Tokyo-London exhibition poster』Barbican Gallery(London)2001年

伊藤:いや、デザインは、誰でもできるほうがいいなとずっと思っているんですよ。実際自分も、数十年前にAppleとAdobeによるツールが、デザインの垣根を低くしてくれたおかげで、こうしたグラフィックデザインを仕事にできた。だからいまさら僕が「デザインとは……」と言い出すのはちょっと居心地悪いというか。もっとデザインが開かれていって、誰もが技術や知恵として共有できたほうが、世の中の風通しがよくなるんじゃないかと思っていますし、いま世の中がどんどんそういう風になってきているから、プロフェッショナルの意味合いも変化していくわけです。当然といえば当然の帰結かなと思っています。

田幸:すごく達観してらっしゃいますね(笑)。たしかにgroovisionsさんの「すごさ」を考えたときに「難しさ」は感じないですよね。簡単さを感じるわけじゃないけど、頑張れば自分にもできるんじゃないかと思わせるような。

伊藤:自分に近いところにあるものは、全然できると思います。ただ、いざ人のため、他人のためにデザインする場合には結構な技量が必要。言ってることと矛盾している部分もあるんですが(笑)。でも基本的な考え方としては、「デザイン=特権的なクリエイティブの世界」というよりは、みんなでその技術を共有していったほうがいいと思っていますね。

左奥:伊藤弘、手前:田幸宏崇

―美しいものや素敵なものの概念が、どんどんフラット化していくのはたしかにいいことなのかもしれないですね。先ほどのモノの見方が変わってきている話にもつながっているように思います。ただ、やはりデザイナーというとクリエイティブな仕事というイメージがどうしてもありますが。

伊藤:デザインはもちろん表現であってもいいと思います。ただ僕個人としては、「生活の知恵」という捉え方なんですよね。よりよく生きるための技術であって、そこに主軸を置きたい。

田幸:わかる気がします。僕もどちらかと言うとデザインはそんなに主張しなくてもいいかなと思ったりもするんです。でも「結局、アルネ・ヤコブセン(モダンデザインの手本にされるデンマークのデザイナー)の「Vola」(水栓金具)がいいよね」みたいに、無意識に選んでいるところもある。

伊藤:それはわかります。

田幸:もしかしたらヤコブセンの作品だと知っているから選んでいるのかもしれないんですけど、やっぱりVolaのシャフト(取っ手部分)の長さ1つとっても、メイクセンスなデザインだと思います。僕はデザインって「目的の表現」だと思っているんです。たしかイームズ夫妻がどこかで言っていて、すごく共感して座右の銘にしているんですけど(笑)。

左から:伊藤弘、田幸宏崇

―「目的の表現」というのはどういう意味ですか?

田幸:たとえば、クライアントがいることがデザインで、クライアントがいないことがアートだとしたら、デザインは個性を出すことよりもクライアントの目的を表現することが大事だと思うんです。だから、伊藤さんがデザインは知恵や技術だとおっしゃっているのも本当にそうだなと思います。実際に作っていく段階でも「正しく安くするためにどうするか」「機能を活かすためにどうするか」っていうことを社内で延々話し合っていて、それも含めてデザインということが、最近ようやくわかってきたんです。昔はかっこいいものを作って人に自慢したいとか、自分のポートフォリオに、みたいな思いがあったんですけど(笑)、いまは全然ないですね。

伊藤:エンジニアリングの部分ってやっぱり大きいですよね。

田幸:大きいですね。しかもソニーでやっかいなのが、デザイナーだけじゃなく、エンジニアから広報から商品企画から……、みんなデザインに異常に詳しくて、オシャレなものが好きなんですよね。だから「飛びぬけてかっこいいもの出してくれるよね?」っていう無言のプレッシャーが(笑)。

伊藤:いい意味で病的な組織ですね(笑)。

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イベント情報

『Sony Design: MAKING MODERN』

2015年11月27日(金)~11月29日(日)
会場:京都府 京都造形芸術大学 瓜生山キャンパス 瓜生館
時間:10:00~17:00
料金:無料

プロフィール

伊藤弘(いとう ひろし)

groovisions代表。ピチカート・ファイブのステージビジュアルなどで注目を集め、以降グラフィックやムービー制作を中心に、音楽、出版、プロダクト、インテリア、ファッション、ウェブなど様々な領域で活動する。また、主に海外ではファインアートの展覧会にも数多く参加、オリジナルキャラクター「chappie」のマネージメントを行うなど、ジャンルにとらわれない活動が注目されている。

田幸宏崇(たこう ひろたか)

ソニー(株)クリエイティブセンター チーフアートディレクター。2004年 ソニーに転職後、2012年にチーフアートディレクターになり、現在はLife Space UX、テレビ、ホームシアター、メディアプレーヤーなどホームカテゴリー製品全般、およびR&D系プロジェクト全般のアートディレクションを担っている。

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