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大島渚を支えた妻・明子、別人格でも大好きだった名匠の晩年を語る

大島渚を支えた妻・明子、別人格でも大好きだった名匠の晩年を語る

『ハッピーエンドの選び方』
インタビュー・テキスト
麦倉正樹
撮影:永峰拓也

自分がどういう最期を迎えるかっていうのは、結局のところ、その人がどう生きるかっていうことに繋がってくるんですよ。

―今後、高齢化社会がますます進むにつれて、そういう問題はたくさん出て来そうですよね。昔の自分、昔の相手と今を比較してしまうというか。

小山:だから人間、ある時点から、生き方を変えなくてはダメだと思うの。先ほど言った「手放す心」っていうのは、そういう意味でもあって。すべてを手放して、また1から出直す心――それが「手放す心」なんですよ。過去の名声とか地位とか名誉はいっさい切り離して、今ここにある状況で、どうやって生きることができるのか。それが大事なんですが、なかなか人間、そういうふうにはできないわよね。いろんなしがらみがあったり、思い出があったり、自分はこんなはずじゃなかったって思ったり。まあ、それが人間の煩悩というものなんでしょうけど、それらを手放して1から出直すこと。その考え方が、当時の私の心には、すごく響いたんですよね。

―なるほど。

小山:で、そうやっていろんなものを手放す中で、私にとって何が一番大事かと思ったら、それは大島の命だったんです。二度目に倒れたときは、もう生きるか死ぬかの状態だったけど、その命を守るためにはどうするかっていうところから始まって、まずは寝たきりにさせないこととか、いろんなことを考えて。そう、私は当時、今日1日生きればいいと思ってやっていたんですよ。でも、その「今日1日」は、結局10年続きましたから。そこであきらめていたら、終わったかもしれないし……やっぱり、考え方なのよね。そうやって、少しずつでも良い方向へ、良い方向へって思いながらやってきたからこそ、長く生きられたんだと思うし、最期は幸せだったと思いますよ。本当に長い闘病生活でしたけど。

小山明子

―はい。

小山:だから、『ハッピーエンドの選び方』に描かれているような、自分がどういう最期を迎えるかっていうのは、結局のところ、その人がどう生きるかっていうことに繋がってくるんですよ。私は、そう思うわ。

―いわゆる「終活」という考え方も、要は死から逆算して、今をしっかり生きるということですものね。

小山:そう。だから、「みんなどうして、自分の最期を考えないの?」って、私は言ってあげたいですよ(笑)。人間は、いつか死ぬのよって。それは若くても同じ。若い人だって、突然何かが起こるかもしれないじゃない? 若くたって、死ぬときは死ぬのよ。それは何も、脅しで言っているわけではなく……後悔しない生き方って、あるじゃないですか。今しかできないことっていうのが、やっぱりあると思うし。そしたら、失敗を恐れずにやるってことですよね。若いうちの失敗は、何度だって修復できるから。失敗して、そこから道が開けることだってあるでしょ? まあ、歳をとってからの失敗は、なかなか回復が難しいですけど(笑)。

『ハッピーエンドの選び方』 ©2014 PIE FILMS/2-TEAM PRODUCTIONS/PALLAS FILM/TWENTY TWENTY VISION
『ハッピーエンドの選び方』 ©2014 PIE FILMS/2-TEAM PRODUCTIONS/PALLAS FILM/TWENTY TWENTY VISION

『ハッピーエンドの選び方』 ©2014 PIE FILMS/2-TEAM PRODUCTIONS/PALLAS FILM/TWENTY TWENTY VISION
『ハッピーエンドの選び方』 ©2014 PIE FILMS/2-TEAM PRODUCTIONS/PALLAS FILM/TWENTY TWENTY VISION

―(苦笑)。小山さん自身は、どのような「終活」をなさっているのですか?

小山:今は昔より長生きの時代になりましたからね。親が長生きになったから、介護の問題とか、子どもがいろんな問題に直面するようになった。私はピンピンコロリと死にたいと思っているし、子どもたちにもそう言ってますけど、そうはならないかもしれない。私も認知症になるかもしれない。でも、それもはっきり、息子たちに伝えてあるの。認知症にならないよう一生懸命努力はしているけど、絶対にならないとは言えないから、もし私がそうなって、「あなたは誰?」って息子に言ったとしても、「ママ大好き」って、私の手を握って言ってちょうだいって。たとえ、言葉がわからなくなっていたとしても、絶対心は生きてるからって。それで、私の好きなチョコレートを持って来て、あの花を飾って、音楽はこれを流してとか、みんなが家に集まったときに、そういうことを事細かに伝えているの。

―それを書面にしたり?

小山:いや、みんなが集まったときに言うのよ。笑い話みたいに、「こうしてよね」って。ピンピンコロリで私は死にたいけど、1週間ぐらいあなたたちに心配かけて、「ママ、大丈夫?」って手を握ってもらいながら、私は死にたいわって。そしたら、息子のお嫁さんが、「1週間だといろいろバタバタして大変なので、せめて1か月ぐらいにしてください」って言ったのよ。まったく、我が家の笑い話ですよ。まあ、その気持ちも、わからないではないけど(笑)。

―(笑)。今回の映画ではないですけど、シリアスな内容でも、最終的にそれをユーモアに落とし込むというのは、かなり大事かもしれないですよね。

小山:もちろん、話している内容は本気だし、深刻なんですよ? だけど、うちの場合は、みんな大笑いで終わるの。最後は笑い飛ばしてね。深刻だけど、深刻じゃないのよ。今回の映画を見ても思いましたけど、やっぱりユーモアっていうのは大事なのよ。もちろん、それを一緒に笑い合える相手もね。

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作品情報

『ハッピーエンドの選び方』
『ハッピーエンドの選び方』

2015年11月28日(土)から全国公開中
監督・脚本:シャロン・マイモン、タル・グラニット
出演:
ゼーブ・リバシュ
レバーナ・フィンケルシュタイン
アリサ・ローゼン
イラン・ダール
ラファエル・タボール
配給:アスミック・エース

プロフィール

小山明子(こやま あきこ)

1935年、千葉県に生まれ、横浜本牧で育つ。大谷学園に在学していた20歳のとき、スカウトされて松竹に入社。55年、『ママ横をむいてて』に主演し、映画デビュー。60年、映画監督の大島渚氏と結婚し、フリーに。その後、テレビ、舞台でも活躍。96年2月に大島氏が脳出血で倒れてからは、女優を休業して、介護に専念。近年は、夫の介護のかたわら、「介護体験を語ってほしい」という声に応え、日本各地で介護に関する講演活動も行っている。

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