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大島渚を支えた妻・明子、別人格でも大好きだった名匠の晩年を語る

大島渚を支えた妻・明子、別人格でも大好きだった名匠の晩年を語る

『ハッピーエンドの選び方』
インタビュー・テキスト
麦倉正樹
撮影:永峰拓也

結婚生活の3分の1は介護だったけど、それはけっして私にとってマイナスではなかったと思っています。

―そういうときって、身近にいる家族とかではなく、逆にまったく関係のない第三者の言葉が刺さったりするものですよね。

小山:そう。まったくの他人様ですから、そこでハッと我に返って立ち直ることができたの。もちろん、息子たちもきっと気づいていたんでしょうけど、男の子って、そういうとき何も言わないでしょ? 本当に息子は役に立たないって思ったわ(笑)。「お母さん、もっと新聞読んだほうがいいよ」とか、そういうことは言うんだけど、「もっときれいにしろ」とは言わないじゃない? だから、私はそういうひどい状態で、ただ夫の身のまわりの世話をして過ごしていたのよね。

小山明子

―この映画でも、家族の言葉より、むしろ友人たちの言葉に影響されたりしていましたよね。

小山:そう、この映画は、夫婦の話ではあるけれど、それ以上に仲間の話だと思うの。この映画に登場する老人たちって、それぞれ違う職業に就いていた人たちで、もともとまったく違う場所にいた人の集まりじゃないですか。それが同じ老人ホームで一緒に暮らしていくうちに、だんだんと仲良くなって……家族っていうよりも、仲間意識ですよね。同じ秘密を共有している仲間たちの絆というか。そういうものって、いくつになっても、すごく大事だったりするのよね。

『ハッピーエンドの選び方』 ©2014 PIE FILMS/2-TEAM PRODUCTIONS/PALLAS FILM/TWENTY TWENTY VISION
『ハッピーエンドの選び方』 ©2014 PIE FILMS/2-TEAM PRODUCTIONS/PALLAS FILM/TWENTY TWENTY VISION

『ハッピーエンドの選び方』 ©2014 PIE FILMS/2-TEAM PRODUCTIONS/PALLAS FILM/TWENTY TWENTY VISION
『ハッピーエンドの選び方』 ©2014 PIE FILMS/2-TEAM PRODUCTIONS/PALLAS FILM/TWENTY TWENTY VISION

―もうひとつ、本作の中でも描かれていた「変化してゆくパートナーの様子に、どう対応していくのか?」という点については、何か思われるところはありましたか?

小山:我が家なんか、まさにそうでしたよね。二度目に倒れた後は、ほとんど別人格になってしまったから。こちらが言うことはわかるんでしょうけど、最終的には言葉を話すのも不自由になってしまって。だけど私の中に、彼は尊敬できる人だっていうのがもう根底にあったので、彼に対する思いは、揺るぎなかったんですよ。だから、たとえどうなろうとも「パパは偉い」っていうのが私の持論で……。息子たちが家に来るといつも、「あなたたちは、逆立ちしても、パパに敵わないわ」って言い続けていたの。大島が生きているあいだ、ずーっと言い続けたんですよ(笑)。それが根底にあれば、たとえどんな状況になっても、ちゃんと向き合えるものなのよ。だから私は、最後まで面倒をみることができたの。

―そういうときって、どうしても昔と今を比べてしまいがちではないですか?

小山:アルフォンス・デーケンさんっていうドイツの死生学の先生がいて、その方が書いた『よく生き よく笑い よき死と出会う』という本があって、それはもう、私の中ではバイブルみたいな本なんですけど、そこで彼が「手放す心」ということを書いているのね。人間、何かを手放すことって、なかなか難しいんですよ。たとえば、自分は女優であるとか、映画監督であるとか、そういうことに、どうしても執着してしまう。でも、ある日、それを手放してみたら、ずっと楽に生きられるようになったの。もちろん、大島だって、かつては立派な映画監督で頭脳も明晰で、なのに今は何よっていうところはいっぱいあったけど、そういう思いを手放して、今を受け入れなくて、生きていかなくてはならないの。つらい、悲しい、情けないと思っても、やっぱり大島は大島だなっていうふうに、私には思えた。だから、そういう接し方ができたの。

小山明子

―なるほど。

小山:やっぱり人間って、その人の思い次第なのよね。で、私の場合は、そこで過去のイメージを手放して、今を受け入れることにした。この映画の主人公も、きっとそうよね。奥さんの症状がだんだん進んでいって、昔はこうだったのに今はそうじゃないっていう、その違いみたいなものが広がっていって……。それはもちろん悲しいことだし、さびしいことではあるけれど、今こうなったその人のことを愛してあげなくては前に進めないのよ。そうじゃないと、自分も生きられないから。でも、それができれば、すごく良い関係ができると思うの。そうやって、良い関係が作れたと思えたからこそ、私は生きられたし、そんな自分のことを不幸せだとは、まったく思いませんでしたよ。

『ハッピーエンドの選び方』 ©2014 PIE FILMS/2-TEAM PRODUCTIONS/PALLAS FILM/TWENTY TWENTY VISION
『ハッピーエンドの選び方』 ©2014 PIE FILMS/2-TEAM PRODUCTIONS/PALLAS FILM/TWENTY TWENTY VISION

―今、目の前に見えるものがすべてではないというか……。

小山:そう。『星の王子さま』じゃないけど、本当に大切なものは目に見えないのよ。だから、その見た目の変化に、ただうろたえているだけではダメなのよ。

―過去と現在の間には、そこに積み重なった、目に見えない時間や経験があるという。

小山:そうそう。結局、過去の栄光なんて、何の役にも立たないのよ。ただし、私が今、すごく元気で生きていられるのは、本当に大島のおかげとは思っています。大島が監督として素晴らしい作品を残して、映画祭やテレビで紹介されるたびに、私のところに話がくるわけじゃない? 今、私は全国で講演をしていますけど、それも大島の介護の話とか、それを通して考えた「終活」の話だったり……。大島のおかげで、私は今生きられるのよね。そう思えば、そこに感謝する気持ちが、当然出てくるんですね。結婚生活の3分の1は介護だったけど、それはけっして私にとってマイナスではなかったと思っています。

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作品情報

『ハッピーエンドの選び方』
『ハッピーエンドの選び方』

2015年11月28日(土)から全国公開中
監督・脚本:シャロン・マイモン、タル・グラニット
出演:
ゼーブ・リバシュ
レバーナ・フィンケルシュタイン
アリサ・ローゼン
イラン・ダール
ラファエル・タボール
配給:アスミック・エース

プロフィール

小山明子(こやま あきこ)

1935年、千葉県に生まれ、横浜本牧で育つ。大谷学園に在学していた20歳のとき、スカウトされて松竹に入社。55年、『ママ横をむいてて』に主演し、映画デビュー。60年、映画監督の大島渚氏と結婚し、フリーに。その後、テレビ、舞台でも活躍。96年2月に大島氏が脳出血で倒れてからは、女優を休業して、介護に専念。近年は、夫の介護のかたわら、「介護体験を語ってほしい」という声に応え、日本各地で介護に関する講演活動も行っている。

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